こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

若者の求めたもの@梅芸フレンチロックミュージカル「赤と黒」

1/4 17:00~ @シアター・ドラマシティ

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キャスト

ジュリアン・ソレル 三浦宏規
ルイーズ・ド・レナール 夢咲ねね
マチルド・ド・ラ・モール 田村芽実
ムッシュー・ド・レナール 東山光明
ラ・モール侯爵 川口竜也
ジェロニモ 東山義久
ムッシュー・ヴァルノ 駒田一
ヴァルノ夫人 遠藤瑠美子
エリザ 池尻香波

スタッフ

原作 スタンダール 
演出 ジェイミー・アーミテージ 
上演台本・訳詞 福田響志 
音楽監督・ピアノコンダクター 前嶋康明 
振付 アレクザンドラ・サルミエント 
美術 池宮城直美 
照明 吉枝康幸 
音響 山本浩一 
衣裳 有村淳(宝塚歌劇団) 
ヘアメイク 河村陽子

原作はこちら。

わたしは先んじて上演された宝塚歌劇

宝塚歌劇 星組『Le Rouge et le Noir~赤と黒~』特集|タカラヅカ オフィシャルグッズ&サービス

は見ておらず、フレンチ・ミュージカルじゃないバージョンも実は見たことがないのですが、原作本を中学生くらいのときに読んでいました。

しかしながら物語の内容の記憶は皆無。ただ本は残してあったので、この機会に改めて読み直したのですが、今読むと、思った以上に「野望」とか「野心」よりも、「恋愛」が描かれているなという印象でした。

小説はフランス革命からナポレオン帝政時代を経たシャルル10世による王政復古の時代を描写しつつ、ジュリアン・ソレルはじめ登場人物の「心の声」を多く描いています。

これがミュージカルになる場合、「歌」に変換できるので、小説のままにつぶさに表現することもできるわけですが、逐一それをしたら、間違いなく長い。

逆に「言葉」の方を少なくして「身体的な動き」でそれを表現していたような気がします。結果、なんというか、物語は本当に抜粋なんですが、でもまあ「心の声」を無視して、あった出来事だけ選んだら、もちろん飛ばしているところや、人物を変えているところなんかもあるんですけど、だいたいのポイントは抑えていたんです。

その「心の声」をもちろん「歌」でも表現しますが、踊りに任せることで、心の動きは分かりにくくなったけれど、今回表現したいところでもあった「若さとスピード感」を感じましたし、簡素なセットと印象的な照明もあって、ミュージック・ライブ的で、(特にこのシーンが美しかった↓)

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恐らく主演の三浦宏規くんと同世代ファンの方には、理屈なしに楽しめたところがあったんじゃないかな、と思いましたし、それが私にも面白かったところでした。

 

ジュリアン・ソレルの「出世欲」を「野心」と小説でも何度も出てくるのですが、改めて読むと、それほどの「野心」にも思えない。容姿がよくて、記憶力に特に優れていただけの貧しい若者が、自分は特別だ、こんなところにとどまる人間ではない、と思うのは、なんとなくごく自然というか、まあこういう若者は今も昔もいるだろう、と感じたのです。さらに現状から変わるには、自分の身分では兵士か神父の2択だ、じゃあ神父の方で、と割と冷静に現実と自分の適正を見極めている辺り、今の若者っぽいドライささえ感じます。プライドの高さもごく普通の若者のそれとあまり変わりなく、興味の対象は憧れのナポレオンと「自分」だけなので、他者の心の機微には気づかず、コミュニケーションにおいては、完全に「苦手」な部類に入る人物です。

この時代独特の身分制度はありますが、貧富の差、という点では現代と通じるので、もし、このミュージカルでこの作品に興味を持った方がいるなら、時代背景の部分を無視して、小説を読むのもおススメしたいです。

上に貼り付けたリンクは昭和33年初版の訳本なので、もしかしたら下記の新訳の方が読みやすいかもしれません。

で、演出家によるとそういうまだ世慣れていない若者が持つ「純粋さ」みたいなところも、今回強調したい部分でもあったようですね。それも成功していたように思えましたし、三浦宏規ジュリアンはまさしくそういう「純粋さ」がすっかり中年になった私にはとても可愛く思え、その若さの煌めきが非常に魅力的でした。

そしてそういうジュリアンだからこそ、ルイーズに惹かれ、知らず知らずのうちに、自分が思っているよりもっと、彼女を必要としていたのだなと感じたのです。

そのルイーズを演じた夢咲ねねさん。

夫人は背が高く、すらりとしていて、この山間でいわれているように、この地方きっての美人だった。飾り気がなく、身ごなしが若々しかった。パリ人から見れば、汚れをしらない、溌剌とした、この素朴な美しさは、甘い肉感をそそるところがあるとさえいえたかもしれない。

