こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

沈みゆく船にともに乗る@宝塚花組「うたかたの恋」「ENCHANTEMENT」

1/22(日)15:30~ 宝塚大劇場

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スタッフ

原作/クロード・アネ

脚本/柴田 侑宏

潤色・演出/小柳 奈穂子

装置/二村 周作

 

キャスト

ルドルフ    柚香 光        
マリー・ヴェッツェラ    星風 まどか        

ジャン・サルヴァドル    水美 舞斗        
ロシェック    航琉 ひびき
ゼップス    和海 しょう        
エリザベート    華雅 りりか            

フェルディナンド大公 永久輝 せあ
ステファニー    春妃 うらら
フランツ・ヨーゼフ    峰果 とわ        
シュラット夫人    糸月 雪羽
ブラットフィッシュ    聖乃 あすか        
マリンカ    咲乃 深音    
ラリッシュ伯爵夫人    朝葉 ことの        
ミッツィ    詩希 すみれ    
ソフィー・ホテック 美羽 愛    
ミリー・ステュベル    星空 美咲

 

改めてこの作品って原作があったのだなあと書きながら思いました。

わたしが初めて宝塚歌劇の「うたかたの恋」を見たのは1993年星組の大劇場公演でした。

そしてその後「エリザベート」が上演され、「ルドルフ 〜ザ・ラスト・キス〜」が上演され、もろもろ知識を得たあとに、久々に見た小柳先生による新演出「うたかたの恋」が非常に面白かったので、今、基本に戻って原作小説を読みたいなという気分になっています。

 

ちなみに2013年に宙組バージョンも見ています。

ということで、今10年おきに宝塚歌劇うたかたの恋」を見ている事実を把握しました(汗)

 

10年経つといい感じに記憶も薄れていたのですが、今までと「違う」ことだけは、さまざまなところで感じました。

もちろん記憶と同じシーンもちゃんとありつつ、記憶のあるセリフをこういう風に見せるんだ!というシーンもありました。

全体に言えるのは、この新演出は「エリザベート」と同じく「ハプスブルク帝国の黄昏」を内容、照明、セットで強く感じさせています。

(でもハプスブルク家の紋章付き赤い布で覆われた大階段のプロローグはちゃんとありますよ!あの前奏が鳴ってミラーボールが回って、幕開いて赤い大階段に白い衣装のトップコンビというのは、「うたかたの恋」気分がやっぱり盛り上がります!)

フェルディナンド大公は今までも登場していたのですが、そのパートナーであるソフィー・ホテックも登場させることによって(ちゃんとボヘミア人であることの紹介もあります)、この物語の先に待ち受けるさらなる悲劇を匂わせてくるのが、とても興味深いです。

 

そして今までの「うたかたの恋」は刹那の恋、宝塚歌劇らしいラブロマンスの印象が強かったのですが、この「うたかたの恋」は動乱の時代を生き抜くには辛かった皇太子の物語になっています。

ジャン・サルヴァドルが政治を語るシーンを街中のカフェに変更することで政治色がなぜか際立ち、だからそれに対応するルドルフの聡明さも見えやすいのも面白い。

そのため柚香ルドルフは上記の漫画に近いイメージのルドルフでした。

見ていて彼と同じ旧式の沈みゆく船に乗っている気持ちになったのです。

シーン毎に幕が降りて暗転になるという、古典的な進行具合も物語がゆったりと、でも確実に危険な方向へ進んでいる感じがして、緊張感を増したように思います。

でもその幕おり暗転も照明をゆっくりと1点に絞っていくとか、ほんのり残す部分は残すとかしてあって、個人的には古典的な手法をよく工夫して使っていた気がしました。

 

先述したようにマリー・ホテックなど、新キャラも登場させていますし、割愛しながらも理解しやすいよう足されているので、結果として活躍を期待したミッツィや二番手娘役格のはずのミリーも、かっこいい悪役女役ツェヴェッカ伯爵夫人、そして皇太子妃ステファニーも今までよりはセリフや出番が少なくなり存在感が薄く、その点は残念ではありました。

 

が、過度なストレスと精神的なもろさで苦悩する柚香ルドルフは「絶品」以外、何を言えましょう!

