こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

目覚めがかさなる@東宝1789-バスティーユの恋人たち

6月23日(土)12:00〜 新歌舞伎座

ロナン 小池徹平
オランプ 夢咲ねね
マリー・アントワネット 龍真咲
ロベスピエール 三浦涼介
ダントン 上原理生
デムーラン 渡辺大
ソレーヌ ソニン
アルトワ 吉野圭吾
ラマール 坂元健児
フェルゼン 広瀬友祐
ペイロール 岡幸二郎

時は1766年7月25日。
フランスの農村で百姓として暮らしていたロナンの父親が、納税していないと貴族将校のペイロールに責められ殺されるところから物語ははじまります。
父親を殺され、仇を討つとパリへ飛び出すロナンを追っかけ、妹のソレーヌもパリへ。
そこで革命派のダントン、デムーラン、ロベスピエールと出会い、ロナンとソレーヌは革命に目覚めていきます。
一方フランス王妃マリー・アントワネットはそんな庶民の貧困に気づくことなく贅沢三昧な日々を送っています。ただ王太子が病弱なことは気がかりで、その養育係として雇われたのがオランプです。
ひょんなことで出会ったオランプとロナン。身分も立場も違う2人ですが、だんだんと惹かれあいます。
しかしながらパリは貧窮していき、庶民の怒りは貴族や国王一家に向かい、革命へと進んでいきます。


ということで、宝塚版「1789」と東宝初演版の感想を下記に置いておきます。

 

stok0101.hatenablog.com

宝塚版は全然違うセットだったのですが、東宝版は違うながらももともとのフレンチ・ミュージカルっぽいセットと振り付けになっていて、今回改めて見ると、やはりステキでした。
ソレーヌ役のソニンさんがインスタにセットを載せてらしたのがこちら。

これによじ登る感じの振付が本当に格好よかったですね。
あ、フランス版も映像化されていますので、興味のある方はぜひ。
ラストのアントワネットソングはやはりフランス版の演出が私は好きです。

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東宝版初演で見られなかったキャストで見たかったのですが、小池徹平ロナン・神田沙也加オランプ・龍真咲アントワネットの土日のチケットだけソールドアウトで、泣く泣くオランプを妥協した結果になりましたが、龍真咲アントワネットを妥協しなくて本当に良かったです。

というのも龍真咲アントワネットが凰稀かなめアントワネットと全然違う役作りだったのです。
見たことなくて恐縮なのですが、まるでソフィア・コッポラのこの映画

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ソフィア・コッポラ
東北新社

のようなアントワネット!
しかもこの前にソニンのソレーヌがもう悲しみと怒りがヒタヒタヒタと沁みわたる素晴らしい歌を披露するんですね。
そこから一転しての軽薄な華やかさの対比が素晴らしい!いや、凰稀かなめアントワネットも美しく華やかだったのですがどこか淋しさがあって、それはそれで魅力的でした。
でも龍真咲アントワネットはいい感じに軽薄さがあって、それが音楽の軽やかさとあっているんですよ。いかにもパリピな雰囲気が当時の堕落した貴族社会を見せてくれるんですね。

そうなんですよね、アントワネットって特別に悪い王妃だったわけじゃなくて、元々からオーストリアの王女で特権階級の普通の女性だったんですよね。
しかもローティーンでフランスにたった1人で嫁いできたからこそ、フランスの貴族社会に簡単に染まって、結婚と恋愛は別という感覚だってあったでしょう。自分の役目や立場なんてことを考えることもなかったし、フランスの大地が豊かに実って、食料不足なんて自体が起こらなければ、そのまま享楽の世界に身を浸していても問題なかったはずなんですよ。
ただ運が悪かった。干ばつがあって市民は飢え、税金を納めることができなくなって、国庫も枯渇した。
しかしそこから、王太子の死を経て、自分の身に降りかかる不幸は何なのか、何が問題なのか、そしてこれから自分がどうしていくかを考えはじめるさまが、ロナンと重なっていくのです。

