こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

アラフォー負け犬がビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

過去への旅も慣れと刷新が大事@宝塚雪組「ヴェネチアの紋章」「ル・ポァゾン愛の媚薬 -Again-」

6/12(土)16:30 愛知県芸術劇場大ホール

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ヴェネチアの紋章
原作/塩野 七生『小説イタリア・ルネサンス1 ヴェネツィア』(新潮文庫刊)
脚本/柴田 侑宏
演出/謝 珠栄

キャスト
アルヴィーゼ・グリッティ 彩風 咲奈
リヴィア 朝月 希和
プリウリ 奏乃 はると
メリーナ/青い影 沙月 愛奈
元首 アンドレア・グリッティ 真那 春人
ロクサーナ 杏野 このみ
イブラヒム 橘 幸
ゼン 叶 ゆうり
マルコ・ダンドロ 綾 凰華
ヴィットリオ 諏訪 さき
レミーネ 希良々 うみ
ジョヴァンニ 眞ノ宮 るい
スルタン 汐聖 風美
エンリコ 彩海 せら
カシム 一禾 あお
オリンピア 夢白 あや
ヴェロニカ 莉奈 くるみ


ル・ポァゾン 愛の媚薬 -Again-
作・演出/岡田 敬二 

 

昨年、上演された彩風咲奈主演「炎のボレロ」も同じ柴田作品で、恐らくどちらも柴田作品の中では「名作」と呼ばれるものではなかった種類の作品になると思います。
昨年の「炎のボレロ」は初演に間に合っておらず、映像だけ見てずっと憧れていた作品だったので、どうかしても見たい!と思ったのですが、この「ヴェネチアの紋章」は、もし初演主演の大浦みずきさんが今も生きていらしたら、見に行ったかどうかは微妙かな、という程度には、そんなに好んではいない作品だったのです。
ただ現実には大浦みずきさんは亡くなられ、わたしは今でもその面影をどこかにもとめているのかもしれません。

原作はこちら。

 宝塚歌劇版の「ヴェネチアの紋章」はこんなお話しです。
ヴェネチアきっての名門貴族・ダンドロ家のマルコが30歳で元老院に入り政治家になったばかりの頃、前職(警察署長的な職務)で関わりのあった刑事が「聖マルコ広場」で殺されたことを気にかけて、近くを歩いていると男に呼び止められる。
彼はヴェネチア共和国元首の息子アルヴィーゼ・グリッティ。マルコの大学時代の同級生で親友だった男だった。
アルヴィーセは姪の結婚式に参加するため、コンスタンティノープルからヴェネチアに戻ってきたという。
元首の息子といえど妾腹であるアルヴィーゼは当時のヴェネチアの法律で貴族の称号は与えられず、一市井の人であった。
しかしながら才と野心を持っていたアルヴィーセはコンスタンティノープルで商人として財をなし、トルコ国王の信任も得ていた。
姪・ラウドミアの結婚式で名門貴族出身で権力も持つ貴族プリウリ家に嫁いだリヴィアを「モレッカ」というダンスに誘うアルヴィーゼ。
2人は昔からの恋仲だったが身分違いで結ばれず、しかし今もその愛を育んでいたのだった。
リヴィアを妻に迎えるにふさわしい身分を得ようと奔走し政治の裏側で暗躍するアルヴィーゼ。そしてとうとうその夢がかなう一歩手前まできて、リヴィアをコンスタンティノープルへ呼び寄せるが・・・。

惚れた女性のために一生をかける、という点ではちょうど30年前、この作品の次に上演された「華麗なるギャツビー」もテーマとしては同じなのです。
しかしギャツビーの「ロマン」は理解できても、アルヴィーゼの「ロマン」が理解できないのは、相手であるリヴィアがアルヴィーゼの身分など気にしていないからなのです。
私生児でさえなければ与えられていたかもしれないアルヴィーゼが「紋章」と呼ぶものを、愛する女性がいらないと言っているのにどうしてもそれがなくてはならない、というアルヴィーゼの執着が、分からないでもないけれど、見ていると「何をそんなにこだわってるんだ」と昔から思えて仕方なかったのです。
だから「元首の私生児としての辛い過去」をどこか一曲でいいから歌に混ぜて表現する部分があればもうちょっとアルヴィーゼに気持ちを乗せられるのになあと思います。

そして今回再演するにあたって、音楽・演出・振付けは全て変更し、脚本も少し触ってあるのならば、まず足すべきは「アルヴィーゼの私生児としての人生の痛み」、そして「リヴィアとの若き日の恋と別れ」であって、原作にあって初演になかった2人の恋の忘れ形見ではないと思うのです。
(そう思うと「華麗なるギャツビー」のすごいところは、この2つをちゃんとプレイバックと主題歌で表現していることですね。しかもそのプレイバックから現在に戻るところのシーンが本当に格好いい演出だったんだよなあ)
そして2人の恋の忘れ形見の件はカットした柴田先生の選択の方が正しいと思います。リヴィアが自分のことだけを優先する人間に見えてしまう可能性を生み出したのはマイナスだったと思いました。

ただ音楽・演出の変更は昔の作品の再演には有効だとは感じました。
というのも「炎のボレロ」の時には、わたしでさえ「スローだな」と感じましたし、実際新しいファンの方の「昔の作品って感じで面白くなかった」というような感想も多数見かけました。
しかし今回は全体にスピーディーで、ちょっと当時の世界情勢が分かりにくいけれど、退屈する、ということはあまりなかったのではないでしょうか。
ただスピード感は大事だとはいえ、そこは緩急というものがあって、とりわけ「モレッカ」本番の大幅振付け変更と、「モレッカ」リプライズが歌に変更になっていたことが衝撃でした。
今回の「モレッカ」はペアダンスではなく、フォーメーションの群舞のようになっていたのです。
子どもの頃「モレッカ」を踊るアルヴィーゼとリヴィアからものすごい緊迫した空気を感じ、「この2人の間には誰も入れないのだ」と感じたのですが、それが今回はなかった。ただ2人が楽しそうに相手と、そしてみんなと踊っていて、それはこの物語のテーマからずれてしまっているような気がしました。だって高貴なリヴィアに相応しい身分と場所で一緒に「モレッカ」を踊ることがアルヴィーゼの究極の夢で、それを主軸に描かれた物語なのですから。

