こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

人生は波のように@KERA CROSS「骨と軽蔑」

4/6 18:00~ @サンケイホールブリーゼ

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作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演及び配役

マーゴ 宮沢りえ

ドミー 鈴木杏

ネネ 犬山イヌコ

ミロンガ 堀内敬子

ソフィー 水川あさみ

グルカ 峯村リエ

ナッツ 小池栄子

 

東西内戦がつづく国のお屋敷に住む家族とそれに関わる人々の話しなのですが、このお話しの中で何を受け取るかは本当に人ぞれぞれだろうな、と感じました。

いや全ての作品がそうなのですけれど、この作品は重い設定の中で人物はそれぞれに哀しみを抱えながらも表面上は飄々と生きていて、だからこそどこが引っかかるかは本当に観客側に委ねられているなと思ったのです。

ちなみに私は、幸不幸というのは人生において交互に押し寄せるものなのだなあ、ということでした。

KERAさま作品初出演の堀内敬子ちゃんが、最初虫役で出てきたときは「え!まさか堀内敬子ちゃん、今回ずっと虫役なの?」とびっくりしましたが、虫なのは2回だけでした。でもこの「虫」が私は人生の中のアップダウンの切り替えし部分に見えたのです。

グルカを助けてくれた恩人と勘違いした「虫」が彼女に、お礼に願い事を叶えようという。「虫」は「世界平和とか」と提案するが、軍需工場の経営によって「お城」とも呼ばれるお屋敷に住んでいる彼女にとっては「世界平和」が訪れたらこの先に生活がますます成り立たない。

「多くの人が望んでいるからってみんなが望んでいるって思わないで」的なセリフをグルカが言ったときにハッとしたのでした。とりわけ「絶対悪」に思えるものに関しては、どうしてもそうじゃない方が全ての人にとってよい、それは間違いない、と思いがちで視野が狭くなる部分だなと思うとともに、「戦争」というのは誰かが儲かるからやるものでもあると改めて認識してその根の深さを痛感しました。

ここでグルカが望むことは「幸せ」です。何気ない幸せ。現在夫の健康状態が芳しくなく、工場からの生活費が途絶えた状態で、秘書兼看護人のソフィーがまるで自分が妻のように我が物顔で家にいる。グルカと夫の関係がどう始まったのか、そして病気になる前はどうだったのかは分からないけれど、良好そうには見えず、彼女はアルコールに逃げている状態です。その中で望む幸せ。

幸せっていうのは・・・夜寝る時に

「今日はいい一日だったなあ」とか、

朝起きたときに「ああなんてきれいな空かしら、

今日もいい事がありそう」とか、

そんな風に思えることです。それが幸せ。

確かに何気ないけれど、こう書き出してみるとこんな風に思いながら過ごせている人がどれくらいいるのだろうと改めて感じました。

何気ない幸せほど難しいものはないのかもしれません。

しかしとりあえず「虫」とのこの会話の後、夫が死に、グルカは夫に代わって敏腕社長になり、ソフィーもグルカに惚れ込んで活き活きと働きます。さらに泣かず飛ばすの作家だった長女マーゴの作品が文学賞を取ったりして、彼女たちのいわゆる「人生の質」は爆上がりしていきます。

人生の質があがると、何かしらの「余裕」ができる。

だからずっとギスギスしていた妹ドミーとも、ひょんなタイミングで仲良くなったりするし、お手伝いさんのネネは「砂糖をまぶしたビスケット」が食べられて、ずっと未払いだった賃金が支払われたりするのです。

一方で担当編集者のミロンガは売れっ子になったマーゴへの興味をなくし、マーゴにとって話しのできる唯一のファンだったナッツはぞんざいに扱われて切ない思いをしたりもする。

幸不幸というのは分からないなあと思いながら、見続けると再び「虫」がやってきて、今度は殺された仕返しをするというのです。

そこからのラストシーンの緊張感が本当にすごい作品でした。このラストシーンがもしかしたら最初に「世界平和」を願っていたらやってこなかったかもしれないと考えると、本当にものすごい作品です。

 

とこう書いてしまうと、ものすごくシリアスで残酷な舞台だったように思えるのですが、シリアスで残酷な内容でも、笑いと軽やかさというのは両立できるのが、これまたすごいところなんですよね。

そして笑いというのは、言い方と間で成り立つんだなと改めて思いました。

というのも隣の席が小学生低学年くらいの子どもさんだったのですが、このKERAさまの言葉と間の演出効果で、笑いっぱなしだったのです。

少なくとも彼には「ものすごく面白い演劇体験」だったことは確かで、小学生が笑えるということは、もちろん我々だって笑うところはめちゃくちゃ笑いながら、KERAさまの演出のすごさ、それを実現できるキャストのすごさを感じる舞台でもありました。

 

中でも今回ネネを演じた犬山イヌコさんは、舞台上から観客へ語りかける部分を担っていたのですが、その塩梅がすごい。

もちろんお芝居なのでイヌコさんしか話していないんですけど、客席全体が「話かけられた」気分になったと思うし、客席との反応とイヌコさんが確実に「会話」していたような気すらしたんですよね。それでいて、舞台の世界観の中にちゃんといる。これってなかなかできることじゃないと思うのです。

キャストは本当にみんな魅力的だったのですが、その中でマーゴを演じた宮沢りえさんの「主役たる華」を今回一番感じました。宮沢りえさんを舞台で拝見するのは3回目でしたが、1回目は「象徴的に登場する役」で2回目は「ザ・タイトルロール」で、こういうキャスト全員主役の中の一人、みたいな立ち位置の役を見たのは初めてでした。それでも宮沢りえさんには目を引く何かがある。それを華と呼ぶのかもしれないなあと今さらながら思ったのです。

逆に妹ドミーを演じた鈴木杏ちゃんは、支え感がすごい。杏ちゃんの役どころが一番内向きというか、自分と姉とその夫にしか関心がなく、他の役とあんまり関わらないのに、作品全体を支えている感じがしたのが不思議です。

小池栄子さんの「投げ込まれた違和感」のチャーミングさ、峯村リエさんの安心感(最後にイヌコさんと二人で組んで階段をあがっていくところは「百年の秘密」を思い出させてほっこりしました)。堀内敬子ちゃんはさすが「ミュージカル界の北島マヤ」ですよ。虫だろうが敏腕編集者だろうが、彼女がとらえれば確実にその役になっちゃう。そして当たり前だけど動き方がキレイ。

その中で水川あさみさんがワンシーンだけちょっと「動き方が雑だな」と感じたところがあったので、この辺が舞台と映像の違いなのかなと思います。とはいえ、水川さんも発声も滑舌も素晴らしく、チャーミングでどこかファンタジックさを感じさせる世界観をしっかりと作られていました。

 

