こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

主役は誰だ@バラの国の王子

5月4日(木)15時~東京宝塚劇場

美女と野獣と言えば、ディズニーの内容しか知らなかったので、野獣の設定の違いにまず大いに驚く。
ディズニーの美女と野獣は、野獣の改心、というのが一つの見所でテーマでもあると思うのだけど、バラの国の王子は悪い仙女の野望で野獣に変えられただけの、正真正銘いい王子様。だから、彼がベルとどう接していくのか、というのがまず興味のあるところだった。

そこへ行き着くまでは、まるで紙芝居を見せるかのような演出。役柄の名前もなく、本当におとぎ話をまんま舞台に乗せている。ZORROの時にも思ったけれど、宝塚歌劇は元々温泉地での見せ物であったし、その後はファミリーランドの中に立つ劇場であったのだから、こういう子供向け演目というのは、一つあって良いスタイルだと思っている。
また、動物たちを仮面で示すというのは二番煎じではあったけれど、その衣装を男役女役ともに燕尾服に統一したのは宝塚らしく、上品な雰囲気が出て良かったと思った。月組の面々が良く群衆芝居をしていたし、その中で進行役としての「虎」を演じた明日海りおは歌、セリフ回しともに美貌を伴って良い出来映えでもあった。

全体に音楽も悪くないし、おとぎ話の雰囲気というのは、宝塚歌劇の得意分野でもあると思うので、東京ではGW中の上演であったし、子連れビギナー向けには良いと思えるくらいの出来だったと思う。

ただ、おとぎ話だから、キャラクターの書き込みは一切ない。そして、その割を一番食ったのが龍真咲の王様だった。一貫した性格がなく、話を都合良く進めるためだけに機能しているので、しどころがなく大変だったと思う。
また、歌詞がどうにも変で、ベルのソロなど、役者は頑張って情感を乗せて歌ってくれるからより歌詞の意味不明なところが際だってしまったのは一体どうなの、とも思う。
同じ意味で野獣だってしどころのない役だ。しかも出番も少ない。
けれど、この芝居の最大の見所は、野獣とベルの心寄せあう姿で、これだけ中身のない脚本であれだけの情感を生み出したのは、主演カップルの完成度の高さの現れだと思う。というか、あの2人じゃなかったら、見れたものじゃなかったと思う。

そんなわけで、野獣が、野獣が、可愛いんです・・・!
出番少ないけど、間違いなく彼が主役。 これが霧矢大夢の実力。
元々いい王子様で、醜い姿を恥じて引きこもっているだけだから、とりあえず上品。言葉遣いも品があって、なのに、自分に自信が持てないのがキュン。ベルがこの野獣を信頼していくのもさもありなんと。だから、ベルと野獣が打ち解けていく様子が描かれなかったのが本当に残念。
でも、野獣の一世一代の告白が実らなくて、そうこうしている間にベルの父親が病気になって、ベルを家に戻した後、もう絶対ベルは戻ってこないと決め込んで、あの人のいない人生なんてもう必要ないとか言って、ご飯食べずに死んでいこうとする姿はどこの乙女かと!(笑)
もういじらしくて、かわゆくて、キュン!

で、この芝居を成り立たせたもう一人の功労者、蒼乃夕妃のベルがいいんです。真面目で知的だから村の人の憧れの的だった、というのが納得。あちらの方が、知性というのは女の魅力で有り得るんだよね。だから、ベルが、容姿以上に知性をもって魅力的であった、というのは、ヨーロッパの雰囲気も出しつつ、彼女に当て書きされた良い演出であったと思う。
それにしても、前回公演ではあれほど血の匂いがしそうなくらい情熱的で動物的だったジプシーの女を演じていたとは思えないほど、声のトーンも表情もまるで違う、完全にベルという人間になっていた彼女の作り込みの確かさにまず舌を巻いた。
元々ベルが主役の物語。彼女が真ん中にきちんと立たなくては成り立たない。その務めを彼女は十分以上に果たしていた。

ショーは興奮するところがまるでなく、がっかりはしないけれど、盛り上がらないという程度の出来。
だけど、最早トップコンビのデュエットダンスを見るだけで満足できる。
カワイイ感じのユニコーンのシーンが評判みたいだけれど、私はチャイコフスキーの音楽でオーソドックスに踊る方が好きだった。本当にこの二人のデュエットダンスはいい。情感とテクニックの合わせ技。美しくて感動。