こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

ルドルフ

5月17日(土)17:30~ 帝国劇場
音楽 ◆ フランク・ワイルドホーン
演出 ◆ 宮本 亜門
ルドルフ 井上芳雄
マリー・ヴェッツェラ 笹本玲奈
ステファニー 知念里奈
ラリッシュ 香寿たつき
フランツ・ヨーゼフ 壤 晴彦
ヨハン・ファイファー 浦井健治
ターフェ 岡 幸二郎

例えば、終わったあと、どうにも気持ちが高ぶって拍手が止められない、というような作品ではなかったと思う。
いや実際、キャスト、特に主役の二人の歌唱力、演技力には感動したし、流れるような群舞の振り付けや、絵画をベースにしたセットデザイン、色のトーンを抑えた衣装の数々も、もちろんワイルドホーンの音楽も素晴らしかった。何が足りない、というのはないし、満足していないわけでもない。
ただ、例えば、「エリザベート」を見たことがなく、映画や宝塚の「うたかたの恋」も知らなくて、ハプスブルグ、ヴィッテルスバッハについての知識を全く持っていない観客が見たらどうだろうか、ということを考えると、かなり難しいのではないかと思う。

物語は、はっきり言って、悩める青年ルドルフと恋に恋する少女マリー・ヴェッツェラの恋愛メロドラマ、である。美しい少女が王子様に見初められ、でも周囲に認められなくて、心中という実に宝塚に良く向いた作品で、どこかしらハーレクイン的な香りもする。宝塚版「うたかたの恋」は実にその「恋愛」の部分を上手くロマンティックに描くため、妻の存在をほぼ無視した状態であるから、より「あくまで時代にもまれた二人の悲恋」という構図が浮き立つので、その世界に酔いやすい。

けれども、この「ルドルフ」はタイトルロールでもあるように、「ルドルフの苦悩」をもう一つ物語の重点として持ってきているのである。「ルドルフの苦悩」を描く限り、この時代の世界情勢、舞台の中ではほぼ描かれない母と彼の関係、彼自身の生い立ち、ヨハン・サルヴァトール公の存在と自由主義、民主主義への傾倒の過程、そういうものを抜きで、彼の苦悩に共感するには、正直厳しいのではないかと思った。

ただ、私個人は、非常に興味深い作品で、ルドルフの悩みにも共感し、一方で、周囲の大人(ラリッシュ、ターフェ、フランツ・ヨーゼフ)のルドルフに対する忠告や意見にも頷けて、だからこそ、死へひた走ることは分かっているのに、なんとかならないだろうかとドキドキしながら、すっかり物語へのめりこんでしまった。終わったあとは、喝采するというよりもしばし呆然してしまったほどであった。

マリーとルドルフの恋は、事実とは若干離れたメロドラマ的に作られた部分があるだけに、ルドルフの苦悩をリアルに描けば描くほど、マリーとの恋がどうにも無理矢理埋め込んだピースのようないびつさを感じてしまったのだけど、cancamモデルに憧れる(ファッションと恋愛が何より大事な指針)ような今時の女の子的にマリーを描いた点は実に面白く、実際にマリーという女の子はこういう人だったんだろうな、と納得できた。但し、そのマリーの人物像の作り方が、悲恋というドラマに酔えない要因の一つでもあったと思うので、史実とメロドラマとどちらをとるか、中途半端だったのがこの作品の難点ではないだろうか。ただ、そういう女の子を笹本玲奈が実によく演じていた。彼女の若さと実力なくしては、この役は成り立たないだろう。
もちろん、井上芳雄のルドルフは、これを代表作としていい仕上がりだった。「エリザベート」でルドルフを演じた経験がきっとこの役への理解を他の人以上に深めていることだろう。ルドルフの苦悩が、若さが迸り、繊細で頑なな青年像を上手く表現し、心を打った。
周りを固めるキャストはさすがの実力派ばかりだったし、その中で知念里奈がベテラン勢に囲まれながらも健闘していた。

ところで、小池修一郎蜷川幸雄などいわゆる有名演出家の大劇場での作品を見ると、セットに不満があることが少ない。もちろん今回の宮本亜門演出でのセットも好き嫌いはあるかもしれないが、個人的には素晴らしかった。一方で同じ松井るみさんというセットデザイナーでも、他の演出家のときは、このセットなんかいまいちかも、と思うときが多い。単に好みの問題かもしれないけれども、少し気になった。

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