こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

宝塚星組「ハプスブルクの宝剣」「BOLERO」

1月2日(土)15:00~ 宝塚大劇場

ハプスブルクの宝剣 -魂に宿る光-』
脚本・演出/植田景子

エリヤーフー・ロートシルト
エドゥアルト・フォン・オーソヴィル 柚希 礼音
アーデルハイト/テレーゼ(マリア・テレジア) 夢咲 ねね
フランツ・シュテファン 凰稀 かなめ
サヴォイア公子オイゲン 一樹 千尋
モシェ・ロートシルト 英真 なおき
ジャカン 涼 紫央
ラディック・ジリンスキ 彩海 早矢

元々の藤本ひとみさんの原作が大好きで、だから、文庫で上下巻もあるこの作品をショーとの二本立ての芝居にする、と聞いたとき、一体どうやって、と思った。
実際1時間45分の芝居に仕立て上げられたこの公演を見て、この長さでこれは、まあまあ良く出来ていると思う。
とりわけ前半、パドヴァから主人公エリヤーフーがフランクフルトに帰国し、最初の挫折から、アーデルハイトを巡っての決闘、そして、ユダヤを捨て名前を変えてオーストリアの宮殿に姿を現すまでの流れは、音楽を多用しスピーディーに見せてきた点は良かった。さらに、その音楽が主題歌以外も割と良くできていて、ミュージカル、と言っても遜色なかった気がする。
けれども、後半は、上手く見せ場を作ることが出来ず失速した感があり、前半が良かっただけにとても残念だった。
宝塚的に、そしてお正月公演として、少し陰惨なイメージになるために避けられたのだと思うけれども、主人公の絶望を色濃く表現するためにも、やはり、ユダヤ人を街から追い出すシーンは、原作通り、マリア・テレジアから命令を受けて、ユダヤを断ち切るためにエリヤーフー自らその任を受け全うした、という風に描いた方が良かっただろう。そうすれば、再び希望を取り戻すシーンが、見せ場としてもう少し生きてきたような気がする。

この大河小説を1時間45分に短縮するにあたって、主人公以外の登場人物を表現する時間がなかったのは甚だ残念だし、演じる方もとても難しかっただろうと思う。けれども、この時間内では、主人公のみ描くというのは仕方なかっただろう。また宝塚歌劇のヒーロー像としては、そこそこ良く作り上げられていたし、柚希礼音はよく演じていた。
その他は正直なところ、殆ど見せ場なく、マリア・テレジアさえも主人公との愛憎を表現できるところがほぼなく、原作の魅力の一つだったフランツ・シュテファンと主人公との友情もあまり描かれず、だから、どう、ということも言えない。ただ、フランツ・シュテファンの生まれながらの品の良さと鷹揚さの中に見せる繊細な哀しみを、凰稀かなめが容姿を存分に活かして、線の細い美しさを表現してくれ、好印象。フランツ・シュテファンとマリア・テレジアは本当に一対のフランス人形のように夢のように美しく、美しさも宝塚歌劇の一つの魅力であるから、これはこれとして大層見ごたえのあるものではあった。それだけにこの二人を書き込めなかったのは残念である。

一方ショー「ボレロ」は、ポエティックな会話とショーの融合、という点では面白い試みだったのだけど、全体にクラシカルに寄りすぎて、お正月公演らしい華やぎには欠けた気がした。
それでも、中盤のラヴェルの「ボレロ」を一曲まるまる柚希礼音が踊りあげてしまうシーンは、衣装の派手さとは逆に振付自体は地味なのだけど、それこそたたみかけるボレロの旋律とともに、じわじわじわとのめり込むように彼女のダンスに魅せられ、終わった瞬間はしばし呆然とした。大階段前の白い鳥のバレエ風のダンスといい、柚希礼音の踊りは常に余裕たっぷりで、でも誰よりも美しく、これがあるから、今の星組のショーは見逃せない。
シーンとしては、スパニッシュ風のアラベスク模様のモノトーンのセットに吊り下げられた宝石が煌めくセットが唯一洗練されていて美しく、また、表現されたダンスも、宝塚では結構ぎりぎりのエロティックさもあって、面白かった。

それにしても、とりわけショーというのは、これだけ繰り返しているとどれも何となく似通うし、その中で斬新で面白いものを作るというのは難しい。それならいっそ、ショーももっと頻繁に良かったものを再演してもいいんじゃないかと思う。