こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

キッチュなショーアトラクション@仮面の男

9月23日15時~ @宝塚大劇場

原作/アレクサンドル・デュマ 
脚本・演出/児玉明子

フィリップ/ルイ14世 音月 桂
ルイーズ 舞羽 美海
ダルタニアン 早霧 せいな
アンヌ王太后 梨花 ますみ
アトス 未涼 亜希
ミレディ 舞咲 りん
ルーヴォア 彩那 音
ポルトス 緒月 遠麻
サンマール 沙央 くらま
ロシュフォール 大湖 せしる
アラミス 蓮城 まこと
コンスタンス 愛加 あゆ
ラウル 彩凪 翔

初日が開いてから、今まで聞いたこともなかったような散々なウワサが耳に入ってきた今回の作品。
しかし1週間経つと、面白かったという声もちらほら聞こえてきて、私はどちらに感じるかなあと逆に楽しみに赴いた。
結果、私は、非常に面白いと思った。

良作か、と言われたらそうではないし、斬新かと言われたら、そこまででもない。
B級ミュージカル、特に「イーストウィックの魔女たち」を思い出すようなヴィジュアル制作。
でもこれを宝塚で見ることは新鮮だったことだけは確かだ。

とりわけ、私は音楽の入れ方が素晴らしいと思った。冒頭の雷音に被さってはじまる開演アナウンス。前作「ハウ・トゥ・サクシード」のパロディーシーンでの「ブラザーフット」の転調の仕方、そして、監獄シーンでの鞭打たれる囚人の声が重なり合唱へと転じていくところ。「音」を歌ではなくエンターテインメントとして使用していくと面白さがあったように思う。
ヴィジュアルも実に細かく凝っており、日本では割りに手抜きにされがちな部分ががっちり造りこまれていた部分は好感が持てた。
ただ、そのヴィジュアルが「品良く」「センスよく」ではなかったところが、まず拒否反応を示された最初の部分だろうと思う。
不要な部分、やりすぎな部分も多い。
その結果、そぎ落とされたのが、ストーリーとキャラクターの情感、で、これが最も観客に拒否反応を起こさせた部分ではないかと思う。

奇しくも「ハウ・トゥ・サクシード」の時に「これは大企業をテーマにしたショーだと思ってみるべし」と書いたのだけど、同じことを今回も言う。
「仮面の男」をモチーフにしたショーアトラクションだと思ってみるべし。
「ハウ・トゥ・サクシード」はミュージカルだったけれど、この「仮面の男」はそれでもない。何かといわれたら「ステージアート」の一種だと思う。
舞台を見るとき、何を重要視するかは人それぞれ違うけれど、それでも舞台を体感するということは、目と耳と心の三つを使ってすることだ。もちろん、この三つを全て刺激する作品こそが「傑作」と呼ばれるものである。でもその三つが揃うことはまれだ。
そして、私は日本で脚本は素晴らしいし演技もいいのだけど、あのセットなんとかならんか、あの見せ方なんとかならんか、という作品もたくさん見てきた。
でも脚本がよければ許されるなら、この作品だって、最大限に「目と耳」を刺激するステージであることは確かで、そういうもの、としての価値は十分にあると思う。少なくとも私は「目と耳」から与えられる刺激に興奮した。
そして、舞台は「そういうもの」も作ってもいいところだと思っている。

ただ、これを宝塚歌劇でやっていいか、と言われたら、それはまた別の問題だとも思う。
恐らくこれを面白いと思う宝塚固定の観客は限りなく少ない。多くを長年のリピーターファンで構成する客層のもと、大方に受け入れられないものを作ってしまうことは、商業演劇の座付き作家の仕事としてはマイナスかもしれない。
ただ、今まで宝塚や舞台を見たことのない、サブカルチャー好きの観客には受ける要因はあるけれど、不評のため東京公演では手直しが入るとのウワサも耳にする。それを踏まえても恐らく宝塚歌劇的にこういう作品を見ることは二度とない気がする。
二度とないだろうから、一回試しに見てみるのはきっと悪くない、そう思う。
(あ、でも、「三銃士」の世界が好きな方は絶対見るのはよした方がいいです。お好きな「三銃士」の世界観はどこにもありません・・・)

子供の頃の「影絵」を通して、フィリップとルイーズが距離を縮めるくだりは実に実に可愛らしくて良かった。
出会ってまもない心に傷を抱えた2人が運命に翻弄されてそこにいるとき、「子供の頃の楽しかった思い出」は心をつなぐものになりえると思う。さらにそれが影絵で表現されるとき、フィリップに「影絵」を教えた優しい侍女の影がルイーズに重なっていく、そういうことも感じられ、非常に面白いシーンになっていた。
その優しい侍女コンスタンスとダルタニアンの別れのシーンも、簡潔ででも正統派にキレイで心に残る。
その一方で監獄のようなキッチュなショーシーンが埋め尽くす。
水戸黄門ダチョウ倶楽部のネタは心底いらなかったけれど、それでも、同時代、同ネタを扱った「ブルボンの封印」が原作の面白さを全く表現できずに、単なる宝塚のつまらない芝居になったことを考えると、これは意欲と面白みのあった作品だと思った。