そして最後の四面楚歌なハンガリア戦線前夜、古城でリヴィアを思いながら再び「モレッカ」を踊るアルヴィーゼ、幻影のリヴィアのシーンは美しくも哀しく、夢が潰える、燃え尽きるとはこういうことなのだな、と子ども心に思ったものです。
ダンスだけで、言葉で語られないからこそ、伝わる、魅せられるものがあるはずです。
そして演出の謝先生はダンサー出身なのだから、ダンスの魅力をご存知だと思っていましたし、現に「眩耀の谷」の瞳花の踊りではそれをちゃんと表現できていたのに、どうして今回はこのようなことになってしまったのでしょうか。
魅せるべきペアダンスシーンはこの2回の「モレッカ」であって、天国のデュエットダンスではないのです。
物語の中に「意味のある踊り」があることは、この作品の一番の魅力であったのに、そこをそぎ取られてしまった気がしてしまいました。

 

とはいえ出演者は大健闘。
「炎のボレロ」のときには完全に日向薫の再来か!まで思わせた彩風咲奈が、今度は大浦みずきの面影がある、と思わせるのがすごい。
そしてとりあえずリヴィアが大好きで、なんかよく分からない「紋章」を求めて暴走しちゃうアルヴィーゼを魅力的に演じていたと思います。
さらに朝月さんのリヴィアがいい、素晴らしい!
リヴィアの見せ場でもあるはずの「モレッカ」があんなことになって(しかもドレスもあんまりいけてなくて涙。当時アルヴィーゼが赤、リヴィアが青の衣装でその対象が非常に美しく、かつ青いドレスが普段もの静かなで冷たくすら感じさせるというリヴィアとそんな彼女が今、青い炎のように燃え上がる様も想像させてよかったのに、なんか白っぽいしかもリボンとかあしらわれた子どもっぽい感じのデザインで残念でした)、リヴィアの感情を表現できるシーンが少ない中、アルヴィーゼからの合図の指輪を受け取ったときの演技が、本当に喜びが全身に満ちてあふれ出して耐えきれないさまが素晴らしかったです。
マルコの「聞いていますか?」というセリフがあんなにナチュラルに聞こえたのは偏に朝月さんのこの演技のおかげですし、リヴィアが本当にアルヴィーゼを愛して今まで耐えてきたのを感じさせてくれました。
マルコの綾凰華さんは狂言回しでセリフがとても多い難役をがんばって演じられていました。華やかで優し気な容貌がアルヴィーゼとは正反対に輝かしい道が与えられ、それを迷いなく歩いている様を引き立てていたと思います。
ただ仕方ないのですが、説明セリフが多いので、それとマルコとしてのセリフの演じ分けと滑舌は役としては足りない部分がありました。けれどこの役を経て、綾凰華さんのスキルが向上していくことを今後期待しています。
この物語はかつて「聖マルコ殺人事件」というタイトルで発行されました。
その事件の重要人物でもある「リアルト橋のオリンピア」が実はこれまた難しい役で、それを演じるには夢白さんはまだ若すぎるなと思いました。
手練れの女性を精一杯表現しようとがんばっている、のが見えてしまったのが残念。(まあおかげで「結婚は諦めているけれど、貴族の舞踏会に憧れる」的なオリンピアのセリフは、初演の香坂千晶さんより自然に聞こえたのですが、このセリフ自体がオリンピアのような自分の足できちんと立っている人間に今言わせるのはナンセンスだと思うので、これはカットしてよかったのに。)

ただ金髪の鬘と美しいドレスを身にまとった彼女は輝くばかりに美しくて、美しいということが遠めで一目でもわかったのは素晴らしい武器ですので、今後その美しさをより引き立てるような役に出会えるといいなと思います。
カシム&ヴェロニカもがんばっていて、初演より重厚に暗く演出されたこの作品の中で清涼剤のようでした。だからこそ初演にあったヴェロニカの最後のセリフがなかったのは残念だったかな。ここをカットするなら、祭りの日(初演ではラストシーンは「ヴェネチアの海の祭り」の日で元首が民衆の前で「海よ、我々はお前と結婚する」と宣言するという説明があったのです)自体がなくなったのだから、意味が通らなくなるラウドミアの方のセリフ「おじいさまは元気がなくて。いつもの張りのあるお声が風にちぎれちぎれに聞こえるようで」をカットすればよかったのに、と思います。


そう思うと、リメイクにあたって全体をもっときちんと整理してほしかったなと。
ただ過去の名作はリメイクして上演する、という試みはこれからもぜひしてほしいと思います。時代は変わるし、速度も変わる。古き良き部分を残しつつ、今の時代ならではの編集・演出ができるようになれば、それは素晴らしいことなのではないかと思うのです。

セットは全国ツアー公演にしてはよく出来ていて、とりわけマルコ邸に私用のゴンドラが行き来している様子は原作にも忠実で作品の世界観を高めていました。

衣装も30年前と比べたらかなり生地の質感で見劣りするもの、ちゃんと十分豪華でキレイでした。

そうそう、初演よりよかったのはコンスタンティノープルの踊り子たち。
素肌っぽく見せるための肌色の布がどうしてもダサく感じる人間なので、生腹の衣装、最高でした。

 

ところで「ヴェネチアの紋章」は音楽もまるっと変更になっていたので、もっと脳内バグが起こるかなと思っていたら、意外とそんなこともなく、普通に聞いていました。
だから、まあ全曲変更はありじゃない?と思ったあとの「ル・ポァゾン」の破壊力がすごかったです(笑)
いやあ慣れ親しんだ音楽、口ずさめちゃう音楽って楽しい(笑)
そしてまた彩風咲奈が古いロマンチック・レビューが似合う!

「ル・ボァゾン」の方は、ほぼ星組で再演されたままで、その時と同じく「ナルシス・ノアール」から「月とパリス」と「アンダルシアの孤独」が織り込まれています。

おかげで衣装ショックには慣れました。

 

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そんなわけで白鳥の王子からスーツのアダム、そしてマタドールまでどれも似合っちゃう彩風咲奈がすごい!
(初演では白鳥の王子は二番手だった紫苑ゆうさんが演じられ、トップだった日向薫さんの場面ではなかったですし、星組再演の柚希礼音さんはバレエテクニックは素晴らしかったですが、白鳥の王子が完全にニンではない感がすごかったので。ただ「アンダルシアの孤独」は柚希×凰稀派です。そして最後の振付けはやっぱり初演版には戻らないのは残念でした)
そして朝月希和さんもニンフの乙女からイブのセクシーな女、喪服の悲しみの美女まで似合っちゃうのもすごい!

