こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

一見するとおとぎ話のようでも@大阪松竹座七月大歌舞伎

7/10(日)12:00~ @大阪松竹座

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昼の部
近松門左衛門
一、八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし) 嫗山姥
荻野屋八重桐 孝太郎
白菊 壱太郎
太田十郎 虎之介
沢瀉姫 千之助
腰元お歌 亀鶴
煙草屋源七実は坂田蔵人時行 幸四郎

井上ひさし 作「手鎖心中」より
小幡欣治 脚本・演出
大場正昭 演出
二、浮かれ心中(うかれしんじゅう)
中村勘九郎ちゅう乗り相勤め申し候
栄次郎 勘九郎
おすず/三浦屋帚木 七之助
太助 幸四郎
大工清六 隼人
真間屋東兵衛 松之助
佐野準之助 亀鶴
番頭吾平 扇雀
伊勢屋太右衛門 鴈治郎

歌舞伎を見るのはなんと2年半ぶり、ナウシカ歌舞伎以来になります。

stok0101.hatenablog.com

東京の歌舞伎座ではナウシカ歌舞伎のまた違うバージョンが上演されていて、とても羨ましいなと思いつつも、実際観劇してみたら2作ともとても楽しくて、ぜひ「はじめて歌舞伎」の方も見てほしいなと思いました。

 

仁左衛門さん復帰で話題の夜の部も相当気になったのですが、わたしの歌舞伎鑑賞のお目当ては「七之助の美しい姿を見ること」。

なので過去の写真とかをいろいろ検索し、花魁姿が見られそうな「浮かれ心中」目当てで昼の部にしました。

この「浮かれ心中」は1972年に直木賞を受賞した下記の小説を元に

1997年に十八世中村勘三郎さんが歌舞伎化されたそうです。

(イヤホンガイドでも「原作も面白いのでぜひお読みください」と案内されたので、時間ができたら読んでみようと、とりあえず買いました。読んでから感想追加するかもです。)

 

2年半前のナウシカ歌舞伎は、菊之助さんの怪我期間の観劇で「飛んでるメーヴェ」が見られなかったので、「ちゅう乗り」も大変楽しみにしていました。

 

ということで、本命は「浮かれ心中」だったのですが、一部の「八重桐廓噺も、とてもカッコいい演目でした。

こちらは近松門左衛門作ということで、義太夫狂言での演目。そのためイヤホンガイドの良さを改めて実感しました。

義太夫の歌を邪魔せず聞き取れるようにしてくれる案内、さすがです。

そしてそのイヤホンガイドによると、女形がこんなにしゃべる演目はそれまでなく、近松門左衛門がこの作品で初めて導入して、それ以降、「しゃべり」は女形の見せ場の1つになったとのことでした。

ということで、まず壱太郎さんの白菊ちゃんがカッコいい!

白菊ちゃんは、急に姿をくらました八重桐さんの夫・坂田蔵人時行の妹なんですけど、時行ダメ男が「親の仇を取るために姿をくらました」って言うと、それは白菊ちゃんがやってくれました、と八重桐さんに伝えられるという「え、白菊ちゃん、かわいい顔して何者?」感が最高です。

そして「そんなことも知らなかったなんて情けない」と八重桐さんに嘆かれる時行・幸四郎さんのダメ男っぷりも最高でした。

その後、沢瀉姫をさらおうと暴漢が押し寄せるんですが、それをバッタバタとなぎ倒していく白菊ちゃんがまたカッコいい!「カッコいいけど、ほんと、何者?」と思うのですが、女形が立ち回りしているのは、問答無用にかっこうよくて、見ていてスカッとします。

もちろん、この後の時行が乗り移った設定の孝太郎・八重桐さんの立ち回りもお見事。

2人の格好いい女形と千之助・沢瀉姫のかわいらしさに魅了される作品でした。

なかなかここままで女形ばかりが活躍する演目もないような気がするのですが、どうなのでしょう。

女形を見たいならぜひ!とおすすめしたい一本です。

 

爽快な気分で一幕目が終わって、お目当ての二幕目「浮かれ心中」がこれまた、非常に面白い演目でした。

あらすじは本当になんてことない、というか、自分の戯曲を売るためにお金に物言わせてあの手この手で注目をあびようとするアホボン主人公・栄次郎と、それに手を貸す太助のばかばかしい話しなんです。

そして勘九郎さんのアホボンがいい!

あーこの人、本当にボンボンなんだな、品がよくて憎めなくて可愛くて、だからこんなアホボンに親も育ててしまったんだろうし、今も甘々なんだな、という説得性がすごい。これって結構、演技では難しいと思うんですよね。

このアホボン・栄次郎とお調子者・太助が、次々とバカバカしいイベントを考えて注目を浴びようと右往左往するだけの終始、頭にお花畑が咲いたような楽しいお話しです。

ただそこに花魁・帚木とその恋人・清六が絡んできて、「えっ!」というエンディングを迎えます。

イヤホンガイドによると、原作ではこの「えっ!」のエンディングまでが描かれているらしいのですが、このエンディングがサスペンス要素とリアルなザラっと感があって、その辺りがさすが井上ひさしだなと思わせました。

だから原作どおりのシーンで終わっても、強烈なインパクトを残したでしょう。そして、いい意味での何か演目からのショックを引きずって劇場を後にしたと思います。

しかしながら勘三郎さんは、これをここでは終わらせなかった。

ショックを引きずって劇場を後にするのは、この歌舞伎という演目の中では勘三郎さんにとって違ったのかもしれません。

ということで、この後に「ちゅう乗り」があります。

この「ちゅう乗り」の設定のぶっ飛び方がすごくて、「なんかよく分からないけど、おとぎ話の中にいるんだ。これは夢だ・・・」と思わせるんですよ。

ましてや音楽がまさかの歌付き「It's a small world」ですよ、「チュウ」に乗って。

よく分からないけど、幸せだなあ、夢みたいだなあ、と思わせる力技にまいりました。

そんなわけで、物事の辻褄を考える方にはこのラストシーンはあわないかもしれません。

でも、七之助の花魁道中はやっぱり華やかで美しくてうっとりだったし(二役の演じ分けもお見事)、エンディングまでは理屈なしに楽しいし、ラストシーンでは「ちゅう乗り」も見られるし、歌舞伎の楽しさを詰め込んだみたいな演目なので、これも「はじめて歌舞伎」におすすめしたいなと思える一本でした。

その上で、あのエンディングのザラっと感のことを、ついつい考えてしまうという、個人的には大変に興味深い演目だなあと思います。

なので今後もぜひ上演してくださると嬉しいです。

エンディングを知った上での2回目が、素直に見てみたいので、ぜひ!

あ、あと舞台写真も売ってください。ナウシカ歌舞伎はその辺も充実しててよかったので。

当たり前だけど松竹座では玉三郎さんのお写真しか売ってないのが残念でした。

【7/23追記】

と書いてたら舞台写真販売はじまりました!

嬉しい!

じっくり選んで買います!

2022年7月大阪松竹座 七月大歌舞伎ブロマイド/『浮かれ心中』/061: 歌舞伎ブロマイド松竹歌舞伎屋本舗 歌舞伎関連グッズの公式通販サイト