こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

恐ろしいほど美しくて醜い舞台@危険な関係

11/11(土)18:00〜 森ノ宮ピロティホール
演出:リチャード・トワイマン
美術・衣裳:ジョン・ボウサー

ヴァルモン子爵 玉木宏
メルトゥイユ侯爵夫人 鈴木京香
トゥルヴェル法院長夫人 野々すみ花
ダンスニー騎士 千葉雄大
セシル・ヴォランジュ 青山美郷
アゾラン 佐藤永典
ヴォランジュ夫人 高橋惠子
ロザモンド夫人 新橋耐子

森ノ宮ピロティホール恒例のポスター垂れ幕を撮影しようとしてもすごい人でした。

なんと立ち見まで出ているとのこと。
テレビで人気の俳優さんてすごいですね。

さて危険な関係ですが、私の前知識は宝塚の「仮面のロマネスク」の原作ということだけでした。
花組全国ツアー公演 ミュージカル『仮面のロマネスク』―ラクロ作「危険な関係」より―/グランド・レビュー『Melodia―熱く美しき旋律―』 [DVD]
宝塚歌劇団,明日海りお,花乃まりあ,芹香斗亜,高翔みず希
宝塚クリエイティブアーツ

この作品は3度宝塚歌劇で上演されていて、野々すみ花さんはメルトゥイユを演じられたことがあるのも面白いですよね。
『仮面のロマネスク』『Apasionado! ! II』 [DVD]
宝塚歌劇団
宝塚クリエイティブアーツ

でも残念ながら私が見ているのはこの
宝塚歌劇 雪組公演―仮面のロマネスク/ゴールデン・デイズ [VHS]
高嶺 ふぶき,花總 まり,轟悠,和央 ようか,星奈 優里,安蘭 けい
宝塚クリエイティブアーツ
初演のみ、になります。
「仮面のロマネスク」は宝塚歌劇なので、原作とはずいぶん違う、ということは知っていましたが、原作を読んだことがなかったので、本当はどんな話しなんだろうとワクワクと赴きました。東京での評判も高かったですしね。

そして、その評判通り、素晴らしい舞台でした!
まず何がって間違いなく演出とセット、衣装ですよね!
一部のヴァルモンが獲物を狙っておとしていくスリリングさ。二部の観客に期待させながら、あれそうだったの、すまんすまん、頭の中がエロスになってたよ、な幕開き。そして、なんと言ってもラストシーンがすごい。限りなくシンプルな手法なのに、思わず「うわあ」と驚きで声をあげてしまいました。

また引き算の美学を見せつけたセットが、演出を引き立てます。
1番奥に描かれた1枚の紅葉する木々。
その絵の前に二重で立つ間仕切り引き戸。
この引き戸が透明になったり、不透明になったりすることで、場面が次々と変わっていくのです。
インテリアはネオ・ジャパネスクとでもいうのでしょうか。日本の美をシンプルに際立たせていたのです。
そして、衣装がさらに美しい!
1番高齢のロザモンド夫人には首も袖も丈もあって身体全体を覆い、シックながらも上品な色合い&生地のドレス。
中年のヴォランジュ夫人とメルトゥイユには、長袖、膝より少し長い丈で首元は開けて、光沢のある生地で派手な柄のドレス。ウエストのあたりは帯をイメージさせるデザインで、特にメルトゥイユは胸元も大きく開けて、豪華に着飾っている感じが伝わります。
一方の22歳トゥルヴェルは肌色に近い色の、シンプルなふんわりしたデザインのマキシ丈のドレス。でも腕はすらりと出していて、トゥルヴェルの若さを引き立てます。
1番若いセシルは、若いので豪華な衣装なんていらないのです。衣装だけで、女性に押しつけられたなんらかの価値みたいなものを見ました。
さらに当たり前だけれども、照明も計算されつくした光度で陰影を作り上げていて、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのクオリティにはもう唸るばかりです。
日本的なセット、現代風の美しい衣装が、日本人が外国劇を演じる違和感をそぎ落としてしまったのです。すごい。

さて「危険な関係」とはこんなお話です。
その美貌と賢しさでパリ社交界で恋愛ゲームを楽しむメルトゥイユ侯爵夫人とヴァルモン子爵。二人はかつて恋人だった時期もあるけれど、現在は誰よりもお互いを知っている友人同士。
ある日メルトゥイユ侯爵夫人は二人の共通の「敵」に仕返しをしたいとヴァルモン子爵を呼び出します。メルトゥイユの申し出に、今はトゥルヴェルという狙っている獲物があるから無理だと断るヴァルモン。
けれどメルトゥイユに論破され、トゥルヴェルに恋の罠を仕掛けながらも、彼女の依頼どおりセシルを口説くことにするヴァルモン。
そのセシルに思いを寄せるダンスニー。
トゥルヴェルとセシル、ダンスニーは、メルトゥイユとヴァルモンが張りめぐらす蜘蛛の糸に絡みとられていく・・・


