6/11(土)15:30~ 宝塚大劇場
ミュージカル
『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』
作・演出/生田 大和
キャスト
フランツ・リスト 柚香 光
マリー・ダグー伯爵夫人 星風 まどか
フレデリック・ショパン 水美 舞斗
ジョルジュ・サンド 永久輝 せあ
ヴィクトル・ユゴー 高翔 みず希
ダグー伯爵 飛龍 つかさ
ジギスムンド・タールベルク 帆純 まひろ
ラプリュナレド伯爵夫人 音 くり寿
エミール・ド・ジラルダン 聖乃 あすか
ジョアキーノ・ロッシーニ 一之瀬 航季
オノレ・ド・バルザック 芹尚 英
オランプ・ぺリシエ 都姫 ここ
少年リスト 美空 真瑠
下手の横好きでピアノを長く習っていたわたしですが、リストというと有名な「愛の夢 第3番」に挑戦したものの全く歯が立たなかった思い出しかなく、つまり技巧を求められる作品を作る作曲家で、超絶技巧なピアニスト、くらいしか知りませんでした。
あ、ショパンと割と親しかったというのは聞きかじっていましたが、そのショパンについても曲は知っていても生涯はほとんどは知らない作曲家でした。
ただこの作品が上演されることが決まってから、リストは大変な美形で、その時代の女性を虜にしていた、ということを知り、今一番の美貌を誇るトップスター・柚香 光さんの美しさを拝みにいくか、くらいのかるーい気持ちで見に行ってみたら、本当にリストが当時美貌と実力を兼ね備えたスーパースターだったことを知りました。
隣の席の方が「YOSHIKIみたいだね」とおっしゃっていたのですが、本当にそのような存在だったのだと思います。
またWEBで調べる限り、柚香さんのこの髪型は本当に当時のリストを再現しているものっぽいです。
柚香 光に金髪の鬘、それは鬼に金棒。
幕開きの「けだるげにソファに横たわる柚香 光リストとそのソファの肘にたたずむ永久輝 せあジョルジュ・サンド」を見るだけでも、この作品滴りますよ!
ある意味、宝塚的に最強の幕開きです。
もうこの時点で、「舞台写真、早くください!」になりました。
この作品は3つのパート+ラストシーンくらいにざっくり分けられると思います。
最初が「時代の寵児」として大活躍する一方で、そうあるための様々なオプションに神経をすり減らし、悩み苦しむリスト。
もうこの最初の部分が最高にすばらしかったですね。
美しい人の悩み苦しみ荒れる姿ってそれだけで滴るというか、なんというか。
そしてサロンコンサート部分をロック調に仕立てていたのも、作品として魅せてきたし、当時のリストの存在がどんなものだったのかを分かりやすく伝えていたのも好感。
彼の苦悩も想像つきやすくもしてくれました。
そこからマリーとの恋愛パートに移っていくわけですが、ここで「痛みや悩みを共感できたから惹かれていく」というパーツがめちゃくちゃ自分好みであることを、はじめて自覚しました。
自分のピアノ演奏からその孤独を見抜いたマリーの元へ、助けを求めるように駆けつけるリスト。リストの登場に驚きながらも自分の寄る辺なさを打ち明け、心通い合わすシーンに思わずキュン!
