こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

わかりやすく凄くて、ちょっとわかりにくい話@日本版「ピピン」

 7/13(土)12:00~ オリックス劇場

ピピン 城田優

リーディングプレイヤー クリスタル・ケイ

チャールズ 今井清隆

ファストラーダ 霧矢大夢

キャサリン 宮澤エマ

ルイス 岡田亮輔

バーサ 中尾ミエ

テオ 河井慈杏

 

ストーリー他は過去2回の観劇記録をどうぞ。

stok0101.hatenablog.com

上記の来日公演版をかなりいい席で見て大満足していただけに、今回の日本版はどうしようかなあとかなり迷っていたのでした。

その迷いを取り払ってくれたのが、演出のダイアン・パウルスのこのインタビューでした。

ブロードウェイミュージカル『ピピン』演出家:ダイアン・パウルス インタビュー | ローチケ演劇宣言!

キャストもさることながら、演出のダイアン・パウルス自身も日本人とのミックスだったことをはじめて知りました。

 

海外から演出家が来る場合、演出の際の指示や訳詞などの問題がうまく行っている場合とそうでない場合の両方を見ることがあります。

その差は何で生まれるのかはわかりませんが、英語を解する主要キャストと日本にもルーツを持つ演出家が、日本語で改めて作る舞台とはどんなものだろう、と再び興味が沸いたのです。

 

相変わらずビンボーなのに観劇続きでチケット代の捻出が厳しかったことと、あのイリュージョンな舞台を今度はてっぺんから見たらどうなるだろうという2つの理由で三階席を選択しました。

 

ところで、皆さまは太神楽曲芸というのをご覧になったことがあるでしょうか。

わたしは二年前にはじめてこれを目の前で見まして、人間技とは思えないことが繰り広げられるというのは単純にすごいと感動するものだなとしみじみ思いました。

シルクドソレイユがずっと流行っているのもたぶんそういう理由なのでしょう。

 

さてこのダイアン・パウルスのピピンではこの「曲芸」をショーにまるっと取り込んでしまった、ここが1番の優れた点だと思います。

 

1972年に作られたこの作品は、メタフィクションを使った内容的にははっきり言って「分かりにくい」部類に入ると思います。

この物語が何を語りかけているのか、この物語から何を受け取るのかは、かなり観客側に委ねられています。

 

その小難しさを楽しませる手法として「サーカス」という曲芸を用いたのは本当に素晴らしいです。

さらにその「サーカス」がメタフィクションになっているのがまたすごい。

 

演出や曲芸、振付、衣装、美術はブロードウェイ版そのままなので、日本語版でも本当に素晴らしかったです。

 

ただ残念だったのが、セリフを伝えることと訳詞でした。

公演中あれだけ笑って、盛り上がった熱い客席だったのに、ラストシーン近くではなんだか反応が薄くなり、帰りに「え、だから最後のあれはなんやったん?」と話している観客が多くいたのは、やっぱり伝わってないのだ、と思わざるを得ませんでした。

 

少なくともはじめて日本語で見たピピンでは、わたしは何の疑問も抱かず、この作品のメタフィクションを受け入れていたし、来日公演版では、その最初の日本語版で不満だった部分を、ダイアン・パウルスがめちゃくちゃゾクゾクするシーンに変換してきたことに感動しました。来日版が初ピピンだった友人たちからも「すごい!感動!」という感想はきいても「わからなかった」の声を聞かなかったということは、やはりセリフと訳詞に問題があったのだと思います。

 

個人的にはExtraordinaryが気になりました。

この曲のextraordinaryを訳さずそのまま歌い、特に歌詞の中でextraordinaryがどういう意味かの補足もなかったと思います。

(でも調べてみたら、わたしが最初見た日本語版と同じ小田島恒志さんの訳詞なんですね。音響のせいなんだろうか)

ピピンが「オレみたいな特別な人間は、もっと特別な人生をおくらなきゃならない」と歌うこの歌が全体に聞き取りづらかった上に、サビのextraordinaryが英語のままだったのは残念でした。ピピンのこの思考がこの舞台の世界すべてを作っているのだから、ここが伝わらないのはツライ。

そしてリーディングプレイヤーのセリフが全体的に平坦で聞き取りにくかったのもツライ。

 

この2点が、このピピンにあるメタフィクションをなくし、ただサーカスの楽しいだけの舞台にしてしまった気がするのです。

 

とはいえ、このなんでもない衣装が激しく似合う城田優はすごい!

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そしてやっぱり体格も声もズルイ。

トートの時に痛感したけれど、日本人には出せない声の響き方をするんですよね。胸骨の中で響かせて、喉を通ってくるような楽器のような声。あとは本当に聞き取りやすい発声を訓練してもらえたら、個人的にはいうことなしです。

チャーミングだし、華も存在感もあるし、もっともっと舞台で活躍してほしいです。

 

逆にクリスタル・ケイさんがわりと日本人的な発声だったことに驚きました。

とはいえ、フェイクの使い方なんかはさすがシンガー。さらにダンスもかなり訓練した感が伝わりました。

もともとボブ・フォッシー振付・演出の舞台。

そして今回の振付もそのフォッシーのニュアンスはしっかり残っているので、かなり踊れないとツライんです。

なのにクリスタル・ケイさんはちゃんと観られた。これは本当にすごいことだと思います。

 

キャサリン役の宮澤エマさん合わせて、この三人が主要キャストであったこと、これは今回のカンパニーならではの「日本」のミュージカルへの挑戦だったように思います。

でも城田優くんとクリスタル・ケイさんが宮澤エマさんレベルの伝わる発声になってくれていればもっとよかったなとも思いました。

 

なぜならファストラーダ霧矢大夢さんがすごかったから。もう歌もダンスも演技も発声も完ぺき。あのフロアいっぱいを使ってガンガン踊りまくる霧矢ファストラーダに夢中!

そして今回の露出の高い衣装ではじめて気づいたんですけれど、めちゃくちゃ身体がキレイなんですよ!

本当に魅力的なファストラーダでした。

そしてもちろん宮澤エマさんのキャサリンがかわいい!もうめちゃくちゃかわいい!演技もサイコー!ピピンとキャサリンのラブ・デュエットは数あるミュージカルのデュエットの中でも個人的に大好きな一曲です。

 

この演出でのバーサはある意味おいしい役なんですけれど、中尾ミエさんもサイコー!!

わたしが最初に見た「ピピン」でもバーサをおやりになっていたんですね(^◇^;)

でも今回の演出のバーサはおいしい役だけにかなりいろいろがんばらないといけないんですけれど、素晴らしかったです。

そしてみんなでバーサとサビを歌うのですが、ここは日本語がありがたかった。

(あ、英語版同様、字幕がちゃんと舞台にでますので、歌詞知らなくても大丈夫です)

メロディは単純なんですけど、英語歌詞だとわたしの能力ではついていけなかったので、日本語で一緒に歌えるのは本当に楽しい体験でした。

 

なので、ザクッとストーリーを頭の中に入れてもらって、ミュージカルに興味ないやって方に、ぜひともこの作品を見てもらいたいです。

観客サービスは来日版より満点だし、曲芸はすごいし、笑えるし、一緒に歌えるし、すごく楽しめる舞台なんですよ!そして城田くんはかわいい❤️←大事w

 

残すはこの週末の静岡公演のみになってしまいましたが、ぜひともこの機会を逃さないでいただきたいと思っています。