7/6(土)18:00~ 兵庫県立芸術文化センター 中ホール
【台本・演出】 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【出演】
緒川たまき(森口ハルコ)
妻夫木聡(高木高助<俳優>/間坂寅蔵<映画の登場人物>)
ともさかりえ(ミチル他)
崎山莉奈 王下貴司 仁科幸 北川結 片山敦郎
この二つの作品で、ものすごーく今さらながら「ケラリーノ・サンドロヴィッチ」作品のファンになったわたしは、「ケラさまの昔の作品が兵庫に来るよ」と聞いて、それだけで「行く」と答えました。
そして何の前知識のないまま、座席につきました。
はじまってみたら、「カイロの紫のバラ」
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そのものの内容に驚愕。
え、これって「カイロの紫のバラなの?」ととまどいつつも、キャスト陣のすばらしい演技と、セットのステージング、そしてかわいらしいセリフたちにキュンとしたり、思わず笑ってしまったりしながら1部が終わってしまいました。
そして幕間に「カイロの紫のバラ」を元にした作品だったことを知ったのでした。
ちなみにウッディ・アレン監督の「カイロの紫のバラ」とはこんな作品です。
とはいえ、舞台は昭和初期の日本。どこかの田舎の小さな港町の設定になっていて、セリフは北国の方かなと思わせる架空の方言で書かれています。
映画の方の主人公セシリアは、普通に映画の主人公、スターを好きになる女性なのですが、ハルコはスターよりもわき役に心惹かれ「キネマ旬報」を熟読するオタク的な部分をたぶんに持っています。
そして、そんなハルコが好きな俳優「高木高助」はスターではなく売り出し中の青年なんですね。
だからハルコと高木高助が出会って話しをすると盛り上がって、高助がハルコに好意を抱く展開は映画よりもリアルに感じました。
映画は「夢物語」を強調することであのラストが活きてくるので、映画は映画で完ぺきなんです。
その完ぺきな映画を舞台化する際にこういったところで、舞台の生もの感とリアリティに差し替えてくるところが、もうさすがケラさまなのです。
しかしキャストの設定に多少のズレが生じているとはいえ、物語は映画のままに進んでいきます。
だからこの先どうするんだろうと、笑いながらもドキドキハラハラしながら凝視していたら、映画と同じく映画館に戻って、新作映画を見ながら少しずつ映画の世界に入り込み、笑顔になっていくハルコの横に妹のミチルがきてくれるんです。
ここでわたしの涙腺は崩壊しました。
ここも映画と違う点なのですが、ミチルが映画の主人公をやっているスターとひょんなことで一夜をともにしてしまいます。
もちろん彼は遊び。でもバツイチ子持ちのミチルは「本気」と信じたい。
そこですったもんだがあって、やっとミチルは現実を受け入れます。
経緯や質は違うかもしれないけれど、ハルコとミチルは結果的には同じような経験をするわけです。
スクリーンを見ながら笑い合う姉妹。
その心の内は見えないけれど、ハルコもミチルもきっとこれからはもっと強く生きていける、そう思えたのです。
映画「カイロの紫のバラ」のセシリアは一人でした。だから彼女はこの後、夫のはいた捨て台詞そのままに彼の元にもどるかもしれない。同じようなちょっと辛い毎日を支えるものとして「夢のような映画」はあるのだ。心がちょっとつかれているときに支えてくれる、それが「娯楽」なんだと痛感して、しみじみすごい「映画」だなあと思ったものです。
でも「キネマと恋人」では、わかってくれる人が一人でもいたら、人は少し変われて、少し強くなれて、ちょっとだけ違う人生を選ぶ勇気がでるかもしれない、と思わせてくれたのでした。
それはもちろん友だちであっても、単なる知り合いだったりしてもいい。
でも「キネマと恋人」ではそれは妹なのです。
劇中にもちょいちょいと「どうでもいい姉妹の会話」が入っていて、それがかわいくもわずらわしくおかしく、愛おしいです。
「アナと雪の女王」でもそうだったのですが、わたしはそんなに関係性の悪くない姉妹なので、どうしても「姉妹」萌えに入ってしまい、ミチルの登場に涙腺を崩壊させてしまったのでした。
でもそんな個人的なところを抜いても、「キネマと恋人」は単なる「カイロの紫のバラ」の舞台化ではなくて、映画とはちょっと違うものを届けてくれるステキな作品でした。
なにより舞台美術がすばらしい!
大道具が出演者の手で運ばれ、並び替えられて、次々とシーンが変わっていく。
イスが音楽に合わせて踊るように位置を変えるのは、少し「トミー・チューン版グランドホテル」を思い出させました。
映画の「グランドホテル」も劇中の会話で登場するのですが、全体にMGMミュージカル黄金期を感じさせる演出が好きでした。
それにしても緒川たまきさんのチャーミングさといったら!
声の美しいので、ハルコの話す「どこかはわからないけれど北国っぽい方言」のセリフがいちいちかわいい。ばりんこかわいい。さらに動き方も美しい。
その点で最初ともさかりえの声が気にはなったのですが、どんどんとミチル役として魅力的になっていくのがさすがでした。だからミチルが来てくれて、嬉しくて、泣いてしまったのです。
妻夫木くんは映画の中の役の方が、彼本来がもっている柔らかさや明るさがでていてよかったです。もちろん高木高助も好演。高木高助としての最後の船での演技は情感たっぷりで魅せました。
その他の方は一人何役もこなされているのに、全くそれを感じさせないのが本当にすごい。
音楽は終始「Cheek to Cheek」がかかり、心から「愛おしいなあ。好きだなあ」と思える作品でした。
それにしてもあの劇中で流れていた「架空の映画」の不条理さよ(笑)
「ミイラのミは包帯のほ」って意味不明のセリフ、誰が書けます?もうケラさまサイコー!
あれを撮影しているときの出演者の気持ちを勝手に想像しては、またにやけてしまう、そんな何倍もおいしい舞台でした。