12/11(土)17:30~ 梅田芸術劇場
スタッフ
脚本・作詞・作曲 ライオネル・バート
この日のキャストは下記の通りでした。
日本では31年振りの公演となるようです。
その辺りの事情はミュージカル『オリバー!』に魅せられて~観た・気付いた・愛した | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイスが詳しかったです。
わたしがこのミュージカルをどうしても見に行きたいと思ったのは、もちろん先の記事にもあるように映画版が大好きというのも一つです。
とりあえずマーク・レスターのかわいらしさに癒されるのでおススメです。
そしてはじめてロンドンに短期滞在した20歳の頃、ちょうどこのミュージカルが上演されていて、すぐに「はじめての英語ミュージカル観賞」に選んだのがこの演目だったのです。
いろんなことがはじめてすぎて記憶が曖昧なのですが、とにかく感動して、3週間の滞在中に2回見に行ったことだけ覚えています。
(当時の担当教授には2回見に行くほどいい作品か、と言われたけれど、好きだったのでね汗)
あとは子どもたちのパワフルさがすごかったこと。
ああこんな子どもがいっぱい出てくるミュージカルを日本で見るのはなかなかできないよなあ、としみじみ思ったものですが、まさかこのコロナ禍でこの作品が日本で上演されることになるとは思わなかったです。
新演出版、と謳われていましたが、どこが「新」だったのかはわかりませんでした。
ただこういう古いミュージカルにありがちなオーバーチュアはなく、すぐに少年たちの大合唱「Food Glorious Food」からはじまったのは、このミュージカルの特色をガツンと見せつけていて、さらに後半は食器を使ったリズムパフォーマンスも織り交ぜてあって、一気に物語へ引き込むよいオープニングだと感じました。
19世紀ヴィクトリア朝の英国、しかも貧民層を描いたこの作品は、救貧院で生活するオリバー・ツイストが、もろもろあって救貧院を追い出され、葬儀社に売り飛ばされ、そこから逃げてロンドンにたどり着き、すりの集団と出会うことからはじまります。
映画を見ていたころは、ただただ苦難から救済される少年に心温まり、その音楽に酔っていたのですが、今改めて見るとものすごく「人間」を感じるのです。
貧しさの中にも差があって、その中でそれぞれの価値観で生き抜いている大人や子どもたちのありようが刺さってきました。
その象徴が実はこのミュージカルの主役フェイギンなのです。
彼の行いは「悪」ではあるけれども、彼を一言で「悪人」と言い表すことができない、そのことが本当に「人間」だなと感じました。
そしてその人間を武田真治さんはちゃんとチャーミングに演じていました。
ただ実年齢よりも老けて見せさせるせいか、特殊メイクなみの舞台化粧が気にかかりました。
フェイギンの内面を歌った曲「Reviewing the Situation」は年老いて独り身で生きていく不安なども織り交ぜているのですが、武田真治さんの現在の年齢で歌っても特に違和感はないと思うのです。というかむしろそうした方が幅広い世代に響くような気がしただけに、メイクだけが残念でした。
このミュージカルを見に行ったもう一つの理由が、ナンシー役をソニンさんが演じるということでした。
珠玉のナンバーが揃うなかでもナンシーの「As Long As He Needs Me」が特に大好きな歌で、これをソニンさんがどう表現してくれるかを楽しみにしていたのです。
というのも、若いころはよく分かっていなかったけれど、ナンシーは恋人であるビル・サイクスからDVを受けているのですよね。
なのに「彼が自分を必要をしてくれる限り、彼を愛する、なんでもする」と歌う。
この状況を今ならどう感じるのだろうと思っていたのですが、ソニンナンシーは明るくふるまい、子どもたちに優しく接しながらも、孤独の闇を抱えている様をまざまざと伝えてきたのです。
ミュージカルを見るだけでは彼女の過去や育ってきた過程はわからない。けれどもそこには壮絶なものがあって、その中でビル・サイクスは小さなロウソクの炎のような、それしかない頼りない、けれども生きていくのにどうしても必要だった「希望」のように思えました。そしてそんな彼女が歌う「As Long As He Needs Me」はただ悲しくて、彼女がどうなるかわかっているのに、ラストシーンでは涙してしまいました。
もちろん「ウンパッパ」も楽しく、圧巻!
