こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

アラフィフ負け犬がビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

言葉による調べを楽しむ@デヴィッド・ルヴォー「黒蜥蜴」

2/3(土) 17:00〜 梅田芸術劇場

中谷美紀<緑川夫人(黒蜥蜴)役>
井上芳雄明智小五郎役>
相楽 樹<岩瀬早苗役>
朝海ひかる<家政婦ひな役>
たかお鷹<岩瀬庄兵衛役>
成河<雨宮潤一役>

戯曲 三島由紀夫
演出 デヴィッド・ルヴォー

中谷美紀という女優について、私は「とても美しい」という印象しかありませんでした。
もちろんテレビでは何度も見たことがあって、その中でもこのドラマ
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の時の役・野風は、彼女の美しさ、そして格好良さに痺れたりもしました。今でもこのときの「遊女の涙は嘘の華。色恋に誠の涙など流しては、花魁の名が捨たすたりんす」というセリフを忘れることができません。

思えばそのくらいセリフに魅せられていたということは、彼女のセリフ回しが素晴らしかったということなんだと思います。

初めて舞台で見た彼女は、見た目の美しさよりもその声の良さ、言葉を奏でるかのようなセリフ回しに魅せられてしまったのです。

この「黒蜥蜴」は江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が戯曲にしたものをデヴィッド・ルヴォーが演出しています。
私は原作を読んだことがなく、テレビドラマ化されたのを二度ほど見た記憶だけでした。
今、原作を半分くらい読んだのですが、原作はテレビドラマとそれほど印象が変わらない探偵小説です。まあ江戸川乱歩なのでエロティシズムとフェチズムはあるのですが。
それを恐らく三島由紀夫が、膨大な言葉で飾り立てたのではないかと思います。
だって、上演時間これですよ。


開演前にこれ見て、ながっ!と声をあげてしまったくらいです
そしてやっぱり物語がなかなか進まない一部は「長い」と感じました。
けれども、三島由紀夫が作り上げた言葉が中谷美紀のあの声で発せられると、なんというか洗練された音楽を聴いているかのようだったのです。
ああこのセリフたちは、意味はあるけれどもそれ以上に美しいメロディーなのだと感じたのは、英語で、それこそ江戸川乱歩ペンネームの元ネタになったエドガー・アラン・ポーの「アナベル・リィ」という詩を聴いたとき以来でした。
"Annabel Lee" - Edgar Allan Poe (Poem Version)

結局のところ、詩というのは語られるものであり、その語られる音やリズムが大事であって、訳されたものを読んでも何の意味もないのだなあと「アナベル・リィ」を聴いたときに思ったものです。

そういう思うと、この三島由紀夫の日本語で書かれた「語られる言葉」を日本語で聴ける感動を存分に味わえる舞台でした。
演出のルヴォー氏は英国人。
日本が好きで、日本でも何度もその演出の手腕を発していますが、日本語に堪能ではないので(過去に別のルヴォー演出の公演を見たときに、ルヴォー氏のアフタートークがあったのですが、その時は英語でお話しされていました)、この三島由紀夫の言葉たちを取り扱ったというだけでも凄いことだと思います。
でも逆に、日本語ネイティブでない人だからこそ、三島由紀夫のセリフの音の美しさを切り取ることができたのかもしれません。
私が意味はわからなくとも「アナベル・リィ」の音を、リズムを美しいと思ったように。
そして、それを奏でる最高の奏者、それが中谷美紀だった気がするのです。

探偵小説なので、筋は単純です。
宝石商・岩瀬庄兵衛の元に、娘・早苗を誘拐するという脅迫状が届き、私立探偵・明智小五郎は早苗のガードを依頼され引き受けています。
その脅迫状を送った「黒蜥蜴」は緑川夫人として岩瀬親子に近づき、早苗を誘拐しようと試みるのですが、明智小五郎が彼女の前に立ちはだかります。
黒蜥蜴と明智小五郎の対決の結末は・・・。

大筋だけ書いてしまうと本当にこのくらいのものなんですよね。
そこに雨宮潤一や家政婦なんかが絡まって、さらに三島由紀夫の世界観と華麗なセリフを散りばめた結果、長くなったわけですね。
実際一部で席を立ってしまった方もいたので、その辺の演出は工夫すべきだったかもしれません。

とは言え、ルヴォー氏のマイナスの美学をつきつめた色合いのないシンプルなセットの中で繰り広げられる、黒蜥蜴と明智小五郎の「恋」、そして雨宮潤一の「片思い」が禍々しくもつれあい、二部にいたってはその世界観、緊張感に私は息をするのも忘れていた気がします。
や、実際は雨宮潤一を演じた成河くんの演技も素晴らしくて、その滑稽さに笑ったりもしたのですが、なんというか舞台から発せられる「人間の感情」というものに魅せられていたのだと思います。

中谷美紀の圧倒的な「黒蜥蜴」の相手として、違和感なく立ち向かえたという点で井上芳雄くんはすごいなと思いました。舞台の真ん中でヒーローでいられるというのは、やはりそれは1つの才能でスキルです。
ただ半透明のつい立の向こうでの演技が見ていて気恥ずかしくなってしまったので、その辺は演出も合わせて改良の余地はあるかなと思いました。
あとはじめて拝見したのですが、早苗役の相良樹さんがものすごく可愛い存在として舞台にいらして、黒蜥蜴が彼女に執着する理由に納得してしまえたのが素晴らしかったです!

今回、公演のあとに井上芳雄くんと成河くんのアフタートークショーがあったのですが、その時にぜひ再演を!という声がありました。
たぶんこの芝居は見れば見るだけ何かを感じる気がするので、ぜひ再演をお願いしたいです。
でその際にはやはりもう少し小さめの劇場で長期間かけてくださるとうれしいなと思います。

それまでに三島由紀夫の戯曲を読みたいんですけれど、再版とかお願いできないですかねえ(涙)
古本が高すぎて手が出ません(涙)
こういう芝居がかかるときは戯曲もホワイエで販売されるといいなと思ってしまいました。