こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

主人公とドラマの比率の難しさ@花組「アウグストゥス」「Cool Beast」

4/20(火)13:00~ 宝塚大劇場

作・演出

田渕 大輔

キャスト

ガイウス・オクタヴィウス 柚香 光
ポンペイア 華 優希
マルクス・アントニウス 瀬戸 かずや
ガイウス・ユリウス・カエサル 夏美 よう
クレオパトラ7世 凪七 瑠海
アグリッパ 水美 舞斗
ブルートゥス 永久輝 せあ
オクタヴィア 音 くり寿
マエケナス 聖乃 あすか
f:id:morton:20210423151304j:image

紀元前のローマが舞台、そして歴史上の人物が主人公ということで、上演前から前知識としてこういうのを入れておくといいよ、的な案内がTwitterにあがっていたのですが、あえて何も前知識を入れずに見に行きました。

ストーリーはこんな感じです。

大叔父・カエサル凱旋式に出席するため、留学先から帰国した主人公・オクタヴィウス。その宴の席に、父親をカエサルに殺された娘・ポンペイアが乱入し、カエサルに斬りかかる。しかし復讐は失敗し捕らわれたポンペイアを、和解のために解放することを訴えるオクタヴィウス。

共和制を謳いつつも、実質上の独裁政権であるカエサルの政治に納得できないブルートゥスたちの反乱、カエサルの側近アントニウスや妻クレオパトラの思惑が混ざりあい、混沌とする世の中にオクタヴィウスは飲み込まれていく・・・。

 

作・演出の田渕先生の作品をはじめて見たのですが、とりあえず衣装とセットは美しかったし、クレオパトラの見せ場の作り方は個人的に好きでした。

ただ登場人物の銀橋でのソロ歌唱が多用されていて、全体に単調な感じは否めませんでした。

そしてストーリーなのですが、わたしはこの時代のローマの知識はほぼなく、一応下記2作は読んだり見たりしたことある程度なのですが、

 

 

 

 

細かい設定は確かに伝わらなかったけれど、知らないと分からない、というほどのこともなかったです。

ただそれが面白いかと言われると難しい。

基本的にはオクタヴィウスの成長譚なんです。心優しい貴族のお坊ちゃまが世の中に揉まれて、人に出会い影響を受け、傷つき、学び、自分のあるべき姿を見つけていく、少年マンガの王道のような話なのですよね。

その芯のところをきちんと見せないと、周りがドラマティックなだけにのまれてしまうなという印象でした。

カエサル(シーザー)やアントニウスアントニー)、クレオパトラは、先にあげたシェイクスピアの戯曲になっているせいもあって有名だし、何よりやはりドラマティックな存在なんですよ。

そのカエサルアントニウスクレオパトラの最期も劇中で描かれるのですが、そこを描いてしまうとやはり物語の焦点がぶれる。というかその最期が劇的すぎて、オクタヴィウスの物語が薄れる。そのバランスをどう保つのか、そして「憎しみの連鎖を断ち切れるか」という裏テーマをどう描くのか、というところであがいたような印象があって、最終的に面白く盛り上げることができなかったような感じを受けました。

そんなわけで主人公よりもやはりアントニウスが美味しい。その美味しい役をこれが卒業公演になる瀬戸かずやさんが充実した演技を見せるので、どうしてもアントニウスの物語に見えてしまったのです。

それはそれでありだとは思うのですが、じゃあもっとアントニウスの物語として描く方が面白かったに違いないし、なんならカエサルを瀬戸さんが演じて、アントニウスを柚香さん、クレオパトラを華さんが演じた方が、華さんの卒業公演としてもふさわしく面白い作品になったろうに、と思ってしまったのです。

凱旋式から凱旋式への構造と海戦シーンは面白かったので、もう少しアントニウスクレオパトラの比重を落として、ポンペイアとの関係性もきちんと描き、オクタヴィウスが皇帝になるまでの心の動きを見せられたらよかったなと思います。

そんな中で柚香さんはお育ちのいいお坊ちゃまをかわいらしく、美しく好演。アグリッパ水美さんとのコンビバランスも当たり前だけどとてもよかったです。

そして華さん。ポンペイアという人物の見せ場がばっさりカットされ、後で告げるという形になりながらも、海戦シーンなど魅せるところは魅せてがんばっていました。

ブルートゥス永久輝さんはちょうどいい美味しい役をきっちりと演じた印象でした。

そして今回一番ステキだったのがオクタヴィアの音くり寿ちゃん。もう切ない、かわいい!オクタヴィアという役柄がいいからこそ、やっぱりクレオパトラをトップ娘役が演じて、この役と対峙させたかったなと思います。

そんなこれまた美味しいクレオパトラ役・凪七さんは、さすがの存在感で場面の中心にいる説得力がきっちりあったのがよかったです。

まあでも宝塚歌劇の新作オリジナル作品としてはこんなもんだよな(→ひどい)、そしてわたしはある程度の宝塚ファンとして、ショーが楽しければ芝居は忘れるということを知っている(→ますますひどい)、と迎えたショー。

f:id:morton:20210423151327j:image

いやあもう楽しかったです。ありがとう、藤井大介先生!

 

あんまりダンスが得意じゃない華さんを「野獣が恋する花」として、限りなく華さんの魅力を引き出した可憐な衣装でそこに置き、ダンスが得意な柚香さんに裸足踊らせたシーンが絶品でした。

華さんのかわいらしさと、柚香さんの持つ透明感が相まって、美しい絵本を読んでいるかのような情感を漂わせながらも、柚香さんのダンスのすばらしさを堪能できるというショーとして最高なシーンに仕上がっていました。

このシーンだけでも何倍でもおかわりできると思ったけれど、続く柚香さん、水舞さんとの「肉奪いあい対決」の楽しさ!2人ともとても無邪気でキュートで、そして何よりダンスがすごい。

そうなんです、柚香光が踊って踊って踊りまくるんです。

そして水美舞斗も踊って踊って踊りまくるんです。

これが花組、「ダンスの花組」の新しいショーなんだ・・・

と胸いっぱいでした。

さらに瀬戸さんを相手役に女役で踊る柚香さんの宝石のようなその美しさが圧巻。

本当、いいものを見せてもらいました。

惜しむらくは専科の美穂さんと凪七さんの起用で、スター格以下の活躍の場と、娘役の見せ場が少なかったところでしょうか。

とはいえ、次回の花組ショーも恐らくダンスショーになることは間違いないので、この辺は次回に期待したいと思います。

 

【追記】

4/24(土)3回目の緊急事態宣言が兵庫県にも出されたことで、4/25(日)が最後の観客入り大劇場公演となり、5/9(日)までの休演が決まりました(涙)

5/10(月)には無観客上演が配信されるとのことですが、平日のため見届けられず、残念です。

このような形となってしまってただただ切なく哀しいですが、華さん、瀬戸さんはじめ退団者の皆さまが少しでも幸せな時間になることを願っています。

そして東京公演は通常通り公演が完走できることをただひたすら祈っています。