7/1 17:30~ COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
キャスト
サラ・バグリー 柚希礼音
ハリエット・ファーリー ソニン
アビゲイル 実咲凛音
ルーシー・ラーコム 清水くるみ
ベンジャミン・カーティス 水田航生
シェイマス 寺西拓人
マーシャ 平野綾
ヘプサベス 松原凛子
グレイディーズ 谷口ゆうな
フローリア 杉山真梨佳
アボット・ローレンス 原田優一
ウィリアム・スクーラー 戸井勝海
ラーコム夫人/オールドルーシー 春風ひとみ
スタッフ
作詞・作曲 クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
脚本・歌詞・演出 板垣恭一
振付 当銀大輔
「1789」はスペクタキュラ―と銘打ちながら、今やなんか政治的なことまで考えてしまう作品になりましたが、こちらはそもそもが社会派ミュージカルです。
そしてこの問題は今もなお、多くの労働者が直面していることだと思うので、再演で多くの人が見てくれることを希望していました。
初演の時に願ったように、再演はできる限りのブラッシュアップはされていました。
でもわたしが好きなだけで、みんなが好きな作品にはなるのは難しいのだなあと改めて思いました。
ただ初演感想で書いた「ガールズの無意識の上から目線」部分は消去されていたので、一番訴えたいところをきちんと訴えられるようになったかなと思います。
(あと大阪は箱もよかった!いや簡素な劇場であることは知っていたので、この作品の世界観にあうだろうなと。サイズもぴったりだと思いました。ただ一律14,000円のハードルは高かったですね涙)
初演からはちょこちょこセリフも変わり、サラとハリエットの性格も少し変わったように思いました。
サラは初演の方がもっと「普通の人」でよかったかな。再演では「思ったことはつい言葉にしちゃう性格」というのが付け加えられていて、まあそれもリアルだし、この作品で「サラ・バグリー」をどうしたいか、というのは分かりやすくなったのですが、個人的には初演の素直で普通のサラが、それでもどうしてもこの状況に文句をいいたくなってしまう、改善したいと願う方が好みではありました。
一方のハリエットは「父親のDVで母親が死んだ」ことを今回セリフではっきりと明示されます。
もちろん「ペーパードール」の曲の中で今までも暗示されていたのですが、はっきりと言葉になることで、この過去を持ったハリエットに演じ変えていたように思いました。
常に人の顔色を窺い、感情の爆発を避け、なるべく物事を穏やかにスムーズに進めるよう、静かに内心いつもどこか怯えながらそこにいる。
初演の毅然として冷静沈着で聡明なハリエットも好きでしたが、ハリエットは今回の方が人間味があって好ましく思いました。
初演後のソニンさんのバースデーライブ配信で「ローウェル・オウファリング」ではハリエットはいくつかのペンネームを持って書き分けているということを教えていただいたのですが、そういうハリエットの行動にもつながる役作りだったと思います。
争うことが怖くて、慎重に慎重に事を運ぼうとするハリエットがよく分かる。
そこにある意味、精神的には健全に育ったサラがずかずかと入り込んでくるのは面白かったですし、二人が対立していくのも理解しやすかったので、ブラッシュアップ、になったのではと思います。
初演を見たときは、アメリカのどの辺りの時代か分からず、できる限り調べて初演の感想を書きました。
なので、知識的に初演と再演と見る目も変わってしまったため、ベンジャミンの新曲「鉄の絆」を聞いたときに、鉄道に乗って移動していた「風と共に去りぬ」の世界を思い出し、この後に南北戦争があるんだなあと思ったのですが、この曲の追加が必要だったかどうかがちょっと分からないのです。
そしてその変わりに彼女たちの一世代前の女性の生き方が語られる「ミセス・ラーコムの晩御飯」はBGMになってしまいました。
この作品は女性の地位向上を目指した作品ではあるけれど、それ以上に労働上にある差別についても描いているところが好きだったので、男性の歌も必要ではあると思うのです。
さらに「鉄の絆」はもっと広い世界を見て、経済を大きく発展させていきたい趣旨の歌なので、目の前の労働時間、労働環境の改善に立ち向かうガールズとの対比も出て、いいとは思うのです。
でも「ミセス・ラーコムの晩御飯」を抜いてまで付け足す必要があったのかどうかは考えるところではあります。