そんな2人は2人のための新曲デュエットダンス「アマポーラ」を披露したとき、その幸福感と夢のような光景になんだか涙してしまったのです。

ぜひともまたこの2人で、もちろん別箱でいいから過去のいいショーやレビューの再演を見たいと思いました。

ショーの方で特に印象に残ったのが諏訪さきさん。誘惑の歌声が美しく、耳も目も惹きました。後半のリズムのある歌の方はリズムの遅れが気になったので、ぜひそこを補強して、もっともっと新生雪組の魅力的な戦力となってくださることを心から期待しています。

「ライブ」の魔法に乾杯を@地球ゴージャス「The PROM」大阪公演中止によせて

4/24(土)より大阪にまた緊急事態宣言が発令され、現在5/31(月)までその期間が延長されています。

この期間にわたしは2つの公演のチケットを持っていました。

地球ゴージャスプロデュースの「The PROM」、そして「スリル・ミー」成河×福士ペアの再演です。

「スリル・ミー」は2012年の田代×新納ペアの再々演を見ているし、2年くらい前に成河×福士ペアによる再演があったときに見に行かなかったので、自業自得だと納得できたのですが、「The PROM」が見られなかったことは本当に残念でした。

(ブロードウェイミュージカルは特に版権の問題が大きく、簡単に無観客配信などできないのです。とか言ってたらスリルミーのオンライン配信が5/16発表されました!ありがとう、ホリプロさん!)

 

というのも、まさか翌年から開催されなくなるとは予想すらしなかった2019年のトニー賞で「The PROM」の映像を見たときから、とても好感を持った作品だったからです。


www.youtube.com

Tonight Belongs to You」で女の子(エマ)に「きみはエルフィー、私はグリンダ」と歌うおじさん(バリー)。

WICKEDのWヒロインの名前がミュージカルの歌詞になるんだ・・・!という衝撃からの、今本当に学校内とかで踊られていそうなダンスを「ブロードウェイショーとして魅せられるものに仕上げた」振付けに感動。

そこから、2人の女の子(エマとアリッサ)が手をつないで「I just wanna dance with you」と歌ったとき、自分でも驚くほど心打たれてしまったのです。

トニーのプレゼンターから「落ちぶれたブロードウェイスターたちが、自分たちの高感度をあげるために田舎で同性の恋人とプロムに行きたいと願っている高校生をバックアップしようと奮闘する話」的な紹介があったので、てっきり落ちぶれたブロードウェイスターのドタバタ劇だと思ったのです。

そして最初のパフォーマンス「Tonight Belongs to You」はまさしくそういうシーンでした。

けれどもその後のエマとアリッサの「プロムで好きな人と踊りたい」という、まっすぐで小さな望みが心に突き刺さりました。

そんなことすら許容できない社会を哀しく思ったのです。

でもどうも最後には2人は幸せに踊る、その全貌を知りたいと強く思いました。

 

そんな中、年が変わって2020年の春が訪れるころ、コロナウイルスは猛威をふるい、ブロードウェイの劇場は閉鎖され、毎年6月のお楽しみ、トニー賞授賞式もなくなりました。

一方でNetflixは勢いを増し、Netflix映画として「The PROM」を配信しました。

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これがもう楽しかった・・・!

音楽もダンス(振付け)もキャッチーでいいし、落ちぶれたブロードウェイスターを演じる豪華すぎるキャスト。さらに妙にミュージカルオタクをそそってくるコネタ。

しかし舞台版をご覧になられた方の感想をちらほら見ていると「エマとアリッサの物語がきちんと描かれていない」というのがありました。

わたしがこの作品に一番心惹かれたところは、もちろん「エマとアリッサ」の存在なのです。そうなるとやっぱりどうしても舞台が見たい、と思った頃に、地球ゴージャスさんがこの作品を輸入上演するという話を知りました。

同じく地球ゴージャスさんプロデュースの「フラッシュダンス」を見ていた

 

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 だけに演出・訳詞部分に若干の不安を覚えたものの、でもブロードウェイが閉まっている今、日本でその全貌が知ることができるならありがたい、と飛びつきました。

東京公演の評判はさまざまでしたが、それもふまえて見に行く日を楽しみにしていたのです。しかし、まさかの大阪公演全中止には泣きました。

一体いつまでこんなことが繰り返されるのか分からない現状は、単なる観客よりも関係者の方々の方が悔しいだろうし、不安でしょう。

しかしやっぱり一観客だって、理解できても哀しいという感情には完全にふたをすることは難しいのだなあと改めて思いました。

だって、劇場には「ライブの魔法」があるから。

 

はじめて聞いたときも感動した2019年トニー賞のオープニングソング「Salutes The Magic Of Live Broadway」。

これを自粛生活がはじまったころ改めて聞いて、ぼろぼろ泣きました。

ここにはわたしが「舞台を見る理由」が全部表現されていたからです。


www.youtube.com

以下、歌詞の大意です。

Netflix, hulu, Amazon

見るべき素晴らしい作品はいっぱいあるけれど

リモコンを手放して

ソファから立ち上がって

劇場へ足を運ぼう

ショーには違う種類の体験がある

それはなんていうか「ライブ」なんだ

本物の生きている人々が

目の前で作り上げている

それがライブ!

とある場所で独特な時間を過ごして

そこで何かを感じて

そこで何かをシェアする

それがライブ、ライブでやるってこと

ハッシュタグも付けられないし

ツイートもできない

でも劇場に踏み入れるだけで

至福のときが訪れる

出演者はベストを尽くして観客をもてなす

ライブの時間こそ最高だと称えよう

 

こんな感じではじまり、出演者側の苦労(1週間8公演あって、ハイヒールで踊り続ける、テレビの方がずっと出演料がよい等)や観客側の不自由(狭い座席、短いトイレ休憩、写真禁止、携帯禁止等)も歌い踊られます。

 

でも、と続くのがこんな感じの内容。

舞台上のパフォーマンスを見つめていたら

アートはあなたの心に光を灯し

あなたの心を喜ばせ

あなたのお腹を笑いで満たし

あなたの目は涙で覆われる

それが言い表せないくらいの喜びで

あなたはその完ぺきな喜びの瞬間に存在している

ショーを見に行くんだ

ショーを見ればあなたがここにいて

リアルに存在していて

「生きている」って感じさせてくれるから

 

ブロードウェイは9月から再開がはじまりそうです。

開催されるトニー賞こそ、恐らく今後もわたしが生(ライブ)で見ることはとても難しいだろうし、それこそテレビの画面越しにしか見たことがないですが、それでもコロナ禍を経た来年のトニー賞授賞式を心待ちにしています。

そしていつか、地球ゴージャス版「The PROM」の再演を見られる日も楽しみにしたいと思います。

主人公とドラマの比率の難しさ@花組「アウグストゥス」「Cool Beast」

4/20(火)13:00~ 宝塚大劇場

作・演出

田渕 大輔

キャスト

ガイウス・オクタヴィウス 柚香 光
ポンペイア 華 優希
マルクス・アントニウス 瀬戸 かずや
ガイウス・ユリウス・カエサル 夏美 よう
クレオパトラ7世 凪七 瑠海
アグリッパ 水美 舞斗
ブルートゥス 永久輝 せあ
オクタヴィア 音 くり寿
マエケナス 聖乃 あすか
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紀元前のローマが舞台、そして歴史上の人物が主人公ということで、上演前から前知識としてこういうのを入れておくといいよ、的な案内がTwitterにあがっていたのですが、あえて何も前知識を入れずに見に行きました。

