こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

三つ子の魂は死ぬまで変わらず@宝塚雪組「ボニー&クライド」

2/25(土)16:00~ @御園座

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Musical
『BONNIE & CLYDE』
Book by IVAN MENCHELL
Lyrics by DON BLACK
Music by FRANK WILDHORN
BONNIE & CLYDE is presented through special arrangement with Music Theatre International (MTI).
All authorized performance materials are also supplied by MTI.
423 West 55th Street, 2nd Floor, New York, New York 10019 USA www.mtishows.com
潤色・演出/大野 拓史 

キャスト

クライド・バロウ 彩風 咲奈
ボニー・パーカー 夢白 あや
牧師 久城 あす
エマ・パーカー    杏野 このみ
特別捜査官フランク・ハマー 桜路 薫
バック・バロウ    和希 そら
ブランチ・バロウ 野々花 ひまり
ビリー・ザ・キッド 星加 梨杏
テッド・ヒントン 咲城 けい
ミリアム・ファガーソン知事 愛羽 あやね
ボニー(少女)    愛陽 みち
クライド(少年) 夢翔 みわ 

 

この映画で有名だというボニー&クライド。

宝塚歌劇でも荻田浩一さん作・演出により「凍てついた明日」という題名で、かつて2度公演されたことがありました。

また2012年はホリプロ制作で、今回の作詞&作曲家コンビの作品が、上演台本・演出、田尾下 哲さん、訳詞、小林 香さんで上演されています。
田尾下さんの当時のインタビューを読むと、オリジナル脚本家に相談しながら、シーンなどを入れ替えて作ったとのことなので、今回の宝塚歌劇版とは違うのかもしれません。

田尾下哲さん(おけぴ管理人インタビュー)

残念ながら、わたしは映画や「凍てついた明日」、2012年ホリプロ版も見たことなく、終わってから「これって大恐慌時代の話?」と同行者に聞くほど、わたしは彼ら二人について全く知識がありませんでした。
(一応舞台上には1934年ルイジアナ、とか表示されますけど、大恐慌がはじまった年が1929年とかちゃんと知らなかったもので…、すみません…)
ましてや作曲はワイルドホーン先生です。
いい作曲家と自分の好みは違うというかなんというか、ともかく、わたしはワイルドホーン先生の重たーいメインディッシュばかりドーンと続く作品が苦手だったため、なんの期待もなしに見に行きました。
そして期待はいい方に裏切られました!

てか、ワイルドホーン先生、こういうナンバーも作れるんじゃないですか!
なぜ、なぜ、今までこういうのも混ざてくれなかった。
音楽がとにかくブルース、カントリー調、ゴスペル調、ロカビリー調とさまざまなジャンルが混ざっていて、聴いていて楽しい!
これ、わたしはミュージカルで重要視しているところで、多様な音楽を作れる作曲家の方が好きなんですよね。
音楽は決して新しいものではないけれど、だから逆にこの時代感を表現できていて、毎回書いていますが、音楽がよければミュージカルとしては8割方成功しているわけです。

しかしながら肝心のブロードウェイではプレビュー入れて2か月ほどでクローズしているというその理由はどこにあったんだろう、と考えてしまうくらい、非常に興味深い作品になっていました。

 

インターネットを漂えば英語台本くらいは見つかる時代で、それを見てみても今回のものと大きく変わっている感じはせず、逆に特にラストシーンはうまい超訳にしているな、そして訳詞もうまいな、と思っただけに、今回の上演台本と訳詞がどなたのものだったのか、さらに上記にクレジットされている「MITによる特別なアレンジ版」というのはどういうことなのだろうとスタッフゾーンにナゾが飛び交うばかりなので、その辺、宝塚歌劇団さまにははっきり記載していただけたら嬉しいなと思います。

 

今回の演出は大野先生です。
そしてわたしは大野先生の演出、セット、衣装が大好きです。
そんなわけで今回の一番上段にオーケストラがあって、舞台まで階段がつながって、というセットがさまざまな雰囲気を醸し出して大好きでした。
それだけにオーケストラが休演していたときのセットはどんな感じだったのか気になります。

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というのも本当に一番上にオーケストラがあるからこそ、とりわけボニーのテーマ曲「How ‘Bout A Dance」が月のセットも美しく、照明が柔らかく照らすオーケストラがナイトクラブのイメージを増幅させて色気あるシーンになっていたからです。

 

さてボニー&クライドについて「強盗殺人犯のカップル」くらいしか知識のなかったわたしですが、今回このミュージカルで描かれたボニー&クライドは「心は子どものまま成長できなかった二人」に見えました。
その辺りは象徴的に登場する少女のボニー、少年のクライド、そして歌われる「Picture Show」が雄弁に語っていると思います。

(少年クライドもよかったけれも、少女ボニーの愛陽 みちちゃんがこの歌がめちゃくちゃ似合っていて素晴らしかったです!)

