こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

敵役の魅力。三人のショーブラン@スカーレット・ピンパーネル

昨日当日立ち見券で月組「スカーレット・ピンパーネル」を見に行ってきた。
もちろん、目当ては明日海ショーヴラン。

私は以前感想を書いたとおり、初演星組版をDVDでしか見ていない。
星組版の「スカーレット・ピンパーネル」は、私が柚希礼音というスターに心惹かれ、宝塚に舞い戻らせた元凶wでもある。
とは言え、私は柚希ショーヴランがあんまり好きじゃなかった。
柚希ショーヴランは好きじゃないけれど、ものすごくどういう人間が理解できた。
とても単純で根は素直で、「革命が正しい」と思ったら、まっすぐそれに取り組む。
能力は高いけれど、視野が狭く、物事を他の角度から見つめる目をもたない。
持てる力の全てを使って、正しいと思うものに真剣に向かっていく。
柚希ショーヴランはそういうショーヴランだった。
見ながら、ああ、バカだなあ、と思った。
そういう柚希ショーヴランがあったから、より作品がディズニー的に見えたりしたのだ。
マヌケで憎めない悪役、それが柚希ショーヴランだった。
もちろん、そういう中で出来あがった役は素晴らしかったと思う。
ただ、私個人がそういう人間が苦手なだけで、柚希礼音の役作りが悪かったとかそういうことでは決してない。寧ろ、役作りが良かったから、私はあのショーヴランを好きじゃない人間、とまで思えるのだ。

さて、今回の月組で念願の「スカーレット・ピンパーネル」を生で見てみて、夢中になったのは、やっぱり生の舞台は色んな魅力が全て伝わることが一番で、その上で、苦手だったショーヴランという人間が、龍真咲という違う人が演じることで、全然違う人間になったことも小さなポイントだった。

龍真咲のショーヴランはギラギラしてたのだ。息を飲むほど。
底知れぬ劣等感と野心が、暗いパワーとなって、彼の身体を満たしていた。
彼は革命、なんてキレイ事を最早信じてない感じがした。
ただ、この底辺の生活、底辺の扱いから抜け出せるなら、この混乱を利用するだけ利用して、のし上がってやろう、そういう負のパワーが実に魅力的に彼を彩っていた。
危険な男、という宝塚の男役の「型」がばちっとはまって、もうそのクサさが格好良いのなんの。
人生の辛酸を嘗めて這い上がったきたようなショーヴランと、とりあえず、金と生活には一度も困ったことのないような優雅なパーシーとの差とコントラストが良い。

このショーヴランを見て、演じる人が変わるだけでこんなにキャラクターの印象が変わるものか、と改めて「役変わり」を非常に面白く思い、それならば、ぜひもう一人のショーヴランも見てみたいと思ったのだ。

その明日海ショーヴラン。線の細い正統派フェアリータイプの美貌の人、だけに、どうショーヴランを演じるのか、多分、最も不安視されたのが彼女だと思う。
けれど、髭をつけた明日海ショーヴランは、彼女の女性っぽい美貌がいい感じに「美しい青年」へ変換されていた。そして、ショーブランが「キレイな男」となっているところが、明日海版の面白いポイントだった。明日海ショーヴランは良くも悪くも若い。やっと少年から青年への転換期にある感じ。その危うさが堪らないのだ。 若いからこそ、簡単に道を踏み外しそうな感じ。それが美貌とあいまって、壊れそうでこわい。
あまりに揺らいでいて、切なげで、思わず、彼が革命に身を投じた過去とかも、勝手に想像してしまう(笑)
きっと彼は平民でもそこそこ裕福で幸せな家庭に育ってたけど、それこそバスチーユとか初期の混乱に巻き込まれて家族を失って絶望したんだろうなーとかw、雨に降られてながら呆然とパリの街を流離っているときにロベスピエールの演説を聞いて心酔して革命に身を投じた、みたいな感じがするのだ。美少年だから、ロベスピエールの目に留まってw、革命を教わり、彼のために働くことを生きがいとしていたのに、いつの間にか、ロベスピエールと一緒に自分の心を支えてくれていたマルグリットが自分からも革命からも去り、ロベスピエールにも革命にも少しずつ不信感を募らせているのだけど、そんなはずはない、と必死にその揺らぎを押し留めようと頑張っている感じが、ものすごーーく、個人的に萌え(笑)

こんなことを考えていくと、やっぱり、私、役代わり公演好きだ!楽しい!一つの芝居で二つの見方が出来るのって贅沢だなと。誰が一番とかそういうことじゃなくて、そのキャラクターが変わることで、また違う側面から物語を膨らませるその楽しさ。
ということで、本家本元主役カップルの違いによる楽しさ、はまた次の機会に記したいな、と^^;

それにしても、スカーレット・ピンパーネルは、本当に良く出来た娯楽作だ。
そして、小池先生がよく演出している。
だからこそ、再演も、役変わりも楽しめるのだと思う。
『THE SCARLET PIMPERNEL』(月組) [DVD]
リエーター情報なし
宝塚クリエイティブアーツ