こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

終わりのない憎しみと哀しみ@アドルフに告ぐ

アドルフ・カウフマン 成河
アドルフ・カミル 松下洸平
アドルフ・ヒトラー 高橋洋
峠 草平 鶴見辰吾
由季江 朝海ひかる
エリザ・ゲルトハイマー 前田亜季
少女 小此木まり

傑作という言葉がふさわしい手塚治虫原作の舞台化。
アドルフに告ぐ (第1巻)
リエーター情報なし
文藝春秋


なので、ストーリーの説明はいらないかもしれないのですけれど、一応さらっと書きます。

仕事ついでにベルリン留学中の弟を訪ねたジャーナリスト峠草平。
しかし、弟は「ヒトラーに関する重要書類」を峠草平に渡し、殺されてしまう。
その謎を追いかける峠草平。
一方、日本では、ドイツ軍人と日本人の間に生まれたアドルフ・カウフマンとドイツ国ユダヤ人のパン屋を営むアドルフ・カミルが友達になるが、父親の命でアドルフ・カウフマンはヒトラーユーゲントへと送られる。
第二次世界大戦が激しさを増すとともに、
2人のアドルフと峠草平、
そして、重要書類に書かれた「アドルフ・ヒトラー」の運命が交わっていく・・・。


さて、この文庫版でも4冊に渡る重い原作を
舞台化するにあたって
何を切り取って見せていくのだろう、ということが一番難しいように思えました。
けれど、舞台版は原作への尊敬を決して損なわず、伝えるべきことをしっかりと舞台化していたように思えます。

峠草平をストーリーテラーにして、
漫画で描かれた残酷なシーンはなるべく省き、
それでも、原作を読んだことがない人にも、この物語の素晴らしさが伝わる舞台になっていました。
とりわけ、アドルフ・カウフマンが密命を受けて、ドイツから日本へユーボートで送られるシーンは「何か」を象徴する少女が奇妙に現れることで、アドルフ・カウフマンの恐怖が、漫画よりも強く伝わってきて、とても工夫されています。
さらに「リリー・マルレーン」の音楽の使い方が素晴らしく、重苦しく、息のつまる舞台でした。(←誉めています)

ただ、関西でやる難しさは、
2人のアドルフの関西弁が
どうしても気になってしまうことかもしれません。
また、漫画原作の難しさもやはり
「キャラクターの見た目」が
漫画に固定されるところにある気がします。
とりわけアドルフ・カウフマンは漫画では金髪のそこそこ麗しい男性に描かれていたため、そのギャップに戸惑ってしまいました。
なんか、すみません

関西では京都の春秋座という舞台で公演されました。
春秋座は京都造形芸術大学の中にある劇場なため、劇場スタッフが実践兼ねて、学生がやっているのが、羨ましくも素晴らしいなあとはそれはそれで思いました。
けれど、この作品では、
神戸が舞台の一部なのだから、
神戸で公演できれば、妙なリアリティが出て良かった気がします。
で、ついでにアドルフ・カミルを神戸出身の森山未來に演じてもらいたかったなあと。

2人のアドルフの憎しみこそ、
今現在まで続く問題であって、
ここがポイントの一つでもあると思うからこそ、
2人のアドルフの演技力が拮抗してほしかったのです。

でも、私もこの舞台がなかったら、
アドルフに告ぐ」という傑作漫画を読む機会が
なかったかもしれないし、そういう意味でも世の中が「アドルフに告ぐ」のラストシーンを
今も大きな問題として抱えている今、この作品を上演する意味は大きかったと思います。

ということで、最近、最後は
原作、原作、みたいな結論ばかりで
なんだかなあ、なのですが、
これも、とりあえず原作をぜひ読んでいただきたいです。

少なくともパレスチナ問題の発端がわかります。
そして、あれだけのドラマを繰り広げて、
現在も続く問題をラストシーンに描く手塚治虫氏は本当に天才、だと痛感しました。

ところで、スタジオライフ版を残念ながら見のがしているのですが、調べてみたら、2007年のスタジオライフ版「アドルフに告ぐ」の由季江は三上俊くんがやっていたんですねえ。
ああ、見たかった!
今回のキャストでは本多芳男役の大貫勇輔くんが、本多役以外のところでは群衆をやっていたんですけど、一人だけ動きが美しくて堪能いたしました。