こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

アラフィフ負け犬がビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

苦悩するスーパースターの麗しさ@宝塚花組「巡礼の年」「Fashionable Empire」

6/11(土)15:30~ 宝塚大劇場

ミュージカル
『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』
作・演出/生田 大和

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キャスト

フランツ・リスト    柚香 光        
マリー・ダグー伯爵夫人    星風 まどか        
フレデリック・ショパン    水美 舞斗        
ジョルジュ・サンド    永久輝 せあ        
ヴィクトル・ユゴー    高翔 みず希        
ダグー伯爵    飛龍 つかさ        
ジギスムンド・タールベルク    帆純 まひろ        
ラプリュナレド伯爵夫人    音 くり寿        
エミール・ド・ジラルダン    聖乃 あすか        
ジョアキーノ・ロッシーニ    一之瀬 航季        
オノレ・ド・バルザック    芹尚 英        
オランプ・ぺリシエ    都姫 ここ        
少年リスト    美空 真瑠    

 

下手の横好きでピアノを長く習っていたわたしですが、リストというと有名な「愛の夢 第3番」に挑戦したものの全く歯が立たなかった思い出しかなく、つまり技巧を求められる作品を作る作曲家で、超絶技巧なピアニスト、くらいしか知りませんでした。

あ、ショパンと割と親しかったというのは聞きかじっていましたが、そのショパンについても曲は知っていても生涯ほとんどは知らない作曲家でした。

ただこの作品が上演されることが決まってから、リストは大変な美形で、その時代の女性を虜にしていた、ということを知り、今一番の美貌を誇るトップスター・柚香 光さんの美しさを拝みにいくか、くらいのかるーい気持ちで見に行ってみたら、本当にリストが当時美貌と実力を兼ね備えたスーパースターだったことを知りました。

隣の席の方が「YOSHIKIみたいだね」とおっしゃっていたのですが、本当にそのような存在だったのだと思います。

またWEBで調べる限り、柚香さんのこの髪型は本当に当時のリストを再現しているものっぽいです。

柚香 光に金髪の鬘、それは鬼に金棒。

 

幕開きの「けだるげにソファに横たわる柚香 光リストとそのソファの肘にたたずむ永久輝 せあジョルジュ・サンド」を見るだけでも、この作品滴りますよ!

ある意味、宝塚的に最強の幕開きです。

もうこの時点で、「舞台写真、早くください!」になりました。

 

この作品は3つのパート+ラストシーンくらいにざっくり分けられると思います。

最初が「時代の寵児」として大活躍する一方で、そうあるための様々なオプションに神経をすり減らし、悩み苦しむリスト。

もうこの最初の部分が最高にすばらしかったですね。

美しい人の悩み苦しみ荒れる姿ってそれだけで滴るというか、なんというか。

そしてサロンコンサート部分をロック調に仕立てていたのも、作品として魅せてきたし、当時のリストの存在がどんなものだったのかを分かりやすく伝えていたのも好感。

彼の苦悩も想像つきやすくもしてくれました。

 

そこからマリーとの恋愛パートに移っていくわけですが、ここで「痛みや悩みを共感できたから惹かれていく」というパーツがめちゃくちゃ自分好みであることを、はじめて自覚しました。

自分のピアノ演奏からその孤独を見抜いたマリーの元へ、助けを求めるように駆けつけるリスト。リストの登場に驚きながらも自分の寄る辺なさを打ち明け、心通い合わすシーンに思わずキュン!

そして手に手を取って駆け落ちする二人に納得してしまったのです。

ただそのあとの、「キャッキャウフフ」なシーンはもうちょっと作りようがあったかなあと思います。

いやまあ、次この2人で上演予定の「うたかたの恋」も同じ感じのシーンがあって、それはそれで「宝塚歌劇の恋愛」を描くとしたら古典的な手法なので、全然あり、ではあるんです。

でも要所要所、宝塚歌劇ではなくロックミュージカルっぽく仕上げているところが、割にいいなと思ったので、ここはもう二人のダンスシーンでよかったのでは、と個人的には思います。コンテンポラリーな感じのペアダンスにしてあれば、見どころの一つとして「強いシーン」を作れたように思うので、惜しい。

あと、まあ「パリから離れた」ことさえ分かれば場所はどこだっていいんですけど、下手に背景にマッターホルンが見えて、スイスなんかなあとか変に気が散ってしまったので、マッターホルンを描くなら場所を示す、なんとなくヨーロッパのどこか自然の多いところで貫くなら象徴的な背景はない方がいい気がしました。

 

この後、すれ違っていく二人と2月革命のはじまりが描かれていくのですが、その革命を呼びかけるエミール・ド・ジラルダンと民衆、真逆の世界で浮かれるリストを対比させたシーンと歌が、とてもミュージカルしていて見ごたえがありました。

ここでラップ調の音楽は、そのリズムが民衆のうごめきと躍動を表してとても活きていたし、それを聖乃 あすかさんがよく歌っていました。

カサノヴァでドーヴ・アチア氏と組んだ経験がこういう風に活かされていくのかと思うとまた感慨深い。

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動乱のヨーロッパ、すれ違う恋人同士、揺らぐ価値観に翻弄される芸術家たち。

自分に酔いしれ、ますます道化っぽくなっていくリスト。

その中で信念を貫くジョルジュ・サンドの強さと、揺らがないショパンも魅力的。

なのに、この辺りが集中力を切らしてしまうのはなぜなんでしょうか。

この辺のマリーとリスト、サンド&ショパンとリストの会話シーンはもう一工夫、必要だったかもしれません。表現的には嫌いじゃないんですが、どうしても話を続けるための力業的な方法に見えてしまったのが残念です。

そして唐突に感じられるラストシーン。

この辺りをもう少し整理したら、退屈させないくらいの良作には仕上がったような気がします。

 