そういえばセットは「百年の秘密」的に、屋敷の中と庭が混ざりあった感じだったのですが、「百年の秘密」ではそれを自然に話に溶け込ませていたのが、今回は敢えてそこを突っ込むスタイルにしていたのも面白かったです。見せ方的にも、実際の笑い的にも。

 

それにしてもマーゴが賞を取った「小説」のザクっとした内容が語られるんですけど、これこそファンタジックで怖いような話で、こういうことをどこから思いつくのか、毎回新しい作品を見るたびに思うのですが、KERAさまの頭の中はどうなっているんだろうとしみじみ。

とりあえずこの作品も戯曲も読みたいので、発売を楽しみにしています。

伝統的なレビューシーンとサヨナラ仕様の力技@花組「アルカンシェル」

3/15 13:00~ @宝塚大劇場

ミュージカル
アルカンシェル
~パリに架かる虹~
作・演出/小池 修一郎  

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キャスト 
マルセル・ドーラン 柚香 光
カトリーヌ・ルノー 星風 まどか        
フリードリッヒ・アドラー 永久輝 せあ        
ペペ 一樹 千尋        
コンラート・バルツァー 輝月 ゆうま        
マダム・フランソワーズ・ニコル 美風 舞良        
コーエン/ギヨーム・ブラン 紫門 ゆりや        
ジョルジュ 綺城 ひか理        
イヴ・ゴーシェ 聖乃 あすか    
アネット星空 美咲        
少年イヴ 湖春 ひめ花

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ナチス占領下のパリ。

アルカンシェルというレビュー劇団の花形歌手・カトリーヌと天才ダンサー・マルセルの恋物語に、ナチスによる占領、文化統制とそれへの反抗を味付けとして加えた、実にシンプルな物語だった気がします。

多分そのシンプルさが「浅さ」と言われる原因でもあったと思うし、ナチスドイツ国防軍の描き方については、見てから簡単に調べられるところは調べましたが、深く理解はしていないので、その辺の設定の甘さ(と呼んでいいのかも分からないけれど)については何も言えないのですが、正直に私はミュージカルにおける物語はこのくらいシンプルでもいいと思っているんです。

マルセルとカトリーヌ以外のキャラクターの書き込みを捨てて、付け加えたレビューシーンが王道でも多様で美しく、卒業するトップコンビの強みや魅力をこれでもか!と伝えてくれるものだったし、何より二人のラブシーンと関係性がステキだったので、これはこれで本当に「王道の宝塚歌劇」だと思っています。

 

確かに一本物にする意味はなかったかもしれません。

でもとりわけサヨナラ公演を、もろもろな不調が原因で休演日が続出する可能性を考えると、ショーよりは代役が立てやすく、恐らく体力的にも少しはラクになるという点で、最後の公演をできる限り上演するという意味では、今だからこそ興行の形として「アリ」だったんじゃないかなと思っています。

(前回の雪組大劇場公演で、個人的に応援している人の卒業公演が長期間休演になる厳しさを痛感したのです)

 

始まり方も個人的には大好きで、狂言回しが状況を説明している間に彼の祖父(少年期)が登場して、その父親がやってくる。そしてリハーサルがはじまるから、とオケの指揮者に「マエストロ、シルブプレ」と声をかけると、音楽がはじまり、ミラーボールが回って、幕が上がり、緩やかなカーブを描く階段にずらりと並ぶタキシードにシルクハットの男性、ドレス姿の女性たちが踊る光景は、恐らくその時代のレビューのシーンを意識しながら、きっと1927年「モン巴里」から上演されはじめた「宝塚歌劇レビュー」の伝統も受け継いだものだったように思ったのです。

4. レビューとシャンソン | 近代日本とフランス―憧れ、出会い、交流

紳士淑女の伝統的なペアダンスから歌姫の登場、ウィンナワルツ、スイングジャズ、ラテンダンスとさまざまなレビューシーンが登場する中で、一番個人的に好きだったのが、モダンダンスに憧れるマルセルが「アルカンシェル」の伝統的演目からコンテンポラリーな振付で踊る、物語のはじめの方の「モンマルトルのピエロ」でした。

もうこの柚香光の美貌とダンスを魅せつけるこのダンスシーンだけで、この作品は価値があると思ったのですが、カトリーヌとの恋愛と共闘、そして最後の「対等なパートナーとして選択」するシーンは、なかなかグッとくるものがありました。

(ところで、マルセルの部屋のモダンダンサーの写真は誰なんでしょうか。時代的に、勝手にバランシンだと思って見ていたのですが、ニジンスキーの名前が出せるならバランシンだって出してもいい気もするので、違うどなたかなんでしょうね、きっと。でもとりあえず、バランシンの写真が美しいので、貼っておきます。)

www.dancemagazine.com

何よりカトリーヌが恋愛しながらも「アルカンシェル」の責任者として考え、一人で危険も伴う慰問活動も契約期間を全うして戻る、ところがとても自立していて魅力的で、歌はもちろんのことながら、この「強さ」というのは、はじめて星風まどかさんを認識した「アナスタシア」でも感じた魅力だったので、強くてたくましい役を演じている彼女を見られたのも嬉しかったのです。

そして使われている音楽なんかも、このコンビで上演した作品を思い出させるものや、花組を思い出させるものが多く、「サヨナラ公演ってこういうものだなあ」と普通に堪能しましたし、それを楽しめる作品だったと思います。

あと「モンマルトルのピエロ」が後半でも印象的に登場するあたりの魅せ方とかも、やっぱり普通に上手いんですよね。リプライズってミュージカルでカタルシスを感じるところでもあると思うのです。

 

その中で二番手の永久輝さんは割をくったというか、フリードリッヒ(フリッツ)のキャラクターの書き込みが甘く、ご本人の個性のアテガキで押し切られている感があって損をしたかなとは思うのですが、相手役となる星空美咲ちゃんとちゃんとカップルで、次世代を背負う二人を見せたのも、サヨナラ仕様だったなと思います。

特に星空美咲ちゃんアネットは、カトリーヌの代役をするシーンもあり、次のトップ娘役の輝きを十二分に発揮しててステキでした。

そして恐らく次の二番手スターとなる聖乃あすかさんは、完全なる狂言回し役で、今この時点でこういった「セリフで状況をきちんと伝え、舞台全体を俯瞰で見る」という経験をされたことは、今後に活きてくるのでは、と個人的に思います。(ので東京公演では滑舌の一層の向上を期待!)その上で舞台に溶け込んで真ん中で魅せるシーンもナチュラルで、今後の活躍が楽しみです。

 

