こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

劇団わらび座「おもひでぽろぽろ」

4/24(日)13:00~@銀河劇場

タエ子 朝海 ひかる
タエ子の母/山形のばっちゃ (2役) 杜 けあき
トシオ 三重野 葵
タエ子の父 渡辺 哲
ナナ子 高橋 磨美
ヤエ子 碓井 涼子
カズオ 平野 進一
キヨ子 丸山 有子
ナオ 鈴木 潤子
トノムラ 椿 康寛
シロー 北村 嘉基
あべ君 森下 彰夫
小タエ [こたえ](小5のタエ子) 石丸 椎菜

岡本螢・刀根夕子の漫画および、それを原作としたスタジオジブリ制作の劇場アニメ作品は、残念ながら今まで触れあう機会がなかった。
というのも、私が、それなりに都会育ちで、さらに都会が都会であるところを多いに愛しているから、田舎礼賛っぽいイメージだったこの作品に興味を惹かれることがなかったのだ。
恐らくこの舞台は漫画ともアニメとも少し違っていたと推測する。
けれど、主人公の精神世界を軸とした物語は、実によく舞台にあっていたと思う。
人間が、人と自然と係わり、生きる、ということを描いた、シンプルだけど、優しい舞台だった。

ストーリーはこちら→http://www.warabi.jp/omoide/story.html曲も、それとして素晴らしいな、と思うほどではなかったけれど、とても素直で心地良い旋律だったし、何より、二部の「アイ・フィール・プリティ」はコミカルで可愛らしくミュージカルのワンシーンとして、とても楽しかった。こういうシーンがあるかないか、でミュージカル、というのは違ってくると思う。
また、八百屋舞台に、段差が出来る仕組みが面白く、それが縁側になったり川になったりするところはとても興味深かった。

けれど、冒頭の場面が、主人公タエ子の勤める会社の様子で、事務用デスクや制服など実にリアルなだけに、出演者、とりわけ主人公タエ子の非現実感が酷く、一番最初の、観客を取り込まなくてはいけない場面で、作り物の違和感をがつんと見せる結果になったのだけが残念だった。
観客の多くが、役者や制作サイドよりも、実在の「会社」の様子をよく知っている。だから、その違和感は制作者よりも感じやすい気がする。いっそのこと、セットや衣装をあそこまで本物にしなかった方が、まとまりは出たと思うのだ。セットや衣装を本物にしなくても、タエ子の「日常」を表現することは出来たと思う。

この冒頭のOL姿の朝海ひかるを見たときは、どうしてこの主人公に彼女を選んだのだろうと不思議なくらいだった。朝海ひかるは、完全に舞台から浮きだっていた。普通のOLに全くもって見えない。ちょっと変わった子ではあるけれど、それでも日常から浮きだつほどの「人」では、多分おそらく、タエ子という人物はそうではない。また、彼女のセリフ回しが本当に大舞台向きというか、いかにも「芝居してます」といった風なので、もう少しナチュラルに出来る人をキャスティング出来なかったのだろうか、とちょっとがっかりもした。タエ子、という人は、私たち観客の視点でもあるはずだし、実際の彼女の悩みや迷いなんかは、誰の中にもあって、共感しやすいはずであるのに、タエ子は全く私たち側には降りてこない、そんな感じだったのだ。

けれど、タエ子が山形へ到着して、そこにある自然に挨拶をする、というシーンで、朝海ひかるがちょっと踊ったのだ。靴を脱いで、地面に足をつける。木の葉をなでる。するとその足先から、指の先から、水しぶきがはじけて、自然が息づくのが見えたのだ。
踊り、という程のものでもなかった。それは動き、程度のものだった。けれど、本当に相当に踊れる人じゃないと、体現できない、表現できないものだった。そして、そうか、これを表現するために、舞台という作り物の世界で、本物の自然を生み出すために、朝海ひかるがキャスティングされたのだな、と納得した瞬間でもあった。

物語はもちろん自然とそこに住む人との葛藤や対立も描くし、タエ子の過去の記憶と今の葛藤を交差させながら進んでいく。
タエ子の自然や田舎への憧れには、最後まで共感することが出来なかったし、土地の踊りの取り入れ方や、自然の表現方法なんかは、もう一つありきたりで、大きなテーマの一つでもあるのだろうから、工夫が必要だった気もしたけれど、一方で、ばっちゃのエピソードは、人が生きて、係わり年月を重ねて生きていく、ということを、とても素晴らしく表現していたと思う。
ばっちゃの年齢でも「大人になれない」というセリフは、とてもとても心に響いて、彼女の世界は今の私にはまだ遠く、未知ではあるけれども、きっとそういうことなのだろうな、と思ったし、それがまたとても愛おしく感じられたのだった。また、このシーンの杜けあきが本当に素晴らしかったのだ。少女と老女の交錯。姿は一つなのに、少女の彼女と娘の彼女と今の彼女が重なって見える。人生、を演じるのが本当に上手い役者だと思う。

だから、終わってみると、実にしみじみ染み入るステキな舞台だった。
これから、キャストを一部変更して、わらび劇場公演があること。
http://www.warabi.jp/omoide/cast_w.htmlそちらとも思わず見比べたくなった。