こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

キャラメルボックス2007チャレンジシアターvol.5「猫と針」

8/29(水)19時~ 俳優座劇場
作:恩田陸
演出:横内謙介
タナカユキオ:岡田達也
スズキカナコ:坂口理恵
タカハシユウコ:前田綾
ヤマダマサヒコ:石原善暢
サトウケンジ:久保田浩

恩田陸脚本ということと、「人はその場にいない人の話をする」というキャッチフレーズにそそられて観劇。セットも照明も実にシンプルな舞台だったが、それが恩田陸の言葉の数々を邪魔せず、きちんと「演劇」していたように思う。その分、BGMはチェロの生演奏という贅沢感があり、それはそれとして良かったのだけど、こちらの方は、途中、割と重要な独白シーンで、有名ミュージカルの曲が生のいい音で聞こえてきて、思わず聞き入ってしまったのが、個人的に失敗だった。贅沢も良し悪しである。

で、恩田陸の脚本である。葬式帰りかつての高校の同級生5人が、そのうちの一人の映像作品に登場人物として参加するためにスタジオに集められ、会話をする、という、割と正統派の会話劇だったように思う。その中で、亡くなった「その場にいない」かつての同級生の死因の追及や、高校時代の食中毒事件なんかを絡めながら、日常に潜む心のホラーとファンタジーをサスペンス仕立てで運んでいくという、恩田陸らしい内容であった。

戯曲として個人的に秀逸だったのは、冒頭の何気ない会話。「香典の名前をひらがなで書く」という答えから、会話は進む。どういった理由で「香典の名前をひらがなで書く」んだろう、とか、その後に続く「ここにいる人たちの名字だけで日本の名字の多くをカバーするんじゃない」とかいうセリフが、ナゾを生み、すぐに与えられる解答で、興味をひき、集中力を持って言葉を聞かせるさまは見事だった。全体に、やっぱり「言葉」が洗練されていて、セリフの一つ一つを味わえる。一人一人、言葉を積み重ねることによって、5人の登場人物の心の闇を描き出していくのは、さすがプロの作品、ということを痛感する仕上がりだった。

ただ、上演脚本としては、作家が書いているだけあって、転換、独白の切り替えが唐突で、演劇的にとても優れている、とは言えないように思った。これは、演出の方の問題だと思う。

何気ない会話劇、だからこそ、ナチュラリズムを重要視したのはよく分かる。そして、実際、それは実に精一杯努力の跡が見えて、役者と合わせて及第点だったと思う。けれども、普通の会話、らしく見せておきながら、実に洗練された言葉の数々に、演出、演技の方は、今ひとつ洗練されておらず、ムダな動作がうるさく、微妙な間が気持ち悪く、前に見た「サボテンの花」のことを思うと、期待以上であったとは言え、もう少し一流の演出家、役者で見てみたら、どんな芝居になるのだろうという興味と期待を抱かずにはいられなかったのが残念と言えば残念だった。
けれども、新しい試み、という商業、興行的なことを考えるとなかなか出来ないものを上演できるという、小劇場の強みは十分に活かした、良作で、純粋に良い芝居だった。