と原作に描かれた、そのままのルイーズがそこにいました。

ポーの一族」のシーラを見たときも思ったのですが、ねねちゃんがこういう役を演じると割に母性的なものを感じるのです。

コミュニケーション下手で孤独で寡黙で無表情のジュリアンが、エリザじゃなくて(池尻香波さんも美しくて眼福でした!)、ルイーズに惹かれたのは、この母性的な暖かみと、恵まれたものが持つ強さ、みたいなところだったんじゃないだろうか、と納得してしまえるルイーズ像でした。

(あ、あと今回スタッフさんにヘアメイクさんを敢えてクレジットしているのは、ルイーズのヘアスタイルが素晴らしくねねちゃんに似合っていたからです。ねねちゃんもヘアアレンジとか鬘とか得意じゃないので、ここプロが入るとこんなにもっと美しくなるんだなあとしみじみしました。そんなわけでルイーズのアクスタください!笑)

 

さて2部の対主役ともいえるマチルド、田村芽実さんの若さの輝きも素晴らしかったです!

勢いと迫力で2部幕びらきナンバーをがっつり魅せてくれて、ジュリアンとは違った裕福で甘やかされた頭のいい若者だけが持ちえる、いい意味の高慢さみたいなのが見えるのが本当によかったです。

なのに恋には割とピュアなのもギャップ萌え。

頭でっかちな似たもの同士のジュリアンとマチルドがなんとなくお互いに駆け引きしてると思いつつ気になっていくのも、また若者らしくて微笑ましい。

それでもジュリアンがルイーズを選ぶとき、この若者が欲していたのは、包み込んでくれるような純粋で真っ直ぐな愛情だったのだなと思うから、その最期が切なく思えました。

 

男性メインキャストがジュリアン以外は全員ちゃんとおじさんだったのも、ジュリアンの若さを際立たせていてよかったし、マチルドとルイーズが並んだときに、ルイーズが美しくても若くはないことが分かるのも、個人的には好きでした。

実際のところ、三浦くんとねねちゃんの歳の差は、原作のジュリアンとルイーズよりもちょっと開いているのですが、見た目的には全然アリだし、本当、何よりほぼ原作どおりの年齢の男の子がジュリアンを演じているのを見ることってなかなかないような気がするのです。

そしてそれを成り立たせてくれ三浦宏規くんは本当に貴重!

声楽畑の方がミュージカルへ進む方が多い中で、かなり本格的にバレエを極めたダンス力は、本当に魅力的でした。

なので、彼がバンバン踊れるうちに、ダンスなミュージカル、やってほしいです!雨に唄えば、とか日本版どうですか?

 

振り返るとかなりこの演目、楽しんだので、リピートチケットを買わなかったことを後悔しています。

そしてこの記事の写真がどれもすばらしいのを見ても、ヴィジュアルと動きで魅せる舞台だったんだなと思います。

【公演レポート】愛と死のドラマが横溢するフレンチロックミュージカル『赤と黒』 │ シアターウェブマガジン[カンフェティ]

早めの再演、お待ちしたいのですが、難しいかー。3年後でも三浦くんも20代後半になっちゃうしな。

 

そうそう、この日は関西人しばりのアフタートークがありました。

司会がラ・モール侯爵 川口竜也さん(高槻市出身)で、辺鄙な大阪市内出身(ちなみに我が実家でもあります)の東山兄弟、三重出身の三浦くんの4人。

もう関西弁で、てことでかなりフランクに話されていて仲良さそうでほっこりしました。

その中で、他にやってみたい役が面白かったので、記録しておきます。

 

三浦くん→マチルド

2部幕開きのナンバーが格好良くて気持ちよさそうなのでやりたい。

あと2部だけの出演なのに衣装が3着もあるから。

(ジュリアンは1着の着た切り雀なので涙)

 

東山兄(ヨシ)→ジュリアン

2人の女性から言い寄られるのが気持ちよさそう。

(三浦くんより「めっちゃ気持ちいいです」のお言葉あり)

そして自分がやったら、もっと野心よりのジュリアンになりそうだから。

 

東山弟(ミツ)→ルイーズ

理由は忘れましたが、兄よりお前がルイーズをやったら兄弟で変な関係になるじゃないかとツッコミあり。

他2人からも「いろんな意味で禁断の関係ですね」とツッコミまくられた後の

 

川口さん→エリザ

が爆笑でした!

家政婦は見た、みたいにやりたいそうです。笑

 

東山兄弟、初の舞台共演で友人たちが盛り上がったのに、見にきてくれない問題やら、新年の豊富まで、短い時間にギュッと盛りだくさん詰めてくれて楽しかったことを付け加えておきます。