ストーリーはこんな感じです。

大叔父・カエサル凱旋式に出席するため、留学先から帰国した主人公・オクタヴィウス。その宴の席に、父親をカエサルに殺された娘・ポンペイアが乱入し、カエサルに斬りかかる。しかし復讐は失敗し捕らわれたポンペイアを、和解のために解放することを訴えるオクタヴィウス。

共和制を謳いつつも、実質上の独裁政権であるカエサルの政治に納得できないブルートゥスたちの反乱、カエサルの側近アントニウスや妻クレオパトラの思惑が混ざりあい、混沌とする世の中にオクタヴィウスは飲み込まれていく・・・。

 

作・演出の田渕先生の作品をはじめて見たのですが、とりあえず衣装とセットは美しかったし、クレオパトラの見せ場の作り方は個人的に好きでした。

ただ登場人物の銀橋でのソロ歌唱が多用されていて、全体に単調な感じは否めませんでした。

そしてストーリーなのですが、わたしはこの時代のローマの知識はほぼなく、一応下記2作は読んだり見たりしたことある程度なのですが、

 

 

 

 

細かい設定は確かに伝わらなかったけれど、知らないと分からない、というほどのこともなかったです。

ただそれが面白いかと言われると難しい。

基本的にはオクタヴィウスの成長譚なんです。心優しい貴族のお坊ちゃまが世の中に揉まれて、人に出会い影響を受け、傷つき、学び、自分のあるべき姿を見つけていく、少年マンガの王道のような話なのですよね。

その芯のところをきちんと見せないと、周りがドラマティックなだけにのまれてしまうなという印象でした。

カエサル(シーザー)やアントニウスアントニー)、クレオパトラは、先にあげたシェイクスピアの戯曲になっているせいもあって有名だし、何よりやはりドラマティックな存在なんですよ。

そのカエサルアントニウスクレオパトラの最期も劇中で描かれるのですが、そこを描いてしまうとやはり物語の焦点がぶれる。というかその最期が劇的すぎて、オクタヴィウスの物語が薄れる。そのバランスをどう保つのか、そして「憎しみの連鎖を断ち切れるか」という裏テーマをどう描くのか、というところであがいたような印象があって、最終的に面白く盛り上げることができなかったような感じを受けました。

そんなわけで主人公よりもやはりアントニウスが美味しい。その美味しい役をこれが卒業公演になる瀬戸かずやさんが充実した演技を見せるので、どうしてもアントニウスの物語に見えてしまったのです。

それはそれでありだとは思うのですが、じゃあもっとアントニウスの物語として描く方が面白かったに違いないし、なんならカエサルを瀬戸さんが演じて、アントニウスを柚香さん、クレオパトラを華さんが演じた方が、華さんの卒業公演としてもふさわしく面白い作品になったろうに、と思ってしまったのです。

凱旋式から凱旋式への構造と海戦シーンは面白かったので、もう少しアントニウスクレオパトラの比重を落として、ポンペイアとの関係性もきちんと描き、オクタヴィウスが皇帝になるまでの心の動きを見せられたらよかったなと思います。

そんな中で柚香さんはお育ちのいいお坊ちゃまをかわいらしく、美しく好演。アグリッパ水美さんとのコンビバランスも当たり前だけどとてもよかったです。

そして華さん。ポンペイアという人物の見せ場がばっさりカットされ、後で告げるという形になりながらも、海戦シーンなど魅せるところは魅せてがんばっていました。

ブルートゥス永久輝さんはちょうどいい美味しい役をきっちりと演じた印象でした。

そして今回一番ステキだったのがオクタヴィアの音くり寿ちゃん。もう切ない、かわいい!オクタヴィアという役柄がいいからこそ、やっぱりクレオパトラをトップ娘役が演じて、この役と対峙させたかったなと思います。

そんなこれまた美味しいクレオパトラ役・凪七さんは、さすがの存在感で場面の中心にいる説得力がきっちりあったのがよかったです。

まあでも宝塚歌劇の新作オリジナル作品としてはこんなもんだよな(→ひどい)、そしてわたしはある程度の宝塚ファンとして、ショーが楽しければ芝居は忘れるということを知っている(→ますますひどい)、と迎えたショー。

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いやあもう楽しかったです。ありがとう、藤井大介先生!

 

あんまりダンスが得意じゃない華さんを「野獣が恋する花」として、限りなく華さんの魅力を引き出した可憐な衣装でそこに置き、ダンスが得意な柚香さんに裸足踊らせたシーンが絶品でした。

華さんのかわいらしさと、柚香さんの持つ透明感が相まって、美しい絵本を読んでいるかのような情感を漂わせながらも、柚香さんのダンスのすばらしさを堪能できるというショーとして最高なシーンに仕上がっていました。

このシーンだけでも何倍でもおかわりできると思ったけれど、続く柚香さん、水舞さんとの「肉奪いあい対決」の楽しさ!2人ともとても無邪気でキュートで、そして何よりダンスがすごい。

そうなんです、柚香光が踊って踊って踊りまくるんです。

そして水美舞斗も踊って踊って踊りまくるんです。

これが花組、「ダンスの花組」の新しいショーなんだ・・・

と胸いっぱいでした。

さらに瀬戸さんを相手役に女役で踊る柚香さんの宝石のようなその美しさが圧巻。

本当、いいものを見せてもらいました。

惜しむらくは専科の美穂さんと凪七さんの起用で、スター格以下の活躍の場と、娘役の見せ場が少なかったところでしょうか。

とはいえ、次回の花組ショーも恐らくダンスショーになることは間違いないので、この辺は次回に期待したいと思います。

 

【追記】

4/24(土)3回目の緊急事態宣言が兵庫県にも出されたことで、4/25(日)が最後の観客入り大劇場公演となり、5/9(日)までの休演が決まりました(涙)

5/10(月)には無観客上演が配信されるとのことですが、平日のため見届けられず、残念です。

このような形となってしまってただただ切なく哀しいですが、華さん、瀬戸さんはじめ退団者の皆さまが少しでも幸せな時間になることを願っています。

そして東京公演は通常通り公演が完走できることをただひたすら祈っています。

近年まれにみる「特別な時間」@きみはいい人、チャーリーブラウン

4月17日(土) 17:00 サンケイホール・ブリーゼ

2017年に観劇した際、どうしてプログラムの表紙をポスターにして貼っておかなかったのか、と嘆いていましたが、なんと今回はポスターからしかわいい!すばらしい!