さてナチスというか、ドイツ国防軍、SS、ゲジュタポの表現については私は知識がないため、それほど不自然には見えませんでした。フリッツがいい人というよりも、普通に徴兵制でドイツ国防軍に入ったのなら、あんまり深く考えずにそこにいて、言われたことに従って働いている人に見えました。深く考えない、ところは問題だったかもしれません。それでアルカンシェル自体も大変なことになったりもするので。その時その場がどういう空気だったのか、というのは私には分からないけれど、こういうフリッツみたいな、自分が何しているか無自覚な権力者側に属する人がいたんじゃないかとは思いますし、自分自身が疑問持たずに国家権力に従って真面目に生きていたらフリッツみたいになっている可能性はあるなと思います。(ド平民なのでフリッツのような管理職みたいな立場にはならないだろうけど。)そしてそのあたりが深く描かれていない、というのがナチスという存在をエンターテインメント作品で扱うに当たって甘かったところの1つなのかなと想像しています。

でも逆にフランス人のジョルジュがいろいろあってナチスに傾倒し、でも最終的にはああなっちゃうのが、今回の役のなかでは個人的に一番印象に残りました。それをさりげなく演じた綺城ひか理さんがいい。

この記事では女性のことしか書かれていませんが、男性だって同様だったと思います。

yukashikisekai.com

憎しみの連鎖が始まるところは劇中では描かれませんが、こういったことも考えると、それなりに意味のある作品だったような気がしています。

何より、劇中に登場し、大ナンバーにも展開される、パリ市の標語「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」という言葉は、現状の観客もそして多分、舞台の上の人たちも共通の思いなような気もしました。

パリは「たゆたえども沈まず」(Fluctuat nec mergitur) | ハフポスト NEWS

 

で、フィナーレはですね、いつもの小池先生仕様で、せっかくだから、ひとみさ(略はこれでいいんですか?)新トップコンビにバトンタッチシーンとかつけてくれてもよかったんですけど、それはなし。でも代りにデュエットダンスの後に柚香光ソロダンスがありました!

これがもう本当に軽やかで美しくて、踊ることで表現するのが好きだという気持ちと今この舞台を楽しんでいる感じを勝手に受け取ってしまって、涙、だったのです。

 

ということで、東京公演の完走を、そして何より充実した幸せな時間を最後まで過ごされることを心の底から願っています。

妖しの美を堪能する@南座「三月花形歌舞伎(松プログラム)」

3/17(日)15:30~ @京都南座

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〈乍憚手引き口上〉(はばかりながらてびきこうじょう)

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↑左のゆるキャラ南座マスコット「みなみーな」。初めて知りました。

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近松門左衛門歿後三百年
近松門左衛門 原作
近松半二 改作
中村鴈治郎 指導
心中天網島
一、玩辞楼十二曲の内 河庄(かわしょう)
紙屋治兵衛 尾上右近
粉屋孫右衛門 隼人
丁稚三五郎 吉太朗
河内屋お庄 菊三呂
紀の国屋小春 壱太郎


二、忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)将門
傾城如月実は滝夜叉姫 壱太郎
大宅太郎光圀 隼人

 

Jホラー歌舞伎ですっかり大好きになった中村壱太郎さんの美しい滝夜叉姫が、SNSに何度もPRが表示されて「これは…行くしかないか」となった花形歌舞伎。

今回は松プログラムと桜プログラムが用意されていて、でもお目当ての滝夜叉姫は壱太郎さんシングルキャストだったので、演目よりも日時で選びました。

そうしたら開演すぐに壱太郎さんが客席から登場してくださって、いろいろグッズのアピール(筋書を「プログラム」と言ってらしたのも好感)やら、演目の解説やらしてくださって、最後に写真撮影タイムまであって、テンションマックスになったのがいけなかったのでしょうか。

一部の「河庄」、セットもキレイで壱太郎さんの遊女もかわいかったし、近松門左衛門なので、あるあるの「遊女と男の心中物」になりかけるまで、のお話しで面白かったのですが、途中で寝てしまいました・・・本当にすみません・・・。

(一応目覚めたところから見ても話の筋はきちんと分かりました。同行人に聞いたところ、治兵衛がアクシデントでちょっと見せ物みたいになるシーンがあったそうです。)

そんなわけで途中、寝ていた身であれこれ言うのもなんなんですが、右近さん演じる「治兵衛、とんでもねえヤツだな」って感想になってしまいました・・・。

(妻と子どものいる身で遊女と心中しようってのがもうなんか許せない)

春ちゃんに「そんな男のどこがいいんだよ!」と思わず言いたくなる上方歌舞伎ならではのダメ男っぷり。

でもそんな治兵衛でさえマシだという「こいつに身受けされるくらいなら死んだ方がマシ」となるお客をとらなきゃいけない遊女の身の上が本当に切ない。

最後ずっと泣きっぱなしの小春ちゃんが可哀そうで可哀そうで、イヤホンガイドお得意の「この先に〇〇があるのですが、それはまた次の機会で、今日はここで幕となります」的なことを言われたときに、久々にこの続きを見せてくれ、と思いました。

 

で、お目当ての二部です。

なんと客電が全部落ちて現れたセットが渋くて格好良い!

そして江戸時代さながらのろうそくの炎だけに照らし出されて、スッポンから浮き上がってきた滝夜叉姫のなんとも妖しく美しいこと!

滝夜叉姫は平将門の娘という設定なのですが、平将門平安時代前期の人であることを始めてきっちり認識しました・・・。

基本的に義太夫が語り、滝夜叉姫と大宅太郎光圀の舞踊がほとんどなので、ただただその美に酔いしれることができて、後半は引き抜き、派手で身体能力を堪能できる立ち回り、さらにセットの大仕掛けと歌舞伎の醍醐味が45分に詰め込まれたいい作品でした。

壱太郎さん、遊女は普通なのに、なぜかこういう妖しい役のときの色気がすごいし、こういう役になるとなぜか「美」が輝くのです。

対する隼人さんは普通に体格のいいイケメンなので、絵面も大変よく楽しみました。はじめて歌舞伎の人にもきっと楽しい!のでオススメです。

私が寝てしまった前半の芝居もぜひ楽しんでください・・・。

ちなみに桜プログラムは前半が「女殺油地獄」なので、歌舞伎の演出のエンターテインメント性を感じるには、桜プログラムの方がいいかもです。

というのも「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)将門」のラストシーンの舞台写真がほしい!もう「これは絵か!」くらいの、素敵なビジュアルで幕だったのですよ!

(ブロマイドと登場シーンの滝夜叉姫の舞台写真はしっかり買いました!