ただ現状なかなか日本でミュージカル作曲家が生まれづらい中、アメリカの大学で単位取得のために作ったミュージカル作品からいいものを選んで日本で育てていく、という道筋は本当にアリだと思うし、面白い目のつけどころだと思うので、今後もこういう新しい作品が、日本でどんどん産まれてくるといいなと思います。
(残念ながら初演でリンクした「ダディ・ロング・レッグス」などのミュージカルをプロデュースしたケン・ダベンポート氏の課題で作られた作品の優秀なものを選出したサイトは閉鎖されてしまっています。でも学校の課題でシタアーライティングがあって、その優秀作品を選出できる状況がまず日本と違うなと未だに思います)
ところで一部の記事で「ルーシー・ラーコムの回想記『A New England Girlhood』をベースにしたミュージカル」、と説明されているものも見かけたのですが、初演の時にはそんな話しはどこにもなく、ルーシー・ラーコムは実在の人物だということだけが、プログラムのキャストコメントで分かる程度だったのです。
今回のプログラムを読んでも、この作品の着想元は「ローウェル・オウファリング」であると明記されていたので、どこからそのような話しがでたのか気になっています。
(初演見た後、ルーシー・ラーコムを調べようにも綴りも分からず苦労して探したので、いきなり再演でどうしてそんな話しでた感に驚いたのでした)
でもそんな気になるところを吹き飛ばすように、ガールズはパワーアップしていました!
ルーシー清水くるみちゃんのチャーミングなこと。そしてそのチャーミングさをオールドルーシーにつなげる春風ひとみさんの的確な演技。
アビゲイルは初演を経て、ますます大人で知的になっていて、この役は実咲さんの当たり役ではと思います。そして「いるよなー、こんな女の子」というマーシャが再演から参加の平野綾さんだったのですが、彼女がめちゃくちゃかわいい!
お金持ちのいい男と結婚して幸せになりたいという夢と、労働上の差別に怒る心は両立します。それを強く感じさせるすごくステキなマーシャでした。
マーシャとヘプサベスが歌う「オシャレをしたい」も二人とも素直でチャーミングで、だからこそ、後半で明かされる彼女らの多くが貧困にあえぎ、父親のDVに苦しんでいた事実が突き刺さるのです。
この作品を見に行く前にNTLiveの「オセロー」を見たのですが、
幕間の制作陣対談放映で「男性はストレスが自分が支配できる家庭への暴力に変化しがちだ」的な発言がありました。
貧困というストレスの中、自ら経済力を持てなかった女性たちがDV被害にあう。彼女たちはそんな父親、母親を見て育ったことを改めて感じました。
だからこそ最後の最後、再演のパンフレットの中で男性陣に「スーパーソニンタイム」と言われていたハリエットの爆発があると思うのです。
わたしが見た日は前日フローリア役の能條愛未さんが体調不良で公演中止になって、初演からのアンサンブルだった杉山真梨佳さんが代役としてフローリアを演じた2公演目でした。(ちなみに杉山真梨佳さんのフローリアは歌も演技も素晴らしかったです。)
それが関係したのかどうかは分かりませんが、ソニンさん自身もこのようにインスタにあげられているほど
ハリエットの感情の揺らぎを感じ、その哀しみ、その痛み、その悔しさ、その怒りがまっすぐに客席に届いて、心震える公演でした。
そして「奴隷じゃないわ、娼婦でもない」の歌詞を「どう生きるかを指図しないで、わたしの人生はわたしのために」に変えてくださったことには、心より感謝。
これは今のわたしたちにも、とても突き刺さる言葉だと思いました。
男性陣もまたよかった。特に初演から続投している原田優一さんのアボット工場長。もう本当に一歩会社に帰れば出会えそうなほどリアル。
シェイマスの寺西拓人さんは、とても誠実で、だからこそガールズが敗れた後にスクーラーから告げられるセリフを受ける姿、そしてこの後の史実の皮肉さが響きました。
変わりはいる。使い捨ての労働者にすぎない。
でも声をあげなければ、社会は変わらない。
見るとやっぱりまたいろいろ考えてしまって、調べてしまうのですが、一つ参考になった論文を自分のためにリンクしておきます。
最後になっちゃいましたが、谷口ゆうなさんのグレイディーズ、あなたが大好きです。
幕開きの「機械のように」からキレッキレに踊っちゃうダンス力も暖かな歌声も本当にステキ。ガールズが「太陽かえして」と訴えるこの作品を優しく照らす月は彼女だったと思います。