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そのおかげか、PEANUTSファンも客席に多い感じがしました。これがこのミュージカルを上演する第一の意義でしょう、たぶん!


キャストはスヌーピー役を除いて一新され、「ロミオ&ジュリエット」のように新しいミュージカルスターを見つけるための作品として、この演目が選ばれた感じがあるのですが、それもとてもいいなあと思います。
登場するのは5人の子どもと世界一有名なビーグル犬。
子どもはやはり出来る限り年若いキャストが演じる方が観客側としても受け入れやすいです。
その上でこれが小作品ながら優れたブロードウェイミュージカルで、他のミュージカルにはないものをキャストも観客も体験できることも、重要な点ではないのかな、と個人的には思っています。

 

前回も書いたように、この作品には大きなストーリーはなく、PEANTUSのマンガの短いエピソードを織り交ぜた、いってみればショーに近いカタチの作品なのだな、と今回見て改めて思いました。
日本ではこのようなストーリーがほぼないミュージカルを見る機会は少ないように感じるのです。
そしてショーに近いと言えるほどに、エピソードの中で「ここ!」という見せ場があって、例えば「Suppertime」なんかは、ハットにステッキも使ったザッツ・ブロードウェイなソング&ダンスシーンになっています。
(しかも何度も書くようですが、あのPEANUTSの絵がそのままセットになっているという、シンプルながらめちゃくちゃ優れたセットとかわいい色どりの衣装、優れたオリジナルミュージック付きのショーですよ!)
各登場人物に真ん中で魅せることが必要となるシーンもあるので、若手が空間を埋める力をつけるのにも、とても有効ではないでしょうか。

 

ということを改めて感じたのは、チャーリー・ブラウンを演じた花村想太くんがすごかったから、なんです。
見た目も可愛いので、前回見たとき一番好きだったランチタイムのシーンなんかは、なかなかチャーリー・ブラウンの内向的な感じが伝わりづらくもあったのですが、その代わり「The Kite」の歌が圧巻。
早くてリズミカルなこの歌をラクラク歌いあげて魅せてきたときには、あっけにとられました。
そこからはもうチャーリー・ブラウンから目が離せませんでした。

(ぜひ動画もご覧ください!)

youtu.be

 

もちろんライナスは見た目も演技も納得のかわいさだったし、ルーシーは高音がちょっとキツイかなと思ったけれどもセリフが明瞭だし、サリーはセリフや歌詞が聞き取りにくい部分はあったけれど技術的にはそん色なくかつチャーミングで、4人ともキラキラしていて魅力的で、相変わらず小林香さんのこの作品の演出力はすばらしいなと思いました。
まあ前回もですが、どうしてかシュローダーだけにそれが及ばないのかナゾではありますが、他4人と比べるとシュローダーは若干比重が軽いので、仕方ないのかもしれません。
しかもシュローダー役の方のみ、実は昨年違う作品で見ていて、割とその時は好意的に見ていたのに、今回はそのスキルの足りなさ(主にセリフと演技)をめちゃくちゃ感じて残念でした。今後に期待ですね。

 

ところで今回この作品を見に行こうと思ったのは、やっぱりアッキーこと中川晃教さんが出演されるから、ということでした。
中川さんが演じるには比重の軽い役だし、正直もったいないくらいの出番なのですが、それでもこの役は中川さんの当たり役の1つではないかと思います。
彼が持つ無邪気さやハッピーオーラーがとてもよくスヌーピーに似合っているのです。
この状況下で彼から発せられるハッピーオーラを浴びることを、わたしが今とても必要としていたのです。もちろんこの作品がくれる「ささやかな幸せへの感謝」というやわらかなメッセージも込みで。

中川さんのスヌーピーは2回目ということで、前回よりももっと自由で活き活きとしていて、それを見るだけでも幸せな気持ちになったですが、スヌーピーの「Suppertime」の楽しさから、主題歌「Happiness」につながるとき、チャーリー・ブラウンが「今日も悪くない日だった」と言うときに、涙がとめられませんでした。
心がちょっとつかれたときに、本当にオススメの作品なので、残すところ明日の名古屋1公演と金曜日の長野1公演だけですが、ぜひとも一度見てみていただきたいなと思っています。

しかも今回は花村くんとアッキーのハイトーンボイス対決付きですよ!
Happiness」でボロボロに泣いたあとに、何度かのカーテンコールで花村くんがすごいダンスを披露したときに、「へ?何このコ、ダンスもこんなにできるの?」と我に返り、その後のカーテンコールで、アッキーがアカペラで歌ってくれます、と紹介されたのに、そのまま花村くんも入って2人で即興アカペラで歌い上げたときには、もう2人のすごさに涙もふっとんで、ポカーンとしてしまいました。
そんな2人のすごい才能を直に見せつけられる機会もそうないと思います。
本当「悪くない日」どころか、「めちゃくちゃすごいおまけまでついた幸せな日」になりました。

命を燃やす恋心@宝塚星組「ロミオとジュリエット」

3/13(土)11:00~ 宝塚大劇場

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キャスト(Aパターン)

ロミオ 礼 真琴 
ジュリエット 舞空 瞳 
ロレンス神父 英真 なおき 
モンタギュー卿 美稀 千種 
モンタギュー夫人 白妙 なつ 
キャピュレット卿 天寿 光希
キャピュレット夫人 夢妃 杏瑠  
ヴェローナ大公 輝咲 玲央 
乳母 有沙 瞳 
ピーター 遥斗 勇帆 
ティボルト 愛月 ひかる
ベンヴォーリオ 瀬央 ゆりあ
マーキューシオ 極美 慎 
パリス伯爵 綺城 ひか理
愛 碧海 さりお
死 天華 えま

 

スタッフ

原作/ウィリアム・シェイクスピア  

作/ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出/小池 修一郎  

演出/稲葉 太地

 

2010年星組で上演されたフレンチ・ミュージカル「ロミオとジュリエット」。

そこから2011年雪組、2012年月組、2013年星組再演と続き、

『ロミオとジュリエット』Special Blu-ray BOX|宝塚歌劇をブルーレイ・DVD・CDで楽しむ|宝塚クリエイティブアーツ公式ショッピングサイト

間に本場フランスからの来日公演があったり、東宝ミュージカルとして定番化したりして、なんとなくずっとやっているイメージがあったのですが、ふと思い返せば宝塚版は8年振りになります。

このくらいの時がたっての再演はなかなか興味深く、2時間半めいっぱい楽しませてもらったので、やはり面白い作品だなと改めて思いました。

今回は演出に稲葉先生の名前が連なっているのですが、特に過去の上演と違う部分は感じませんでした。

そんなわけで、内容や演出的な見どころは感想から省きます。

ただ、わたしは基本的にこの作品は本場フランスバージョンが好きなので、とりあえずこういう認識でいるよ、という内容を下記に置いておきます。

 

