こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

調理法の難しい素材@松尾スズキ版キャバレー再演

2月4日 18:00〜 フェスティバルホール
サリー・ボウルズ 長澤まさみ
MC 石丸幹二
クリフォード・ブラッドショー(クリフ) 小池徹平
シュナイダー夫人 秋山菜津子
シュルツ 小松和重
エルンスト 村杉蝉之介
コスト 平岩紙

長澤まさみがミュージカル初挑戦、というニュースが流れ、第一弾として、このちらしが出まわり

第二弾でこのステキなポスター

が出回った頃から、私のブログの映画版キャバレーの感想にもありがたいことにアクセスが増えました。
とは言え、映画はとても有名で、感想を書かれている方も多く、なんで私のが?と思ったのですが、検索してみてその理由がちょっと分かりました。
あれですね、意外に舞台と映画を比較して書かれてる方が少ないのですね。
いやあ、よくやった、私(笑)

この話題性は間違いなく長澤まさみさんの人気によるものなのですが、さらに上記2つのポスターがとても魅力的なのが素晴らしい点だと思います。
実際、チラシを手に取り、持って帰る方も多く、さらに劇場でもポスターが売れに売れてました!
この点に置いて、普段ミュージカルをたくさん制作している東宝さんとか、見習っていただきたい。
出演者バーンでも、カッコいいポスターを作ろうと思ったら作れるんじゃないですか!
そして、ポスターカッコ良かったら、少しは興味を惹くものなんですよ!
お願いしますよ、東宝さん。

さて、キャバレーの上演がはじまって、私のブログにはさらなる異変が起きました。
過去に観劇したキャバレーの感想へのアクセスアップです。
本当に本当にありがとうございます。

そんなわけで、私は舞台版キャバレーも数回見ております。
そして、松尾スズキ版初演も見ているので、正直、今回、フェスティバルホールで上演、という時点で全く期待していませんでした。
その理由は、初演を見たときに、この演出にはもっと小さい劇場が似合っている、と思ったからです。
興味のある方はよろしければ初演の感想どうぞ
それなのに今回見に行ったのは、長澤まさみさんのファンだから、ではなく、今、もう一度松尾スズキ版キャバレーを見たら、何を感じるか知りたかったからです。
なぜなら、初演を見たときは、初めて舞台版を見てから、かなりブランクがあって、舞台版の詳細を覚えておらず、舞台版ってこんなんだったっけ?とハテナがたくさん飛んだのです。
でも、その後、幸運にも立て続けに、三回舞台版キャバレーを見る機会を得ました。

2007年12月ルファス・ノリス演出版
2010年1月小池修一郎演出版
2012年3月小池修一郎演出版再演

この三回の観劇を得て見る松尾スズキ版再演の感想の前に、長澤まさみさんの感想をいっときましょう。多分、そこ、大事ですよね、今回。
長澤まさみさんはがんばってました!
例え、歌詞が聞き辛かろうが、リズムがずれてようが、今のミュージカル界、クラシック出身の俳優が多いので、この辺は通常運転です。モーマンタイです。悲しいかな。
松雪泰子さんや藤原紀香さんに比べれば、技術の問題じゃなくて、オツムが軽い感じとか、ズケズケと部屋に乗り込んじゃう感じとか、どことなくウザくてうるさい感じとか、そういうところが、ずっとサリーでした。
芝居のときの動きが小さくて美しくなかったのは、彼女ではなくて、演出の責任です。
ただ、これからもミュージカルの舞台に立ちたいというご希望があれば、個人的にはダンスを習われることをオススメしますです。
大きく美しく立って動くことが、大きな劇場ではとても大事なので。

そういう意味ではもう1人の話題の人、小池徹平さんは、ミュージカルの舞台にちゃんとプロとして立てていたな、という印象でした。

そして、MCの石丸幹二さんが、もう尊かったです、素晴らしかったです。
幹二さんの舞台、今までいくつか見てきましたけれど、こんなにその存在がありがたいと思ったことなかったです
だって、幹二さんだけが、三階まで届くんですもん。
そして、私が見た日本版キャバレーではじめて歌を聴かせられるMCだったんですもん。
いやあ、歌が上手いっていい。
そして、三階まで魅せられる動きと芝居って素晴らしい!
ミュージカル畑でずっとやってこられた俳優さんの底力というか、スキルを感じました。
幹二さん、ありがとう!

