こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

血の婚礼

5月19日(土)13:00~ 東京グローブ座
原作:フェデリコ・ガルシア・ロルカ
台本・演出:白井晃
音楽:渡辺香津美
レオナルド:森山 未來
花嫁:ソニン
レオナルドの妻:浅見 れいな
花婿:岡田 浩暉
黒い男:新納 慎也
少女:尾上 紫
女中:池谷 のぶえ
花嫁の父:陰山 泰
レオナルドの姑:根岸 季衣
花婿の母:江波 杏子

ストーリーだけ見るのならば、単なるメロドラマである。かつて付き合っていた恋人同士がいて、お互いに思いを残しながら何らかの理由で別れる。男は恋人の従妹と結婚し子を設けるが、かつての恋人への思いが渦巻いて、彼女の結婚を期に隠しきれなくなる。女は新たな男と平穏な日々を望み結婚を決めるが、心は揺れ動く。そして、結婚式当日に二人は手に手を取って逃げ出す。これだけの話である。けれどもそれを戯曲にまで高めるのは、一連の言葉の連なりと、閉塞的な暗さなのかもしれない。
スペインが舞台で、印象的で物悲しいギターの調べと、激情的なフラメンコが舞台をおしゃれに彩るけれども、その内容は、もしかすると全世界共通かもしれない、荒野の田舎の狭い社会とその陰湿さなのである。家族と血のつながり、原始的な男女の役目、貧富の差、土地に根を張り、守る暮らしの中の閉塞感。そういうものが呼び込む不幸。スペインということを全面に出し、ある程度センスアップしなければ日本の興業的には成り立たないから、今回の演出は正解であったし、セットの色使いや作り方なんかもものすごくミニマルシンプルで素晴らしく、とりわけ婚礼のパーティーのシーンで、区切られたカーテンの向こうに集う人々とフラメンコを踊る影が揺らめいているのは印象的で美しかった。けれども、これをもし少し昔の日本の田舎を舞台にそっくりそのまま上演したら、この戯曲の本質はもっと伝わったのではないかと思う。

キャストは花嫁役のソニンがとにかく良かった。久しぶりに心を打つ熱演を見た。基本的な声量や八百屋舞台で肉体的にも大変だったと思われる舞台上での動きについても合格点だし、素人目にはフラメンコもとても上手く見えた。何より、彼女自身が今「花嫁」という役柄に取り付かれているようで、目を引く何かがあり、激情を吐き出すシーンでの体の震えは演技を超えたものを見せてくれた。多分今は100%の力を役柄を表現することに使っていると思うけれども、これで後もう少し、観客の視線と彼女自身を中に残して表現できるようになれば、もっと洗練されてくるだろう。

キャストを記載しながら、遅ればせながら、役名があったのが主役のレオナルドだけだったことに気づく。最初の方で花嫁を「あの子」と呼ぶところは不自然さを感じたが、それ以外は全く名前を呼ばないことに不自然さを感じなかったから、やっぱり、それは一つの戯曲の素晴らしいところなのかもしれない。