アクスタはもうワンサイズ小さかったらほしかったのだけど、持ち歩くには大きなと。壱太郎さんはトイレに飾ってくれてもいいっておっしゃっていたけれど、持ち運んで写真撮りたい派なので、松竹さまご一考ください)

舞台写真は終演後は売っていなかったっぽいので、通販はじまったら再度確認したいと思います。

SHOCHIKU STORE | 松竹ストア松竹歌舞伎屋本舗/歌舞伎ブロマイド/2024年3月 南座 三月花形歌舞伎グッズ・ブロマイドSHOCHIKU STORE | 松竹ストア

目に見えない「心」を見せるために@世田谷パブリックシアター「う蝕」

3/9 17:00~ @兵庫県立芸術文化センター 中ホール

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スタッフ
【作】横山拓也
【演出】瀬戸山美咲
【美術】堀尾幸男
【照明】齋藤茂男
【音響】井上正弘
【衣裳】髙木阿友子 

キャスト
坂東龍汰 近藤公園 綱啓永正名僕蔵 新納慎也相島一之

 

う蝕とは虫歯のこと、らしいです。
けれどこの作品で登場する「う蝕」は、虫歯のようにいつの間にか大地を蝕み、陥没させ、上にいた人間を落としてしまう災害のことでした。
何であれ「命が失われること」に私たちは心に傷を負うのかもしれません。
それが自然災害であると、何も出来なかった、自分だけ安全な場所にいた、さらに失われた命に遠隔的にでも自分が関与していると感じてしまう場合、罪悪感が押し寄せてくることがあると想像します。
2021年の朝ドラ

の前半で描かれたのも、言葉にできない「罪の意識」だったような気がします。
朝ドラの主人公が、どうしても言葉にできなかった思い、その思いが出来上がるまでの思考回路を演劇という形で言葉にしたような作品だと、私は受け取りました。

「う蝕」が起こった本土から離れた「コの島」で、せめて災害死した人たちを特定し、遺族に戻そうと島の歯科医が、その作業を手伝ってくれる歯科医を要望して、そこに二人の歯科医がやってくる。その後、2回目の「う蝕」が起こる。見つかっていた遺体も、カルテも何もかもが土の下に沈み、それを掘り返し、改めて作業をしたいと願い、土木作業員を要請するものの、やってきた役員はどこか不自然で不気味。さらにもう一人、先に来ていた歯科医に「コの島」行きを変わってもらったという歯科医が、状況を確かめるためにやってくる・・・。

冒頭の緊迫感のあるアナウンス台詞から続く不気味な音、その後の暗転による暗闇からはじまるのですが、深刻な災害が起こったとは思えないほど、鷹揚な会話が多い作品でした。その言葉の中に「何があって、何がないのか」という会話がありました。
「目に見えないもの」を「ある」とするのは何なのか。「愛」という言葉はあるけれど、その存在証明はできない。「死」はある、けれど「死後の世界」はあるかどうか分からない、では「心」はどうだろうか。
そんな会話を聞いて見ながら考えているうちに、「目で見えていること」を「ある」ことにしていた自分に気づかされる展開になったのです。
宝塚版「ロミオ&ジュリエット」を思い出させる問いに、さらに「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」でサディストの歯科医を演じていた新納さんが、その役を思わず思い出させてしまうようなやり取りをするシーンもあるのに、「Next to Normal」と同じ仕掛けに気づかなかった自分が悔しいし、さらに仕掛けがわかった後にもう一度見たかったと思います。
そして改めて「人の心」というのは解明されていない闇で、それを表現するのに演劇というか、舞台というのは割と有効な手立てなのだなと思いました。
ただそこに囚人を登場させて「人間の尊厳」の話が絡んでいくよりも、どちらかということ「心の問題」だけにフォーカスした方が、もしかしたら、より興味深い作品になったような気がしています。

作品の中で「考えるのをやめたいから祈る」というような言葉があって、それが個人的には衝撃でした。
私は、このような哀しい災害、事故、事件、他国での戦争などについて、自分に直接被害がなく、できることが見当たらないとき、唯一のできることとして募金とともに「祈り」を捧げてしまいます。
祈る、という行為は「できる」けれど、「祈り」という「念」は存在証明のできない、無力で何にもならないことなのかもしれない、と思ってしまいました。
けれども多分「祈る」ことは、心を癒す、ことはあるような気がします。ただ癒してくれるのは祈っている自分だけで、そうすると、こういった他者の悲劇に「祈る」のはどうなんだろうか、という私の中の「問い」を見つけた作品でもありました。

 

セットは割と大がかりなのですが、一度だけ、1回目の「う蝕」後のシーンになって、他は変わらないので、あそこまで大きなセットを作る必要はあるのかなと思いましたし、何を表現したくてあのセットになったのかが、私は受け取ることができずに残念です。もしセットをシンプルに出来て、チケット価格が抑えられるのなら、この公演は2回見てもらう仕掛けの方がいいと個人的に思いました。
衣装の方はシンプルだったのですが仕掛けが分かりやすくしてあって、だから衣装で気づけなかった自分もまたちょっと悔しくなってしまいました。(あと新納さんの衣装がめちゃくちゃ可愛くてお似合いだったので、ファンとしては嬉しかったところもあります!笑)
キャストについては、近藤公園さん、正名僕蔵さん、相島一之さんの手堅い芝居に、多分セリフのテンポも間も一番難しかっただろう坂東龍汰さんがよく頑張っていたな、という印象でした。そして綱啓永さんはこの公演をきっかけに、舞台に立つ上での身体の動かし方というところを意識してくださったらいいなと思います。
役と本人は別物で、本人の経歴なんてものは観客には関係ないことなんですが、今回、災害によって心の痛みを抱える役を新納さんが演じていたことは、少なくとも私にはより響くところがありました。
新納慎也さんは19歳のときに神戸で「阪神・淡路大震災」を体験されています。
それがどのような体験であったかは存じませんが、大阪に暮らしていた私とは違う景色を見て、違う体験をされたことは、この時のブログから推察しています。

ameblo.jp

ameblo.jp

その新納さんが語る「心の持っていきようのなさ」は、多分、必要以上に重く私に届いてしまったとは思っています。
しかも私が見たのは「兵庫県立芸術文化センター」で、これが建つ西宮市は阪神・淡路大震災で大きな被害を受けました。それから10年後に復興のシンボルとして作られたのがこのホールだったのです。

8月号 芸術文化の発信拠点 兵庫県立芸術文化センター10年のあゆみ|西宮市ホームページ

阪神・淡路大震災25年事業 西宮市歴史資料写真展「まちが変わる まちを変える」|西宮市ホームページ

私は残念ながらこのホールが出来る前の西宮北口を知りません。
このホールが出来てから、よく訪れるようになった場所で、そこそこの数の作品をこのホールで見てきましたが、このホールができる前、のことを考えたのは、この作品が初めてでした。
そういう意味でも、この作品をこの「兵庫県立芸術文化センター」で上演した意味はあると思います。
そして、東日本大震災から13年目を迎えた今日、限られたことでも、小さなことでも、自分にできることをしていきたいと思っています。

