こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

当事者のいない閣議への反乱@宝塚星組「1789-バスティーユの恋人たち―」

6/29 13:00~ 宝塚大劇場

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スタッフ

脚本・音楽 ドーヴ・アチア、アルベール・コーエン
潤色・演出 小池 修一郎 

キャスト

ロナン・マズリエ 礼 真琴    
オランプ・デュ・ピュジェ 舞空 瞳

マリー・アントワネット 有沙 瞳      
シャルル・アルトワ 瀬央 ゆりあ        
カミーユ・デムーラン    暁 千星        
マクシミリアン・ロベスピエール 極美 慎
ジョルジュ・ジャック・ダントン 天華 えま

ソレーヌ・マズリエ 小桜 ほのか         
ラザール・ペイロール 輝月 ゆうま        
ヨランド・ドゥ・ポリニャック 白妙 なつ        
ジャック・ネッケル    輝咲 玲央    
ルイ16世 ひろ香 祐        
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン 天飛 華音        
シャルロット 瑠璃 花夏

 

見るたび違う印象を抱くのが楽しくて大好きな作品なので、今度は何を感じるだろうと観劇を楽しみにしていた作品なのですが、まさかの初日開いてから2週間強の休演でチケットは紙となり嘆いていたところ、救い手現れ、天井桟敷から見ることができました。

まず月組初演の感想がこちら。

stok0101.hatenablog.com

東宝初演の感想がこちら。

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東宝再演の感想がこちら。

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東宝再演を見てようやくこの物語が「ロナンとアントワネットが真逆の方向からではあるけれど、今起こっている問題に気づき、自分というものに気づき、それぞれの立場で何をすべきか考えるにいたるさまがリンクしている」ことに気づいたわけですが、そうなると、宝塚月組の初演配役の在り方も「アリ」だったなあ、と今さらながら思いました。

 

とはいえ、宝塚にはトップコンビがあり、星組には三拍子も四拍子もそろった素晴らしきトップコンビがいる。そしてトップ娘役に負けない輝きと実力を兼ね備えた有沙瞳さんがいる。その素晴らしいバランスで見るこの作品はまた大変に面白かったです。

そして東宝版のソニンソレーヌがすごかっただけに、宝塚ではどうなるだろう、と思っていたら、小桜ほのかちゃんのソレーヌが本当に素晴らしかったのです。

このソレーヌは、田舎娘でロナンに取り残されてなすすべもなく、仕方なしにパリに出てきて、最初はそんなつもりなく騙されたような形で娼婦になったんだろうなあという感じが全面にでていて、だからダントンの話しもあんまりよく分からなくて、ただ話しを聞いていると同じ「庶民」というくくりなはずなのに「金持ちのボンボン」だから、今日明日をどうにか食つなぐ、なんてことを考えずに、人権をとか、フランスの未来をとか言えるんだろうなあ、と思っていそうなソレーヌなんですね。

つまり本当に「社会の底辺にいる若い娘」感があって、だからこそこのソレーヌで「パン屋襲撃」を見たかったなと思います。

 

ダントン・デムーラン・ロベスピエールの三人組と、その対極にいるアルトワ伯のバランスもとても良かったです。

それぞれに画策する人々。

それに翻弄されるルイ16世とアントワネット、そしてロナンとオランプ。

デムーラン暁さんがとても誠実だからこそ、無意識の上から目線が見えるのが面白い。

三部会から第3身分のロベスピエールら市民が追い出されて、ジュードポムへ駆け込むシーンが本当にムネアツなんですが、そういう大事なことですらロナンやオランプの参加できないところで決まるのだなあと改めて感じました。

世の中のことは「本当の当事者」がいないところで、どんどん決められていく、というのが現状に重なり、あきらめのため息をつきたくなるところで、ロナンが登場するのです!

そしてこのロナンは歌もうまいけれど、ダンスがめちゃくちゃ上手い!そのスキルを思いっきり活かして素晴らしい踊りで民衆を鼓舞するシーンが特に圧巻でした。

あとロナンとオランプが「身分関係なく自由に愛し合いたい」というストレートな思いがグッと伝わってくるところも、今回の配役ならではかなと思いました。

ただやっぱりどうしてもラストシーンがああなるので「フランス人権宣言」自体の存在が薄くなっちゃうのは、宝塚版の残念なところではあると思います。

というか、こうだったから、東宝版初演を見たときに「フランス人権宣言」が印象的だったんでしょうね。

まあ、どちらがいいかは好き好きなので、難しいかもですが、キャスト一新しての東宝版「1789」の再演もお待ちしています。

 

実は東宝版再演の1789の円盤

mall.toho-ret.co.jp

を購入しまして、見直してからこの星組1789を観劇したのですが、歌のカット、追加はあれど流れはほぼこの東宝再演と同じです。

そしてこれを見ていると改めて、ルイ16世がネッケルとアルトワ、両方の意見を聞きながらも、革命を回避できない方ばかりを選んでいくのが見えるのが怖いです。

本当のルイ16世がどんな人物で、本当は革命にいたるまで彼がどんなことをしていたのかは私は知らないのですが、この作品の中でルイ16世は、とにかく「いい人」で、でも「政治的な関心」はなかったように描かれています。

「私は罪なくして死んでいく」という処刑の際の言葉が有名ですが、最終決定権を持った人間が周囲の思惑に気づかず踊らされているのは、罪ではないだろうかと思わずにはいられなかったのです。

でも彼のような人間はきっと今も政治の中枢のところにいるだろうなと。

ただロナンと私たちの最大の違いは「選挙権を持っている」ことなのだから、考えて行動しなければならないな、なんてことまで考えてしまうのは、エンタメとしていいのか、悪いのか、そんなところも面白い作品だなと思いました。