こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

虐げられたものたちの反逆@ナイロン100℃「Don't freak out」

4/1(土)18:00~ @近鉄アート館

スタッフ

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

美術:秋山光洋


出演及び配役
妹(あめ) 松永玲子

姉(くも) 村岡希美
天房征太郎 みのすけ 

天房雅代(奥様)安澤千草 

天房清(お坊ちゃま)新谷真弓 

屋敷を訪れる男/年嵩の警官 廣川三憲 

カブラギ(警官)藤田秀世
天房せん(大奥様)吉増裕士 

てる/身重の女房 小園茉奈 

若い警官/ヤマネ先生/女房を寝取られた男 大石将弘
天房颯子(お嬢様)松本まりか 

ソネ 尾上寛之 

天房茂次郎 岩谷健司 

カガミ/クグツ 入江雅人

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近鉄アート館の舞台を見た瞬間、思ったのは「狭い!」でした。
HEPホールと同じ感じという記憶があったし、実際、劇場や客席の感じはHEPホールとほぼ同じなのですが、舞台だけが小さく思えたのです。

 

舞台上には昭和初期くらいかなと思われる古びた狭い部屋があって、どこまでがセットでどこまでがプロジェクションマッピングなのか、その境目さえも曖昧で、だからこそこの作品が持つ閉塞感と不思議で怪しげな雰囲気を醸し出していたように思えました。

そこは「くもさん」と「あめさん」という姉妹の女中部屋でした。
冒頭の「あめさん」の過去シーンで、気づいたら部屋の隅から黒い影が侵食して覆いつくしていき、人が飲み込まれたように見えるプロジェクションマッピングが、得に素晴らしかったです。
そしてその女中部屋にある奇妙などこかへ続いている「蓋のついた穴」の世界、女中部屋の外の世界が、そのセットの向こう側にあって、これがより効果的に舞台を狭く見せていた原因だと思うと、本当によく考えられたセットでした。

(そしてリハーサルの時点で舞台が見えにくい席をチェックし、座席の振り替えを行った制作陣のプロ意識にも感動!)

 

物語は精神病院の院長の家で女中として働く「くもさん・あめさん」姉妹を中心に動きます。
そしてセリフの中で、そこは精神病棟以外は何もないような山の中にある、ということが提示されます。
さらに院長一家の在り方が、とても因習的で、舞台の設定をイメージした時代には当たり前だったかもしれないけれど、今から思うと辛いし、痛い。
そんな一家に仕える二人の姉妹の生活は楽しいようには見えないけれど、住めば都のような「慣れ」と「諦め」がほんのりそこにあるのです。

でも人が住んでいるということは、同じ毎日が続くわけではなくて、院長一家からして、変化して現在の形を作っていることが、だんだんと明らかになっていきます。
変化したからある現在の「くもさん」と、悲しい過去を引きずった「あめさん」の姉妹が、ほぼ同じくして「希望」を見出す状況になった途端、それぞれに違う方法で「現実」を突きつけられるのが、残酷だけどリアルで切ない。
けれどもそこからの二人の反逆が、これまた残酷極まりないけれど、そこまでの二人のことを思うと「痛快」に思えたのです。

 

そして「二人」だから強いのかな、と思ったのは、院長夫人の物語も一緒にそこにあったからです。
女中、というのは立場としては弱い、虐げられた存在です。
でも院長夫人も当時としては当たり前だったかもしれないけれど、その婚姻の成り立ちからも尊厳を奪われ、姑と夫に虐げられています。唯一の希望である「息子」も奪われたときの選択は、弱さから派生した混乱から来ているとはいえ、直接的な対象を選べない辺りに結果として、くもさんあめさんの選んだそれより最終形態は同じでも「残酷性」が高まっている気がして、それがとても哀しくも思えたりしました。

 

この「人間の残虐性」と「閉塞感」が「恐怖」を見せていたのかもしれないのですが、わたし個人は、全体的にこのちょっとしたホラー味も含めて、大変面白いエンターテインメント作品に感じました。
珍しく提示されたナゾは全部解き明かされたのもあって、見終わったあとは爽快感さえありました。

 

ほとんど全員が仄暗く湿っていて、心が曇っている中で、てるを演じた小園茉奈さんが一人だけトーンが違って健康的でかわいらしく見えたのも面白い。

(「くも」さん、「あめ」さんと「てる」という名前からも示されていることに今気づきました!)


劇団の30周年公演ということで、ゲストとして登場した松本まりかさん。
今回の役柄も演技もテレビのイメージと大きく変わらなかったのですが、彼女が出てきたとたん、舞台が華やいだ雰囲気になったのがステキでした。
だからこそ、彼女の役は「嗜虐」側だったから、今回の流れでいくとそうなるのはある意味自然ではあるのだけど、それでも彼女の役はそのまま「嗜虐性を持つ人」として支配してくれたら、それはそれで痛快だったろうなとかも思いました。

 

そして改めて「INU-KERA OSAKA VOL.4」、行きたかったなーと思います。
日曜日に観劇してたらそのまま行っただろうな。
我ながら最近の体力のなさというか、土日の一日くらいゆっくりしたい欲に勝てなくて見送ったのですが、配信を見たらますます行きたくなりました!

てか、松本まりかさんが可愛すぎる!2026年本多劇場での「Don't freak out 2」(上演時間は休憩入れて3時間半バージョン)お待ちしています!笑

twitcasting.tv

ところで、タイトルの「Don't freak out」はどんな意味だったのでしょうか。
・パニくるな!
・怖がるな!
・怒りを爆発させるな!
・(頭が)おかしくなるな!
もちろんどれも当てはまる。
そして日本語にしにくい英語タイトルがこれまた興味深いな、と思ったりしました。

 

4月17日〜23日はオンデマンド配信もあるそうです!

気になられた方はぜひ見てみてください。

ナイロン100℃ 48th SESSION 「Don’t freak out」 | PIA LIVE STREAM(ぴあライブストリーム)