こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

過去への旅は現実を見せる@愛するには短すぎる/ル・ポァゾン 愛の媚薬Ⅱ

2月12日(土)16:30~ 中日劇場

「愛するには短すぎる」を見たのは、確か友人宅でのヅカ鑑賞会のとき。
なので、生の舞台は見ていない。けれど、正塚先生はやっぱりこういうコメディチックな芝居の方がミュージカルらしくてステキだな、と 大いに楽しんで見た気がする。
それでも、孤児院出身の真面目な財閥跡取り、という湖月わたるは、私個人の好みとして、もうちょい違う男役の方が好きかな、と思ったり、アンソニーとの友情の表現の仕方が、ちょっと好みではないかな、もうちょっとはっきりヒロインとの恋愛が見えた方が魅力かな、と思ったりもしていた。

さて、今回見た再演「愛するには短かすぎる」はどうだったか。
これが、なんと、すごく平たい分かりやすい物語になっていた(笑)
のどごしすっきり、つるんと食べれる感じw
初演は多分、その喉にかかる部分が魅力でもあったと思うのだ。
けれど、再演版は一切なし。とは言え、私が初演で感じていた違和感は払拭され、するっと楽しめて、私はこれはこれで良いと思った。
柚希礼音の孤児院から拾われたからこそ、求められている以上になろうと努力を重ねた、という性格が実にぴったり。アンソニーとも普通に男同士の友人、という空気で、また、夢咲ねねの親しみやすい可愛らしさが、より田舎出の女優を目指していたダンサーぽくて良いし、それゆえ頑固なところや不器用なところも伝わるし、身一つで働く女として共感も出来て、とにかく、このバーバラってコ、好きだなあ、と。
さらに、このフレッドとバーバラは、確実に最後の晩は一緒に過ごしたんだろうな、ということが分かる。全身でお互いを覚えておくために。ファンタジーとリアルの狭間。そういうこともきちんきちんと理解できるラブストーリーは破綻なく、酔えて、楽しめた。
 
けれども私がわざわざ名古屋まで赴いたのは、「ル・ポァゾン 愛の媚薬Ⅱ」のため。
芝居はついで(笑)
けれど、初演の「ル・ポァゾン 愛の媚薬」は、私個人は取り立てて好きだったレビューではない。プロローグの涼風真世さんの妖しい美しさと娘役の衣装は大好きだったけれど、それ以上に別に、わー、楽しいな、と思っただけで終わった作品だった。

それが、何故いそいそと遠征したかと言われると、今回合体した「ナルシス・ノアール」が大好きだったから。
そして、それをずっと今の星組でやってもらいたいと思っていたから。
その「ナルシス・ノアール」の中でも「アンダルシアの孤独」と「月とパリス」が今回のル・ポァゾンに入るとのこと。これを私が見なくて誰が見る!(笑)

初演も好きだったけれど、寧ろ柚希礼音で再演してくれるなら、その方が絶対いいに決まってる、くらいの意気込みで、わくわくと席に着いた。

けれど、始まってみたら、初演…、良かったな、と思ってしまったのだ。
もう21年前の作品だ。色々古い。特に振り付けが古い。彼女のような素晴らしいダンサーが踊ることで、それは余計に際立ってしまった。

でも、それよりも何よりも、ロマンチック・レビューってやつは、大劇場のあの劇場の広さと100人くらいの人海戦術と生オケとなにより装飾過多な衣装たちが必要だったんだ、としみじみ痛感したのだ。

プロローグの凰稀かなめの衣装一つとっても、初演と比べものにならない質素さ。
娘役の衣装は使い回しだからいいけど、男役たちの衣装が悲しいくらいにチープ。
センス、ということから見たら???でも、とにかく刺繍、スパンコール、布の素材&質感とやたらと豪華だった過去の面影なし。
前回の日本物ショーでも思ったけれど、この衣装の明らかな差は、宝塚の斜陽ぶりをつくづく感じさせて、とにかく哀しい気持ちでいっぱいになった。