少年たちの「Consider Yourself」や「I’d Do Anything」もかわいくて楽しくて、歌声の層もオーケストラも音の厚みがすごいことを改めて感じました。
珠玉のミュージカルナンバーではありますが、やはり音楽としては古いです。でも逆にあれからたくさんの新しいミュージカル曲を聞いたからこそ、改めてこの古い音楽が、今のミュージカル曲にはない音の厚みを持っていることに気付きました。
そして何よりセットがすごい。
私がロンドンで見たときはパラディウムシアターで上演されていたのですが、その5年後にはここで「チキチキバンバン」を見たように、子ども向けのミュージカルがかけられる劇場でした。
そして学校行事で子どもたちが見に来ることも多い劇場でもありました。
でもだからこそ、ここでかけられる作品はキャストとセットは豪華で一流で、子どもに見せるからこそ一流品を、という心意気が見えてくるような気が当時したものです。
今回のセットも今どきこんなにお金かけられる?くらいの造りのしっかりしたもので、一つのシーンのセットが集約されていったかと思うと、その消失点から光が差し込み、セントポール大聖堂を軸にロンドンの町が広がっていくさまは、特に見事でした。
実はこの日、高校生たちの団体が校外学習として観劇にいらしていたのですが、彼らにもっと興味をもってもらえるような「今の音楽を使った、今のミュージカル」を見せた方がいいんじゃないかとか勝手に思ったりしたのですが、これだけのキャストとアンサンブル、オーケストラ、そしてこのセットを日本で見られる機会はそんなにないと思うので、ある意味、「基本を見る」という意味で正解だったのでは、と思います。
子どもたちはみんな本当にパワフルで素晴らしかったのですが、その中で選ばれただけあってオリバー役の小林佑玖くんは本当に透明で柔らかい音質の歌声がかわいくてオリバーそのものでした。「Where Is Love?」はもう歌声だけでキュン!
対するドジャー役の佐野航太郎くんはエネルギッシュで歌声も力強く、素晴らしい「Consider Yourself」や「I’d Do Anything」を見せてくれました。
正直、大好きだけど古いミュージカルだから退屈するかなと思っていたのですが、そしてやっぱりもうちょっとすっきりさせた方がいいなと思う部分や、ここはもうちょっと丁寧になり行きを伝えた方がいいなと感じた部分もあったのですが、全体には想像以上に圧倒されてしまいました。
そして、25年経って、今はじめて原作に手を出しました。
これがまたロンドンの地名が分かるだけに、旅行に行けない今、懐かしく思い出しながらもその描写に驚きながら読んでいます。
この作品が気に入られて原作が未読の方がおられましたらぜひ。オリバーの冒険はミュージカル版より波乱万丈です。そしてフェイギンをユダヤ人と表現しなかったことにミュージカル版のよさも感じます。
でもフェイギンのラストシーンはやはり映画版が好きです。これはミュージカル版にも反映しても良かったように個人的には感じます。
ところでこの日はサンクストークという名のアフタートークがあって、ナンシー役のソニンさんとオリバー役の小林佑玖くん、ドジャー役の佐野航太郎くんが登場。
せっかくなので記録としてうろ覚えですが内容を書き残したいと思います。
Q.特に心に残るセットまたは小道具は?
オリバー役の小林佑玖くん
A.小道具の本。中が英語なので読めないから。
ドジャー役の佐野航太郎くん
A.フェイギンの家?のベッド。
実は固くて寝にくくて、いつも身体のあちこちが痛くなっていたのに、大阪公演からスポンジが入ったみたいで快適になったから。
ちょっとウトウトしたこともある。
ナンシー役ソニンさん
A.衣装は1つしかないけれど、ショールだけ2枚あるので、それでイメージが違うように工夫している。ショールはビル・サイクスからもらったもの、と言う個人的な裏設定を作っている。
Q.ソニンさんは「ウンパッパ」を歌う前に毎回違う一言をアドリブで入れていますが、個人的に好きなものは?
A.二部の幕開きなので、カンパニーのみんなに元気になってもらえたらいいなと思って毎日違うものを考えている。ちなみに今日は、くる途中梅田が本当に人でいっぱいだったので「外は人でいっぱいだよ」にした。
印象的だったのは、東京千秋楽で「今日で終わりだよ」と言ったら客席から拍手をいただけたこと。
オリバーとドジャー、出会いの部分を入れ替わってやってみて、みたいなお題もあって、ちゃんと出来る2人に感動の一時でもありました。
天井に近いところから見ていたのですが
(そんなわけで撮影可のカーテンコールはこんな感じです)
もっと前の方の席をとってもよかったなと後悔しました。セットの全貌も堪能したかったです。