こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

いつもの物語を見世物に変える実力@シネマ歌舞伎「阿弖流為」

作:中島かずき
演出:いのうえひでのり

阿弖流為:市川 染五郎
坂上田村麻呂:中村 勘九郎
立烏帽子/鈴鹿:中村 七之助
阿毛斗:坂東 新悟
飛連通:大谷 廣太郎
翔連通:中村 鶴松
佐渡馬黒縄:市村 橘太郎
無碍随鏡:澤村 宗之助
蛮甲:片岡 亀蔵
御霊御前:市村 萬次郎
藤原稀継:坂東 彌十郎

「地球投五郎」を見に行くか、この「阿弖流為」を見に行くか非常に迷ったんですけれど、
新感線だし、歌舞伎だし、絶対「シネマ歌舞伎」があるとにらんで、投五郎を選びました。
すみません。
そして、新感線さま、松竹さま、ビンボー人の観劇スキーに優しいお心遣い、ありがとうございます。
まあ、「地球投五郎」を見に行って正解だったとは思うのですよ。
だって、あの可笑しさって、多分、映像じゃ伝わらない。
だからと言って「阿弖流為」を見に行かなかったことを後悔してないか、と言われるとそうじゃありません。
シネマ歌舞伎で見た今こそ、ああ、劇場に行きたかったなあという気持ちが大きくなりました。

いち早くゲキシネという分野を立ち上げられた新感線さまの舞台は人気作が多く、私が生で見ているのは実は「メタル・マクベス」だけなのです。
なんかもう本当、すみません。

けれど、ありがたくもゲキシネが公開されるのでそちらの方はいくつか見ておりました。
で、だいたいのところの、いわゆる「いのうえ歌舞伎」と言われるものの特徴は感じていました。

それをホンモノの歌舞伎でやった「阿弖流為」。

 


阿弖流為」を見ながら、ああ、セリフも間も見せ場も「歌舞伎」のためにあるのだ、と思いました。
これが、いのうえ歌舞伎が本来求めていた姿なのではないか、と。

物語は都人の坂上田村麻呂蝦夷阿弖流為の友情と闘いを描きながら、義と悪とは何かを問う、という、今までの作品と根底に流れるものは同じです。
見せ方だって、とりわけ今までと変わるわけではありません。
でも、確実に違う、のは、それを全て歌舞伎役者が演じている点です。

セリフの言い回し、リズム、そして、見得を切る。
ああ、「五右衛門ロック」でも「髑髏城の七人」でも、皆にこういう風に見得を切ってほしかったんだろうなあ、と思わずにはいられませんでした。
さらに、歌舞伎役者たちの基礎体力の凄さ。
七之助の「藤娘」を見たとき、その背筋・腹筋力と柔軟性にあんぐり口をあけたのですが、これを全員が持っている。
だから、動きがより複雑化して見えて、迫力が増すのです。

とりわけ、七之助のラストシーンのは、女形であることも大いに生きて、「人間」ではないものの神秘性と迫力、を魅せてきました。
また、龍状の「神」が登場するのですが、これの動かし方も歌舞伎の伝統芸としてスムーズで、美しいのです。
脚本家として、そして、演出家として、理想の形で演じてもらえたもの、じゃないでしょうか。
大向さんの屋号や「よ、○代目」の掛け声も、演出に溶け込んでいたのが見事でした。

中村勘九郎の基礎能力の高さをまず痛感しました。
声の良さ、鍛え上げられた肉体、そして、鍛錬し続けた歌舞伎芸。
役も真っすぐで、彼の性質にもとても良く似合っていました。

七之助はじめ、女形は本来の歌舞伎よりいいなと思ったのはメイクと衣装です。
あのメイクと衣装だと、体格が華奢に見えて、女を強調しすぎないことで、性別を超えやすくなった気がしました。
その上で、やっぱり七之助は可愛いです
元々の女形として恵まれた首が長く華奢な体形に、衣装もメイクも良く似合って、髪型もラインストーンとかあしらわれていて、それが顔を彩り、美しいのなんのって!!
久々にあの「立烏帽子」姿を「ちっちゃくしてフィギュアにしてポケットに入れてもってかえりたいーーー」と心の中で萌え尽しました

(↑上演時間183分 休憩10分中に流れた映像)

そして、主役阿弖流為染五郎がまた美しいのです。
いや、染五郎が美しいことは今まで歌舞伎で何度か見ていて知り尽くしていました。
しかしながら、映像でみても、カラコンを入れて普段の歌舞伎メイクとは違うメイクをした染五郎が、本当に美しくて、七之助との並びは眼福でした。
もちろん、殺陣も役作りも主役としての華も何もかも、何一つ文句なしです。

さらに、これを「歌舞伎」でやってくれた、この功績が一番素晴らしいです。
まさしく、今の歌舞伎界を牽引する一人ですね。
プロデュース能力は、歌舞伎役者の誰もが持っているものではないので、
ぜひとも、今後も色んなことに挑戦していただきたいです。

この「阿弖流為」をシネマ歌舞伎でやることで、普段はあんまり区別のつかない歌舞伎役者さんを認識できたことが、楽しかった理由の一つです。

特に私は蛮甲の片岡亀蔵さんのファンになりました。格好いい!
蛮甲自体は毎回新感線には出てくる「生きるのにいじきたない男」で新鮮味はないんですけれど、とりあえず片岡亀蔵さんが格好良いので、なんか格好良く見えてくる
死に際なんて、本当、絶対そうするだろうな、って分かっているけれど、やってくれると「かっこいいーー!蛮甲、最高!」って叫びたくなるんですよ

後は御霊御前の市村萬次郎さん。美しくて怖い。これも女形がやる醍醐味の出る役でした。

そんなわけで、「阿弖流為」見のがした方、ぜひとも、シネマ歌舞伎で!
お財布に優しい2100円です。

歌舞伎って敷居が高い、と思われている方もこの機会に「阿弖流為」へぜひ!
セリフも現代語なので、全部わかりますし、エンターテインメントなので、楽しいです。
そして、大事なことなのでもう一度言います。
お財布に優しい2100円です。

全国の松竹系映画館で上映中なので、急いでください!
http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/31/

ところで、松竹さん、これのプログラムも映画館で売ってくれませんかねえ。
DVD販売だって考えてくださっていいんですよ?
そのくらい、私は七之助の「立烏帽子」を手にしたいです!