ロナンは農民として産まれ、干ばつさえなければそのまま農民として生きたはずのただの青年です。でも納税できずに父親を殺され、パリに出てデムーランらやオランプと出会い、何が問題なのか、この中で自分ができることは何なのかを考えはじめるのです。

2人は真逆の方向からではあるけれど、今起こっている問題に気づき、自分というものに気づき、それぞれの立場で何をすべきか考えるにいたるさまがリンクしていることを、宝塚版でも東宝初演でも思い至らなかったのは、私が浅はかでした。
でも龍真咲が宝塚版でロナンを演じていて、ロナンを理解していたことも作用したのではないかと思ったりもしています。

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そのロナンを演じた小池徹平くんがまた良かった!
以前松尾スズキ版キャバレーで見たときは、良くも悪くも印象に残らなかったのですが、こういう現代音楽のミュージカルでは、歌声が音楽に実にあっていて、また声楽出身のミュージカル俳優さんにありがちなリズムのズレもなく、非常に歌詞が聞き取りやすい!
さらに元々デュオユニット出身な部分がミュージカルのデュエットのときに活かされて、ハーモニーも良かったのが素晴らしいですね。

神田沙也加オランプとの方がデュエットが良かったと聞いているので、聴けなかったのがつくづく残念です。

でも夢咲ねねオランプは芯があって、自分を持っていて、キリッと格好良くスラリと美しく、ロナンの身の回りにいなかった女性だからこそ、ロナンが惚れるのが納得でした。

もうソニンのソレーヌについては語る言葉もありません。ただただ素晴らしい。歌も演技も素晴らしい上に、後ろのダンサーに勝るとも劣らないダンス。
ソニンが凄すぎて、革命家3人が踊るとき見劣りしてしまって可哀想なくらいでした。

その革命家3人、デムーラン・ダントン・ロベスピエールなのですが、今回はロベスピエールだけが初演と違う人が演じていました。
歌やダンス、芝居、そもそもの発声はまだまだだったのですが、何にしろ美しい
美しいことは素晴らしいことなので、その美貌をもっと輝かすことができるよう、ちょっとだけスキルアップしてくれたら嬉しいなという感じでした。
そしてこの美貌のロベスピエールを見ながら、この作品を思い出していました。

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途中でロベスピエールとデムーランが学生時代の苦労を語るシーンがあって、それを聞きながら、ロナンが「その時オレたちは飢えていた」というんですね。
それにロベスピエールかデムーランかは忘れたのですが「同情するよ」と返すのです。

そうなんです。ロベスピエールは貧乏学生だったかもしれないけれど、ロナンほどには飢えてなかった。結局、ロナンら庶民のところまでロベスピエールは降りてこられなかった。理解することが出来なかった。
それも最終的に恐慌政治にいたった理由かもしれないなと思いました。
理解できない庶民たちに言うことを聞かせる方法として恐怖しか思いつけなかった気がしてきたのです。

フランス革命ばっかりやってる宝塚歌劇団ですけど、こうやってまた違う見方ができるのは、それなりに面白いなと。

そして今回のキャストも宝塚歌劇団出身の俳優さんが多く出演されていて、これは良し悪しありますが、私ははじめて、アントワネットがオランプを解雇するシーンで、うっかり目から汁がこぼれそうになりました。
というのも目覚めた龍真咲アントワネットが包容力全開で夢咲ねねオランプに、自分に素直に生きなさいと、ロナンの元に行くよう促すんですね。
真面目で一生懸命にアントワネットに仕えていたオランプがそのアントワネットの言葉に心打たれているさまが伝わってきて、思わず涙。
そこには王妃とそれに仕える者という立場以外にも、若いとき一緒に苦労した上級生と下級生という関係性も見えてきて、なんか感動してしまったのですよ。

ということで、神田沙也加オランプが見られなかったのは本当に心から残念なのですが、龍真咲アントワネットと夢咲ねねオランプの組み合わせを見られたのは、それはそれで良かったです。

まあそんなことは置いといても、やはりこの作品は音楽が面白いし、迫力ある素晴らしい舞台です。
博多座の公演の成功を祈っています!