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 世界一有名な恋物語ですが、皆さんが見たのはどれが最初でしょうか。

実はわたしは、バウホールで上演された月組ロミオとジュリエット」再演が最初でした。ロミオは天海祐希さん、ジュリエットが麻乃佳世さん。

これが本当にシンプルに美しい舞台で、今でもセットや衣装をはっきりと思い出せます。そして麻乃さんが演じたジュリエットが、わたしの原点でした。

 

わがままで勝気。

そして一直線で純粋で情熱的な少女。

この少女がロミオの心を奪い、連れ去った。

 

そんなジュリエットがひどく魅力的に見えたものです。

 

しかしフレンチミュージカル宝塚潤色版の「ロミオとジュリエット」は残念ながらジュリエットの書き込み方が少ない(とりあえず一旦はパリスと踊るシーンとか、キャピュレット夫人告白ソングやジュリエットがティボルトの死体を目にするシーンとかがない)ので、こう、というジュリエットを見せづらい、とわたしはずっと感じていました。

(まあそもそもフレンチミュージカル版は「死」がほぼ主役な作品づくりなので、人間を細かには描いていないんですよね)

なのに今回、舞空瞳ジュリエットがそこを覆してきたのです。

内側にため込んだエネルギーが見えるような舞空ジュリエット。

それがロミオと出会うことで爆発し、情熱のままに燃えあがり、ロミオと自分を焼き尽くしたように見えたのです。

とりわけバルコニーのシーンが絶品。

ロミオとの思わぬ逢瀬の中、部屋の中から呼んでくる乳母に「今行くから!」「行くってば!」と言い返すそのセリフのトーンと言い方。本当に反抗期真っ最中のリアルなハイティーン感が最高でした。

さらにロミオの前の恋する顔、乳母への対応の違いでバルコニーのシーンに笑いを生み出したのです。その生命力に「なんて可愛らしい」と魅せられたとき、この命がはかなく消えることを痛ましく思わせる。

誰もが知っているラストへ向かうからこそ、そこまでは輝かしくまぶしく存在することがこの物語を魅力的に彩るんだなと気づきました。

ラストシーンで寄り添うロミオとジュリエット銅像のように立てかけられる(下記インスタの3枚目のシーン)のですが、その横顔も流れる金糸の髪も美しく、花火のように打ちあがって消えたジュリエットの人生を色濃く魅せた舞空さんに完敗、でした。

この舞空ジュリエットとともに、今回非常に興味深かったのが、ジュリエットの父・キャピュレット卿。

演じた天寿光希さんは、パリス伯爵、マーキューシオと来てこれが三回目の出演となりますが、キャピュレット卿であり、ジュリエットの父だとはじめて感じさせました。

天寿さんのキャピュレット卿もとにかく熱い。血の気が多くて、短気で、見栄っ張りで、ああこの人がこの荒廃したヴェローナの街を作った一因なんだろうなと思わせました。

この時代ですから、娘は父親の所有物です。なのに娘を思う父親ソングの存在がいつも不思議だったのですが、今回はジュリエットは間違いなくこの人の娘で、だからこそこの人なりの複雑な感情が娘にあるのだ、と思えたのです。

とりわけこの父親ソングに行くまでの、ジュリエットとのやり取りのテンポが素晴らしい。

お互いの主張を譲ることなく、傷つけあう言葉の投げ合いはまるで二つの火の玉がぶつかっているように見えました。その流れで、思わずジュリエットを平手打ちするシーンをはじめてこんなにスムーズに見ました。

ああこの2人は似た者親子なんだな(血がつながっているにしろ、いないにしろ)、と思っていたところに父親ソング「娘よ」で「お前のかたくなな強さはわたしに似たのか」と歌う説得力ったらなかったですね。

その一方で、わたしの妄想を駆り立てるキャピュレット夫人が今回あまり印象に残らなかったのが残念ではありました。

 

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ところで礼真琴ロミオなんですが、スキル面では何もいうことがありません。

特に一部の「僕は怖い」は歴代の中でナンバーワンのすばらしさ。リズム感、ロック感、歌唱力、そしてダンス、全てが完ぺきでした。

もちろん演技も「純粋無垢な育ちのよいボンボン」をちゃんと作っていて、だからあの勝気なジュリエット に惹かれたんだろうし、ジュリエットの情熱に巻き込まれた感じも大変面白く見ました。

スキルに不足がないからこそ、ロミオという役は演じる人の個性が合うか合わないか、ということが大きく出るんだな、と感じました。そして多分、礼さんはロミオ役者ではない。それでもあそこまで作って演じたことがすごいと思います。

 

Aパターンしか見ていないので比較できないのですが、過去の宝塚上演分と比較すると、このAパターンはロミオとマーキューシオ、ベンヴォーリオのバランスがとてもよかったと思います。

頼りなげで気が小さいけれど優しそうなベンヴォーリオと、元気で軽くて浅はかなマーキューシオ。

役作りの方向としてはとてもいいので、極美さんには死ぬシーンの演技スキルだけ、改善されていくことを期待します。全く刺された風にも見えず、息も絶え絶え感もなくて、まあそれはそれで納得な演技でまとまっていたら良かったんですけれど、そうでもなく、歌い終わったら急に死ぬ、みたいに見えたのが残念でした。

ベンヴォーリオ瀬央さんはロミオの犬感があって、不器用な感じがとてもよかったです。「どうやって伝えよう」も戸惑いが十分に伝わってきました。

 

さて、わたしが好きではない小池先生が作りだした「愛」と「死」なのですが、さすがにわたしももうその存在になれました。

そんなわけで「愛」、ダンスがうまくすばらしかった!一方の「死」はトートっぽくないメイクは好きだったのですが、愛に比べると存在感が薄かったように感じました。

もともとは「死」が主人公なこの作品。しかもフランス版の映像に残っている「死」は女性体をしているけれども、性別を超越したような存在だったので、いつかトートっぽくなく中性的な雰囲気で登場してくれるバージョンが産まれるといいなあと思っています。

 

そうそう最後になりましたが、フィナーレのデュエットダンスがめちゃくちゃすごかったです。

パソドブレっぽいこれまた炎のぶつかり合い。

もはやデュエットダンスという甘やかな名称ではなく、かなり見応えのある競技ダンスのオナーダンスのようでした。

ちょうどこんなイメージ↓(1分35秒からご覧ください)

そんなダンサーの2人が踊りまくるショーも今後期待しています!

