こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

キャバレー

1月17日(日)12:30~ 日生劇場
演出:小池修一郎

サリー・ボウルズ 藤原紀香
MC 諸星和己
クリフォード・ブラッドショー 阿部 力
コスト 高嶺ふぶき
エルンスト 戸井勝海
シュナイダー夫人 杜 けあき
シュルツ 木場勝己

そう言えば、過去の名作ミュージカルで他の演出も見ている作品の小池修一郎演出を見るのが初めてだった。だから、今回は個人的に最も演出を楽しめた作品となった。
まずはやはり冒頭のミラーボール。それまでも、それがそこにあって、とても印象的であったから、一瞬にしてミラーボールが回って輝きだし、「キャバレー」の世界へ連れ込む方法は単純だったけれど、はっとさせられた。また序盤のクリフの部屋のセットを見たとき、この場面に必要なセットが一つ足りなくて、どうするのだろう、と伺っていたら、エプロンステージからそれが登場して、なるほど、と唸らずにはいられなかった。
享楽と廃退もこのミュージカルの重要な要素であるから松尾スズキ版の小劇場風味の下ネタ的な扱いや、2007年にロンドンで見たバージョンの、完全なるエロティシズムもどれも表現の方法としてはありだったし、それぞれに面白かった。
そこから比べると、確かに言葉は直接的な表現を用いているものの、全体に日本のミュージカル的にキレイに洗練されていたことが、小池演出の一番の特徴だったと思う。
誰がどうやっても、時代背景とこの作品が持っているテーマ的に後味の悪いエンディングなのだけれど、日本人的にわかりやすい演出になっており、面白みには欠けたけれど、日本人で日本語ではじめて見る「キャバレー」としてはちょうどいいお手本的な仕上がりだったのではないかと思う。
また、キット・カット・ボーイズ&ガールズのダンサーぶりがとても良くて、素晴らしいアンサンブルに支えられたいいショーになっている。

藤原紀香は、及第点だったと言えるだろう。歌唱力はまだまだだけれど、強い声質で今回のサリーのナンバーには実によくあってた。この先磨いていけば、いいミュージカル俳優になれるかもしれない。けれどもキャバレーの歌手で踊り子、サリー・ボウルズとしては、体が出来あがっていなかった。もちろん、スタイルはめちゃくちゃいい。けれども、それはマネキンとしての美しさで、踊れる体ではなかったのが残念。阿部力は全体にまだまだ。けれども、この時代のベルリンに紛れ込んだ異国人の違和感はあっていたので、これは小池演出がさすが、というところだろう。
客寄せ的キャストの中では、諸星和己が最も良かった。声量は弱いものの歌唱力も悪くないし、何より生身の観客を前にしての「パフォーマンス」というものに慣れているし、長けている。自分の見せ方も心得ている。さすが一時代を築いたアイドルの真ん中にいた人だと思う。個性が良くも悪くも強いので、役は選ぶだろうけれども、もう少し舞台のダンスの基礎をやって貰えれば、素晴らしいミュージカル役者に成り得るのではないだろうか。

全体にコスト、シュナイダー夫人、シュルツの三人が、がっちり脇を固めてくれたので安定感もあるいいショーだったと思う。
何より、やっぱりこの作品は、音楽が抜群にいい。だから、それを思うとキャバレーの中で演奏される素晴らしい曲たちをもっと味わえるキャストだったら、とは少し思わずにはいられなかった。