そして手に手を取って駆け落ちする二人に納得してしまったのです。
ただそのあとの、「キャッキャウフフ」なシーンはもうちょっと作りようがあったかなあと思います。
いやまあ、次この2人で上演予定の「うたかたの恋」も同じ感じのシーンがあって、それはそれで「宝塚歌劇の恋愛」を描くとしたら古典的な手法なので、全然あり、ではあるんです。
でも要所要所、宝塚歌劇ではなくロックミュージカルっぽく仕上げているところが、割にいいなと思ったので、ここはもう二人のダンスシーンでよかったのでは、と個人的には思います。コンテンポラリーな感じのペアダンスにしてあれば、見どころの一つとして「強いシーン」を作れたように思うので、惜しい。
あと、まあ「パリから離れた」ことさえ分かれば場所はどこだっていいんですけど、下手に背景にマッターホルンが見えて、スイスなんかなあとか変に気が散ってしまったので、マッターホルンを描くなら場所を示す、なんとなくヨーロッパのどこか自然の多いところで貫くなら象徴的な背景はない方がいい気がしました。
この後、すれ違っていく二人と2月革命のはじまりが描かれていくのですが、その革命を呼びかけるエミール・ド・ジラルダンと民衆、真逆の世界で浮かれるリストを対比させたシーンと歌が、とてもミュージカルしていて見ごたえがありました。
ここでラップ調の音楽は、そのリズムが民衆のうごめきと躍動を表してとても活きていたし、それを聖乃 あすかさんがよく歌っていました。
カサノヴァでドーヴ・アチア氏と組んだ経験がこういう風に活かされていくのかと思うとまた感慨深い。
動乱のヨーロッパ、すれ違う恋人同士、揺らぐ価値観に翻弄される芸術家たち。
自分に酔いしれ、ますます道化っぽくなっていくリスト。
その中で信念を貫くジョルジュ・サンドの強さと、揺らがないショパンも魅力的。
なのに、この辺りが集中力を切らしてしまうのはなぜなんでしょうか。
この辺のマリーとリスト、サンド&ショパンとリストの会話シーンはもう一工夫、必要だったかもしれません。表現的には嫌いじゃないんですが、どうしても話を続けるための力業的な方法に見えてしまったのが残念です。
そして唐突に感じられるラストシーン。
この辺りをもう少し整理したら、退屈させないくらいの良作には仕上がったような気がします。
革命以降、サンドとショパン、マリーはそれぞれの道を歩く(マリーは待たずに作家&ジャーナリストとして活躍していく様子を描けばOK!)。そしてリストはマリーに失恋したことにして(史実と違うけれど)ローマ移住&キリスト教への傾倒をさらっと描く。ローマでの生活の中で、過去を思い出しながら「巡礼の年」を作曲するリスト、その音楽とともに現れる関わった人々とマリー。「マリー、あの最も魂が浄化された日々よ」的な感じで終わってよかったように思うのですが、どうでしょうか。
全体にわたしはかなり面白く見たので、もっと面白くできるように思うと、やっぱりカサノヴァの時と同じく「惜しい!」な感想になってしまいました。
あと気になったのがハンガリーで「リスト・フィレンツ!」と呼ばれること。副題にもあるしリアルだけど、こう呼ばれる理由の説明をしないなら、別に「フランツ・リスト」で通してしまってよかったように思います。
この作品はもちろん史実から創作されているものなので、そうなると個人的には本当かどうかはわからない「サンドとマリーとの複雑な三角関係」も書き込んでくれたら嬉しかったなと思います。
せっかくサンドを男役さんがやっているので、サンドとマリーのラブシーンとかちょっと入れてもらったら、大変おいしく見たんですけどね。
いやでも、この作品の柚香 光さんは本当に美しく、孤独感をこじらせて病んだり、コンプレックスをこじらせて有頂天になったりする姿が本当に魅力的でした。
「ポーの一族」のアラン・トワイライトが好きだった方は、見ておいて損はない柚香 光なので、ぜひ!
マリーの星風 まどかさんは、こういう自分を持った強く落ち着いた役の方が個人的には好きです。言葉が武器である役は、歌が得意な彼女によく似合っていたと思います。
水美 舞斗さんの柔和で繊細で優しいショパンはイメージどおり、そして永久輝 せあさんのジョルジュ・サンドは本当に蠱惑的でもあるので、ぜひ劇場で見ていただきたいです!
一つあか抜けた感のある聖乃 あすかさんに、もはや貫禄さえ感じさせる音 くり寿ちゃん。まどかマリーが「ちょっと着られてた?」と思ったサロンのゴージャスな衣装もなんなく着こなしてしまうのもさすがです。
と全体に柚香 光さんと永久輝 せあさんの美貌に酔いしれた後のショー、これが辛かったです。
ショー グルーヴ
『Fashionable Empire』
作・演出/稲葉 太地
いや、普通の稲葉先生のショーなんです。
しかも、場面がトップスターから4番手まできれいに散りばめられて、見せ所もあるし、普通に面白かったはずなんです。
なのにこれはタイトルが悪い。
「Fashionable Empire」と冠がついているのに、衣装がダサい(涙)
いいんです、宝塚の衣装なんてダサくても着こなしてしまうことに意味があるので。
でもタイトルが「ファッショナブル」とついてると、よけいそのダサさが気になって仕方ない。結果、一つ一つの衣装をついついチェックしてしまううちに終わってしまったのがもったいなさすぎるので、今後タイトルには本当、気をつけた方がいいと思います。
特に柚香 光さんは、舞台以外のお仕事でこんだけ「ファッショナブル」な姿を見せているので、そのレベルを求めてしまいます。
しかも柚香さんのヘアカラーがめっちゃくちゃファッショナブルなだけに、衣装がそこに追いつけない哀しさ。
これ、今からでも「Passionable Empire」とかに変えませんか、真剣に。
そうすれば普通のショーとして楽しめる気がします。