そこにある細くて深い溝@ミュージカル「パレード」

2/6(土)17:00~ シアター・ドラマシティ

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スタッフ

作:アルフレッド・ウーリー
作詞・作曲:ジェイソン・ロバート・ブラウン
共同構想及びブロードウェイ版演出:ハロルド・プリンス
演出:森 新太郎

 

キャスト

石丸幹二堀内敬子武田真治、坂元健児、福井貴一、今井清隆、石川 禅、岡本健一
安崎 求、未来優希、内藤大希、宮川 浩、秋園美緒、飯野めぐみ、熊谷彩春
石井雅登、白石拓也、渡辺崇人、森山大輔、水野貴以、横岡沙季、吉田萌美

 

1913年アメリカ南部の中心、ジョージア州アトランタで実際に起こった少女殺人事件を扱ったこの作品。

事件についての解説は公式ホームページよりどうぞ。

ミュージカル『パレード』【解説】1913年 レオ・フランク事件まとめ【実話】 | 特集記事・インタビュー | 【公式】ホリプロステージ|チケット情報・販売・購入・予約

 

わたしはこの「現実に起こった冤罪事件を扱った作品」だということ以外は、全く知らないまま観劇しました。これがいいのか悪いのかはわかりませんが、とりあえずそれ以外を知らなくてもちゃんと作品が成り立っていることがすばらしいと思います。


この作品にはさまざまな「差別問題」が描かれています。
人種、宗教、性別、階級、地域。
これだけ織り交ぜられると、なんだか難しそうな気がしますし、実際アメリカ南部の地元住民からアメリカ北部ユダヤ人への妬み、みたいなものは、この作品を見て(というより終わってから劇場で配られていた解説を読んで)はじめて知りましたが、その理由は分からずとも、その気持ちはなんとなく理解してしまえるのです。
つまりこの作品に描かれている差別感情は、誰しも抱いているもので、それを押し出すことなく、さりげなく描いている脚本が、まずため息ものでした。

主人公レオ・フランクは北部ニューヨークで生まれ育ったユダヤ人で、訳あって南部ジョージア州アトランタで結婚し工場長として働いているわけですが、この人のさりげない「上から目線」が、はじまって早々の短い時間の間に描かれているすごさ。
南部の住民への、貧しい少女への、そして自分の妻という女への無意識的な見下した感情と態度。
彼が冤罪であることは、物語を見ている観客としては明らかなのですが、それでもこの人がもっと地域社会に溶け込み、人々とコミュニケーションを取ろうとがんばっていれば、ここまでの事態にはならなかったのではないだろうか、と思わせる人物に描かれていることが、本当にこの脚本の優れたところではないでしょうか。
また妻ルシールも頑なで南部の誇りを胸に、北部からきた夫を見下している部分が見えます。
そんな明らかにうまくいっていない「カタチだけの夫婦」が示されたあと、事件は勃発します。

自分の保身と出世のためにレオに罪をかぶせようと画策する権力者よりも、純粋で単純な若者が、恋する少女を失ったことによって何も考えずただ示された答えだけに向かって復讐心を膨らませていく部分が、とりわけ個人的に恐ろしいなと思ったところでした。
こういったことは身近にあふれていて、自分がそうでないよりそうである可能性の方が高いのです。
そして何度も偽証を繰り返しているうちに、良心の痛みは消え去り、自分の言葉が一人の人間の命を左右している感覚がなくなってしまうことも怖い。
この事件はレオやルシールを含んだ「大多数の善良なる人々」のちょっとした不満や妬みから膨らんでいってしまったのです。
作品中で「真犯人」が明らかにされることはありませんが、そんなことはどうでもよくて、自分と違う人とどうやって手を携えてこの世の中を生きていくのか、みたいなことを見ながら考えずにはいられませんでした。
自分の中の、他人の中の「無意識の差別」。この細くて深い溝がすべての断絶を生んでいるような気さえしました。

そんな登場人物にも自分にも哀しくなってしまう脚本なのですが、この冤罪を経て「女で妻である」という色眼鏡を取り払い、ルシールという「人間」の行動力と前向きな明るさを尊敬するようになったレオと、そんなレオを愛おしく思い始めるルシールが「カタチだけの夫婦」ではなく、本当に愛し合うようになるシーンは希望でもありました。
わたしたちの身近にある溝は、互いに対する尊敬と愛で乗り越えることができるのかもしれない、とも思いました。
でもまだまだ現実は厳しく、溝は深く、わたしたちは傷つけあうことしかできないのかもしれないと痛感させるラストシーン。
冤罪事件と一組の夫婦を描くことで、ここまでの「現実」をつきつけた脚本が本当に素晴らしい作品でした。

そしてこれほどの脚本を「魅せる」ミュージカルに仕上げたのが、これまた素晴らしい楽曲なのです。
ハーモニーこそマニアックにテクニカルで重厚なのですが、重い話を彩る音楽は時にユーモラスで全体にリズミカルで、音の粒が降り注ぐような気持ちがするほど美しいのです。

そんな音楽にあわせたように降り続ける極彩色の紙吹雪の演出。
最初の南軍戦没者追悼記念日のパレードの紙吹雪かと思っていたら、舞台の最後まで要所要所で降り続く紙吹雪。もちろんそれは舞台の上にもセットにも積り、それが土にも木の葉にも雪にも、そして絨毯にも、ふかふかの芝生にも見えるのです。もちろん涙にも、雨にも。
これはオリジナル版にはない演出で、これほど強い楽曲と脚本を持った優れた作品にこの味付けをすることが日本版として本当にすごいなと思いましたし、輸入ミュージカル演出の可能性を広げたように思います。
そしてこの紙吹雪と、オリジナル版にもあった「木」のセットを組み合わせたオリジナルロゴ(グラフィックデザイン)とグッズ展開も優れていました。

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本当、全作品これぐらいの力をグッズなどにも注いでほしいと思う反面、せっかく優れたグラフィックデザインだったのに、ポスターはいつものようにダサかったのが残念です。

紙吹雪がやっぱり一番印象に残るのですが、斜めに刺さる照明が画面を切り取ったり、全体にシンプルでシャープな印象で、森 新太郎さんには今後もミュージカルの演出もどんどん手掛けていただきたいと期待しています。

さて脚本、楽曲、演出とハード面が完ぺきな作品を仕上げるのは、キャストです。
キャストもすばらしいの一言。
本当ジェイソン・ロバート・ブラウンのハーモニーは、いやもうマジでこんな音重ねる?てくらいマニアックで、歌う方にしたら大変難しい部類に入るんじゃないかと思うのですが、そんな難しさをみじんも感じさせず、軽々と歌いながら個々のキャラクターを演じてきたキャストにも感服。