和希そらによせて@宝塚雪組「ボイルドドイルオンザトイルトレイル」「FROZEN HOLIDAY」

12/6(水)13:00~ @宝塚大劇場

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Happy“NEW”Musical
『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』
-Boiled Doyle on the Toil Trail-
作・演出/生田 大和

※11月10日~30日、12月7日11時開演、12月8日~10日の公演は中止。

わたしがこのとてつもない日に大劇場で観劇したのも、そもそもが元々の11月の観劇日が全て中止になり、最後に残った12月の観劇日がお取次ぎなし、となったためでした。

しかしながらお取次ぎなしの日も最終的に公演中止となり、観客側としては最後のお気楽な気持ちで見られる大劇場公演だったのか、と思うとなんとも言えない気持ちになります。

そんなわけで感想を書くつもりもなかったのですが、2/11に無事東京公演の千秋楽を配信で見て少し安心したこともあり、簡単に記録しておこうと思います。

キャスト

アーサー・コナン・ドイル 彩風 咲奈    
ルイーザ・ドイル 夢白 あや    
シャーロック・ホームズ000 朝美 絢    
ハーバート・グリーンハウ・スミス 和希 そら
ウィリアム・ブート 諏訪 さき
シドニー・パジェット    眞ノ宮 るい    
ウォルター・パジェット    咲城 けい
ビアトリス・エリザベス・B・ハリスン 音彩 唯
ミロ・デ・メイヤー教授    縣 千
アーサー・バルフォア    華世 京            
チャールズ・ドイル 奏乃 はると    
メアリ・ドイル    妃華 ゆきの    
ロティ・ドイル    野々花 ひまり    
コニー・ドイル    華純 沙那        
雑誌売りの少年(ノエル)    愛羽 あやね    
シャーロック・ホームズ001(老人)天月 翼    
シャーロック・ホームズ002(老婆) 愛 すみれ
シャーロック・ホームズ003(牧師) 叶 ゆうり
シャーロック・ホームズ004(水夫)    紀城 ゆりや
シャーロック・ホームズ005(阿片窟の男)    蒼波 黎也        
シャーロック・ホームズ006(馬丁)    絢斗 しおん        
シャーロック・ホームズ007(物乞い) 夢翔 みわ        
シャーロック・ホームズ008(司祭)  霧乃 あさと        
シャーロック・ホームズ009(配管工) 風立 にき        
シャーロック・ホームズ010(船長)  苑利 香輝  

プログラムに「宝塚は四世代が楽しめるものでなくちゃならない」という大先輩の言葉から、「あるべき楽しさを追い求めて」この題材を選んだ、と書かれていたのですが、それって本当に難しいのだな、と痛感した作品でもありました。

肩書きに「Happy」と入れてあるのだから、「ベイジルタウンの女神」のように、「Happy」に徹した方がよかったような気がします。

つまりドイル家の事情はばっさりカットして、せっかくシャーロック・ホームズが11人もいるのだから、それぞれの活躍シーンを作って、「シャーロック・ホームズ」のエピソードの見せ場をショー的に見せながら、読者がキャーキャー言っているようなシーンの方が見たかったなと思ったのです。

そしてそんなシャーロック・ホームズたちに翻弄されながらも、最終的に和解するコナン・ドイル、くらいの軽いストーリーでよかったと思うのですが、ドイル家のシリアスな状況や、シャーロック・ホームズに狂乱するファンたちをしっかりと描いたために「Happy」になり切れなかったな、という印象でしたし、なにより11人いるシャーロック・ホームズがほぼモブで、いる意味がないのが、本当にもったいなかったように思います。

それでも衣装もセットも可愛らしかったし、シャーロック・ホームズたちの登場シーンのショー感、コナン・ドイルがワトソンくんであり、最終的には物語に入ってモリアーティになるという使い方も大変興味深く、味付けとして面白いところも多々あっただけに、毎回生田先生の作品は同じ感想になって申し訳ないんですが、「惜しい」。この作品に限っては「たいぶ、惜しい!」と思ってしまいました。

それでも和希そらの卒業公演として繰り返してみるには苦にはならないくらいの出来だったので、大劇場でそれができなかったのは、ただただ残念です。

 

そんな芝居よりも時期的にもっと残念だったのがショーでした。

Winter Spectacular
『FROZEN HOLIDAY(フローズン・ホリデイ)』
-Snow Troupe 100th Anniversary-
作・演出/野口 幸作

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中詰めまでずっとクリスマスメドレーなんですよ。本来11月初旬から12月半ばまで聞くには楽しかったと思いますし、わたしなんかはどんぴしゃの時期に見たので、それなりに楽しく見れましたが、東京公演の特に後半くらいはもう季節が節分からバレンタイン商戦に動く時期なので、この前半戦はかなりキツイんじゃないだろうか、と思ってしまいました。

中詰めで正月が来て、そこから急に雪組100周年の内容になるのもぶった切り感があって、ううーんという感じだったのですが、最後の「人生のメリーゴーランド」の作り方が素晴らしかったので、終わり良ければ総て良し、な力技を発揮したショーだったなと思います。

何より和希そらの餞別シーンは本当に素晴らしかった!歌もダンスも素晴らしくて、その上で「泣かないで」とか歌われても泣くわ!状態でした。

なので、そこから急に正月な中詰めになっても気持ちが切り替わらない!

泣いたまま正月迎えた気分でしたが、まあそれはそれでしょう。

 

さてわたしが和希そらという名前を知ったのは「ハッスル・メイツ」の頃でした。東京の友人が彼女のダンスのファンで、バウホールまで遠征してきていて、そうか、そんなダンスの魅力的な人がいるんだ、と思ったのが最初です。

でもなかなか宙組を見に行くことはなく、「アナスタシア」を見たときは中年の女性の役だったので、男役としての魅力には気づかないまま「夢千鳥」スカステ上演を見て、その逸材ぶりに驚きました。

そうこうしているうちに、雪組に組替えになって、3番手になった頃、宝塚の人事のことなんて何も知らないわたしは夢を見ました。

和希そらが雪組のトップスターになってくれるという夢を。

朝美絢さんの下で二番手として美味しい役をする和希そら。満を持してトップスターとなって、魅力的に輝く和希そら。

96期という重荷を、その実力ではね返し、「これでもか!」と魅せつける和希そらを見る未来があると思っていました。

でも残念ながら、彼女は卒業公演で清々しいほどの魅力を放ちまくって、これ以上もないくらい自然体に、爽やかに、笑って、笑わせて、鮮やかに巣立っていきました。

彼女が卒業しなければトップスターになれたのかは分かりません。

でも彼女の未来は彼女が決めるもので、年齢などの節目節目に考えるところではあるだろうし、何かのタイミングや出来事で、こっちの道を行こうと思うこともあるでしょう。

卒業後の彼女がどのような道を歩くのか分かりませんが、どんな形でもいいから舞台に立つことを選んでくれたら嬉しいなとは思います。

そして未練たらしく、彼女の「ヴァレンチノ」が心から見たかったことだけ、最後に書き残したいと思います。

野々花ひまりちゃんのジューン(ボニクラのカップルぶりが実力者同士で大好きだったので)で、ルディを演じる和希そらを見たかった。本当に見たかったよ。

 

【3月1日追加】

とりあえず何かしらの活動はしてくれるみたいです、和希そら!嬉しい!

