こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

カラフルな人間模様@宝塚雪組「幕末太陽傳」「Dramatic "S"」

5月3日 15:00~ 宝塚大劇場

幕末太陽傳

作/演出 小柳奈穂子 
キャスト
居残り佐平次【無一文で豪遊し相模屋で居残りで働く】 早霧 せいな
女郎おそめ【相模屋で人気を争う女郎】 咲妃 みゆ
高杉晋作【相模屋に滞在する維新派長州藩士】 望海 風斗
杢兵衛大尽【相模屋の常連。おそめの客】 汝鳥 伶
女房お辰【相模屋主人の妻】 梨花 ますみ
やり手おくま【相模屋のやりて婆】 舞咲 りん
相模屋楼主伝兵衛【相模屋の主人】 奏乃 はると
貸本屋金造【相模屋に出入りする貸本屋】 鳳翔 大
鬼島又兵衛【鬼の鬼島と恐れられる長州藩江戸詰見廻役】 香綾 しずる
久坂玄瑞維新派長州藩士】 彩凪 翔
大工長兵衛【おひさの父。相模屋に借金をしている】 真那 春人
息子徳三郎【相模屋の若旦那】 彩風 咲奈
倉造息子清七【相模屋の常連。倉造の息子でこはるの客】 永久輝 せあ
女中おひさ【長兵衛の娘。相模屋で働く】 真彩 希帆

上のキャストが宝塚歌劇団公式ホームページから借りてきたわけなんですが、とりあえず【】の中を読んでください
というのも、これ、非常にストーリーが説明しにくいのです。というか、ストーリーを説明するのも野暮な気がするんです。
元々が主に4つの落語のネタが散りばめられているということで、いくつかの話が組み合わさっているので、これ、というストーリーがないのです。
そして、それが面白い!
つまりは、主役「居残り佐平次」だけがいくつかある物語にちょいちょい噛んでいるけれど、例えば、おそめと高杉晋作は全くもって交わらないんです。おそめの話と、高杉晋作の話は別物で、ただそこに共通人物として「居残り佐平次」がいるだけなんですね。
私は原作の映画は知りませんし、当時のコメディのありようも知らないのですが、ふと英国のソープオペラを思い出しました。
英国のソープオペラとは、延々何年も続く市井の人を描くテレビドラマで、これにいたっては、主役なし、もちろん、主要登場人物どうしも知りあうことはありません。
多分、この映画が「英国のソープオペラ」の構造に近いです。

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登場人物たちが知り合いでもなんでもないというのは、日常生活では当たり前のことですよね?同じカフェにいても、知っている人なんてそうそういないですし、その偶然同じカフェに居合わせた人たちがどんな日常を過ごしているかなんて、会話に聞き耳たてない限り、知らないわけです。

幕末太陽傳は、その名のとおり、時代は幕末です。
そして、舞台は品川の宿場町にある「相模屋」という遊郭です。
その色々な人が行きかう宿場町の「遊郭」周辺で生きる「幕末の市井の人」を活き活きとコミカルに描いている、くらいの認識で物語は十分だと思います。

そこから、どの物語を選択するかは、見ている側の自由で、それこそがこの作品の最大の魅力なんじゃないかと思うのです。

さて、この幕末太陽傳は映画が原作です。私は全く知りませんでしたが、コマーシャル映像がこんな感じです。



これ見れば、予習は完璧です
もちろん、恐らく落語の元ネタ知っていたらもっと違う楽しみ方もできるのだと思います。
私は残念ながら「品川心中」くらいしか知りませんでした。
でもこの演目を心から楽しみました。

まずなんといっても、音楽がいい!
映画のCMを見る限り、映画もそうだったようなのですが、日本物なのに音楽はジャズにタンゴにとバリエーション豊富なんです。
だから、幕末で、日本物のメイクはしているのですが、完璧なミュージカルに仕上がっています
映画は1930年~40年代のスクリューボール・コメディのようだと解説にありましたが、それを下敷きにしたこの作品は、1950年代のMGMミュージカル映画黄金期の作品みたいな洒脱さと楽しさがあります
和と洋が見事に混じり合い、歌も踊りも楽しさが倍に膨らんで、素晴らしい娯楽作品に仕上がっています。
そして、セットと衣装の色合いが素晴らしい!
殆どの物語が「相模屋」で行われるんですが、その相模屋をモノトーンで作っているのです。
唯一の色といえば「のれん」だけで、白と黒のセットに入口ののれんの浅葱色が美しいです。
そして、だからこそ、色とりどりの女郎の衣装や、セットとしてかけられた打掛やらが鮮やかに見えます。
色をまとった人々が「鮮やかに生きている」のが浮かび上がってくるんですよ。
そして、それこそが、この作品の最も魅力的で描きたいところなんだな、と演出の小柳先生の熱量が伝わってきます。
さらに、相模屋がモノトーンだからこそ、荒神祭りとか、ラストシーン間際の川のシーンとかが、物語のハイライトとして素晴らしい美しさを放ってくるわけですね。
もう、本当、あの美しさは劇場で見てください!
原作あり宝塚作ミュージカルの一級品です!