革命以降、サンドとショパン、マリーはそれぞれの道を歩く(マリーは待たずに作家&ジャーナリストとして活躍していく様子を描けばOK!)。そしてリストはマリーに失恋したことにして(史実と違うけれど)ローマ移住&キリスト教への傾倒をさらっと描く。ローマでの生活の中で、過去を思い出しながら「巡礼の年」を作曲するリスト、その音楽とともに現れる関わった人々とマリー。「マリー、あの最も魂が浄化された日々よ」的な感じで終わってよかったように思うのですが、どうでしょうか。

 

全体にわたしはかなり面白く見たので、もっと面白くできるように思うと、やっぱりカサノヴァの時と同じく「惜しい!」な感想になってしまいました。

あと気になったのがハンガリーで「リスト・フィレンツ!」と呼ばれること。副題にもあるしリアルだけど、こう呼ばれる理由の説明をしないなら、別に「フランツ・リスト」で通してしまってよかったように思います。

 

この作品はもちろん史実から創作されているものなので、そうなると個人的には本当かどうかはわからない「サンドとマリーとの複雑な三角関係」も書き込んでくれたら嬉しかったなと思います。

せっかくサンドを男役さんがやっているので、サンドとマリーのラブシーンとかちょっと入れてもらったら、大変おいしく見たんですけどね。

 

いやでも、この作品の柚香 光さんは本当に美しく、孤独感をこじらせて病んだり、コンプレックスをこじらせて有頂天になったりする姿が本当に魅力的でした。

ポーの一族」のアラン・トワイライトが好きだった方は、見ておいて損はない柚香 光なので、ぜひ!

マリーの星風 まどかさんは、こういう自分を持った強く落ち着いた役の方が個人的には好きです。言葉が武器である役は、歌が得意な彼女によく似合っていたと思います。

水美 舞斗さんの柔和で繊細で優しいショパンはイメージどおり、そして永久輝 せあさんのジョルジュ・サンドは本当に蠱惑的でもあるので、ぜひ劇場で見ていただきたいです!

一つあか抜けた感のある聖乃 あすかさんに、もはや貫禄さえ感じさせる音 くり寿ちゃん。まどかマリーが「ちょっと着られてた?」と思ったサロンのゴージャスな衣装もなんなく着こなしてしまうのもさすがです。

 

と全体に柚香 光さんと永久輝 せあさんの美貌に酔いしれた後のショー、これが辛かったです。

ショー グルーヴ
『Fashionable Empire
作・演出/稲葉 太地

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いや、普通の稲葉先生のショーなんです。

しかも、場面がトップスターから4番手まできれいに散りばめられて、見せ所もあるし、普通に面白かったはずなんです。

なのにこれはタイトルが悪い。

「Fashionable Empire」と冠がついているのに、衣装がダサい(涙)

いいんです、宝塚の衣装なんてダサくても着こなしてしまうことに意味があるので。

でもタイトルが「ファッショナブル」とついてると、よけいそのダサさが気になって仕方ない。結果、一つ一つの衣装をついついチェックしてしまううちに終わってしまったのがもったいなさすぎるので、今後タイトルには本当、気をつけた方がいいと思います。

特に柚香 光さんは、舞台以外のお仕事でこんだけ「ファッショナブル」な姿を見せているので、そのレベルを求めてしまいます。

しかも柚香さんのヘアカラーがめっちゃくちゃファッショナブルなだけに、衣装がそこに追いつけない哀しさ。

これ、今からでも「Passionable Empire」とかに変えませんか、真剣に。

そうすれば普通のショーとして楽しめる気がします。

想像以上のジャズクラブ体験@霧矢大夢ビルボードライブ大阪

5/19(木)19:00~ ビルボード大阪

Member  
霧矢大夢(vo) 
 
三枝伸太郎(音楽監督、p) 
会田桃子(vn) 
西嶋徹(bs) 
今井義頼(dr) 

Guest 蒼乃夕妃

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二度目のビルボード体験がまさか霧矢くんのライブになるとは思っていませんでしたが、いい意味で期待を裏切られた内容でした。

因みに最初のビルボード体験はこちら↓↓↓

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というのもセットリストがほとんどジャズ。

宝塚時代の曲は2曲だけ、だったような気がします。

そんなセットリストを記録として残しておきます。

 

【前半】

1.It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing)/英語
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2.Cheek to Cheek/英語


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3.Stardast


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4.I Got Rhythm


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5.他人の関係(一青窈

6.Feeling Good


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7.Lady is A Trump(蒼乃夕妃さんとデュエット)

と教えていただきました!

記憶の中のイメージとあっていてよかったです😌


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8.Unforgetable(蒼乃夕妃さんとデュエット)


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9.あなたこそ我が家(スカーレット・ピンパーネル/蒼乃夕妃さんとデュエット)

 

【間奏(バンド演奏のみ)】

On The sunny Side Of The Street


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Take the A Train


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【後半】

10.That's Rich(ニュージーズより)


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11.I Don't Nees a Roof(Big Fishより)


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12.ZAZZ(The Promより)


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13.Charming(ナターシャ、ピエール&グレートコメットより)


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14.Coner Of The Sky(ピピンより)


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15.You Raise Me Up

 

【アンコール】

16.魂のルフラン

17.Smile


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どうですか、この霧矢さんの「ミュージカル」と「ジャズ」に愛を感じる選曲!

もう本当どれも素晴らしくて、「ビルボードの夜」を堪能。

しかも霧矢さんから「乾杯」もあり、「全力で観劇します!みたいな感じじゃなくていいんですよ。いっぱい飲んで食べてください」みたいなお声がけがあったのも、「あー会社帰りのナイトライフを優雅に楽しんでいるんだ、私」と思わせてくれました。

 

前半の服装はちょっとシースルーな黒のパンツスタイルだったので、やはり蒼乃夕妃さんとのデュエットが心に残りました。

宝塚時代の曲は1曲「あなたこそ我が家」だけだったのですが、あの頃、組替えしてきた若きトップ娘役さんということで若干の緊張感もあった蒼乃さんが、本当に柔らかい雰囲気で幸せそうに歌われていて、すごく多幸感に包まれました。

ここでの楽しいトークTwitterにつぶやいたので、どうぞ(笑)

ちなみにこの日は霧矢さんも蒼乃さんから「エドワード8世」のときにもらった指輪を付けていたとのことで、懐かしのきりまりタイムも堪能しましたw

 

そして間奏の選曲がまた心憎い!