ダークヒーローという言葉があるくらいに、ピストルでターゲットを撃つゲームがあるくらいに、そういった人物像や行為に憧れるのはなんとなく理解できるし、女優にいたっては小学生くらいまでは、わたしだって憧れていました。

でも世間と現実を理解してそれは無理だと理解する方が多いと思います。
(ちなみに少女のボニーがなりたいと願う「クララ・ボウ」という女優についても全く知らなくて、まあきれいな人なんだろうな、くらいに思っていたら、Wikipediaの情報の限り、彼女もなかなかな人生で、知っていたらより少女のボニーの憧れが危なく思える気がします)

でも二人は違った。
二人に追い打ちをかけたのが環境の変化と貧困で、特にクライドの方は幼少期、引越し先の差別の中で暴力とともに育ち、教育らしい教育も受けずにそのまま成長してしまっています。

ボニーも幼い頃に父親と死別し、母親とともにど田舎と思われるダラスに移住し、そこで軽はずみな結婚をして、高校をたぶんドロップアウトしています。
もちろん同じ条件だったとしても、多くの人は一所懸命、真面目に生きることでしょう。ブランチがそうであったように。そしてバックがそうあろうとしたように。
でもクライドは現実を見ていなかった気がするのです。ゲームの世界から抜け出せない人のように。そして彼を更生する機能がなく、寧ろ監獄で虐待を受けてより世の中への反逆心を強くしてしまうのです。
このときに我々が彼を「犯罪者」と切り捨ててしまうのは簡単だけれども、それでいいのだろうか、とも考えてしまいました。
特にどんどん武装して、ヒーロー視されていく「バロウギャング」たちの姿を見せられると、銃社会への問題も投げかけている気がしました。

 

と書くとかなり陰惨な舞台なように思えるのですが、これが内容に対してこの表現を使っていいのかためらう部分なんですが、おしゃれ、なんですよ!
おしゃれな中に、神への欺瞞や、貧困にあえぐ民衆なども描かれるすごさ。
Made In America」なんかはゴスペル調の陽気なリズムに乗せた生々しい歌詞で、民衆を狂気へ導いているんじゃないのか、と思わせるのです。

(神父役・久城あすくんの歌唱も存在感も素晴らしかった!)


そして興味深いのが、ボニーもクライドも、わかりあえなくても家族のことを大切に思っているんですよね。

この辺りに二人のピュアさがあって、極悪非道な凶悪犯なだけが彼らではなくて、人間なのだなと思うのです。

あれほどはっきりと神は生活を救ってくれないことを表示されて、わたしたちが彼らと同じ境遇にいた場合、どれくらい彼らと違うのか、ということも考えてしまいました。

 

特に彩風咲奈クライドが、あれだけのことを平然と行っておきながら、兄のバックや両親の前ではあどけなさを見せるので、「ああーこの人はビリーザキッドに憧れるただの少年のまま成長していないんだ」と感じさせて哀しい。

一方の和希そらバックは兄らしく、もう少しオトナなんですが、根っこのところに「リッチになりたい」という分かりやすい欲望があって、そこに兄弟愛を交えてクライドに引っ張られていくのもツラい。

でもこの二人で歌う「When I Drive」はむじゃきに楽しく可愛くて、さらにバロウギャングになって車に乗り込む姿が格好よくて、ああこうやって当時の民衆も彼らに騙されたんだろうなと実感しました。

 

そのバックの妻ブランチが最も我々と共感しやすい人物じゃないかと思います。

そしてそのブランチを野々花ひまりちゃんが熱演!

美容師という職業柄、貧しくても美しく装い、身の丈にあったささやかな幸せを得ようと一所懸命に生きているその姿が、他がめちゃくちゃなだけに余計、心を打つのです。

歌も芝居も素晴らしくて、バックだけじゃなくて、この演目自体をひまりブランチが支えていたように見えました。

だからひまりブランチがどんなに説得を重ねても、止めることができなかったそらバックにそれでも着いていくとき、いろんな見方はあるでしょうが、彼女は最後の最後までバックを救うためにそこにいたのではないのか、と思ったのです。

だからブランチの絶叫が、何より心に響く。涙

(またこのシーンのそらバックの演技も切なくすごい!)

それこそ見ているこちら側も神と運命を恨むときに、あす神父の歌が本当に空々しく聞こえる辺り、この作品、うまいです。

 

あと描き方としてすごく興味深いなと思ったのが、テッドでした。

ボニーの幼なじみでボニーに片思いしている役なのですが、初めはいい人に見えるんです。でも物語が進むに連れて、彼が「理想のボニー」を自分の中で育てているだけということが分かるのですね。これが非常に怖い。

だからもう少しその変化というか、メッキの剥がれていくさまを丁寧に見せてもらえたらよかったかなあと思います。

 

で、ボニーですよね。

夢白さんがどうというより、なんというか、この役は非常に難しいなあと思いました。

ずっとどんなボニーだったら、わたし自身は納得したのだろうと考えているのですが、答えがない。

そんな中で夢白さんはよく演じていたと思います。

ただひまりブランチが、いじわるで「ボッサボサの髪型で」というようなセリフがあるんですけれど、ほんとボッサボサに見えたのがよいのか、悪いのか。汗

とりあえずヘアスタイルとメイクについては、せっかく美しいのだから、もうひと頑張りお願いしたいところかなあと思いました。

 

ボニーが詩を詠むシーンがいくつかあるんですが、ここがやっぱり英語脚本を見ると、日本語にするのが難しいところだなあと思います。

ただ詩作が好きなボニーが、その語感にこだわったというところで、あの最後のシーンのセリフになるのがステキでしたし、よくぞ元の英語のセリフからあそこまで超訳したな、とも思うので、繰り返しますが上演脚本のクレジットの掲載をぜひ今からでもお願いしたいです。

 

蛇足ですが、フィナーレが、最後のクライドの登場が、めっちゃくちゃ格好よかったことも記しておきます。

本作の終わり方がよかったので、フィナーレいらなくない?と思ったのですが、あの最後の登場は欲しい!

そしてあの最後の登場があるから余計に、この作品を別箱でやる意味があったと思いました。