和希そら オフィシャルサイト

気持ちを盛り上げるリズムってなんだ@宝塚星組「RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem/VIOLETOPIA」

1/13 15:30~ @宝塚大劇場

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RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem

スタッフ

脚本・演出 谷 貴矢
作曲・編曲 太田健/高橋恵
オリジナル振付 Prem Rakshith
装置 國包 洋子
衣装 加藤 真美

キャスト

コムラム・ビーム(アクタル)    礼 真琴        
ジェニファー(ジェニー)    舞空 瞳        
スコット    輝咲 玲央        
キャサリン    小桜 ほのか        
ジェイク    極美 慎
シータ    詩 ちづる        
マッリ    瑠璃 花夏        
ラッチュ    稀惺 かずと

原作はこちら。

RRR

大変話題となっていた映画ですが、わたしは未見で、運よくこのチケットが手に入り、初日からの感想を見ていると「映画を見ていった方が100倍楽しめる」という意見が多かったので、予習として映画を見ました。

映画、最初人物の見分けがつかない・・・と戸惑ったのですが、途中から大興奮。

大変に面白かったです。

この「RRR」は1920年のイギリス植民地時代のインドを描いているのですが、ビームもラーマも史実上の人物だということを初めて知りました。

とはいえ内容はフィクションです。

cinemore.jp

そんなわけで映画は長いものの、映画らしいド迫力のアクションと、人海戦術な歌と踊りでパワーに満ち溢れたエンターテインメントでした。

これを舞台化したものを見るのか、と思ったとき、まあとは言え物語要素はシンプルなので、1時間半強にまとめられるだろうし、インド現地の踊り「ナートゥ」を披露するシーンは普通に映画と同じく盛り上がって楽しいだろうなと思ったんですが、映画全体でかつ前半最大の見せ場のビームとラーマが初めて出会って、少年を助けるド迫力のアクションシーンはどうするのだろうかと、そこを一番の楽しみにしてしまったのが、私の見る側としてのミスだったかな、と思います。

そんなわけでRRRについては、こんないい作品に盛り上がれない可哀想な人もいるんだな、と生温かい目で感想を読んでいただけると嬉しいです。

そして大変に面白かったという方はそっとこのページを閉じてください。

 

というのも、私が最大に盛り上がったのが、この始まる前の映像だったからです。

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これ、時々鹿やら、虎やらが通って楽しい!

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そしていろんな要素が割とごった煮な映画はそこが混沌としてカオス味があって面白いのですが、舞台ではそこはキレイに整理されて、物語は分かりやすく提示されていました。

でも逆にカオスの中にあって混乱しつつも、文句なしに盛り上げてきた「ナートゥ」が、私は舞台ではいまいち盛り上がれなかったのです。

歌って踊っているのは宝塚きってのマルチプレーヤースターだけど特にダンスが素晴らしい礼真琴さんですよ!一緒に踊る暁千星さんだって、宝塚の中では「ダンサー枠」。そんなダンスが得意な二人が「ナートゥ」を歌って踊るのは訳ないわけで、まあ普通に見ていて楽しい。でも何かこう「ここ見せ場!ショーでいうところの中詰め!文句なしにワクワクしてくれよな!」感がなかったというか、「ショーの中詰めって本当によくできているんだな、どういう構成にしたらとりあえず盛り上がれるのだろう」ということを「ナートゥ」を見ながら考えてしまいました・・・。

映画でもジェニーも踊る「ナートゥ」ですが、ジェニー役の舞空瞳さんなんて、本当にかなりのダンサーなので、もっともっとジェニーも一緒に踊るところを入れてもよかったと個人的に思います。

あと今回衣装をクレジットしたのは、「ナートゥ」のシーンの衣装がジェニーはいいとして(てか、あのジェニーの衣装はぜひ「宝塚ステージスタジオ」に入れてください)、せっかく宝塚でやるのだから、映画同様、英国側はもっとバラエティ豊かに「魅せる」ものだったらよかったのに、と思ったからです。

今回タイトルに「√Bheem」とあるのが、最も宝塚バージョンなところなんですが、ビームが主役でトップスターなので、ビームだけヘアスタイルも衣装も、仕方ないのですが、なんか、その、浮いている・・・。まあ服のキラキラは「1789」も同じ現象が起こるのですが、全体に宝塚版の「RRR」が映画に忠実ながらも、すごくシャープにシンプルにまとめてある中で、ビームだけが絵面が違うのが変に気になってしまったのです。

ド迫力のアクションシーンは、まあそうだよね、な感じになっています。映画は再現できない。そしてド迫力にもできない。それであれば、シーンとしての意味合いを「ビームとラーマの共同作業からの出会い、友情」の方へ振り切った方がよかったなと個人的には思いました。

先述したように踊れる二人なので、中央に少年をおいて、炎部隊、水部隊で踊りで少年を翻弄する。その水部隊と炎部隊を、ビームとラーマで協力して操り、踊りながら治めて、少年を保護するみたいな、コンテンポラリー風のペアダンス的な踊りで魅せたバージョンを個人的には見たかったなと思います。

(追記:

「眠らない男」のときに、本舞台からゴンドラで銀橋に移るというシーンがあって、そんな銀橋への渡し方があったか!と驚いたので、二番煎じだけど、ビームが綱もってゴンドラ乗って、銀橋の男の子を助けに行く、でも面白かったかなとも思いました)

それから鞭打たれるビーム(礼真琴さんが鞭打たれる姿、見過ぎて既視感汗)が、それでも耐えて自分たちの誇りを歌う、というシーンは実にミュージカル的で、しかも礼さんは歌もうまいし、声もいいのに、ここもなぜか気持ち的な盛り上がりに欠けてしまったのはなぜだろう、と思ったのです。

舞台全体のリズム感、盛り上がり。前作の「元禄バロックロック」のことも思い出すと、物語はキレイに描くけれども、そういったところがちょっと谷貴矢先生には足りないかなと私は思ってしまいました。きっと谷先生は脚本はうまい。今回も映画では出番の少なかったジェニーやシータもちゃんと最後まで活躍するのです。これは大事なポイント。でも舞台の緩急というか「見せ場」を作る、つまり役者に対する演出とは別の、舞台全体を魅せるという演出の部分では個人的に弱く感じたのが残念でした。

ただ本当に物語はキレイに整理されているし、なんなら映画よりも分かりやすかったので(ただ舞台での見せ方と時間の関係上、映画のビームより知的です。映画のビームの本当に何も知らなくて純粋なところがかわいかったので、仕方ないけどちょっと残念)映画で予習はいらないと思いました。前知識なしの「ナートゥ」がどう見えるか、を見たかった!