ピアノ、ヴァイオリン、サックス、ドラムで編成されたバンドメンバーのサニーサイド、堪能させていただきました。

 

後半は霧矢さんが宝塚卒業後出演されたミュージカルからの選曲だったのですが、残念ながらわたしが見ていたのが、霧矢さん曰く「みんな大好き」な「Big Fish」と「ピピン 」しかなくて、でも見たかった作品ばかりだったのでうれしかったです。

その中でもとても楽しみにしていた大阪公演がコロナ禍で中止になった「The Prom」の曲を歌ってくださったのが特に感動でした。

しかも見ていない観客用にちゃんと役柄と曲の内容の説明もしてくださる!

で、これから再演がはじまる「ピピン」の宣伝をされてその中から一曲とのことだったので、ファストラーダの「Spread a Little Sunshine」かと思っていたら、まさかの「Coner Of The Sky」!

またこの曲の持っている少年味が霧矢くんの中にある魅力と合致して、本当に魅力的でした。しかも歌詞、聞き取りやすい!←大事。

 

で、「You Raise Me Up」でしっとり終わったあとのアンコール「魂のルフラン」には驚きました。

とはいえ蒼乃さんとのトークの中で、宝塚卒業して10周年というお話しがあったので、サヨナラ公演のショーの最後の大階段で歌った曲が選ばれるのは、まあそうですよね。

ただサヨナラ公演当時もなぜ霧矢さんにこの曲なんだ!と思っていた上に、今回、霧矢さんから「当時この曲を知らなくて、アニソンかーと思った」というお話しがでて、「霧矢さんの希望じゃなくて、やっぱりサイトーくんキミの趣味か!校舎の裏に来てもらおうか!(怒)」てなったんですが、これを歌ったあとに

と、霧矢くんの天然っぷりが発揮されてかわいかったので許します←何目線(笑)

 

そして最後の曲「Smile」で泣きました。

大好きな大好きな、わたしの中でとても大切な一曲で、それを最後に歌ってくださるこんな幸せなことがあっていいんでしょうか。

日本語だったのがちょっと残念だったのですが(インスタで三木先生の訳詞で歌っている曲が多いと書かれていたので、三木先生が宝塚ショー向けにつけた歌詞だったんだろうな)、最初、チケット取れたら行くかーくらいの気軽な気持ちだった自分をちょっと反省しました。

 

霧矢さん自身もビルボードの空間を楽しんでいらっしゃる雰囲気が伝わって、終始楽しいステージでした。そしてまたこのような機会をもうけたい、その頃には客席を練り歩いたりできたらいいな、ということだったので、今度そのような状況で開催されることがあったら、その時はサービスエリアで食事とアルコールとともに「霧矢タイム」を堪能したいな、と思います。

映画とも小説とも違うバンクス氏を救う物語@ミュージカル「メリー・ポピンズ」

5/21(土)17:30~ 梅田芸術劇場

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キャスト

メリー・ポピンズ笹本玲奈
バート:大貫勇輔
ジョージ・バンクス:駒田一
ウィニフレッド・バンクス:知念里奈 
バードウーマン/ミス・アンドリュー:鈴木ほのか
ブーム提督/頭取:コング桑田
ミセス・ブリル:久保田磨希
ロバートソン・アイ:内藤大希/石川新太(Wキャスト)
ジェーン・バンクス:西光里咲
マイケル・バンクス:井伊 巧

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わたしのメリーポピンズ好きはこの辺に書いているのですが、

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2018年の初演を見に行っていなかったのは、2005年にロンドンでこの作品を見て、「やっぱり映画版が好きだ」という結論に達したからです。

しかし再演は大好きな笹本玲奈ちゃんが、念願だったメリーポピンズ役を射止めたということで、それなら見に行こうか、と赴きました。

そして、反省。

ロンドンで見たときに全然英語が聞き取れていなかったことに(涙)

 

映画版とは登場人物も物語もキャラクター設定も微妙に違うのです。

なので「もしやこっちの方が原作に近いのでは」と思って、見終わった後、大慌てで原作の最初の2冊を読みました。

そして、理解。

舞台のミュージカル版は原作とも映画とも違うメリー・ポピンズの物語なのです。

そして思っていた以上にバンクス氏の物語でした。

この映画が大好きなわたしにとっては、

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それがとても琴線に響いて、初演を見なかったことを後悔しました。

とりあえず上記の映画がお好きな方にはぜひ舞台ミュージカル版も見ていただきたいです。

Mr.BanksがSavingされることに心がぎゅっとします。

そして、舞台版ミュージカルが好きでこの映画を見ていない方は、ぜひ映画もご覧になってください。

きっと原作者のP.L.トラヴァースはこのミュージカル版も好きではなかったと思うのですが、少なくともディズニーアニメ版よりは溜飲が下がったんじゃないでしょうか。

 

2005年にロンドンで見たときには演出や振付も全くチェックしていなかったのですが、共同演出と振付がマシュー・ボーンじゃないですか!

そりゃあ「Jolly Holiday」も「Step In Time」も見事なダンスシーンになっているはずです!

