こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

例えるなら指揮者の違う交響曲@グランドホテル

5/8(日)12:00~ Green
オットー・クリンゲライン/中川晃教
フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵/宮原浩暢LE VELVETS
エリザベータ・グルシンツカヤ/安寿ミラ
ヘルマン・プライジング/戸井勝海
フラムシェン/昆夏美
ラファエラ/樹里咲穂
エリック/藤岡正明
オッテルンシュラーグ/光枝明彦

演出が違うとこうも違う作品になるんだ・・・!というのを久々に痛感した「グランドホテル」。

のだめカンタービレ」という漫画で、
指揮者の個性によって楽曲のイメージも変わる
というのを読んだのですが、
それはこういうことか!とかも思いました。
のだめカンタービレ」の中で、ジャンというフランス人指揮者が登場するんですけれど、
ジャンの指揮はとにかく華やかで軽やか、的な表現をされていた記憶があります。
一方主人公の一人である千秋の指揮は暗くて重厚、と評されていました。

1993年宝塚歌劇団公演、
トミー・チューン版の「グランドホテル」は
おそらくジャンタイプだったと思います。
正直、すごく昔のことですし、
私自身も非常に若かった上、本公演ではなく
新人公演しか見ていないので、こう言い切るのは非常に僭越なのですが。

ただ、その若かりし私がトミー・チューン版「グランドホテル」を見て抱いた思い出というのが、
本物のブロードウェイミュージカルというのはこんな恰好良いんだ…!ということでした。
まず、踊りと小道具の使い方が格好良い。
フレムシェンとボーイたちの踊りなど、
椅子を印象的に使って、
軽やかな色気があって、魅せられました。
そして、同時にこの作品が描いている内容も
「恰好よいな」と思いました。

「グランドホテル」の内容はこんな感じです。
1920年代、ベルリンに建つ高級ホテル「グランドホテル」。
そこにある数日間集まる人々のひと時の人生が描かれます。
男爵だけれど、お金はなく、盗みに手を染めるガイゲルン。
7回目の引退公演ツアー中の老いたバレリーナ・グルシンツカヤ。
そんな彼女に献身的に仕えるラファエラ。
余命宣告をされた会計士オットー・クリンゲライン。
女優を目指す若い女の子フレムシェン。
経営者のプライジング。そして、グランドホテルに勤務するエリック。
彼らの人生は交わるようで交わらなかったりして、数日間の「グランドホテル」の中で、変わったり変わらなかったりして、ホテルにとどまったり、去ったりします。
それらを見つめるオッテルンシュラーグ医師。
「グランドホテル」に出入りする人物のある数日間を切り取って、そこにいる何人かにスポットライトを当てる、そういう物語です。


だから、例えば、今回スポットライトが当たらなかった「グランドホテル」のベルボーイやフロントデスク、その他の客にだって、彼らの「人生」と「ドラマ」が起こり得るのです。
例え、誰が死のうと生きようと、それはそれで、その他の人生は回っていく、
それを表現しているのが子供心にものすごく格好良く感じたものでした。

今回のトム・サザーランド版は
REDとGREENと2チームに分かれていて、
それぞれ、別の結末が用意されていました。

両方見たかったのですが、残念ながらGREENしか見られなかった私の感想は
トム・サザーランド版は千秋タイプだな、ということでした。
つまり、暗くて重厚。
でも、GREENの最後のシーンは、
トムがどうしても付け加えたかった部分だったそうなので、見られなかったREDはもしかしたら、
トミー・チューン版のように軽やかだったのかもしれません。

このGREENで付け加えられた最後というのが、
この作品の「時代」を感じさせるもので、
そうか、そういう側面もこの物語は持っているのだな、と気づかされた部分だったのです。

「時代」を感じさせるからといって、今と通じないわけではありません。
そういう「時代」に私たちは再びいるのかもしれないし、改めてそういう「時代」を繰り返さない、というトムのメッセージかもしれません。
再演があるのかもしれない、
ということが言われましたのでネタバレなしにしますが、強烈な印象を残すシーンでした。

この最後が好きか嫌いか、
何を感じるかは人によって違うと思います。
私は好きだとは言えないけれど、
演出家の多角的なモノの見方を感じたことと
強烈な印象を残したことは確かです。
ただ、私はこういうラストシーンは「キャバレー」で見たのでもう十分です。

