こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

人生は波のように@KERA CROSS「骨と軽蔑」

4/6 18:00~ @サンケイホールブリーゼ

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作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演及び配役

マーゴ 宮沢りえ

ドミー 鈴木杏

ネネ 犬山イヌコ

ミロンガ 堀内敬子

ソフィー 水川あさみ

グルカ 峯村リエ

ナッツ 小池栄子

 

東西内戦がつづく国のお屋敷に住む家族とそれに関わる人々の話しなのですが、このお話しの中で何を受け取るかは本当に人ぞれぞれだろうな、と感じました。

いや全ての作品がそうなのですけれど、この作品は重い設定の中で人物はそれぞれに哀しみを抱えながらも表面上は飄々と生きていて、だからこそどこが引っかかるかは本当に観客側に委ねられているなと思ったのです。

ちなみに私は、幸不幸というのは人生において交互に押し寄せるものなのだなあ、ということでした。

KERAさま作品初出演の堀内敬子ちゃんが、最初虫役で出てきたときは「え!まさか堀内敬子ちゃん、今回ずっと虫役なの?」とびっくりしましたが、虫なのは2回だけでした。でもこの「虫」が私は人生の中のアップダウンの切り替えし部分に見えたのです。

グルカを助けてくれた恩人と勘違いした「虫」が彼女に、お礼に願い事を叶えようという。「虫」は「世界平和とか」と提案するが、軍需工場の経営によって「お城」とも呼ばれるお屋敷に住んでいる彼女にとっては「世界平和」が訪れたらこの先に生活がますます成り立たない。

「多くの人が望んでいるからってみんなが望んでいるって思わないで」的なセリフをグルカが言ったときにハッとしたのでした。とりわけ「絶対悪」に思えるものに関しては、どうしてもそうじゃない方が全ての人にとってよい、それは間違いない、と思いがちで視野が狭くなる部分だなと思うとともに、「戦争」というのは誰かが儲かるからやるものでもあると改めて認識してその根の深さを痛感しました。

ここでグルカが望むことは「幸せ」です。何気ない幸せ。現在夫の健康状態が芳しくなく、工場からの生活費が途絶えた状態で、秘書兼看護人のソフィーがまるで自分が妻のように我が物顔で家にいる。グルカと夫の関係がどう始まったのか、そして病気になる前はどうだったのかは分からないけれど、良好そうには見えず、彼女はアルコールに逃げている状態です。その中で望む幸せ。

幸せっていうのは・・・夜寝る時に

「今日はいい一日だったなあ」とか、

朝起きたときに「ああなんてきれいな空かしら、

今日もいい事がありそう」とか、

そんな風に思えることです。それが幸せ。

確かに何気ないけれど、こう書き出してみるとこんな風に思いながら過ごせている人がどれくらいいるのだろうと改めて感じました。

何気ない幸せほど難しいものはないのかもしれません。

しかしとりあえず「虫」とのこの会話の後、夫が死に、グルカは夫に代わって敏腕社長になり、ソフィーもグルカに惚れ込んで活き活きと働きます。さらに泣かず飛ばすの作家だった長女マーゴの作品が文学賞を取ったりして、彼女たちのいわゆる「人生の質」は爆上がりしていきます。

人生の質があがると、何かしらの「余裕」ができる。

だからずっとギスギスしていた妹ドミーとも、ひょんなタイミングで仲良くなったりするし、お手伝いさんのネネは「砂糖をまぶしたビスケット」が食べられて、ずっと未払いだった賃金が支払われたりするのです。

一方で担当編集者のミロンガは売れっ子になったマーゴへの興味をなくし、マーゴにとって話しのできる唯一のファンだったナッツはぞんざいに扱われて切ない思いをしたりもする。

幸不幸というのは分からないなあと思いながら、見続けると再び「虫」がやってきて、今度は殺された仕返しをするというのです。

そこからのラストシーンの緊張感が本当にすごい作品でした。このラストシーンがもしかしたら最初に「世界平和」を願っていたらやってこなかったかもしれないと考えると、本当にものすごい作品です。

 

とこう書いてしまうと、ものすごくシリアスで残酷な舞台だったように思えるのですが、シリアスで残酷な内容でも、笑いと軽やかさというのは両立できるのが、これまたすごいところなんですよね。

そして笑いというのは、言い方と間で成り立つんだなと改めて思いました。

というのも隣の席が小学生低学年くらいの子どもさんだったのですが、このKERAさまの言葉と間の演出効果で、笑いっぱなしだったのです。

少なくとも彼には「ものすごく面白い演劇体験」だったことは確かで、小学生が笑えるということは、もちろん我々だって笑うところはめちゃくちゃ笑いながら、KERAさまの演出のすごさ、それを実現できるキャストのすごさを感じる舞台でもありました。

 

中でも今回ネネを演じた犬山イヌコさんは、舞台上から観客へ語りかける部分を担っていたのですが、その塩梅がすごい。

もちろんお芝居なのでイヌコさんしか話していないんですけど、客席全体が「話かけられた」気分になったと思うし、客席との反応とイヌコさんが確実に「会話」していたような気すらしたんですよね。それでいて、舞台の世界観の中にちゃんといる。これってなかなかできることじゃないと思うのです。

キャストは本当にみんな魅力的だったのですが、その中でマーゴを演じた宮沢りえさんの「主役たる華」を今回一番感じました。宮沢りえさんを舞台で拝見するのは3回目でしたが、1回目は「象徴的に登場する役」で2回目は「ザ・タイトルロール」で、こういうキャスト全員主役の中の一人、みたいな立ち位置の役を見たのは初めてでした。それでも宮沢りえさんには目を引く何かがある。それを華と呼ぶのかもしれないなあと今さらながら思ったのです。

逆に妹ドミーを演じた鈴木杏ちゃんは、支え感がすごい。杏ちゃんの役どころが一番内向きというか、自分と姉とその夫にしか関心がなく、他の役とあんまり関わらないのに、作品全体を支えている感じがしたのが不思議です。

小池栄子さんの「投げ込まれた違和感」のチャーミングさ、峯村リエさんの安心感(最後にイヌコさんと二人で組んで階段をあがっていくところは「百年の秘密」を思い出させてほっこりしました)。堀内敬子ちゃんはさすが「ミュージカル界の北島マヤ」ですよ。虫だろうが敏腕編集者だろうが、彼女がとらえれば確実にその役になっちゃう。そして当たり前だけど動き方がキレイ。

その中で水川あさみさんがワンシーンだけちょっと「動き方が雑だな」と感じたところがあったので、この辺が舞台と映像の違いなのかなと思います。とはいえ、水川さんも発声も滑舌も素晴らしく、チャーミングでどこかファンタジックさを感じさせる世界観をしっかりと作られていました。

 

そういえばセットは「百年の秘密」的に、屋敷の中と庭が混ざりあった感じだったのですが、「百年の秘密」ではそれを自然に話に溶け込ませていたのが、今回は敢えてそこを突っ込むスタイルにしていたのも面白かったです。見せ方的にも、実際の笑い的にも。

 

それにしてもマーゴが賞を取った「小説」のザクっとした内容が語られるんですけど、これこそファンタジックで怖いような話で、こういうことをどこから思いつくのか、毎回新しい作品を見るたびに思うのですが、KERAさまの頭の中はどうなっているんだろうとしみじみ。

とりあえずこの作品も戯曲も読みたいので、発売を楽しみにしています。