とはいえ、最後は楽しいので、気持ちよく幕間を過ごせます。これも大事。

幕開きという重要なシーンで可愛くキレイに歌を響かせたマッリ・ 瑠璃花夏さんもステキでしたし、主役たち含めそれぞれとてもバランスよく、役者にはあまりストレスなく見られたのもよかったです。

 

で、そんな話題の「RRR」に押されて、なんとなく存在の薄かったレビュー「VIOLETOPIA」ですが、こちらは逆に何も期待もしていなかったのがよかったのか、個人的にはめちゃくちゃハマりました!

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スタッフ

作・演出 指田 珠子
装置 二村 周作
衣装 有村 淳

このレビューが、いいレビューかどうかというと、とても人を選ぶなとは思います。

レビューとしてはとてもオーソドックスなんですよ。主題歌のメロディラインもオーソドックス。しかも宝塚歌劇110周年ということで、割に他のショーとかでも見たことあるなあというシーンが並びます。

しかも古い劇場に入ると昔の記憶が甦ってきた、みたいな感じではじまるので、かつてあったバックステージを舞台にしたところから、苦悩とかに移り変わって妙な世界観になる、みたいなシーンが割と続きます。

ショーに一つはあるミステリアスでちょっとダーク目のシーンを集めた、という印象なのです。

でもちゃんと中詰めは盛り上がりますし、ダンスも魅せるし、「見たことあるなあ」シーンをちゃんと現代的な味付けもしてあるところが面白い。(ラインダンスも曲の使い方に合わせたパート分けとか、面白い作りになっていました)

ただ、私は齊藤吉正さんの色使いとかヴィジュアルがめちゃくちゃ苦手で、見てて目が辛い、のですが、それと同じ状況が起こるレビューだなとは思いました。

セットとか衣装とかがね、ティム・バートン的だったり(特に実写版ダンボかな)、


www.youtube.com

昔のマリスミゼル


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だったりするので、これが受け付ける人は大丈夫だし、好きな人はハマります。

でも逆に全くダメ、な方もいるはずです。それを作るのはどうか、という論もあるかもですが、齊藤吉正さんに好き勝手させているので、これはこれでアリなはずです!

そして世界観が好きということは、音楽も好きで、このレビュー、めちゃくちゃ楽しみました。

ただ礼真琴さんよりは、ヴィジュアル的に柚香光さんでこのレビューを見たかったなあと思うのですが、そうなると舞空瞳さんがいなくなっちゃうので、星組でよかった!

もう舞空瞳さんの魅力が満喫できすぎるレビューでした。舞空さん、鬘がいつも本当にキレイなんですけど、このショーではそれが本当に大事!そして抜群のスタイルも大事!とりわけ黒燕尾姿でダンス力をフルに活かして踊るシーンは格好良すぎて痺れました(ツヤツヤの金髪ストレートヘアをキュッと結んであるヘアスタイルも最高!)。ああショースターだ・・・!と感じさせる何かが、舞空瞳さんにはある!

さらに暁千星さんもスタイル抜群のダンスの人なので、ショーの方が光る!

そして礼真琴さんのマルチプレイヤーな安定感。その中でも舞空さんとの蛇と少女のペアダンスが本当にステキでした。

 

RRRもちゃんとクオリティは保っていて楽しい作品なので、久々のリピートしたくなる二本立てではあったのですが、残念ながら人気がすごくてチケットないのが現状です。

そんなわけで、ライブ配信を今から楽しみにしています。

RRRファンで、でも宝塚のチケット取れなかったぞ、という方はぜひ!

そして舞空瞳さんが好きで、でも公演が人気すぎてチケット取れなかったぞという方もぜひ!

レビューは好き嫌いあると思いますが、黒燕尾で踊る舞空瞳さんを見るだけで3500円の価値はあると思います。

live.tv.rakuten.co.jp

若者の求めたもの@梅芸フレンチロックミュージカル「赤と黒」

1/4 17:00~ @シアター・ドラマシティ

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キャスト

ジュリアン・ソレル 三浦宏規
ルイーズ・ド・レナール 夢咲ねね
マチルド・ド・ラ・モール 田村芽実
ムッシュー・ド・レナール 東山光明
ラ・モール侯爵 川口竜也
ジェロニモ 東山義久
ムッシュー・ヴァルノ 駒田一
ヴァルノ夫人 遠藤瑠美子
エリザ 池尻香波

スタッフ

原作 スタンダール 
演出 ジェイミー・アーミテージ 
上演台本・訳詞 福田響志 
音楽監督・ピアノコンダクター 前嶋康明 
振付 アレクザンドラ・サルミエント 
美術 池宮城直美 
照明 吉枝康幸 
音響 山本浩一 
衣裳 有村淳(宝塚歌劇団) 
ヘアメイク 河村陽子

原作はこちら。

わたしは先んじて上演された宝塚歌劇

宝塚歌劇 星組『Le Rouge et le Noir~赤と黒~』特集|タカラヅカ オフィシャルグッズ&サービス

は見ておらず、フレンチ・ミュージカルじゃないバージョンも実は見たことがないのですが、原作本を中学生くらいのときに読んでいました。

しかしながら物語の内容の記憶は皆無。ただ本は残してあったので、この機会に改めて読み直したのですが、今読むと、思った以上に「野望」とか「野心」よりも、「恋愛」が描かれているなという印象でした。

小説はフランス革命からナポレオン帝政時代を経たシャルル10世による王政復古の時代を描写しつつ、ジュリアン・ソレルはじめ登場人物の「心の声」を多く描いています。

これがミュージカルになる場合、「歌」に変換できるので、小説のままにつぶさに表現することもできるわけですが、逐一それをしたら、間違いなく長い。

逆に「言葉」の方を少なくして「身体的な動き」でそれを表現していたような気がします。結果、なんというか、物語は本当に抜粋なんですが、でもまあ「心の声」を無視して、あった出来事だけ選んだら、もちろん飛ばしているところや、人物を変えているところなんかもあるんですけど、だいたいのポイントは抑えていたんです。

その「心の声」をもちろん「歌」でも表現しますが、踊りに任せることで、心の動きは分かりにくくなったけれど、今回表現したいところでもあった「若さとスピード感」を感じましたし、簡素なセットと印象的な照明もあって、ミュージック・ライブ的で、(特にこのシーンが美しかった↓)