あの頃、ミラーボールの光を七色に跳ね返していた衣装たち、そして、羽扇がむせかえるような圧倒的に煌びやかなロマンチック・レビューの世界はそこにはなかった。

生徒たちはみな、昔よりもスタイルよく洗練されている。
そして、ダンス力に限っては明らかに昔より優れている。
なのに、衣装とセットは衰える。
いや、シンプルでもいいのだ。衣装とセットには引き算の美学というのは存在するし、私個人はシンプルを極めたセンス良い舞台が好きだ。
でも、ロマンチック・レビューに限っては、引き算の美学なんて存在しないのだ。
私が見ていた宝塚は、本当にもうどこにもないのだと、そう思った。

それでも、夢にまで見た「月とパリス」で正当派バレエを踊る柚希礼音は素晴らしく美しかったし、夢咲ねねは歌と踊りのシーンで衣装まで変えてくれて非常に可愛らしく、心躍らせてくれた。
けれど、やっぱり感じる初演時の人海戦術。シフォンのドレスを纏ったニンフ役の娘役たちが舞台から溢れるようだったあの感じと違う。
ここは中日劇場だし、組子も半分、頭で分かっていても、どうしても違和感。

中盤のアダムとイヴシーンは元々が割りにシンプルだったので、衣装についての違和感は薄らいだけれども、ここは逆に剣幸さんというダンスが得意でないトップさんが、変わりにトップスター力を存分に発揮していたシーンだったので、元々踊れる柚希礼音には窮屈そうで、いかに喜多先生の振り付けとは言え、古いな、と感じざるを得なかった。

そして、もう一つ念願の「アンダルシアの孤独」。
初演の日向薫さんは歌が得意でなかったのと同時に、実に都会的でスマートな格好良さが魅力のトップスターだったので、このシーンが本来持つウエットさを伝え切れていないように子供心に初演を見たときから感じていたのだ。
闘牛士の自己愛と葛藤、そして破滅を描いたこのシーンは、テーマとしてとても面白いなとずっとずっと心に残っていて、だから、これを今や歌って踊れるトップスターになった柚希礼音にぜひともやってもらいたい、と思っていたのだ。
さらに「分身」としての凰稀かなめは美しく、背格好もあまり変わらず適役に思えた。
だから、今回のこのシーンは、最後のお互い殺し合う振り付けがなくなったのは残念だったけれども、私の理想の形で上演されて、そう、私が脳内で思い描いていた世界はこれだったのよ、と思わせてくれた。その点においては大満足。
さらに、当時三階から見下ろしていたので、正面から見ると、こんな風に照明が陰影を作り出していたのか、と新鮮な発見もあった。
けれども、やはり、とりわけ、セット転換のため、冒頭の歌が中幕前での上演になり、センスない吊りカーテンと、娘役のセンスないドレスではじまった時は、目を疑った。
途中で吊りカーテンがあがって、初演に近いセットと衣装になったときは心底ほっとしたくらい。

で、ここで過去の再演は終わるかと思ったら、その後、トップ娘役が喪服で登場して「ナルシス・ノアール」の再演は続く。そして、フィナーレに差し掛かると、なんと「ル・ポァゾン」がまたまんま再演。リストの愛の夢での白燕尾服のデュエット、さらに若手3カップルの歌もあって、そこからロケットまで、まんま「ル・ポァゾン」。
正直もうここくらいは、オリジナルで見せて欲しかったと思った。
オリジナルは、トップスリーのダンスの部分くらい。
そういうことを思っても、宝塚のスタッフ面、ハード面での体力の低下を感じざるを得なかった。
夢の世界を見に行ったはずなのに、不景気の現実をつくづく感じる。

それでも、かつての名作レビューはあっとういう間。
次から次へと繰り出されて時間を忘れさせて、楽しませてくれた。