夫婦を演じた石丸さんと堀内さんはともに劇団四季出身ということで、演出の意図かもしれませんが、最初のうちはかつての「四季発声法」的なセリフ回しが気になったのですが、当たり前だけど二人とも歌がうまいし、主役たる華がある。
そしてラストシーンでグッと空を見つめる堀内ルシールが、ただそこに立って一点を睨んでいるだけなのに、まるでその表情がズームアップしていうような錯覚を覚えてしまったのです。こんな体験ははじめてでした。これが憑依型役者のなせる何かなんでしょうか。
最後に残るのは、やるせない思いとルーシルの“あの顔”なのです。
あの顔が何を訴えているのかは分からない。他人の頭の中なんてわかるはずもない。でも感情をゆさぶり脳裏に焼き付く。だから考えるのです。

事件自体は昔のことで、当時の捜査や裁判方法に思うところはあっても、描かれていることは、人である限り哀しいけれど変わらない部分だと思うので、ぜひとも再演を続けていってほしいと思います。
ただその時、堀内敬子なくしてこの作品が成り立つのか、その辺も楽しみにしたいと思います。

かわいいけれど惜しい、惜しいけれどかわいい@宝塚花組「Nice Work If You Can Get It」

2/7(日)16:30〜 梅田芸術劇場

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スタッフ
Music and Lyrics by George and Ira Gershwin
Book by Joe DiPietro
Inspired by Material by Guy Bolton and P. G. Wodehouse
潤色・演出/原田 諒

キャスト
ジミー・ウィンター 柚香 光 
ビリー・ベンディックス 華 優希 
クッキー・マクジー 瀬戸 かずや 
アイリーン・エヴァグリーン 永久輝 せあ 
ベリー署長 汝鳥 伶 
ミリセント・ウィンター 五峰 亜季 
エストニア公爵夫人 鞠花 ゆめ 
デューク・マホーニー 飛龍 つかさ 
ジェニー・マルドゥーン 音 くり寿 

 

2012年の新作ミュージカルであるはずなのに、「古き良き時代」テイスト満載のこのミュージカル。ガーシュインの音楽を使ったジュークボックスミュージカルか、とも思ったのですが、禁酒法時代(1920-1933年)まっただ中の1926年に上演された「Oh, Kay! 」というミュージカル作品のリメイク版だとTwitter情報で知りました。
とはいえ「スタッフ」の「Inspired by Material by Guy Bolton and P. G. Wodehouse」というところがミソで、この2人がガーシュインと組んで作ったミュージカル全般の曲が使われています。
そんなわけで、2012年ブロードウェイで新作としてオープンした際でも、こんな感じの「古き良きミュージカル黄金期」テイストのヴィジュアルが用いられています。

 

 
ここから勝手に察するに、これは宝塚歌劇における「ベルばら」なんじゃないかと。
古き良き時代のミュージカルが大好きなオールドファン層向けに作られたモノ。

そんなわけでストーリーはごくごくシンプルなボーイミーツガールのラブコメです。
これ以上の説明はいらないと思います。

 

わたしはそういうミュージカルが大好きなので、この作品も大変楽しく見ましたが、やはり思うのは「1シーン1シーンが長い!」です。
今のミュージカル作品にはないようなダンスと歌のショーアップ加減は大変楽しいのですが、長い!そしてまったりしている!
2012年のトニー賞映像を見ても(そしてケリー・オハラさまの歌声で聞いても)

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そう思うのですから、せっかく輸入したのを機にもっと改善してもよかったんじゃないかと思うと残念です。
むしろセットにしろ振付にしろ、そういうハード面がブロードウェイに敵わないだけに、思い切った潤色をお願いしたかったなあと思うのです。
ハッピーなラブコメミュージカルは現在の閉塞的な世の中でひと時の夢を一番見せてくれるもの、だとも思うので、よけいに惜しい気持ちが抑えきれませんでした。
(唯一、オーバーチュアがある作品で録音演奏はつらいな、と思うところを緞帳のピアノ電飾を光らせて見せてくれたところは感心しました)

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ただ宝塚歌劇には男役がいる。
そして現在の花組には今一番の美貌を誇るトップスター、柚香光がいる!
その柚香光がお金があって顔がいいだけのアホボンを演じる無敵さ。
全ての粗を吹っ飛ばして「もー、かわいいから許す!てかかわいすぎてたまらん!キュンキュンする!」と盛大にときめかせてくれたことに感謝。
そしてビリーの華優希さんが本当に演技もよくてかわいくて、2人が一緒のシーンは無敵でした。
またジェニーの音くり寿ちゃんがメインのシーンでは「私を見よ!」ぐらいの勢いでバーンと美声を響かせてくれるので、これも心地いい。あと個人的にエストニア公爵夫人の鞠花ゆめさんが好きでした。前回の「はいからさんが通る」でも好きだなと思ったので、好みの演技なのだと思います。
一方でアイリーンの永久輝せあさんは大変美しかったのですが、ちょっと押し出しが弱かったかなと個人的には感じました。
アイリーンがこれまたこの時代のミュージカルのテンプレライバルキャラクター「思い込みが激しいリッチな金髪美人」で、それゆえにコミカルになってしまう、というのは面白いところでもあるのですが、こういう役は宝塚歌劇の生徒が演じるには非常に難しいのですよね。
さらに見せ場のバスルームのシーン(Delishious)が宝塚歌劇的にセクシーにすることもできず、これぞショー!というようなゴージャスさも見せることができなかったことがただただ残念。
このシーンの作り方1つで「まるで夢の国」みたいなことを思わせることができたはずなのです。この辺は演出というよりも資金面の哀しさを感じさせます。

 

しかしながら、こういう一見くだらない作品がもたらしてくれる多幸感こそがエンターテインメントの醍醐味だなとしみじみ感じました。
そして柚香光さんのダンス力はタップダンスにも活かされることがわかりましたし、フィナーレの一瞬しかなかった「黒燕尾服&シルクハット」の柚香光が本当に美麗だったので、ぜひともこういうクラシックなショーを彼女で見たい、と心の底から思いました。

というかこのクリップを見る限りでは黒燕尾服&シルクハットのジミーのシーンが多そうなのに、なぜ宝塚版はフィナーレだけだったのかナゾ。

今の宝塚ファンの方はシルクハットに萌えがないのでしょうか。
年に数回しか現在宝塚歌劇を見ないので、何ともいえないのですが、最近宝塚のショーで、黒燕尾服&シルクハット+ステッキ、みたいなシーンをしばらく見ていない気がするのです。
ステッキは置いておいても、シルクハットは見たい!
宝塚歌劇版の「TOP HAT」がどんな感じだったのか分からないのですが、ウエストエンド版の「TOP HAT」はどこをどうしたのか中だるみ感もなく、長さを感じなかったので、この演出で柚香光版の「TOP HAT」を見たいなと思います。
せめて「CHEEK TO CHEEK」のシーンだけでもショーの一場面に入れてもらえる日を、言霊を信じて書き残しておきます。

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