こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

三月花形歌舞伎「染模様恩愛御書」

3月20日(土)16:30~日生劇場
通し狂言
染模様恩愛御書 細川の血達磨

大川友右衛門  市川 染五郎
印南数馬  片岡 愛之助
横山図書  市川 猿弥
腰元あざみ  市川 春猿
細川奥方照葉  上村 吉弥
細川越中守  市川 門之助

美術:前田 剛

ポスターが色っぽく美しかったので、ちょっぴり興味が沸いて、3階の天辺付近から鑑賞。
感想は一言、とにかく面白かった!
通常、歌舞伎っは、いかにも絵に描いたような大道具、というような感じのセットなのだけれど、今回の公演は、実にシンプルで上品なセットだったところがまず良かった。とりわけ、主役の2人のいわゆる「見初め」のシーンのかきつばたのセットは、組まれたシンプルなセットの向こうに薄絹が下がっていて、そこから、かきつばたが透けて見えて、幻想的で美しく見惚れてしまった。最近で見たセットの中では一番素晴らしかったと思う。また、衣装の色も全体に渋色、淡色でその色あわせを考慮され、端々までにヴィジュアル面に対するこだわりが見えた実に美しい舞台だった。

男色、ということが今回の作品の一番の珍しいところだったのかもしれないが、これについては特にどうということもない。例えば、主役の2人が、恋した相手が男であることに思い悩むようなところがあれば、男色、というところもエッセンスとなっただろうけれど、特にそういうこともなく、また愛之助さんの数馬も15,6歳のお小姓ということで、見た目に男性同士である、という印象もないので、今回はたまたま性別が男である、とつけたしのように説明されているだけの感じだった。
だから、これをゲイをテーマにした演劇、と捉えて見に行くと失望すると思う。

ただ、見せ場に向かう説明部分である一幕は歌舞伎らしいスローさが見られるのだけれど、二幕の見せ場は、さすが歌舞伎と唸らずにはいられない。
もちろん、ストーリーに突っ込みたいところはある。最後のシーンも実に美しいのだけれど、この主人と忠義を果たす家臣染五郎を結びつけたのは、美少年数馬の存在だった、と言われても、いやいや、待て、そもそもその2人が出会わなければこの被害も起こらなかったわけで、言ってみれば数馬は疫病神みたいなものじゃ、とか心の片隅で思ってしまうのだけどw、そんな物語の粗を黙らせてしまう力技の見事さ。

もうとにかく大迫力。そしてスペクタクル。
染五郎のアクションも素晴らしく、思わず鳥肌が立った。
この一場面を見るだけれども、この作品には価値があると思う。
比較的色々なものを見に行く方ではあるけれど、あっと息を呑むことがあるシーンを見せてくれるのはいつも歌舞伎である。
改めて歌舞伎の見せ場の作り方の素晴らしさを痛感した作品だった。

公演は今週金曜日まで。ぜひ、一度このスペクタクルを体験しに行ってもらいたいと思う。