こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

革命がなぜ起こったのか@1789-バスティーユの恋人たち

5/27(土)12:00~ 梅田芸術劇場

ロナン 加藤和樹
オランプ 夢咲ねね
マリー・アントワネット 凰稀かなめ
ロベスピエール 古川雄大
ダントン 上原理生
デムーラン 渡辺大
ソレーヌ ソニン
アルトワ 吉野圭吾
ラマール 坂元健児
フェルゼン 広瀬友祐
ペイロール 岡幸二郎

まず最初にお詫びします。
今回東宝版を見に行くにあたって、改めてフランス版のDVDを見直したんですね。
1789 : Les amants de la Bastille
リエーター情報なし
メーカー情報なし


そうしたら、あれほど私が見たいと声高に叫んでいた「アントワネットの断頭台」がなかった!のです。
いえ、正確にはありました。
アントワネットのラストソングの演出で一気に彼女の最期まで見せるのです。
それが個人的にはすごく印象的だったんでしょうね。
セットも石膏の人の顔が積み上げられたりして、気味悪くアーティスティックで訴えるものがありました。
だから、私の頭の中で、ロナンの死よりアントワネットの断頭台の方が後のような勘違いを犯していたのです。
でも、フランス版もアントワネットのラストソングの後にバスティーユ攻撃、ロナンの死の順番でした。本当にすみません。

ということで、東宝版1789、
めっちゃくちゃ面白かったです!
一部は殆どフランス版のままの順じゃないかな?
何が一番良かったって、ロナンが常にボロボロの服を着ていることです。
そして、何度も「俺は農民だ」と叫ぶところです。
こういう無学な農民の貧困からはじまって、ネッケルの進言を受け入れなかったルイ16世の対応があり、あのバスティーユ陥落まで行きついた様がよく分かりました。
革命を回避できるチャンスは何度もあったのに、アルトワの画策で、デムーランらを暴走させてしまう様がなんとも愚かで哀れでした。
とりわけ、ソレーヌと女性たちの「パン屋襲撃」のシーンは実際の歴史にもなぞってあり、迫力も満点で、とにかく「食べるものがない」という逼迫した様子がビシバシ伝わってきます。
けれども、それが王宮、貴族側には全く伝わらない当時の身分制度の在り方を垣間見ることもでき、こうやって歯車がかみ合わず、奇しくも今度東宝版が作られる「スカーレット・ピンパーネル」のような「マダム・ギロチン」な世の中がやってくるのだな、と一つ一つを納得しながら見ることができました。
でも、その中でも「恋愛」はきっちり必要なのね、とかそういう国民性の違いも面白かったです。
宝塚版であんなに興奮させた「サイ・ラ・モナムール」という曲がフランス版であった時間になっても、中々出てこなくてハラハラしたんですけど、ちゃんと「東宝版」として、宝塚ともフランスとも違う、いい「サイ・ラ・モナムール」になっています。「モナムール」に誓っている感じがすごくいいです。

ロナンは無学です。
父親の復讐をすると言ってパリに出てきても、何もできずというか、何をどうしたらいいかすら分からなかったんでしょうね。1カ月も野宿生活。
(妹のソレーヌは生活のためと娼婦になってちゃんと稼いでいるのにね
デムーランたちは、とにかく勉強家ですから、本当の農民の生活を知りたいとロナンに興味を持つのも、いい育ちゆえの賢明さや親切心でロナンに職を世話してやるのも納得です。
そして、単純に仕事をくれたデムーランたちにロナンが感謝して、その考え方を素直に受け取るのも自然だし、ソレーヌから、でもあいつらは所詮ボンボン、私たちとは違うと言われて、そっか、と思うのもよーく分かるのです。
それでも、ロナンもソレーヌも、貧困していく世の中に、デムーランたちの言葉に一筋の光を見ざるをえなかったのだと思えます。その光に捕らわれていくのです。
残念ながら、ルイ16世もアントワネットも、世の中の動向には無関心です。一国の王と王妃が世の中の動向に無関心であったこと、それが2人の罪でしょう。でも、それ以前はそれでよかったのです。税金を農民から普通に巻き上げられた時代には。そう思うと現在にも通ずるところも感じます。
それでも、フランス人権宣言を読み上げていくラストシーンはカタルシスを感じます。
この先のロベスピエール独裁政権と益々動乱の世の中になっていく歴史を知っていても。
市民の迷いと怒りがうねり、空間に満ちていて、それが迫力ある面白い作品になっていました。
ああ、革命のはじまりの物語なんだ…と今さらやっと気づきました。

