5/3(水)12:00~ 昼の部
浅田一鳥 原作
一、播州皿屋敷(ばんしゅうさらやしき)
浅山鉄山 橋之助
腰元お菊 虎之介
岩渕忠太 片岡亀蔵
三島由紀夫 作
二世藤間勘祖 演出・振付
二、鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)
鰯賣猿源氏 勘九郎
傾城蛍火 七之助
博労六郎左衛門 橋之助
傾城薄雲 鶴松
亭主 片岡亀蔵
海老名なあみだぶつ 扇雀
まだまだコイバナが話題の主流だった若き頃、こんな質問がありました。
「どんな相手だろうと誘われたら思わず行ってしまうものは?」
これに若き日のわたしはこう答えました。
「平成中村座の御大尽席のチケットがあるけど一緒に行かない?と誘われたら、どんな相手でも行く!」
残念ながら誘われる機会もなく、かつなかなかタイミング合わず、自ら見に行く機会もなく、さらにコロナ禍で「平成中村座」は遠くになりけり・・・なんて思っていた頃、なんと姫路城までやってきてくれるというニュースが耳に入りました!
しかも演目が昼の部、夜の部ともにとても魅力的。
夜の部の「棒しばり」、実はわたしが唯一、勘三郎さんプロデュース公演で見た演目で、かつ、ファンになって初めて生・七之助さんを見た作品だっただけに思入れもある。(次郎冠者はもちろん勘九郎さん)
でも昨年、松竹座で「播州皿屋敷」も含めたJホラー歌舞伎を見て、本来の「播州皿屋敷」が見たい思っていたところだったことと、テレビで見た「鰯賣戀曳網」がすごく楽しかった記憶があったので、昼の部を選びました。
演目を選ぶまではスムーズだったのですが、難しかったのが座席選び。
過去の平成中村座の画像を検索するかぎり、松席は座椅子のみ、竹席は椅子があるけれど、段差があるかどうか分からず、見やすいのか分からない。2階の竹席なら嬉しいけれど、そんな座席指定はできない。と迷ったあげくの梅席でした。
でも今思えばどこでもよかった気がします。
(ちなみに1階の竹席はゆるやかな傾斜はあるように見えました)
座席表を見ていただくとわかるように900席弱の小さな芝居小屋なので、たぶんどこでも近いし、その場所なりの臨場感があるように思います。
わたしたちの梅席は下手側で、通常の劇場だと花道が見切れるのですが、平成中村座は天井も低いので、役者さんが花道を通ると首から上がはっきりと見える!
そして本舞台もめちゃくちゃ近い!
でも敢えて初めて行くなら、もしかしたらところどころ見にくいかもしれないし、わたしのように座椅子はちょっとという方もいるかもしれないけれど、松席がオススメだと思います。
というのも平成中村座の醍醐味の舞台裏が開くシーンがですね、梅席だと後ろの風景が見えない・・・というか、肝心の姫路城が見えなかったので、それはちょっと見たかったなと思います。
(あと憧れの「御大尽席」ですが、ここは素人が座れる席ではない、と思いました…。かなり他の観客からも注目されますし、松席は三角座りでも大丈夫でも、御大尽席は正座しないといけない雰囲気漂ってました。いや長座してもいいんでしょうけど、あそこでだらしなく観劇する勇気は、とりあえずわたしにはありません・・・)
しかしまあ「平成中村座」がこんな楽しい場所とは知りませんでした。
作られるのは芝居小屋だけじゃないんですよね。
姫路の特産品や芝居に関するものが売られている「三十軒長屋」があって、そこをお祭り気分で通り抜けたら、お弁当やら飲み物やらが売っているホワイエ的なものがあって、もうここだけでも気分がかなりあがりました。
芝居小屋内は靴を脱ぐことになっていると事前に調べていたので、脱ぎ履きしやすい靴で行って寒かった時用に靴下も用意していたのですが、床は絨毯でふかふかなんです。
冬はそれでも冷えるかもしれませんが、足ざわりも本当によくて、めちゃくちゃよくできた芝居小屋だと思いました。
さらにそれを支える人たちが素晴らしい!
