6/7(金)13:00~ 宝塚大劇場
脚本・演出 石田昌也
吉村貫一郎 望海 風斗
しづ/みよ 真彩 希帆
大野次郎右衛門 彩風 咲奈
ひさ 梨花 ますみ
松本良順 凪七 瑠海
佐助 透真 かずき
土方歳三 彩凪 翔
近藤勇 真那 春人
伊東甲子太郎 煌羽 レオ
斎藤一 朝美 絢
原田左之助 橘 幸
みつ 朝月 希和
永倉新八 真地 佑果
沖田総司 永久輝 せあ
大野千秋 綾 凰華
吉村嘉一郎 彩海 せら
原作はこちらになります。
南部地方盛岡藩の下級武士・吉村貫一郎が、貧困に苦しむ家族を見かねて、剣の腕1つで身を立てられると聞いた新撰組に入るために脱藩する。
その剣の腕を認められ新撰組で活躍する貫一郎。人の嫌がるような残虐な仕事も引き受け、もらった俸給を妻子に送り続ける。
しかしながら刻々と変化していく世の中に巻き込まれ、鳥羽伏見の戦いで傷ついた貫一郎は、助けを求めて大阪にある南部藩の蔵屋敷へ駆け込む。そこにいたのは、かつての幼なじみで今は南部藩蔵屋敷差配役の大野次郎右衛門だった。
昔、この映画を見た記憶はあるのですが、
残念ながら全く内容を覚えておらず、原作も未読のまま観劇しました。
宝塚版の「壬生義士伝」は華やかな明治時代の鹿鳴館からはじまり、明治時代と当時を行き来しながらストーリーが進む、という作りになっています。
そのため明治時代の人々は完全にストーリーテラー。
耳で物語の説明を聞かなければなかないのはそれだけでけっこうなしんどさです。
だから吉村貫一郎の状況の把握具合や心境が分かりにくい、これが一番の問題だと思いました。
吉村貫一郎というキャラクターは原作の力で非常に興味深い人物に描かれています。
脱藩の際の大野次郎右衛門とのやりとりで、「新撰組」を正義のものと思っていないことはわかりますが、その後、変化する状況を彼はどうとらえているのか、妻子のことはどう思っているのか、何を思って「鳥羽伏見の戦い」に参戦したのか、そういうところがパコっと抜けているので、彼の最期がどうもしっくりこないのです。
望海 風斗さん(だいもん)がせっかく熱演してくれているのに、その心境に入り込めないのは一重に脚本のあり方だなあと思います。
ただ殺陣はしっかりしていましたし、新撰組の登場シーンはやっぱりワクワクするし、銀橋に芸妓衆がズラッと並んで踊るのは美しく華やかで、ショーとしての見せどころは押さえている分、月組の「夢現無双」よりは普通に楽しく見られました。
そして多分、原作を読んでいくと世界観にも入り込めると思うので、これからご覧になる方には原作を読んでいかれることをおすすめします。
わたしは観劇後に原作を読んだのですが、原作は色んな人や吉村貫一郎自身が当時を語る方式で書かれていて、面白いです。
そしてそれを整理し、宝塚歌劇としてふさわしいカタチにするのが、座付き作家の仕事じゃないかと思うのです。
「ポーの一族」が時系列で宝塚らしいところを盛って、主人公の感情について行きやすいすばらしいエンタメ作品に仕上がっていたことを思うと、この演目も、もうちょっとやりようがあったはずなのです。
例えば華やかさには欠けるけれど、最初のシーンを「鳥羽伏見の戦い」に巻き込まれないよう声高に命令する大野次郎右衛門と緊迫した雰囲気の南部藩蔵屋敷に吉村貫一郎がやってくる、にしたらどうでしょうか。
次郎右衛門の苦悩がもう少しわかりやすくなるし、吉村貫一郎がそんな緊迫した中でも郷里に帰りたいとやってきた必死の思いがもう少し伝わると思うのです。
わたしが一番わからなかったのが、吉村貫一郎が「みよ」との婚姻を断ったこと。劇作だけでは、彼は家族の生活のために守銭奴と蔑まれても、金銭を稼ぎ送っていたとしか受け取れなかったんです。だからより家族が安全で金銭的にも守られる体制になる婚姻を断った理由が、吉村貫一郎から語られるけれどもイマイチしっくりこなかったんです。
さらに深手を負っても故郷に帰りたいと南部藩蔵屋敷にやってくる吉村貫一郎の行動がわからなかった。そんな状態で故郷に帰っても本当に家族の負担になるだけなのに、帰りたい気持ちが理解できなかったのです。
でも原作を読んで分かりました。
吉村貫一郎は「しづ」に惚れて惚れて惚れぬいていて、しづとその家族を「自分」が守り抜くことが生きがいだったのです。
わしは命ばかけて働ぐことができる。何の脇見もする要はねえのさ。おのれの生ぎる道に、何の疑いも持つことはねえのさ。男として、こんたな有難え道はなかろう。
だから「みよ」とも結婚できないし、死を目前にして「しづ」に会いたい一心で南部藩蔵屋敷に来たわけです。
そしてこれは宝塚歌劇で最も描くべきところだと、わたしは考えます。
ええ、公式ホームページhttps://kageki.hankyu.co.jp/sp/revue/2019/mibugishiden/special_006.html#special004_2
で石田先生と浅田次郎さんが「義」のことを語っていますが、それよりも描くべきは「吉村貫一郎の恋」だったと思います。
そして原作によると、それこそが彼の「義」なんですよね?
