2009年に大浦みずきさんがお亡くなりになって、9年の時が過ぎようとしています。
大浦さんが2002年頃からアルゼンチンタンゴに魅了されていたのは知ってはいたのですが、見に行く機会がなかったので、これに行くのもどうなのかなあと思ったのですが、なんだかふと気が向いて足を運びました。
会場は東梅田にある「ロイヤルホース」というジャズバー。
入口から老舗感ただようお店にドキドキと入店しました。
「アストロリコ」はバントネオン・ヴァイオリン・コントラバス・ピアノからなるアルゼンチンタンゴのバンドグループ。
ヴァイオリン担当の麻場利華さんがかつて宝塚歌劇団オーケストラでヴァイオリンを弾かれていたとのことで、ああそういうつながりだったのかと妙に納得。
今回のタイトル「Tango de Flora~花の女神 タンゴの宴」は大浦みずきさんが「花組のトップスター」でいらっしゃったこと、そしてピアノの平花舞依さんとヴァイオリンの麻場利華さんの名前に「はな」が入っていることからつけられたそうです。
バンドが登場する前から、舞台に大浦さんのステキな写真が飾ってありました。
前述したように私は大浦さんとアストロリコのタンゴライブを見たことがありません。
だから残念ながら演奏された大浦さんとの思い出の曲は、大浦さんのその姿を思い出させることはできませんでした。
けれどはじめて生で聴く「アルゼンチンタンゴの音楽」にすっかり魅了されてしまいました。
バンドワゴンのなんともいえない乾いたようなそれでいて重く語り掛けるような音色。
クラシックとは違うヴァイオリンが叫んでいるような鳴いているような音色。
そこに大浦みずきさんと同期生の磯野千尋(ソルーナ)さんの歌声が入り、歌詞が入ると、あっという間に曲の物語の中に入ってしまいました。
ソルーナさんが最初に歌われたのが「なつめ(大浦みずき)がよく歌っていた歌です」という「鏡の中のつばめ」。
のびやかで切なくも希望のある歌詞でなつめさんが歌われていたのが想像できる曲でした。
曲紹介は全てあったのですが、未知の曲たちだけに全く覚えられなくてすみません。
(とりあえず、この辺りで「写真撮影はOK」ということを麻場利華さんより告げられましたので、下手な写真ですが交えてご紹介していきます)
でも宝塚でもよく使われる「Yo soy Maria」だけはタイトルだけで曲がわかってホッ。
これの訳詞をなんとなつめさんのお姉さまである内藤啓子さんが書かれたということでした。
私が印象的だったのが「善と悪の交わるところ」という言葉。
マリアという女性がきっぱりと際立ちすごくステキな歌詞だなと思って聞き終えたところで、なんと内藤啓子さんが登場。
私はこちらの本しか読んでいなかったのですが、
赤毛のなっちゅん―宝塚を愛し、舞台に生きた妹・大浦みずきに | |
内藤 啓子 | |
中央公論新社 |
こちらの本で「第66回日本エッセイスト・クラブ賞」に輝かれたとのこと。
枕詞はサッちゃん: 照れやな詩人、父・阪田寛夫の人生 | |
内藤 啓子 | |
新潮社 |
はじめは「父親(阪田寛夫さん)の悪口を思いっきり書いてやろう」と筆を取ったのに、書いているうちにだんだん「変な人だったなあ」と興味に変わっていったというお話しがとても楽しかったです。
それから「Yo soy Maria」は「あたしマリア、あたいマリア?でもソルーナが歌うからお前マリア?」と迷ったけれど、アストロリコさんのアドバイスでスペイン語のまま残されたそうです。
ソルーナさんの歌はそれはステキだったのですが、女性っぽさは少なかったので色っぽい女性がこの内藤啓子さんの歌詞で歌うバージョンも聞いてみたいなあと思ったりもしました。
そうそう、「作家だったお父さまのDNAを感じるところは?」という麻場利華さんの質問に、ハイエナみたいなところ、と返されたのがまた印象的でした。阪田寛夫さんも身内の病と死のことを書いて本にしてハイエナのようだなと言われていたけれど、私も妹や父のことを書いて本を出版しているので、とサバサバおっしゃるところが本当にステキでした。
(翌日早速購入して読んだところ、本にも同じことが書かれていました笑)
お姉さまは妹のなつめさんはじめ、お父さま、お母さまを見送り今があるのです。
でもそんな苦労は微塵も感じさせず、著名人という感じもせず、「普通の人」でいらっしゃるところにとても感銘を受けました。
当時でも超有名曲だったのにアストロリコではなぜか演奏したことがなかったけれど、なつめさんが踊るからということで演奏することになったという「リベルタンゴ」など聴きなじみのある曲も登場。
曲名は忘れてしまいましたが、ダンス用のとても激しい曲の後、立て続けにスローで重々しい曲が演奏され、なぜこの順番になったかというと、かつてなつめさんが最初の曲で踊り、次の曲で息も乱さず歌われたというエピソードが紹介されて、ああ宝塚のショーでもそうだったなあと、やっと舞台のなつめさんの姿を思い出しました。
ふたたびソルーナさんが登場して2曲歌ってくださったのですが、そのうちの一つが男役全開の「che tango che」という曲で、もうカッコいい!!
芝居もお上手なだけにもう完全にソルーナさんの世界に引き込まれました。
アストロリコの曲でタイトルが印象的だったおかげで唯一覚えていた「キーチョ」という曲ともう一曲くらいがこの後演奏されて、アンコールの後「ソルーナさん、もう一曲くらい歌いましょうよ」と歌われた曲も男性曲。
もう本当ソルーナさんの男性曲はめちゃくちゃ魅力的でした。
ソルーナさんの男役にすっかり魅せられたところで、ふたたび音楽が鳴り、歌声が聞こえます。
舞台には歌手はいません。
「あ、なつめさんの声だ」と気づくまでそう時間はかかりませんでした。
最初にソルーナさんが「なつめがよく歌っていた歌」という鏡の中のつばめです。
のびやかに広がっていくなつめさんの歌声に合わせて、アストロリコの皆さんが生演奏してくださっていたのです。
泣きました。泣かずにいられませんでした。
そしてなつめさんが踊るアルゼンチンタンゴも見たかったなあと今さらながらかなわぬ夢を見ました。
そういえばなつめさんはいつも私にとって知らない世界を見せてくれる方でした。
宝塚時代は「ブロードウェイの香り」を。「バレエの美しさ」を。
卒業されてからはロンドン生活のいろいろを。そして「オフ・ブロードウェイ」作品の楽しさと美しさを。
そして今もなつめさんは私に「アルゼンチンタンゴの音楽」という新しい世界を見せてくれました。
「アルゼンチンタンゴの音楽」がこんなに芝居そのもののようなものだとは知りませんでした。
なつめさんの「アルゼンチンタンゴ」への想いはソルーナさんが引き継いでくださるそうです。
11月にはふたたびアストロリコとともに歌われるとのことなので、ぜひ「アルゼンチンタンゴ」という物語を聴きに足を運びたいです。