こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

宝塚宙組「ロバート・キャパ 魂の記録」

3月5日(日)11:00~ 宝塚バウホール

ロバート・キャパアンドレフリードマン凰稀かなめ
ゲルダ・タロウ(ポホライル)伶美うらら
シモン・グッドマン 汝鳥伶
パブロ・ピカソ 風莉じん
チーキ・ヴェイス 春風弥里
フェデリコ・ボレル・ガルシア 鳳樹いち

演出:原田諒
振付:羽山紀代美・麻咲梨乃

第一幕がとりわけ実によくできたミュージカルだった。絶妙の振り付けと音楽が芝居にとけ込んで物語がすすむ見事さ。ミュージカルとして当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど、なかなか日本オリジナルミュージカルでそういったことをなし得るのは難しく、その点がまず素晴らしいと思った。
キャパの最期を象徴的に示すオープニング。そして、物語はアンドレが金がなくてカメラを手放し質屋に入れて騒動を起こすところからはじまる。そこから報道カメラマンになろうとパリへ旅立つ一連の流れがまずスムーズで、とりわけパリへの移動の汽車の表現が実にミュージカルしていて楽しく、気持ちを盛り上げてくれる。
セットは八百屋舞台に一面の空の背景。それにいくつかの壁を交差させたシンプルなもの。けれども照明によって表情を変える空の背景がとても効果的で印象に残った。
ベルリンからパリへ向かうところの人々はトーンの押さえられた衣装を身につけているからこそ、パリに到着してから色とりどりの風船を持って通りすぎることだけで、パリの鮮やかさを描き出すところはとても美しかった。

また、パリでのデモのシーンは振り付けの良さも相まって迫力あるいいシーンになっているし、いろいろあって、ゲルダと「ロバート・キャパ」なる人物を作り上げる際の歌でのやりとりはミュージカル仕立ても見事。
軽やかさを備えたブロードウェイミュージカルの良さがそこにあった。

二部の幕開き、スペインのフラメンコのシーンだけ、ザッツ・宝塚な見せ方になっていて興ざめしたのだけが残念だったけれど、後半のスペイン内乱の模様のダンスシーンも本当に振り付けがいいし、若者たちが実に熱を持ってよく統一し表現していて見応えがある。
またピカソゲルニカを描いたシーンは人間でよくその形を表現していて、とても印象的だった。
一方でゲルダアンドレの信頼と愛。ガルシアとその妻の写真を取るシーンの哀しい暖かさ。転換のための暗転の多用は少し辟易したけれど、二部の良さはこの内乱と人間を描きながらその暖かみを感じるところだったように思う。

アンドレと母親のそれまでのいきさつを描かれていないので、その二つのシーンは唐突に感じがちだったところを、凰稀かなめが実によく演じて、心せまるシーンになっていたことも印象的だった。
そして、ガルシアの死をを超えて、報道カメラメンの誇りを胸にその決意を告げるシーンでは、希望に溢れる可愛らしい青年だったアンドレが、研ぎすまされた美しさを放ったのは見事だった。アンドレがキャパになった瞬間を実によく表現したと思う。もちろん感情溢れるシーンもよかったけれど、私はこの時の彼女の突き抜けた美しさこそが彼女しか出せないものじゃないだろうかと思うのだ。

ゲルダはまだまだ若く固く、経験不足も感じたが、全体によく彼女の知性を表現して健闘。アンドレの新聞記者仲間以下は若手ということもあって、全体に力量が追いついていないことだけが、最も残念だったことだ。作品が未熟なら、宝塚の練習と思って若手の育成を尊重し見ることもできるのだが、作品が素晴らしいだけに、それが最も惜しく感じた。