平成中村座の芝居小屋内を取り仕切るのがプロのお茶子さんたちです。
座席の案内や注意事項の伝達など普通の劇場スタッフがされることをやってくださるのですが、その仕方がなんともフレンドリーで温かい。
前述したようにわたしが座った梅席からは「花道」が見切れます。
なので、観劇中は座席の背もたれに背をつけて見てね、というお約束の注意事項の後、「とは言っても、ここ、花道が見えないんですよね。なので、花道のシーンは皆さんで譲り合ってちょっと身を乗り出して、楽しんでください」的なことをおっしゃってくださって、とにかく見る人が少しでも楽しく、という心意気が伝わって感激しました。
さて昼の部最初の演目「播州皿屋敷」ですが、姫路城内にも縁のお菊井戸があるので、ここで姫路城を見せるのかなと思っていたら、この仕掛けはその部の最終演目に限るっぽいですね。
Jホラー歌舞伎で見たときの方が浅山鉄山の痛めつけっぷりが酷かったので、そこは敢えてマイルドに演出しているのかなと思います。
Jホラー歌舞伎のときは、浅山鉄山が成敗されるところまで描かれたのですが、そこまで行かずに、有名な「井戸から幽霊となったお菊さんが登場する」シーンまで。
そのシーンにこれまた独特の演出を入れているので、そこまでの見ててもしんどい折檻シーンが吹き飛んで、完全アトラクション気分で見終えさせるの、さすがです!
そして二幕目が、三島由紀夫ってこんな大らかでハッピーな作品も書けたのね、という、とにかく登場人物がみんなかわいくて楽しいラブコメ「鰯賣戀曳網」です。
三島由紀夫作、ですから、まだまだ歌舞伎の演目としては新しいので、セリフも聞き取りやすく、本当に初心者にもオススメ!
内容も鰯売りの主人公・猿源治が高級遊女・蛍火に恋をして、仕事に身が入らないのをなんとかしようと、父親が猿源治を大名に仕立て上げて蛍火に会わせてあげたら、いろいろあっての大団円というわっかりやすい物語を、お座敷遊びの「軍物語」の舞で魅せたり、身の上話を女形のクドキで魅せたりと「歌舞伎」の魅力もたっぷりです。
そしてお装束もパステルカラーでかわいい!
シネマ歌舞伎は勘三郎さんと玉三郎さんの映像で、残念ながら見たことはないのですが、勘九郎さん、七之助さんにもピッタリの役柄だと思っています。
勘九郎さんの「陽」のオーラが明るく場内を照らし、七之助さんのチャーミングな女形が光る。そして笑いもたっぷり。
その上で勘九郎さんの「軍物語」の踊りは本当に迫力で素晴らしかったし、最後のキリッとした七之助さんのお姫様ぶりもステキでした。
(そして昼の部は2作品とも片岡亀蔵さんが大活躍!)
でもどうやって平成中村座ならではのラストシーンにつなげるんだろうと思っていたら、まさかの新婚旅行!
いやあもうハッピーがこんな溢れだしている場所がこの世にあるなんて、くらい幸福感に包まれました。
賛否両論あるかと思いますが、幕間の座席での飲食も可に戻っていて、かつての芝居小屋気分を満喫。
幕間飲食中の喚起対策もばっちりでした。小屋の窓が開くのでね。
未見でかつ七之助さんにとっての初役である夜の部の「天守物語」も心の底から見たかったですが、「鰯賣戀曳網」をぜひ和歌山城で「平成中村座」で見たいなと思います。
一応舞台設定は室町時代で、蛍火の出身地は紀国丹鶴城(新宮市)で、和歌山城には関係ないと言えばないのですが、大きく「紀国」ってことでもう蛍火の故郷にしちゃって、上演してもいいんじゃないですか?
ラストシーンで蛍火の両親いる設定で和歌山城に手を振る二人が見たい!
和歌山市観光局の方、ぜひとも観光促進のために「平成中村座」を和歌山城に招きませんか?真剣に。その時は松席をがんばって取ります!
そして桜席も気になるので少なくとも2回見たい!
本当にそんなお願いをしたくなるくらい、何度でも見たかったし、「平成中村座」をまた体感してみたくなる公演でした。