さらにやっぱりセットがいい。

とりわけバンクス氏が勤務している銀行の、ある視点から見上げたような形で作られたセットが素晴らしかったです。

こういうセットがまだまだ日本では生み出せないのだよなあとしみじみしました。

 

そしてそのマシュー・ボーンの振付を活き活きと踊る笹本玲奈メリー・ポピンズがとても魅力的でした。

彼女の持つ甘い雰囲気は本来メリー・ポピンズ向きではないでしょう。

けれど映画のように「指をはじくと部屋が片付く」のをサクッと見せて、子どもたちを夢中にさせるシーンが作れない限り、メリー・ポピンズが今までのナニーと違って「若くてかわいい」ことは子どもに親しみを持たせるという点で納得しやすくもありました。

あとミス・アンドリューに「小娘」扱いされるのも自然に見られて、指先まで動きにこだわった彼女のメリー・ポピンズ、わたしは大好きです。

大貫くんのバートはダンスはさすがでしたが、やはりもう少し歌をがんばってほしかったかな。特にバートの曲は映画版からの名曲が多いので、難しいところですね。

 

2005年ロンドンでこの作品を見たときのわたしの一番のがっかり点は、最初のメリー・ポピンズの登場の仕方でした。そして2番目が、公園でバートが書く絵が普通に紙に書かれて壁にぶら下げられていることでした。

2番目は舞台の性質上どうしようもないですが、やはり最初のメリー・ポピンズの登場は東風に吹かれてやってきてほしいなと思います。

子どもも多い客席だったからこそ、最初で理屈なく「うわーっ」と思わせることは大事だと思うんですよね。

正直ロンドンで見たときは最後のシーンも、やっとここでか、みたいな気持ちになってしまったので、役者とスタッフの負担が増えてしまうことはものすごく理解できるのですが、もし演出変更が可能なら、次の再演時にはぜひとも「東風に吹かれてやってくるメリー・ポピンズ」を最初にがっと魅せてほしいな、と思います。

そうすれば「西風に吹かれて帰るメリー・ポピンズ」も、もっともっと際立つような気がするのです。

 

舞台版の脚本で興味深かった点は、バンクス氏の仕事の仕方の描き方とその育てられ方から、家族との(身体的にも)コミュニケーションを取るのが難しいことがわかるところでした。

そしてバンクス一家で一番問題なのは「ジョージ・バンクスだ」とはっきり示されている点でした。

ただそれをあべこべに「子どもが親に歩みよることも必要」的なセリフがあったのには、ちょっとモヤっとしました。

確かにバンクス氏には同情すべき点がたくさんある。

そして今と違って、結婚して子どもを持って家庭を作ってこそ男、みたいな部分も多いにあったでしょう。

けれども個人的には、子どもが親をケアする、のはちょっとひっかかってしまうのですよね。

「Saving Mr.Banks」(邦題:ウォルト・ディズニーの約束)で描かれているトラヴァースの父親は、社会になじめなくて大人になれない人だったけれど、少なくとも子どもへの愛情はたっぷり持っていて、だからトラヴァースがメリー・ポピンズを生み出すほどに、父親を愛して救ってあげたかったと思うのは納得できるのですが。

あとウィニフレッドの元女優設定はいるんでしょうか。

よき妻、母であらねば、みたいな感じもモヤっとポイントでした。

 

そう思うとこのミュージカル版はとてもよくできているけれど、ディズニー映画版はそういうところのストレスもないのがさすがだなと改めて思います。

特に「Let's Go Fly A Kite」の多幸感の中で、家族の知らぬ間にメリー・ポピンズが旅立つところがまた映画版の心憎いところ。

ただ、本当に演出、セット、振付は一流だし、普通にマジックのような小道具トリックを混ぜてくるので、大人から子どもまで楽しめる良いパフォーミングアートであることは確かです。

実はロンドンの時も上の方の席で見たので、次回もし再演があればぜひ1階席でも見てみたいなと思います。

 

あ、蛇足ですが、今回グッズよかったですね。

「A Spoonful of Sugar」はメリー・ポピンズファンなら買っちゃいますよね、ね!

horipro-shop.com

タオルやTシャツも、このスプーンのメリーポピンズ柄があったら買ったんですが。

そしてコスチューム巾着をハンドタオルでほしかった。

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そんなわけで、いろいろパワーアップしての再演、今からお待ちしています!

「家族の物語」が腑に落ちる@東宝「next to normal」

4/23(土)17:30~ 兵庫県立文化芸術劇場 中ホール

 

キャストはこちら。

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2013年マイケル・グライフ演出の初演は同じ劇場で下記のキャストで見ました。 

 

ダイアナ:安蘭けい
ゲイブ:辛源 
ダン:岸祐二
ナタリー:村川絵梨
ヘンリー:松下洸平 
ドクター・マッデン/ドクター・ファイン:新納慎也

 

しかしながら人生で2回目に死ぬほど働いていた時期で、その感想を残していないのが残念です。

数年後にこんなお願いを書いていたのですが、とにかくそれがかなったのが本当に嬉しかった公演でした。

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しかしながら今回は演出とセットが変わっていました。

確かに初演を見たとき、正直に分からない部分も多く、後でゲイブ役・辛源さんの解説を読んで、なるほど、と思ったことも多かったです。

そして今読んでも「なるほど」と思うことが多いので、再掲しておきます。

(そして初演当時、誰よりもこの作品を理解していただろう人のゲイブを見られたことを、今さらながら感謝します)

ネクスト・トゥ・ノーマル〜自分なり解説〜genshinactor.wordpress.com

 

今回、演出は上田一豪さんに変わったことにより、ヴィジュアルやステージングの面ではやはりマイケル・グライフ版よりかなり目おとりしました。

とりわけコーラスに回ったキャストの振付けが個人的には目障りに感じてしまいました。

そして初演時に圧倒的だったあのセットと照明がない。

ヴィジュアル面の作り込みという点では予算を含め、まだまだ日本は追いつかない部分であるなと思います。

けれどもその代わり、日本人の理解度にあわせた演出とステージングで、観客を分かりやすく誘導するステージングで演出だったことは確かです。

 

next to normalは双極性障害の母親ダイアナを支える夫とその子どもの話しです。

 

初演時より精神疾患は日本でも一般的になってきました。けれどもドラッグや薬の種類、そしてそれを日常的に話題にするか、となるとまた違ってくると思います。

(仕事に忙殺され、祖父母の介護問題がからまった結果、わたしは20代の頃から発症していた嘔吐とゲップを悪化させ息ができなくなり、当時の会社の先輩の勧めではじめて心療内科に通うことになりましたが、そのことをやはり会社や周りに伝えたりはしていないです。まあその後薬で治まり、かなり軽症になっているので、伝えるほどではないということもありますが。しかしあれほど辛かった症状が自律神経を整える軽度の薬を飲むことで劇的に改善されたのは、なぜもっと早く心療内科に来なかったんだ、とは思いました)

 

