こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

現代能楽集I AOI/KOMACHI

4月15日(日)14:00~ 世田谷パブリックシアター
作・演出 河村毅
AOI
六条 麻実れい
葵 剣持たまき
光 長谷川博己
透 中村崇
KOMACHI
男 手塚とおる
老人 福士恵二
老女 笠井叡

見に行くまでは、三島の「近代能楽集」をベースに現代にアレンジしたものかと思っていたら、元々の能の方の「葵上」と「卒塔婆小町」を現代にアレンジしたもので、パンフレットにもあったように三島作品は一種のお手本という立場であった。だから、ベストは、全く新しい一つの演劇作品として鑑賞する、というのが一番で、次に元々の「能」との違いを鑑賞する、ということなのだろうけれども、やはりお手本の三島作品との比較、が私の中で一番面白い見方ではあった。

「葵上」に関しては、能を見て(しかも高校の古典の授業で予習をさせられてから、学校行事として見に行ったので、比較的内容をちゃんと理解して見た演目)、三島作品を次に読んで、数年前に美輪さん演出・出演の三島版を見ている。三島版は、基本の能での人物関係をあまり崩しておらず、葵の入院している病院が舞台で、六条が主役。その六条の情念と恐ろしさを描いていており、葵はそれを表現するものでしかない。けれども、現代版は、美容院が舞台で、光は髪フェチのカリスマ美容師、葵はその客にして光の現在最愛の人という立場。その葵の方に情念、妄想、執着の恐ろしさがあり、六条自身はとても現代的でそこが面白かった。
全般的にこの「AOI」の方は完全なるフィジカルシアター。世田谷パブリックシアターはとてもいい劇場で、能的なミニマルアートなセットも素晴らしかったけれど、それでもフィジカルシアターを上演するには広すぎたと思う。セットはセット単体として美しくステキだったが、むしろ無くても脚本が素晴らしいので、それはそれで面白いものが作れるだろう。
キャストは健闘。それでもセリフまわしや動きなど、気になるところは残った。

卒塔婆小町」は申し訳ないけれど、勉強不足で元々の「能」を知らない。なので、今回の現代版「KOMACHI」が元々からどれくらい創造されたものかは分からないのだけど、こちらは残念ながら三島版には適わない。ただ、三島版のことを考えなければ、これはこれとして面白い作品に仕上がっている。
三島版が幻想的な醜さと美しさを持っていたならば、現代版は哀れさとコミカルさを持つ。この「コミカルさ、滑稽さ」がKOMACHIの最大の魅力でもあった。仕事に干されて借金まみれで逃走中の映画監督が、時代の産物のような古い映画館で、昔女優だったというおかしな老女とそのファンという老人に出会い、翻弄される物語。物語としては非常にシュールなんだけれども、人生というのは端から見れば哀れで悲しい出来事も、ある側面では滑稽であるのだということを感じ、興味深かった。
AOIよりもこちらのキャスト三名の方が個人的に完成された演技力、表現力で好みではあったが、これもAOIと同じく、やっぱり劇場と舞台が広すぎた感は否めなかった。

ただ、最近ミュージカルや娯楽演劇が中心だったので、久々に芸術的な要素が強いものを見て、感じるものは大きく、充実した時間を与えてくれた作品だった。