こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

あさはかな少女の罪@ナイロン100℃「百年の秘密」

5月4日(金)12:30~ 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演
ティルダ・ベイカー 犬山イヌコ
コナ・アーネット 峯村リエ
チャド・アビントン みのすけ
エース・ベイカー 大倉孝二
老年のポニー 松永玲子
リーザロッテ・オルオフ 村岡希美
メアリー 長田奈麻
カレル・シュナイダー 萩原聖人
フォンス・ブラックウッド 山西惇

舞台はどこかの国の古き良き時代。
そこにはにれの木を中心に建てられた家があって裕福なベイカー家が暮らしている。
そのベイカー家に仕えるメアリーの語りからストーリーははじまる。
ある冬の日、ベイカー家の長女ティルダの元に同級生のリーザロッテとチャドが訪ねて、転校生コナの悪口を言っている。
うんざりしながらそれを聞いているティルダ。
そこへ父親との仕事を終えた弁護士のブラックウッドや、ティルダの兄エース、その友人カレルがコナとともに加わり、物語が回り出す。


ケラリーノ・サンドロヴィッチ脚本作品を見るのは二度目、演出作品を見るもの二度目、そして作・演出作品を見るのは初めてでした。

メアリーの口から「にれの木を真ん中に家が建てられ」と語られるので、本当にどーんとにれの木を真ん中に据えたセットに一瞬、え!?となってしまいました。
けれど芝居の中で、このにれの木があるのは庭だということに気づきます。
リビングのシーンにももちろん、にれの木はあるのですが、不自然さは感じず、リビングルームと庭でのシーンが入り乱れていくのがすごいです。
この話が「古き良き時代」であることを強調するような、古い映画の幕開きに似たオープニングがはじまったとき、そのプロジェクションマッピングに驚かされました。
プロジェクションマッピングが実にいいのです!
時間が巻き戻されていること、これが長い長い話で、でもずっとそこにある木からすれば、切り取られたワンシーンに過ぎないこと、そういうことがすごく伝わります。
そして単純にトリックアート的に美しくて、ただ美しいということは大事なんだと改めて思いました。

物語はティルダとコナという2人の女性を中心に回ります。
最初は少女時代、次はお互いに結婚して子どももそこそこ大きくなっていたり、かと思えば結婚したばかりの頃や、年老いた頃になったり、2人は死んで娘と息子の孫の時代になったりと時間軸が交差しながら、間を紡ぐように物語が作られています。

ややこしくはない、とは言えません。
けれどこの交差具合があのラストシーンを際立たせるのです。
もうその辺りがケラさま天才かと!

そしてこの交差具合が天才すぎてネタバレなしに感想を書けないのです。

物語は主にティルダとコナの友情が軸になっています。そこにカレルの恋が絡みもつれるのです。
時間が行ったり来たりしていく間に少しずつ知らされる真実。
2人の友情が実にアンバランスな秘密の中、継続されていたものだと知るとき、それでも裏切りとも取れる真実を経て、最後にお互いを思い合うとき、そこにあるものは一体何なのか、なんてことを考えてしまったのです。
それは単純に相手のことが好きだった、それだけなのかもしれません。

そういうことが2人の死を経て、最初に2人が秘密を共有したラストシーンにもどるとき、ああなんて子どもというのは純粋にあざとくて、あさはかで、自分に都合の良い言い訳をそれらしく産み出すのだろうと、泣かずにはいられなかったのです。
ほんのちょっとの焼きもち。
ほんのちょっとの恋心。
それが巡り巡ったあとを見せられたからこそ、この時2人がこの行動を取らなければ、どういう人生が巡ったのだろうかと思うと、これは人間よりも長く生きている木から見たとある人間たちの一生が描かれていたことに改めて気づくのです。ケラさま、天才か。

ということで戯曲を激しくおススメします。
まだ読んでいる途中なのですが、読みながらまたいろいろなことに気づける素晴らしい本です。

ケラリーノ・サンドロヴィッチII 百年の秘密/あれから (ハヤカワ演劇文庫)
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
早川書房


それにしてもそれにしてもですよ。
ティルダもコナもカレルもそれぞれに哀しみや強さや、弱さ、強かさを持っているんですが、エースがね、本当に弱くて哀しかったです。
またエースをそうさせてしまった両親が哀しい。
くらい、エースが格好良かったのです。
なんだ、あの頭身バランス!
大倉さん、テレビでもご活躍ですけど、舞台だと違う魅力が暴発していてやられてしまいました。

そこからいくと萩原聖人さんはすごく安定していて、少年からおじさんまで一切の違和感なく演じておられたのがすごい。

そしてティルダの犬山イヌコさんのあの声。
あれはもう武器の域ですよね。
あとはメアリーの長山さんが、出過ぎず抑えた素晴らしい演技をしておられました。

ところではじめ上演時間を知ったとき、
耐えられるかなあと思っていたのですが、始まってみたらあっという間でした。
そして兵庫公演千秋楽ということでカーテンコールにケラさまも登場!

実はこの上演時間を知ったとき、幕間にお腹を満たす時間がないと判断し、開演前にホワイエの片隅でサクサクっと小腹を満たしていたらケラさまが目の前を通られたのですよね。
この公演を観たあとだったら、とにかく感動したことをお伝えできたのに、と思うと残念です。

で、この時にケラさまって外国を舞台にするのはなぜだろう、と話していたのですが、それはなぜなんでしょうね。
今回の話しも、舞台が日本でもまあ別にいいような気がしているのですが、そこは私がまだケラさまの世界を理解していないからなのでしょうか。
あ、あと冬の日が多いのに枯れたひまわりがセットにたくさんあるのはなんの隠喩なのでしょうか。というか戯曲読んでから枯れたひまわりと知ったくらい、普通にひまわりの花が咲いてるんです。その辺りは何度か見ていると分かるのかなあと思うと、一度しか見られなかったのが残念です。