今回の演出では、今は誰の頭の中で誰の感情なのか、というところをステージングや照明で際立たせることによって、日本人の観客により分かりやすく、感情移入しやすくしてあって、それはとても素晴らしいところでした。

ただ個人的には外から家の中へを柱を移動させたり、そこまで分かりやすくするのは好みではなかったので、かなうならもう一度、あのセットで見たいです。

理解が進み、物語もしっかり把握した今、あのセットが物語っていたものをもっと受け取りたかったなと改めて思います。

 

歌も初演時よりはずいぶん聞きやすく感じたのは、少しテンポを落としてあるせいでしょうか。

訳詞は初演から小林香さんで変わらないので、同じだと思うのですが、今回は「えっと、ここを英語のままにするんだ・・・」と感じるくらいには聞き取れたので、テンポを落とすのもありなのかもしれません。

 

ビジュアル面のショックを除けば、念願の2回目の観劇となった今回、このチームのキャストで見られて本当によかったと思ったのは、昆夏美さんのナタリーでした。

初演ではナタリーの状況がよくわからないまま話が途中まですすんでいくので、ナタリーが単なるわがまま娘に見えていたんですよね。

けれども全てを分かって見ると、「Just Another Day」の「And if other Fam'lies live the way we do」という歌詞からもうナタリーが切ないんですよ。

しかも昆ナタリーが本当に16歳の少女にしか見えない。

それこそ同じブライアン・ヨーキーが脚本も担当している下記のドラマに出てきそうなくらい、リアルなんです。

www.netflix.com

だからナタリーのソロ「Everything Else」は胸がつまって、つまって(涙)

16年間この母親と過ごす、父親も「お母さんを支えてあげなければ」としか言ってくれない。

今回の演出ではヘンリーが終始、いい子なイメージでいたので、ヘンリーがいてくれることで少し安心しながら見られたのですが、逆に初演のときの、ちょっと不良なヘンリーが徐々に変化していくみたいな感じだったら、それはそれでハラハラドキドキしながらも別の感動を生んだかもなあと考えるくらい、昆ナタリーが本当に魅力的でした。

昆ナタリーの少女っぽい声がまた役によく似合って、16歳でこれだけの孤独を抱えているさまを見せつけられると、ダイアナやダンの身勝手さが目に付き、改めてすごい脚本ですごい作品だなと痛感しました。

そして本当にこれは「家族の物語」なのだと知らしめてくれた昆ナタリーが見られてよかったです。

 

初演から10年近くたち、双極性障害はじめ精神病の多くが、他の病気と同じように、家族の支えを必要としていることを知りました。

支える家族のしんどさや辛さは、自身がダイアナのようになることよりももっと身近に、「普通の隣」にあるもののような気がします。

そのナタリーが、さまざまな過程を経て、ダイアナに「普通の隣」くらいでいいと言う、そのことが今回は最後の希望につながったように見えて、もはやナタリーが主役なんじゃないか、そして本来舞台としてそれがあっていいことなのかどうかは分からないけれども、主役を飲み込むくらいの存在感で演じきって歌い切った昆夏美さんの今後がとても楽しみです。

 

ゲイブ海宝直人さんの「I'm Alive」は圧巻の一言。

もう楽譜が見えてくるような超絶テクニックに正確で響く歌声が素晴らしかったです。曲名にもあったsuperboyという言葉がよく似合うゲイブでした。

ダイアナにとって本当に大切で理想的で、だからいなくては生きていけない存在であることを実感。

そして誰の中にもこういう存在がいるのだろうなと感じるとき、next to normalという言葉が響いてきました。

 

安蘭さんのダイアナは初演のときとあまりイメージが変わらなかったです。

岡田さんのダンは最初からどこか危うさを感じさせて、だからこそラストシーンに納得。

新納さんは今回がよかったです!

前回は完全にマッドドクター的だったところが目立ったのですが、今回は医者としての苦悩も見えて、これだけの人をしても脳の病気というのは正解がなく難しいものなのだと改めて感じました。

そして初演時、ロボトミー手術みたいな時代遅れの恐ろしいそうな手術に見えていたETC療法(電気ショック療法)についても、ちゃんとした治療の1つなのだということが分かったのもよかったです。

 

昆ナタリーが魅力的すぎて、全体に昆ナタリー視点になってしまい、ダイアナやダンの苦悩を若干見過ごしてしまったのですが、今これを上演する意味としては「双極性障害」というものの認知度を高めるのもあるのかなあと思うので、同行人に教えてもらった双極性障害の方の実体験漫画を最後に紹介しておきます。

 

www.pixiv.net

そのトリガーはどこにあるか分からない。

わたしたちは常にノーマルの隣にいるのだな、と改めて感じるとともに、そうなったとき自分に知識が多少あれば助けになる気がするのです。

ダイアナのように本人が病気であることを認識し向き合わない限りは、今のところよくなりようがない病気のようです。

また逆にこのような病気の方が身近にいた場合も、早めに気づければ正しい治療が早く受けられるかもしれないので、よろしければ。

足りなかったものは何か@宝塚花組「TOP HAT」

4月5日 16:30~ 梅田芸術劇場

Music & Lyrics by Irving Berlin
Based on RKO’s Motion Picture
Book by Matthew White & Howard Jacques
Based on the Screenplay by Dwight Taylor & Allan Scott
Presented by Arrangement with RKO Pictures LLC, Warner Bros. Theatre Ventures Inc. and the Irving Berlin Music Company
Originally Produced on the West End Stage by Kenneth H. Wax
脚本・演出/齋藤 吉正

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ジェリー・トラバース 柚香 光
デイル・トレモント 星風 まどか
ホレス・ハードウィック 水美 舞斗
マッジ・ハードウィック 音 くり寿
ベイツ    輝月 ゆうま
アルベルト・べディーニ 帆純 まひろ

 

わたしが2016年梅田芸術劇場で見た来日公演「TOP HAT」は2014年からのUKツアーと同じキャストバージョンでした。

そのプロモーション映像がこちら↓↓↓

www.youtube.com

そして来日公演のカーテンコール映像と記者会見映像↓↓↓

www.youtube.com

www.youtube.com

記者会見の狭いスペースでも、こんなに美しいペアダンスを繰り広げてくださるお二人を見ていただいたら、わたしの当時の感想なんか必要ないですが、一応置いておきます。

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この英国版は2013年ローレンス・オリヴィエ賞(英国のトニー賞にあたるもの)の衣装デザイン賞と振付賞を獲得しています。

この映画版の"Isn't This a Lovely Day (To Be Caught in the Rain)?"

