こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

羊と兵隊

7月19日 14:30~ 本多劇場
中村 獅童

田畑 智子
辺見 えみり
近藤 公園

田島 ゆみか
佐藤 直子
高橋 理恵子
永岡 佑

岩松 了

舞台は過去なのか、未来なのか分からない、とある時代の、どこか別の宇宙にあるかもしれない日本。戦時中で、その戦争の中で私服を肥やしている一家の愛憎劇である。

ラスト・フレンズ」を見ていたときに、ミチルを「見える不幸」、ルカを「見えない不幸」というようなことを書いたけれども、この芝居にも同じようなものを感じた。
つまり、戦時中の一般庶民、食料配給も途絶え、自ら栽培を始めなければならく、家もなくぬかるんだ地面にテントを張って暮らしている彼らは、間違いなく不幸だ。けれども、好きでもない男に嫁ぎ、キレイな家に住み、日がな一日、苦しみから逃れるために、何も知らないふりをして、コーヒーを飲む、そういう不幸だってあるわけで、だから、人生は見えてるとおりじゃなくて、難しいのだと思う。

その彼女の不幸の原因はどこから発するかということを考えると、この芝居の中では、それはやはり「戦争」で、さらに「親の傲慢な愛情」なのである。

「親の傲慢な愛情」の最大限の被害が目に見えるクライマックスは、分かってはいたけれども、それでも衝撃はあって、例えば貴志祐介の「青の炎」を読んだときにも思ったのだけど、もうひたすらにやりきれなくて悔しい。
大人は子供を侮りすぎて、なのに、ちゃんと子供の側面を見ないのだ。
だから、そこに不幸が忍び寄る。
スター・ウォーズでアナキンがダークサイドに落ちるのも、結局は同じ理由だと思う。

そういう、子供と大人の不幸、不幸となんとか折り合いをつけて生きたり死んだりしようとする賢くて哀しい二人の男女の熱、そしてほのかな戦争批判を含みつつ、セリフで彩りながら、決して声高に叫ぶことのない、個人的にいい芝居だったと思う。できるならもう一度見てみたいくらいだ。

役者陣は辺見えみりが思いのほか声がよく通って良かった。もう少し動きが洗練されれば、舞台向きの良い役者になるかもしれない。そういう意味で、やはり歌舞伎育ちの中村獅童は、動きがちゃんとしていて、見ていて心地よかったし、主役としての勤めを十分果たしたと思う。
妹役の田島 ゆみかが、彼女の中の葛藤を描き伝えるまでいかなかったのが、この芝居の意味合い的にも残念だったけれども、その他はそれぞれに及第点、田畑智子はさすがの演技力だった。