宝塚歌劇の「仮面のロマネスク」初演を見たときは、私もトゥルヴェルくらいの年齢で、ひたすらヴァルモンの色気と美貌に酔い、ヴァルモンに迫られるトゥルヴェルになりたい、なんてドキドキしていたのですが、今回の玉木宏さんファンの方々も同じ気持ちだったんじゃないでしょうか。
舞台はあまりやられていない印象だったので、少し心配だった部分もあったのですが、声も通り、滑舌も悪くなく、動き方も見苦しい点は一切なく、テレビの姿まんまのイケメンで、納得のヴァルモンでした。

野々すみ花さんのメルトゥイユは残念ながら見られていないのですが、この作品にトゥルヴェルで出演されることが決まったとき、絶対トゥルヴェルの方が似合う!と思ったのですが、想像以上でした。
宝塚で拝見したことは実は一回しかなくて、その時はなぜ彼女が「宝塚の北島マヤ」と呼ばれ、「野々すみ花が泣けば観客が泣く」とまで言われるのかピンと来ていなかったのですが、卒業されてからの舞台で、じわじわそれを実感し、このトゥルヴェルで痛感しました。
法院長夫人という立場。「貞淑」という正しい観念を守る自分に酔い、本当の自分を晒していくヴァルモンに怯える女。
ヴァルモンといるときの天性の無邪気さには狂気さえもにじませ、だからこそあの最後がすとんと受け止められました。
元々からダンスが上手い方なので、動きの1つ1つも美しく儚気だったのが素晴らしいです。

そういう意味では、ヴァルモンもメルトゥイユを演じられた鈴木京香さんも、美しい動きというレベルに達していなかったのは残念ではあるのですが、でも気にならないレベルの舞台スキルを備えられていて、さらに、鈴木京香さんが美しい中年女性であるということが、私に「仮面のロマネスク」ではわからなかったメルトゥイユという人を見せてくれたのです。

今回の舞台でメルトゥイユは一度も楽しそうな顔をしません。
作り笑顔以外は終始不満げで怒っているようにすら見えます。
一部はなんでこんなにふてぶてしいのだろうと思っていたのですが、二部でメルトゥイユの価値観が語られてようやく、メルトゥイユという「女」が見えた気がしたのです。
若いころは本当に際立つような美貌だったのだろうなと感じさせる色気と年相応の美しさ。
この美しさが若いころのメルトゥイユにとって、幸せだったのか不幸だったのか、ということさえも考えてしまいました。
美しさゆえに踏みつけられた何か、賢しさゆえに抑制された何か。
それが未亡人となり自由になったとき、今目の前に立っているメルトゥイユという人を作り上げてしまったのではないか、と思ったのです。
メルトゥイユは「男に命令されたくない」というようなセリフを放つのですが、この一言がとても心に残りました。
常に彼女を支配し、抑圧した「男」と「社会」。その両方に彼女は復讐しているのではないか。
セシルの「若さ」と「奔放さ」。トゥルヴェルが疑いなく陶酔すらしているような「貞淑さ」。
そういうものにも、メルトゥイユは憎しみを抱いているのではないだろうか。
そうさせた過去が彼女にあったような錯覚に捉われました。
そういう憎しみを鈴木京香さんが放たれていた気がしたのです。
だから、最後、光を失い、これから闇を生きていくだろう彼女の姿は演出も伴い、ただただショックでした。

ということで、どこへたどり着くかというと、
原作、読もうかな?
危険な関係 (角川文庫)
Pierre‐Ambroise‐Francois Choderlos de Laclos,竹村 猛
角川書店

ということです
原作は往復書簡で読みづらいと聞いていまして、迷っていたら、お友達からこちらをおすすめしてもらいました。
子爵ヴァルモン〜危険な関係〜 1 (フラワーコミックスα)
さいとう ちほ
小学館
子爵ヴァルモン〜危険な関係〜 2 (フラワーコミックスα)
さいとう ちほ
小学館

とりあえず、漫画から試してみようかなと思います。
それでも納得できなかったら、原作、がんばろうかな?

ところで、玉木宏さんの半裸がたいそう話題になっていた公演でもあったのですが、大変お美しい肉体でございました。
「男」という存在の象徴して必要な肉体だったと思います。
だからちょっと大貫勇輔くんのヴァルモンも見てみたいなあと思いました。
大貫勇輔くんは決して美貌の人ではないけれど、バレエダンサーなのでものすごく美しい肉体をお持ちなんですよ。
そしてなぜか色気があるんですよ。さらに当たり前だけど、動きの1つ1つが美しく流れるようでいて、エロスを感じさせるんですよ。
チケットもいいか悪いか取りやすくなるだろうし、ぜひとも大貫勇輔ヴァルモンで再演をお願いしたいです。
もう一度、あの「世界観」を見たいのです。それほど素晴らしい舞台でした。