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のダンスをもっとボールルームダンスに近づけた感じの振付けになっています。

3:50くらいからのスローフォックストロットのリバースウイーブっぽい振付け部分に、英国版ではその技術とスピード感に息をのみ、うっとりと見とれた記憶があるのです。

しかしながらこれ、2人の軸が一つになって、遠心力で回っているため、2人のコネクションがないと美しく魅せることができません。

それが宝塚歌劇のダンスは宝塚歌劇のそれであって、ペアダンスのそれではないんだよな、と改めて感じました。

そして予算も恐らく全然違う。

英国版のプロモーション映像を見ていただくと分かるのですが、デイルの乗馬服が本当に上品でおしゃれ。

しかし宝塚版ではアイドルっぽいピンクベースのチェック柄で、まずデイルの衣装にがっかりしてしまいました。

 

イタリア人デザイナーの専属モデルであるデイルの衣装が美しくないと、やっぱりこの世界観の一部は壊れてしまったように思うのです。

 

そのくらいボーイミーツガールの中身なしのエンターテインメントを成り立たせるには、振付けや衣装、セットの力は大事だなと痛感しました。

そしてやっぱり来日公演版でも床のセットがありますよね。

この床が美しい「タップダンス音」の秘訣の1つだったのでは、と思います。

そういう総合点でこの作品は素晴らしいエンターテインメントショーとなり得た。

そう思うと、ペアダンスと歌のスキルと同時に、スタッフ力の差も大きく出てしまったな、というのがわたしの宝塚歌劇版に対する感想です。

 

その上で日本語だから英語のハンデがない、メリットが感じられなかったのも残念な点の一つでした。

日本語だけど歌詞は聞き取れないし、セリフも非常に聞き取りづらい。

むしろ来日公演のデイルの「Fascinating」のセリフの方が印象に残っているくらいです。

(てか、今回はどう訳していたんでしょう。デイルがジェリーのことをほめるセリフがあんまり印象にない・・・)

元々の翻訳がどうなっていたか問題はもちろんありますが、聞き取りやすい発声は生徒さんたちにも今後もっと期待したいところではあります。

 

という感想になることは、実は見る前からわかっていたのです。

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でもどうしてもシルクハットと燕尾服を着こなし、ステッキを持ってタップダンスを踊る柚香 光さんを見たかった!

ので柚香 光さんの顔に集中できる良い席を取りたかったのですが、残念ながら3階席しか取れなかったところがわたしの敗因でした。

それでも、ダンススターで心が躍ると身体も動く感じをナチュラルに演じる柚香 光さんはそれはそれはキュートでした。

そして一幕最後の“Top Hat, White Tie and Tails”はやっぱり圧巻!

ハッピーなダンスミュージカルの楽しさを存分に味合わせてくれました。

 

星風まどかさんはソロ歌唱は絶品。

ただ全体にポップなイメージのデイルだったので、もう少しクラシカルな雰囲気をまとったデイルだと好みだったなと個人的には思います。

(おそらく演出家はポップなデイルが好みだったのでしょう)
そして何よりこの作品を「ミュージカル」だな、と思われてくれた水美舞斗さんと音くり寿ちゃんの存在に感謝。
水美舞斗さんにいたっては作品中「下手に踊る」シーンしかないのに、ダンスをきっちり魅せてくれるし、歌も演技も安定している。
そして音くり寿ちゃんはマッジで登場する前は、ショーダンサーとしてバリバリ踊るし、マッジ役も適格に演じて、さらに水美さんとのデュエットシーンは「ザ・ミュージカル」してて大満足でした。
ただこのマッジ役、デイルより年上設定は特にいらないと思います。
「わたしくらいの年になると」の一言だけ削れば、同世代の違う生き方をしている親友同士という無理のない設定で、物語には何の問題もなく回るし、デイルとマッジの親友感を強めた方がデイルの勘違いと惑いも明確に打ち出せるはずなのです。
そう思うとセットと衣装というそのまま輸入してほしいところは輸入せず、日本アダプテーションで通せるところは通さなかったのだなと、やっぱりちょっと残念になりました。

 

ということでわたしブログに何度も掲載している本家本元フレッド・アステアさまの

「Cheek to Cheek」を最後にやっぱり置いておきたいと思います。

本当に夢のようなダンスですね。

この雰囲気を再現していた英国版をもう一度、できるなら今度はいい席で見たいです。


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お日さまスターの素晴らしさ@宝塚雪組「夢介千両みやげ」「Sensational!」

4月3日 15:30~ 宝塚大劇場

 

大江戸スクランブル
『夢介千両みやげ』
原作/山手 樹一郎「夢介千両みやげ」
脚本・演出/石田 昌也

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キャスト

夢介    彩風 咲奈        
お銀    朝月 希和        
総太郎    朝美 絢        
嘉平【夢介の爺や】    汝鳥 伶              
鬼熊【一つ目の乾分】    久城 あす        
梅次【五明楼の芸者】    杏野 このみ     
春駒太夫【娘手品師】    愛 すみれ        
三太【お銀の仲間でスリの少年、情報屋】    和希 そら        
浜次【五明楼の芸者】    妃華 ゆきの        
悪七【船頭、一つ目の御前の手下】    綾 凰華       
斎藤新太郎【修行中の剣客】    諏訪 さき        
お松【伊勢屋の女中】    野々花 ひまり        
お滝【悪七の妻、小唄の師匠】    希良々 うみ        
金の字【遊び人金さん、斎藤兄弟と剣客修行に帯同】    縣 千    
斎藤新次郎【新太郎の弟】    一禾 あお       
お糸【蕎麦屋の娘で春駒の付き人】    夢白 あや