全体的に暗く重厚、と感じたのは最後だけではありません。
一曲、一曲を出演者全員がかなり力を込めて歌うのです。
全曲が全力で見せられると、やっぱり重くなります。
しかも、1991年に見たバージョンと比べても、
長いな、と思ったら
道理で歌が追加されているじゃないですか。
ダンスシーンもあるはあるけれど、
振り付けはトミー・チューン版の方が私には素敵でした。
象徴的な「何か」を演じる湖月わたるとのタンゴシーンもあるんですけれど、
象徴的な「何か」というメタファーが「死」のようなものなので、このタンゴシーンも「重い」のです。

ということで、どこに結論が向かうかというと
宝塚歌劇月組のトミー・チューン版
「グランドホテル」再演
絶対見に行くぞ!ということです。


多分日本人的にはトム・サザーランド版の方が合います。
でも、トミー・チューン版「グランドホテル」のお洒落さと格好良さが
私は見たいのです。

あ、セットはトム・サザーランド版、ステキでした。
シンプルだけど、重厚で機能的で、
「GH」と渋く光る金色のロゴも
開演まで中心に置かれた椅子の上にある「呼び鈴」にスポットが当たっているのも、
美しかったです。
見ごたえのある作品であったことは間違いないし、見に行ってよかったです、GREENだけでも。
寧ろ、一つだけならGREENを見て良かったのかもしれません。
でも、再演の際にはぜひ「RED」との見比べもしたいです。

GREENを選んだのは、好きなキャストが多かったからなんですが、
REDの「本物の引退したバレリーナ
草刈民代さんのグルシンツカヤは
特にものすごく見たかったなと思います。
けれど、安寿ミラさんのグルシンツカヤも見たかったのです。
そして、安寿さんのグルシンツカヤは「私が見たかった」グルシンツカヤそのものでした。
プライドが高くて、バレリーナの業を背負っていて、気丈で脆い。
そんなグルシンツカヤを思う樹里さんのラファエラがまた素晴らしかったです。
中川晃教くんのオットーは抜群に歌がいいのはもう言うまでもなく、
とにかく可愛くて、愛さずにはいられなくて
昆夏美ちゃんのフレムシェンの若くて垢抜けなさとのバランスが非常に良かったです。

惜しむべくはガイゲルン男爵の宮原浩暢さんかな。
歌はステキだったのですが、演技と動きがまだまだこれからな印象を受けました。
ただ、歌が上手くてそこそこ若くてイケメンなのは素晴らしいことですので
今回がはじめてのミュージカル出演とのこと、
ぜひこれからに期待したいです。
比べてエリックの藤岡正明くんは
演技、うまくなりましたねー!(←上から目線、すみません

ところで、大千秋楽というので、長いカーテンコールがありました(笑)
出演者から一言ずつあるのですが、
ラファエラの樹里さんのコメントが良かったです。
「こっちはね、22年もずっとグルシンツカヤを思い続けてるわけですよ。
でもね、ちょーっと若くてね、顔が良くて歌が上手いからって、男爵にさらっと持ってかれて、なんやのもう、て感じでね。
だから、再演があるときはぜひ、ラファエラとグルシンツカヤが上手くいくバージョンも作ってもらいたいです」
というようなニュアンスのことを仰っていて、
「グランドホテル」は色んな人生を描く物語だから、今の時代、そういうバージョンも見てみたいな、と心から思いました。

そうそう、再演があるかも、というのは
このカーテンコールでどなたかが
プロデューサーに聞いてみたら、したいですね、
という返答だったと仰ってたからです。
まあ、どうなるかはまだ分かりませんが。

それから、GREENのラストシーンは
トムがどうしても表現したかったこと、
というのは
オッテルンシュラーグ役の光枝明彦さんからのコメントからでした。
稽古の終盤で言われたので、
初日開いて2日間くらいは消化しきれず、
赤坂ACTシアターで最初の方にご覧になったお客様、ごめんなさい、との一言がとてもいいなあと思いました。
役者も役と作品と戦っている、というのがひしひしと伝わりました。

個人的に面白かったのは、
樹里さんがあんなに熱く
グルシンツカヤへの想いを語ったのにも関わらず、
安寿さんのコメントが「大好きな愛しい男爵と…」と
見事なラファエラ無視っぷり(笑)
最後まで安寿さんはグルシンツカヤでした(笑)

一応カーテンコールの仕切りは中川晃教くんだったのですが、
最後にREDチームで歌われていて、
GREENでは使われてない曲をアカペラで歌いたいと思います、と言った瞬間
藤岡くんから「俺が最後に歌ってるわ!」とツッコミ!爆笑!
中川晃教くんの相変わらずの天然っぷりも炸裂していました。

でも最後に「The Grand Waltz」をアカペラで合唱してくださって
大満足のカーテンコールとなりました。

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↑映画もいいですけれど、これはミュージカル舞台化の方が効果をなしている気がします。