だったら「南部賛歌」で故郷の美しさだけを歌わず、「美しい南部の地、それ以上に美しいお前」くらいに歌うべきなんですよ!
そして「石を割って咲く桜」で「お前のために」なんてぼんやり歌わず、もはや「華麗なるギャツビー」の「デイジー」的に「しづ、しづ、この身を捧げたお前」くらいダサくとも名前を連呼して歌ったらいいんですよ!
で華やかに南部のお祭りシーンか何かを作って、しづがモテモテ小町娘的なプロローグにする。
それを若き貫一郎と次郎右衛門が二人で見てて、「太王四神記」の若きタムドクとヨンホゲみたいに2人で仲良くしながら、お互いしづのことを好きだと告白しあい、でも次郎右衛門は大野家の跡取りになることになったから、身分違いで無理だな、とか、貫一郎お前がしづを幸せにしてやってくれ、とかやって、告白のシーンにつなげれば、2人の関係性も、しづへの恋心ももっとはっきりして、最期のシーンがもっと響いてくるんじゃないかと思ってしまうのです。
明治時代は全てカットで、狂言回しはみつと大野千秋にさせればいいと思います。
あと貫一郎に送ってもらったお金で、しづの故郷で百姓をしながらも穏やかに暮らしている家族の様子も描きましょうよ。なんで真逆を描くかな。その中で嘉一朗だけが百姓ではダメだと感じている様子をのぞかせておく。
あとの新撰組のくだりとか、みよとの見合いとかはそのままでいいから、最後は大阪の南部藩屋敷シーンに戻り吉村切腹までして、ぜひしづに迎えにきてもらいましょうよ。
わたしが一番グッときた次郎右衛門と実母のシーンは泣く泣くカットして、フィナーレでしづと貫一郎がデュエットする中、秋田征伐へ向かう次郎右衛門と嘉一朗、兄を止めてと大野千秋にすがりつくみつあたりを描写して終わって良かったと思うんですけれど、ダメですか?
トップコンビ一緒のシーンは少なくとも、そこにはっきりと「恋愛」が描かれていたら、それはそれでいいラブストーリーであったし、「1人の人間が生きた話」になっただろうなと思うと、惜しいです。
わたしが見に行ったのが、まだ初日開いて1週間目だったので、演技的なところはともかくも、とりあえず日本物の所作が気になりました。
特に吉村貫一郎も斎藤一も、近藤勇や土方歳三と違って、足軽とはいえ武家の出身です。
武士で剣客の2人が、刀を鞘に納めるところでしばしばもたついていたのがものすごく気になりました。
そして2人とも鞘に手をクッとかける仕草がバシッと決まらない。そこで「人を切る」狂気や覚悟みたいなものをにじませることができたら、もっとよかったろうなと思います。
とくに吉村貫一郎は普段の優しくて穏やかな人格と人を切るときの二面性をもっと明確に出してほしかったですし、斎藤一は「人を切りたくてたまらない」サイコパス的なムードがほしかった。
けれどそれ以外の演技はきちんとできてきたので、この辺は今ではもっと良くなっているんじゃないでしょうか。
大野次郎右衛門はお装束を美しく着こなしていましたし、庶子の出ながら幼くして位の高い家で育った上品さがありました。これは素晴らしいことだと思います。
ので、逆に「鳥羽伏見の戦い」の激しさの中でもきちんと状況を観客に伝えられるセリフの言い方をがんばってほしかったです。でもこれも今はちゃんと出来てると信じたい。
沖田総司は華やかで目をひきました。まだ若いので今はそれで十分かな。できるなら総司の明るさの中にあるもう少し深いところを表現できたら、より面白くはなると思います。
あと佐助が全然劇中の記憶がないんですけど、小説では重要な役どころなんですよね。
そう思うと原作を読み直した今、もう一度見たい。
そしてそう思えるだけ、まあまあ及第点な演目になったんじゃないかと思います。
それにどんなにこの「壬生義士伝」が平均点以下でも、今回もショーがあります!
「Music Revolution」ダンスダンスダンスのめっちゃくちゃ楽しいショーでした!
鉄壁の歌声と華やかさを誇るトップコンビと、ダンサー二番手ががっつり得意分野で活躍して魅せる。
かつスターとスター予備軍にたくさん場面を与えられて、惜しみなく銀橋渡ってアピールしてくれるので、もう意味なく楽しいです。
生徒の力と振付家の力を信じた中身のなくて楽しいこれぞショー!て感じなので、初心者の方でも楽しめるのではないかと。
そう思うと、やっぱり「壬生義士伝」にもう一つ惹きつける「何か」がほしかったなあと思います。
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