 

このキャスト表を見て初めて知りました、斎藤兄弟と金の字が剣客修行していたことを‼ 十手持ちじゃないけれど、正義の人、くらいにしか把握していなかった哀しさよ。

この原因はどこにあるのかというと、やはり脚本、そしてセリフの届き方なんでしょうね。

しかしながら、全体には完全娯楽作な軽く楽しい作品で、宝塚歌劇としてはこういう作品も大事にしていってほしいなと個人的には思います。

 

原作はこちら。

小田原の庄屋の息子・夢介が父親から千両持たされ、江戸に「道楽修行」に来るところから物語は始まります。

ぼんやりしてておおらかな夢介は江戸のちょっとワルな人たちからいいカモ扱いを受けるのですが、それを上回る人の好さで、関わった人たちがどんどん夢介に魅せられ、改心していく、だけのお話です。

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終始、夢介は何弁だか分からない訛りでゆったりしゃべるし、カッコつけるところも数か所しかない。けれども、プロローグ終わって、お銀が夢介をひっかけようと同じ旅籠に泊まって、とお願いするシーンで「おらあ、おおいびきをかくそうだよ」と夢介が言った瞬間、

 

夢介、惚れた・・・、ラブ❤️

 

と思わせた彩風咲奈が本当にすごいと思いました。

(そんなわけで訛りがかわいかったので、わたしは訛りあり推進派です笑)

ヒロインお銀がまだ心動かされる前に、この一言で夢介のおおらかさにキュンとさせてくれたから、この後のヒロインにも、そのほか夢介に次々惚れていく人々にも納得できるのです。

彩風咲奈の「影のない」魅力が存分に発揮された当たり役だと思います。

劇中でも表現されますが、「太陽のような人」というのはスキルだけで演じるのはなかなか難しい。むしろスキルで演じられない役だから、今回この役を当ててくれただけでも石田先生には感謝かなと思います。

で、スキルの部分は雪組の娘役の面々が全部担ってくれました。

お銀・朝月 希和さんはじめ、梅次・杏野 このみさん、春駒太夫・愛 すみれ さん  、浜次・妃華 ゆきのさん、お滝・希良々 うみ さん、みんな本当にかっこよく素晴らしかったです。

その中でお松の野々花 ひまりちゃんが光りました。

全体に婀娜っぽい女性が多い中、いもっぽくしても輝くいじらしさ。        
終盤の大団円の主役は彼女で、その扱いにはもやっとするところもあるんですが、それでも彼女がいじらしくかわいくそこにいてくれることで、セリフ以外にもきっと総太郎 に届いたものがあったに違いない、と無理矢理納得させてくれた演技に感謝。

総太郎の朝美 絢さんもある意味当たり役。

というかこの美貌の人に「なにせこの顔、この器量、もててもててしょうがない」と言われると「あ、まあ、そうですよね。ご両親も甘やかしますよね。ろくでなしだけど、そうなっちゃうよね」という説得性がすごい。

そしてそこに説得性を持たせた朝美 絢さんのやりすぎない演技が適格で、素晴らしかったのです。

そんな個性的なメンバーに囲まれながら、ぐっちゃぐっちゃのこの話しを見やすくしてくれたのが、和希そらさんでした。

適格・明瞭なセリフまわし、役作り。

「夢千鳥」であんな病んだ人をやっていたとは思えない爽やかさに少年味もプラス。

色んな仮面とそれを表現できるだけのスキルを持ったこの人が、これから雪組で活躍してくれるのが楽しみです。

縣くんももちろん剣客修行三人組の中では普通に光って目について、そのスター性が楽しみなので、今後のために「長袴」のさばき方等、細々したスキルをしっかり身につけてくれると嬉しいなと思います。

その縣くんの「長袴」のシーン、子供の頃に娯楽時代劇が大好きで「暴れん坊将軍」「遠山の金さん」それからもちろん「桃太郎侍」も見ていたわたしとしては、大変なじみ深くかつ懐かしいテンションのあがるシーンだったのですが、今回2階席の前の方に男子高校生の団体さんがいらしてまして、彼らにとってはこのシーンどう映るんだろう、とちょっと気にはなりました。

 

細々とは気になる点や、ここはもっとスピード感を持って進めたらとか、ここはもっと会話のやり取りの間をしっかり詰めて演出したらもっと面白くなるだろうに、というところはたくさんあったので、本来の作品が持つだろう魅力を出し切れていない感じはあったのですが、総括したら「まあ、楽しかったからいいや」までくらいには仕上がっているので、あとは日を重ねて、新人公演を経て、全体にまとまりが出てくれるといいなと思います。

ので、完走を心より祈っています!

 

で、ショーですよ。

ショー・スプレンディッド
『Sensational!』
作・演出/中村 一徳

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いつものテンプレショーですが、やっぱり楽しい。

踊る踊る彩風咲奈、踊る踊る和希そら、踊る踊る縣千。

その中で歌う人が歌い、綾 凰華さんのサヨナラシーンもきっちり用意して、上級生から若手まで見せ場を作るこのテンプレート、本当によくできていると思います。

ただ思ったのが、テンプレだけに、忘れてしまう・・・。

いや、いいんですよ、ショーなんてひと時の夢なんですから。

でもいつまでも心に残っているショーシーンとかもあるわけじゃないですか。

なんならこのシーンのために円盤買う!とかあるじゃないですか。

記憶をたどるに中村 一徳先生のショーでわたしが覚えているのは「Rhapsodic Moon」のときの「ノートルダム・ド・パリ」のシーンと、あとは全部ブライアント先生振付シーンだなということに気づいてしまいました。

そんなわけで身体全体でリズムが取れるダンスをする和希そらがいてくれるうちに、ブライアント先生振付の復活を心から願っております。

ファンタジーは逃避か心のケアか@unrato#8「薔薇と海賊」

3/36(土)14:00~ 茨木クリエイトセンター・センターホール

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作:三島由紀夫

演出:大河内直子

音楽:阿部海太郎

 