セットもフランス版を少し彷彿とさせながらも、吊り板を独自の使い方をしていて、その独自の使い方に新たな意味合いも見られて、とても面白かったです。
振り付けもフランス版を意識しているようでしたし、少なくとも私は「ロミオ&ジュリエット」よりは受け入れやすい振り付けでした。

そして、この「革命のはじまりの物語」を作った功労賞は誰が何と言おうとソレーヌのソニンでしょう。体中に満ちたエネルギー。
ソレーヌの中に「革命」そのものがあるんじゃないかとさえ思いました。
演技も歌も前からうまかったけれど、ダンスの進化には目を見張るものがありました。
歌って踊れる点では分業制のフランス版さえも凌いでいたと思います。
そして、ソレーヌをここまで立たせることができなかった、それが宝塚版の仕組みの弱さだと思いました。

加藤ロナンは特に不可もなく、でも身長があるので、見た目のバランスが良かったです。

宝塚版ではロベスピエールが印象的だったのですが、東宝版はデムーランが印象に残り、ソニンのソレーヌの凄さのせいか、ダントンが全く目立ちませんでした

夢咲オランプは、時にコミカルにも演じながらも、芯の強い女性をしっかりと見せていました。
2人の恋愛もオランプが引っ張っている感じがとても面白かったです。
これも今の宝塚ではなかなか出来ないんですよね。
ロナンがぽーっとなっちゃうのも納得が行くし、自分を持っている女性だからこそ、身分や育ちなんか関係なく、自分と分かり合えるという点でロナンを選ぶのも納得出来ました。
ラストシーンの真ん中パワーはさすがです。

あと、2人を取り持つシャルロットを子供がちゃんとやっている、というのもいいですね。
子供だから、つなげる何かがあると思うんです。
とは言え、本当、お金とチケットがあったら小池ロナンと神田オランプも見たかったです。

ロナンはともかく、私が今回夢咲オランプを迷った末に選んだのは、凰稀アントワネットとの絡みが見たかったらからです
オタクですみません。
というのも、私、凰稀さんと夢咲さんのビジュアルバランスが好きなんです
2人が夫婦役をやった「ハプスブルクの宝剣」という作品では、ツーショットの舞台写真を探しまくり、冊子も買ったのに、なくてがっかりしたくらいに、大好きなんです
そんなわけで、2人が一緒のシーンは眼福でした
この組み合わせを作ってくださって、小池先生、本当にありがとうございます

凰稀アントワネットの美しいこと
なのに、どうして、この人の美貌の裏側には「哀しみ」が見え隠れするのでしょう。
というか、「哀しみや淋しさ」を表現するのに長けているのかもしれません。
最初のアントワネットソングから、ああ、この人は淋しくてたまらないのだ、だから、こうやって享楽に身を浸すのだ、でもそれだけでは足りなくて、誰かの愛情を必要とするのだ、というのが伝わってくるんですね。
たまたまフェルゼンがそこにいたから、不倫したように見えてくるから不思議です。
でもだから、ルイジョゼフの死をきっかけに、凰稀アントワネットが「愛情」の在り様を考え直し、自分を見つめなおすのがとても自然に思えました。
残念ながら、断頭台までの経過を演出で見ることは出来ませんでしたが、最後の歌であの恰好で登場しても美しかったアントワネットが見られただけでも、有り難かったです。
そして、アントワネットとオランプが同じ強さで立っているのもすごくバランスが良く見られました。

そんなわけで、私はこの東宝版の1789、好きです。
宝塚版と東宝版との好き嫌いの比率はどんな感じなんでしょうかね。
月組宝塚大劇場公演 スペクタクル・ミュージカル『 1789 ―バスティーユの恋人たち―』 [Blu-ray]
宝塚歌劇団,龍真咲,愛希れいか,凪七瑠海,美弥るりか
宝塚クリエイティブアーツ

ちょっと気になるところです。

追記.6/15
東宝版CDが発売されるそうですね!
http://www.tohostage.com/1789/cd.html
ソニンのソレーヌをもう一度見たいので、映像も販売してくれないかな?