こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

TOMMY

3月18日(土)13:00~ 日生劇場
演出:いのうえひでのり 訳詞:湯川れい子 訳詞・出演:右近健一(劇団☆新感線) 翻訳:薛珠麗 振付:川崎悦子 出演:中川晃教高岡早紀/パク・トンハ/村木よし子(劇団☆新感線)/斉藤レイ/ソムン・タク/青山航士/石橋裕輔/蝦名孝一/奥山寛/佐々木誠/千葉恵佑/HISATO/森内遼/安田栄徳/飯野めぐみ/一実/高塚恵理子/仲里安也美/中村紗耶/樋ノ内乙澄/望月秀美/山崎ちか/若山佐登子/塩野魁土/宮治舞/ROLLY

基本的に私はミュージカルに対してそれほど保守的な方ではない。ロック・ミュージカルも大好きだし、新作もB級も大好きだ。このTOMMYも好きか嫌いかで分けると確実に「好き」なミュージカル。ただ、私の保守的な部分がちょっとイラストや出演者の表情が電光パネルで流されるセットを受け付けなかった。映像を取り込んだセットは新感線の持ち味だし、「メタルマクベス」ではそれほど気にかからなかった。ロンドンの「ウーマン・イン・ホワイト」で映像のセットを見たときにはその斬新さに驚きもした。ただ今回の「TOMMY」では、映像である、ということがそれほど効果的に見えなかったのだ。「ウーマン・イン・ホワイト」では、背景画ではこれほどの風の流れや広がりを表現できないだろうと思えたのだけど、今回のTOMMYでは、そもそもの画像がイラストなので、予算のことはひとまず置いておいて、背景画でも良かったではないか、と思わせてしまった。全体的に照明もレーザーにテクノっぽいイメージだったから、照明と合わせたイメージの徹底ということも良く分かるのだけど、それでも、ちょっと受け入れることが出来なかった。多分、私の意識化に、舞台というものは映像以上に観客の見方の自由が許されているものであって、細かな表情なんかをここを見ろ、とばかりに映像的にクローズアップされてしまったり、映像でセットが動いて、場面の転換がより分かりやすくなってしまうことについてのなんとなく保守的な部分があるのだと実感。

ただ、その分、ストーリーは解釈の自由が許されすぎていて、面白かった。両親の不都合な真実を少年時代に見てしまい、両親から「何も見なかった、聞いてなかった」と刷り込まれたことによるトラウマから三重苦になるトミー。彼の三重苦をいいことに、叔父による性的虐待、いとこによる暴行などがあって、その代わりに自由を精神世界(ロック・ミュージック)とピンボールに求めていく。この前半があったため、このハードな内容をロックによって昇華する、という方に考えを集中させてしまったのだけど、後半はこれからすると、そんな単純に簡単にハッピーな方に向っていって、訳も分からず、またTOMMYの挫折からの立ち直りで終結する結末に、それでいいの?という思いが拭えなかった。ただ、最後まで見てみて、もう一度考えてみると、結局のところ、このミュージカルは完全に音楽が先行していて、ストーリーやキャラクターなどは音楽をより表現するツールとして存在しているだけなのだと思う。だから、正しい見方というものがあるのならば、あんまり深く考えず、PVを見る感覚で、音楽を第一に楽しむ、ということだろう。
PVだと思ってしまえば、演出的にも一番力が入っていたであろう、一部最後の「ピンボールの魔術師」なんて、迫力満点でとても楽しいシーンに仕上がっている。

全体にやはりロックなので、歌詞が聞きづらいのが残念なのだが、それを差し置いても、中川晃教の歌声は本当に素晴らしく、これを聞くだけでも十分に価値のある舞台だった。