出演

楓阿里子 霧矢大夢

 千恵子 田村芽実

 重政  須賀貴匡

 重巳  鈴木裕樹

松山帝一 多和田任益

額間 大石継太

定代 羽子田洋子

セリ子 篠原初美

チリ子 松平春香

 

unratoとは演出家・大河内直子さんとプロデューサー・田窪桜子さんによる演劇ユニットとのことです。ウェブサイトを拝見する限り、割と珍しい海外戯曲が取り上げられているような印象です。

その中で三島由紀夫の戯曲の中でもメジャーじゃない方を取り上げてくださったことに感謝します。こういう作品があったことを知ることができました。

 

さて事前に聞いていたのですが、この芝居は3幕編成でした。

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一幕は童話作家の楓阿里子邸に白痴の青年・松山帝一がお目付け役の額間とともに訪れる。ここで登場人物全員の紹介が行われるイメージです。

二幕目に物語が動き出す。

阿里子が帝一に心動かされ、それに夫・重政やその弟・重巳が振り回されていく。そして楓阿里子邸のいびつさが表面化していきます。

そして最後の三幕が途中から今まで見ていたものはなんだったのだろうか、というファンタジー展開に。

しかしファンタジーを描きながらも、阿里子が告げる最後の言葉に「三島、天才!」とゾクゾクするとともに、考え込んでしまいました。

 

阿里子の生きている環境は、個人的にはほぼほぼ生き地獄といっていいと思っています。自分への犯罪加害者と結婚し、その共謀者も自宅に住み込んでいて、それは阿里子の中の「整合性」と折り合いをつけるために阿里子が選択したこととはいえ、針の筵のような気さえするのです。

そこまでしなければならなかった阿里子の中の「何か」と、そして生きていくために童話、自分だけの美しい世界を生み出したことはつながっているような気がします。

 

この作品は娯楽作品ではないので、原因や理由や動機などは明らかにされません。

でもだからこそ考えてしまう。阿里子の孤独、生み出した美しい童話の世界、それに感銘を受けてくれた純粋無垢の青年。

この青年が阿里子の希望と夢であったことは確かで、でもそれが「恋」かと問われると私にはわからないのです。

 

ただ見ながら「100de名著」金閣寺回で解説されていた三島の「恋とコンプレックス」をなんとなく思い出させたのです。

心身ともに激しく傷つけられた阿里子が、どうにかして現実の世界と迎合しようと、自分だけの理論で組み立てた中で必死に生きようとして、それでも傷は癒えなくて違う世界を作り上げるその姿は、三島由紀夫自身にも見えてきたのです。

三幕で一瞬終わったかのように思えた戦いは、最後のセリフで、まだまだ続くのだと宣言された気持ちになってしまったのです。

それはとても哀しくて、こうとしか生きられない不器用さみたいなものも感じました。

あの三幕が現実であったのかどうかすらもわからない。

でもだからこそ心に残る、考える。阿里子とは何だったのか。

罪の意識すらもたず、かえって阿里子を崇め愛する醜い男たちは何なのか。

現実とは何なのか。何を現実というのか。

そういうことを思える作品に出会えた、いい2022観劇初めでした。

 

そして声を大にして言いたいのは、やっぱりこういう戯曲を上演するときには劇場で売りましょうよ、戯曲!

廃版で手に入らないのが残念でなりません・・・。

 

ところでキャストなのですが、一部で二人の男性が話す内容を聞くと霧矢大夢さんの阿里子はちょっと容姿的にミスキャスティングのような気がしていました。しかしながら、だんだん阿里子の内面が見えるにつけ、この人はこういう「楓阿里子」であり、こういう人だから、この世界で立って、あの最後のセリフを言えるのだと納得しました。

帝一とのシーンはラブシーンというより、大事なものを守る神のようで、それは三島の意図とは違っていたのかもしれないけれど、こういう「楓阿里子」をステキだと思わせてくれました。

【4月19日追記】

図書館で戯曲を借りて読んだところ、あとがきにこのような記述がありました。

本曲のラヴ・シーンは、クラシック・バレエのラブ・シーンの如きものである。(中略)それは甘い、甘い、甘い、糖蜜よりも、この世の一等甘いものよりも甘い、ラヴ・シーンでなければならない。この喜劇の中で、ラヴ・シーンだけは厳粛でなければならない。

文学座プログラム・昭和33年7月)

クラシックバレエのラブシーンということは、夢のように美しく作りこまれたもの、だと個人的に想像します。リアルではない。そこにリアリティがあってはならない。ただ美しく魅せてくれるもの。そう思うと三島の「ラヴ・シーン」とはわたしが想像していたものとは違っていて、この時わたしが感じた「神々しいほどの美」は、三島の作り上げたかったそれに近かったのではないか、と思ったりします。

 

他は千恵子役・田村芽実さんと額間役・多和田任益さんがしたたかさと世俗的なところを存分に見せて素晴らしかったです。

帝一さんは「夢の男性」なので、これはもう個人の好みでしょう。

個人的には霧矢さんの阿里子がチャーミングな面も持ちながらもきりっと頑ななイメージだったので、対比するような柔らかで透明感のある、その存在が夢と思わせる方だといいなと思いましたが、白いスーツが着こなせていた時点で十分です。

 

演出については、おそらくそれほどない予算の中でよく魅せてくださったなと思います。

ただ前に予算も劇場も段違いだろう「黒蜥蜴」を見たとき、三島のセリフの調べの美しさに酔ったのですね。

stok0101.hatenablog.com

 

これは日本語を「音」としてとらえられる分、ルヴォー氏の方が有利だったのかなあと思います。

そんなわけで、黒蜥蜴くらいの予算つけて、ルヴォー氏、この作品も演出してくれませんかねえ。

【4月19日追記】

初演で真木小太郎氏が手掛けたという装置(セット)も気になります。

彼のシックなセットに傾倒していた、とあとがきに書かれていたのですが、どのようなセットだったのか。

ト書きを読む限り、今回のセットは本当にト書きの通りなんですよね。

でもト書きどおりでも違う絵は見られた気がするので、

また違う演出・キャストでも見たい!

そう思うほど、いい作品でした。