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恐らく主演の三浦宏規くんと同世代ファンの方には、理屈なしに楽しめたところがあったんじゃないかな、と思いましたし、それが私にも面白かったところでした。

 

ジュリアン・ソレルの「出世欲」を「野心」と小説でも何度も出てくるのですが、改めて読むと、それほどの「野心」にも思えない。容姿がよくて、記憶力に特に優れていただけの貧しい若者が、自分は特別だ、こんなところにとどまる人間ではない、と思うのは、なんとなくごく自然というか、まあこういう若者は今も昔もいるだろう、と感じたのです。さらに現状から変わるには、自分の身分では兵士か神父の2択だ、じゃあ神父の方で、と割と冷静に現実と自分の適正を見極めている辺り、今の若者っぽいドライささえ感じます。プライドの高さもごく普通の若者のそれとあまり変わりなく、興味の対象は憧れのナポレオンと「自分」だけなので、他者の心の機微には気づかず、コミュニケーションにおいては、完全に「苦手」な部類に入る人物です。

この時代独特の身分制度はありますが、貧富の差、という点では現代と通じるので、もし、このミュージカルでこの作品に興味を持った方がいるなら、時代背景の部分を無視して、小説を読むのもおススメしたいです。

上に貼り付けたリンクは昭和33年初版の訳本なので、もしかしたら下記の新訳の方が読みやすいかもしれません。

で、演出家によるとそういうまだ世慣れていない若者が持つ「純粋さ」みたいなところも、今回強調したい部分でもあったようですね。それも成功していたように思えましたし、三浦宏規ジュリアンはまさしくそういう「純粋さ」がすっかり中年になった私にはとても可愛く思え、その若さの煌めきが非常に魅力的でした。

そしてそういうジュリアンだからこそ、ルイーズに惹かれ、知らず知らずのうちに、自分が思っているよりもっと、彼女を必要としていたのだなと感じたのです。

そのルイーズを演じた夢咲ねねさん。

夫人は背が高く、すらりとしていて、この山間でいわれているように、この地方きっての美人だった。飾り気がなく、身ごなしが若々しかった。パリ人から見れば、汚れをしらない、溌剌とした、この素朴な美しさは、甘い肉感をそそるところがあるとさえいえたかもしれない。

と原作に描かれた、そのままのルイーズがそこにいました。

ポーの一族」のシーラを見たときも思ったのですが、ねねちゃんがこういう役を演じると割に母性的なものを感じるのです。

コミュニケーション下手で孤独で寡黙で無表情のジュリアンが、エリザじゃなくて(池尻香波さんも美しくて眼福でした!)、ルイーズに惹かれたのは、この母性的な暖かみと、恵まれたものが持つ強さ、みたいなところだったんじゃないだろうか、と納得してしまえるルイーズ像でした。

(あ、あと今回スタッフさんにヘアメイクさんを敢えてクレジットしているのは、ルイーズのヘアスタイルが素晴らしくねねちゃんに似合っていたからです。ねねちゃんもヘアアレンジとか鬘とか得意じゃないので、ここプロが入るとこんなにもっと美しくなるんだなあとしみじみしました。そんなわけでルイーズのアクスタください!笑)

 

さて2部の対主役ともいえるマチルド、田村芽実さんの若さの輝きも素晴らしかったです!

勢いと迫力で2部幕びらきナンバーをがっつり魅せてくれて、ジュリアンとは違った裕福で甘やかされた頭のいい若者だけが持ちえる、いい意味の高慢さみたいなのが見えるのが本当によかったです。

なのに恋には割とピュアなのもギャップ萌え。

頭でっかちな似たもの同士のジュリアンとマチルドがなんとなくお互いに駆け引きしてると思いつつ気になっていくのも、また若者らしくて微笑ましい。

それでもジュリアンがルイーズを選ぶとき、この若者が欲していたのは、包み込んでくれるような純粋で真っ直ぐな愛情だったのだなと思うから、その最期が切なく思えました。

 

男性メインキャストがジュリアン以外は全員ちゃんとおじさんだったのも、ジュリアンの若さを際立たせていてよかったし、マチルドとルイーズが並んだときに、ルイーズが美しくても若くはないことが分かるのも、個人的には好きでした。

実際のところ、三浦くんとねねちゃんの歳の差は、原作のジュリアンとルイーズよりもちょっと開いているのですが、見た目的には全然アリだし、本当、何よりほぼ原作どおりの年齢の男の子がジュリアンを演じているのを見ることってなかなかないような気がするのです。

そしてそれを成り立たせてくれ三浦宏規くんは本当に貴重!

声楽畑の方がミュージカルへ進む方が多い中で、かなり本格的にバレエを極めたダンス力は、本当に魅力的でした。

なので、彼がバンバン踊れるうちに、ダンスなミュージカル、やってほしいです!雨に唄えば、とか日本版どうですか?

 

振り返るとかなりこの演目、楽しんだので、リピートチケットを買わなかったことを後悔しています。

そしてこの記事の写真がどれもすばらしいのを見ても、ヴィジュアルと動きで魅せる舞台だったんだなと思います。

【公演レポート】愛と死のドラマが横溢するフレンチロックミュージカル『赤と黒』 │ シアターウェブマガジン[カンフェティ]

早めの再演、お待ちしたいのですが、難しいかー。3年後でも三浦くんも20代後半になっちゃうしな。

 

そうそう、この日は関西人しばりのアフタートークがありました。

司会がラ・モール侯爵 川口竜也さん(高槻市出身)で、辺鄙な大阪市内出身(ちなみに我が実家でもあります)の東山兄弟、三重出身の三浦くんの4人。

もう関西弁で、てことでかなりフランクに話されていて仲良さそうでほっこりしました。

その中で、他にやってみたい役が面白かったので、記録しておきます。

 

三浦くん→マチルド

2部幕開きのナンバーが格好良くて気持ちよさそうなのでやりたい。

あと2部だけの出演なのに衣装が3着もあるから。

(ジュリアンは1着の着た切り雀なので涙)

 

東山兄(ヨシ)→ジュリアン

2人の女性から言い寄られるのが気持ちよさそう。

(三浦くんより「めっちゃ気持ちいいです」のお言葉あり)

そして自分がやったら、もっと野心よりのジュリアンになりそうだから。

 

東山弟(ミツ)→ルイーズ

理由は忘れましたが、兄よりお前がルイーズをやったら兄弟で変な関係になるじゃないかとツッコミあり。

他2人からも「いろんな意味で禁断の関係ですね」とツッコミまくられた後の

 

川口さん→エリザ

が爆笑でした!

家政婦は見た、みたいにやりたいそうです。笑

 

東山兄弟、初の舞台共演で友人たちが盛り上がったのに、見にきてくれない問題やら、新年の豊富まで、短い時間にギュッと盛りだくさん詰めてくれて楽しかったことを付け加えておきます。