こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

キャバレー

10月17日 19:00~ 青山劇場
日本語台本・演出 松尾スズキ

サリー・ボウルズ 松雪泰子
MC 阿部サダヲ
クリフォード・ブラッドショー 森山未來
シュナイダー 秋山菜津子
シュルツ 小松和重
エルンスト 村杉蝉之介
コスト 平岩紙

このミュージカルの舞台版を初めて見たのが10年以上前なので、記憶があやふやで、どこまで松尾スズキの特色なのか判断しかねる部分が多かったし、松尾スズキ演出を見るのが初めてだったから、これぞ「松尾色」と言っていいのか分からないけれども、とても個性的で独特だったことは確かである。

そもそも、この作品は舞台版より先に映画版を見ていて、その映画版を偏愛していると言っても過言でないので、どうしても、映画の方が良く出来ているように思える。とりわけ、映画版では主人公サリーと男性2人の関係を描く所で挟まれる「Two ladies」の曲、サリーの妊娠が発覚した後に歌われる「Maybe this time」の、ストーリーと歌の関連の絶妙さは映画の方が上手である。
特に今回の演出だと「Two ladies」の曲の意味があまりストーリーに上手く活かされていなくて、浮いてしまった感があったのが残念だった。

幕開きの暗い時代を彷彿とさせる緊張感のある一幕からキャバレーの賑々しいシーンへ移るところは、このミュージカルのプロローグとも言える見せ場であるけれども、ここで観客にガツンとインパクトを与えられなかったのも心残りだった。与えられなかったのは、一つに劇場が演出に対して大きすぎたことと、聞かせるほど歌える役者がいなかったことが原因だと思う。

下品でケバケバしく享楽的な雰囲気は、この作品の魅力だし、好きなところだから、下ネタ的なセリフも別に気にはならないのだけど、なんというか豪華なキャスト、セットを使っていても小劇場的雰囲気が抜けなく、全体に劇場が広く感じたのも残念な点だった。寧ろ、この豪華さを保って、もう少し小さめの中劇場クラスで上演すれば、もっとこの作品事態の魅力は伝わると思うし、今回の演出にも適度だったように思う。

ただ、ときおりギャグが先行してテンポを崩し、まどろっこしい感もあったけれども、舞台版で一番苦手だったユダヤへの差別、暴力を描き、暗さを感じさせる老いた男女の恋愛の部分を、思いっきりコミックパートに消化して、楽しく、更に説教くさくなく人生の深さや運命の哀しさを感じさせた演出は、個人的には良かったと思う。
一幕最後の老いた男女の婚約パーティーで、全員で合唱となる「Tomorrow belongs to me」のシーンは、奇妙な違和感を醸し出し、その微妙な気持ち悪さは、良い悪いは別にして、非常なインパクトを残し、何かが残る舞台であったことは確か。
また、残念ながら、松雪泰子のサリー・ボウルズに主役の華と迫力が足りなかったせいもあって、老女シュナイダーを演じた秋山菜津子の演技が光り、まるで彼女が主役の物語であるかのような錯覚を覚えた。

もう一つ、良かったところは、何と言っても自然な日本語台本だと思う。原曲、原作からするとここまで変えていいものなのか、とも思うけれども、日本語に変わる自由さを存分に謳歌して、古い作品が時代と場所を越えて生き残っていける可能性は感じさせた。ロートレック調のセットもステキだった(照明&衣装・カツラがもうひとふんばり欲しかったが)し、ポスターもおしゃれで、細かいところはなかなか見るべきところがあっただけに、やはり、名曲揃いのこのミュージカルで、肝心のキャストの歌が聞かせられなかったこと(演技は全体に良かっただけに)が一番のマイナスポイントだったように思う。日本のミュージカルの層の薄さを露呈した感はあった。