こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

遅ればせながら追悼、蜷川幸雄先生。

はじめて蜷川幸雄先生の作品を見たのはまだ10代の後半でした。
演目は「王女メディア」。
重く暗い舞台に若い私は何一つ理解できず、
私には蜷川先生が理解できないのだ、
と思った記憶があります。

けれど、20歳を超えて、
それが何の舞台だったのか
思い出せないのが悔しいのだけれど、
一気に蜷川先生に心を持っていかれたのだと思います。

元々シェイクスピアの戯曲が好きで、
ロンドンのグローブ座で「十二夜」を見たとき、
ああ、これは当時のまま男性キャストだけで演じると自然なのだ、と感じました。

帰国したら、蜷川先生が「オールメールシリーズ」を始めていました。
私が最初に見た「オールメールシリーズ」が「恋の骨折り損」。
あの冒頭のシーンが忘れられません。

舞台中央に立つ大きな木。
開演すると、その葉が一斉に揺らぐのです。
室内の舞台で「風」を見たのは初めてでした。
その一シーンで、蜷川先生は、私をシェイクスピアの物語の中に引き込んでくださったのです。

「最初のシーンで客席を舞台に引き込めるかどうかが肝心なんだ」
というようなことを仰っていたのを読んだ記憶があります。
蜷川先生の作品は、その通りいつも「あっ」と息を飲むシーンがありました。

残念ながら、昨年は蜷川先生の演出作品を見る機会を得られなかったのですが、
ブログを休止していた2014年に偶然4本の蜷川先生の作品を見ていました。
ケラ様作の「祈りと怪物」
ドラマにもなった「わたしを離さないで」
村上春樹の有名原作「海辺のカフカ
そして、最後が「皆既食」でした。

「祈りと怪物」は簡単な感想を既に書いているので省きます。

私は視覚で舞台を見るので、
音楽は覚えていないのですが、
「わたしを離さないで」は原作どおりの静かな語りの始まりがあって、一転、少年たちがわーっと舞台に登ってきてサッカーをするシーンでぐっと世界へ引き込まれました。
それから、ヘールシャムを出た後に主人公たちが暮らすコテージのセットも、なぜだかすごく印象に残っているのです。
残念ながらキャストの印象は薄いのですが、
ひどく心に残ったからこそ、
この後ドラマを見ながら原作を平行して読み、
映画も見たのだと思います。
そして、今、この状態で、蜷川先生の「わたしを離さないで」をもう一度見たいと願っていたのに、叶わぬ夢となりました。

海辺のカフカ」は透明な箱に寝転んで入って、不思議な歌を歌っていた宮沢りえさんのシーンが強烈でした。
そして、藤木直人が想像以上に素晴らしくて、改めて、蜷川先生の演技指導のすごさを感じました。

「皆既食」の岡田将生も初舞台だというのに、
信じられないくらい美しく魅力的でした。

蜷川先生級の「演出」を生み出す演出家はこれからも出てくると思います。
けれど、蜷川先生級の「俳優を育てる」力を持った演出家は難しいのではないかと感じています。
「俳優を育てる力」、私は特に勝地涼でそれを感じました。

亡国のイージス」で魅力的な役をオーディションで勝ち取った勝地涼
けれど、演技がひどくて、原作ファンとしてとても残念な思いをしました。
なのに、「カリギュラ」に出演して以降、
テレビドラマで彼を見たときに
「え!すっごく演技上手くなってない?」と驚いた記憶があります。

前述の「恋の骨折り損」に姜暢雄くんが出演する、とはじめ聞いたときは、ちゃんとできるのか不安だったんですよ。
スタジオライフ所属時代に、
彼の出演作をいくつか見ていたのですが、
演技センスはあるけど、とにかくスキルがなかったのです。
なのに、この後、ドラマで見かけても、
安心して見れるくらいに演技力が向上していて
最早「蜷川マジック」と言ってもいいんじゃないか、とまで思いました。

蜷川先生の元で、
変化していく俳優さんたちを見たかったし、
何より、オールメールシリーズでシェイクスピア全作品を見れると思っていました。
特に大好きな「夏の夜の夢」(「十二夜」は歌舞伎版を見たので)のオールメールキャスト版を
見るのを楽しみに待っていました。

だから、ただただその死が残念です。
蜷川先生のご冥福を心よりお祈りいたします。