とにかく理屈なしに、マリー・ヴェッツェラが癒しとして必要で、それを取り上げられて、対外的に過剰なストレスがのしかかって来たときに、もうどうにもできなくて、軍服を乱して飲み暴れる柚香ルドルフが、美しすぎてこんな感じで心の中で発狂してました。

そんなルドルフの元に駆けつけてくれるマリー・ヴェッツェラに取りすがり、今まで見ながら「こっぱずかしい」と思っていた初夜シーンへのセリフを、あんなにナチュラルに聞かせる辺り、小柳先生も柚香さんもさすがだと思います。

(マリー・ヴェッツェラが自然と殿下からルドルフと呼ぶのがいい!「お前」呼びをなくしてくれたのと、指輪の日付をなくしてくれたのは心から感謝!)

 

でもこうなるとマリー・ヴェッツェラという役が本当に難しいなあと思わざるをえませんでした。

はじめて見たときには白城あやかさんのファンだったのでその美しさと可愛らしさにただただ魅せられ、あまりそのあり方のことは考えず、宙組版では凰稀かなめルドルフのたらしでダメなところに惹かれたダメンズ好きの女子なんだなあとか勝手な解釈をしていたのですが、ここまで「ルドルフ」という役をしっかり見せられると、マリー・ヴェッツェラのからっぽ感が逆に浮きだってしまったのです。

星風まどかさんはどちらかというと現代的なかわいらしさが漂う方で、「ルドルフ 〜ザ・ラスト・キス〜」で描かれたマリー・ヴェッツェラ像に近く見えたので、「皇太子という特別な存在に憧れるミーハー女子」として描いてしまってもよかったと思うのですが、そうもいかないのが宝塚歌劇のヒロインの難しさだなあと改めて思いました。

本当の意味の「小さな青い花」、つまりルドルフが「恋焦がれる何か」、「憧れ追い求める何か」のような象徴として、透明感を漂わせてただそこにいる、のが個人的には期待した方向の作り方なのですが、透明感というのはもう努力ではどうにもならないので、ニンでない役をきっちり仕上げてきたのは、さすがだと思いました。

 

他は華雅りりかエリザベートがステキだっただけに、峰果とわフランツ・ヨーゼフはもうちょっとがんばろうか、と思いましたが、シュラット夫人が歌の見せ場があって美味しく、マリンカとは違うオペラ系「歌うま枠」としてこういう役が継承されていくといいなと感じました。

ハムレットがバレエ版になっていて、そこでダンスの得意な人が活躍できるのもよかったし、妙なバランスに成り立っている両親の間で辟易と観劇している最中に社交界デビューしたばかりのマリー・ヴェッツェラを見初めたのが、分かりやすく描かれたのも面白い。

(ただかつてルドルフとハムレットが二役になっていたのは、あれはあれで好きでした。

あそこでハムレットの悩みを芝居で見ながら、マリー・ヴェッツェラの独白で彼女の思い的なものを語らせたのも、マリー・ヴェッツェラがからっぽに見えづらかった一因かも。でも「悩みに狂う王子と無垢な乙女」に憧れられる時代ではなくなったので、必要な改変だと思いました。)

このあたりは下記の本で描かれた内容を思い出しました。

マイヤーリンクの、これまた見ていて恥ずかしかった「キャッキャッウフフ」シーンも触りだけでさらっと流し、心中シーンにフェルディナンド大公を登場させてより政治色と皇室の悲劇感を強めてきたので、想像以上にズドーンと重苦しい気持ちで見終えました。

この本もぜひ読んでみたい!

ぜひとも電子化も検討していただけると嬉しいです。

 

そして、ズドーンと落ちた後の、ショー、楽しかったです!

「ENCHANTEMENT(アンシャントマン) -華麗なる香水(パルファン)-」

作・演出/野口 幸作

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星風まどかさんはやっぱりもう大人っぽい感じの方が似合う!

マリリン・モンロー、かわいい!

そして柚香さんも水美さんも、シルクハットとステッキが似合う!

可もなく不可もないレビュー的なショーでしたが楽しかったし(グッズの扇で一緒に踊るシーンはもうちょっと欲しかったけど)、2段のショーケース的セットが、最後の大階段横にも置かれてそこにショーガールたちが立ってくれていたのが華やかでよかったし、何よりフィナーレが「君住む街角で」からのデュエットダンスが「魅惑の宵」とミュージカルオタクに嬉しい選曲で満喫しました。

 

ただ芝居も新演出とはいえ、クラシカルな宝塚歌劇ですし、ショーもレビュー感あってクラシカルさが漂うので、わたしみたいな観客には楽しいのですが若い方は大丈夫かな、とかはちょっと心配にはなりました。