そして、秋山菜津子さんは初演と変わらず素敵でした。

そんな感じでざっくりキャストの感想を書いたところで、本題、行っていいですか?

演出が劇場のサイズと合っていないのは覚悟の上だったので、いいんですけれど、改めて見てみると、小池演出の凄さを感じました。
少なくとも小池演出は、オープニングからキャバレーに移るシーンで、アッと言わせてきたのですよ。キャバレーに引き込んだのですよ。
そして、サリーがクリフの部屋に乗り込むくだりで、うおお、そこからそれが来るかーという驚きを見せたのですよ。
松尾スズキ版にはそれがない。
演出の驚きがないのです。
更に、ルファス・ノリス演出版で、上手くあるもので列車に見せて、上から車掌に扮したMCを語らせて、スピーディーに展開させた最初のシーンが、ダラダラと長い。
導入でするする物語が転がらないと、見ていて辛いです

一部は特に間延び感がハンパなくて、もうちょっとメリハリつけて引き込んでほしかったなーと。

で、長〜い一部が終わったあとに、私を落胆させるシーンが冒頭からやってきました。
なんとMaybe this timeを全部英語歌詞にしちゃったのです!
二部の冒頭に英語で歌うと、単にサリーがキャバレーで歌ってるだけ、のシーンになっちゃってたのです。
本来これは、サリーがクリフの提案を受けて、一瞬、普通の女になる夢を、今度こそ勝ち組になれるかも、という心情を、未来の希望を、歌う曲なのです。


この曲を入れるなら、ちゃんとしかるべき場所に置いて、日本語で、サリーの最終選択に至るまでの心の動きを伝えてほしかったです
この曲があるから、最後のLife is Cabaretの歌が活きてくる使い方をしてほしかった

猥雑さや分かりやすくエロスや下ネタを見せる点では、松尾スズキ版は小劇場ならではの、最大限日本で出来るものを見せていると思うのです。
でも、やっぱり、それだけじゃいいミュージカル作品にはならないんだなあ、と思いました。

というか、本当にキャバレー舞台版のミュージカルとしての最大の欠点は、後味が悪いことなんですよ。
これはロンドンで見ても、ブロードウェイのを映像で見てもそうなんです。
因みにこんな感じ↓↓↓


ロンドンのルファス・ノリス演出は良くも悪くももっとひどかったです。
終わって席から立てないくらい、表現されたものがあからさまでショックでした。

そう思うと、舞台版とは別物だけど(シュルツはんは登場せず、シュナイダー夫人は単なる大家、サリーがアメリカ人で、クリフはブライアンという名前の英国人です)、映画はギリギリ娯楽作品していて、その塩梅に改めて痺れます!

ちょうどこれ見る一週間前に全く同じ時代のベルリンを描いたグランドホテルを見たのですが、こちらもキャバレーと同じく、人生を描いているんですね。
で、同じ時代のベルリンだから、やっぱりナチスの足音は聞こえるわけです。
そして、それをトム・サザーランドはGreenではっきり聞こえる演出にしたのです。
一方の一週間前に見たトミー・チューン版はその辺は抽象的に感じさせるだけで、直接的には描かず、結果、素晴らしいエンターテインメントを作ってきました。
映画版も同じことが言えるかなあと思います。
どちらがいいかは個人の好みなんですけれど、一度、映画版に逼迫するくらいの、娯楽作品に転換した舞台版キャバレーを見てみたいものです。