と声を大にしていいたいところなのですが、人気主演カップルの退団公演ということで、チケットは完売しております。
残念すぎますが、チケットをお持ちの幸運な方々はぜひともこの素晴らしい作品を多いに楽しんでいただきたいです。

そして、この作品を宝塚で上演することを可能にしたのが、主役早霧せいな(チギ)の存在でしょう。
チギが絶妙すぎます、うますぎます
本当に二枚目役やるとなんてことないのに、こういう役をやらせたら、彼女の天賦の才能が見事に花開くのです。
ちょっとした間の取り方、セリフの言い方、動き方、表情。
そのどれを取っても、ちょっと他では真似できないだろう素晴らしい出来なのです。
何よりあの「場」への居方。
佐平次はいろんな物語をちょろちょろと行きかう役なので、これが一番大事だと思うのですが、チギは普通にそれが出来ているんですよね。
で、ちゃんと自分の物語の見せ場は見せ場として見せる。
本当に素晴らしい。チギの集大成を見ました。

もちろん、相手役の咲妃みゆ(ゆうみ)ちゃんもうまいです。芝居の人だけあります。
サッバサバした性格のおそめを可愛らしく魅力的に演じています。
品川心中のシーンはもうめっちゃくちゃ面白かったし、あそこを面白く見せる演技力は本当に素晴らしい!
難を言うなら、スクリューボール・コメディなので、着物での動き方とかいうのは野暮かなと思うのですが、チギがバッと羽織をはおるところが素晴らしく美しく格好良い「型」だっただけに、ゆうみちゃんも走り回るときの打掛の動き方とかをもうちょっと魅せられると良かったかな、とは思いました。
あと、ソロ曲ね。ゆうみちゃんのソロ曲がザッツ・ジャズなんですよ。
この辺も小柳先生のセンスが素晴らしいんですけど、宝塚娘役さんがジャズを歌うとこうなるよね、な感じで、ジャズのリズムに乗り切れていない。
これはある程度仕方ないけれど、雪組にはこういう曲を得意とする舞咲りんさんとかお姉さま上級生がいらっしゃるので、最後の日までぜひとも進化してもらいたいなと思います。
(チギはいいんです、もう。歌だけが全てじゃない。そして、そう思わせる領域にいたったからこそトップになれたんです笑)

あと印象に残ったのは彩風咲奈です。ファンだから当たり前です(笑)
でも、この徳三郎という役がいわゆる「あほボン」で、すんごい私好みなんです。
いいですか、好みのタイプの役柄を好みの見た目の人がやるんですよ!そりゃあテンションあがります。
そして、これが宝塚歌劇の楽しみ方の1つです←胸張っていうことではない
でも、徳三郎も宝塚の2枚目からは離れている役で、こういう役をさらっと爽やかに演じたのは多分きっとポイントかと。
ゆうみちゃんに比べたら点数甘すぎてすみません

そうそう、望海風斗(だいもん)の高杉晋作なんですけれど、こういう格好良い役をちゃんと格好良く演じられるというのもスキルの1つで、これはチギには欠けていたところなので、本当にバランス良いんですよね。
そして、全てを補って余りある歌声!
だから、だいもん、ほんの数小節くらいの歌前のお三味線だけ、もうちょっと練習してください。
あまりに下手すぎて、泣けましたその後の歌が上手いだけに

もちろん、他の登場人物たちも要所要所を抑えて、コメディだけどやりすぎることはなく、きちんと上質さを保っているところがさすが雪組です。

そして、ショーもよかったんですよ、これが!
中村一徳先生(通称中村B)作なので、いつもと同じ、中村B先生が作り上げたテンプレートに当てはめただけのショーなんですけどね。
でも中村B先生のいいところは振付家を殆ど外部から呼んでくるところで、だから、ダンスシーンがすごく面白いんですよ。
初舞台生のラインダンスも、なんか面白いし、なかなか魅せるじゃないかと思っていたら、KAZUMI-BOYさんの振付。
ラインダンスも振付次第でこんな面白くなるんだ!というか、ラインダンスは宝塚の代名詞なのだから、毎回このくらい頑張ってほしいです。
特にブライアント・ボルドウィンさんが振り付けたシーンはセットなし、ダンスだけで魅せる、というすっごく迫力ある魅力的なシーンに仕上がっています。
ストーリーとかなしで、ダンスだけで魅せることがダンスシーンの真骨頂だと私は思っているので、それが見れただけでもショーの満足感はあがります。
しかも、今回、主演カップルの退団公演というのに、最後のデュエットダンス以外はしっとりした曲なし。
これもすごいです。ひたすらにリズムでテンションあげられる楽しい出来のショーになっています。
(因みに客席降りはありません。1階席だと残念だけど、全体を考えるとその方がいいです。今回は1階席取りたくても取れない人がたくさんいただろうから、そこで楽しさに「差」がない方がみんな楽しめていいと思います)
返す返すも、チケット完売が恨めしい。
そして、宝塚が遠いのが恨めしい。
東京で働いていたころ、私、最後神田勤めだったので、昼休みに当日券を買うという裏技駆使して良く立ち見で見ていたんですよ。
それをしたいーー、と思える、本当に満足感の高い二本立てでした。