こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

RENT REMIXED


12月21日 20:30~ 12月22日 16:00~ DUKE OF YORK'S
Mark Oliver Thornton
Roger Luke Evans
Collins Leon Lopez
Benny Craig Stein
Joanne C J Johnson(understudies)
Angel Jay Webb
Mimi Ruth Augilera(understudies)
Maureen Denise Van Outen

例えば「RENT」という作品に音楽を通して触れた人や、とにかく音楽が好きだという人には決して勧められないと思う。けれども、ミュージカルの現代性に衝撃を受けた人にはぜひ見て欲しい。かつてのRENTが持っていて、今のRENTが失ったものがそこにあったのだ。

まず、個人的には、白い壁とアルミのセットと蛍光灯に赤いデジタル表示と、シンプルで無機質なセットがとても気に入った。実に21世紀のRENTを良く表現していると思う。

そう、このRENT REMIXEDは21世紀なのである。20世紀末のNYではなくて、一応設定はNYということになっているけれども、今の都会のカケラが舞台になっている。
だから、マークのカメラは勿論デジタルだし、アレクシー・ダーリンはポケベルを持っていない。衣装も特に男性陣は、外に出たら本当にそういう格好をしている人に出会うだろうという自然さ。TODAY 4 U はテクノで、コンタクトは今のクラブを再現する。REMIXされた音楽の良し悪しは私には分からないが、少なくとも、ここまで変えてくれたからこそ、オリジナルとは違うものを受け入れることが出来たのだと思う。

曲がREMIXされているのと同時にもちろん曲順も違って、それが時々ストーリーと曲の組み合わせが若干ずれるのが残念と言えば残念だけど、それを置いても、オリジナルで分かりにくかった部分を、映画版がそうであったように、より分かりやすくしているところもあり、演出家が元々のRENTを愛し、熟知しているのを伺い知ることができる。

だから、私個人としては、オリジナルはオリジナルでそのまま変えず上演してもらい、その一方でこういうRENTがその時代時代で形を変えて存在してもいいのではないかと思うのだ。
オリジナル版は永遠のテーマ(生と死、若者の焦燥、エイズクライシス、愛と友情)とその楽曲と演出の素晴らしさで、キャストさえ良ければいつまでも人々に衝撃と感動を与え続けられるだろう。
けれども、一方でその現代性を失ってしまった。「現代のミュージカル」というのはジョナサンが求めたテーマの一つだと思うから、オリジナル版が失ったものを補うRENTがあっていいと私は思う。映画が当時のNYを再現したのならば、REMIXEDが現代性を生み出しても許されないだろうか。

この世紀末の呪縛から解き放たれた(What You Ownもat the end of の部分が指し変わっている。残念ながら聞き取れなかったが)RENT REMIXEDは今再び、少なくとも私には、世紀末過ぎて以降の再演のRENTでは感じられなかった、RENTという物語とその感動を与えてくれたのだ。久々にONE SONG GLORYでロジャーの焦燥感に揺さぶられ、I'LL COVER YOU(REP.)で愛の喪失に涙した。純粋にRENTに出会った頃のような気持ちで。

もちろん、その感動は素晴らしいキャストがあってこそ。バンドも演出もキャストもなってなかった一昨年、オリジナル演出を精一杯丁寧に表現しているだけの今年の来日公演とは違う。それぞれがきちんとそれぞれでキャラクターを作り上げ、舞台で生きているのだ。

まずマークが実に上手い。今までで見たことのないルックスのマークだったから、始めは違和感があったのだけど、すぐに21世紀のマークとして馴染んだ。マークの持っている物事に対する距離感、人へのアプローチ、そういうものが、深く関わることを良しとしない個人主義の今の男性としてさりげなく表現され、共感できる。また、LA VIE BOHEMEをオペラ風に歌い上げるところも見事だった。

そして、何よりモーリーンである。イギリスでは有名な女優らしく、彼女を大々的に宣伝していて、どんなもんかと思ったけど、すごい。今までに見たことのないモーリーンで、本当に個性的。観客の乗せ方もすごく上手くて、初めてMOOを自然に叫ばせてくれた。観客と話すのも上手くて、思わず、最前列に座って、モーリーンにWhat a dirty girl!と言われてみたい誘惑にかられる(笑)

モーリーンの強烈な個性もあって、アンダースタディーだったジョアンヌが歌も演技も存在感が薄かったのが残念だけど、長身でプラチナブロンドの美女だったので、ルックスでカバー。
同じアンダースタディーだったミミは及第点。とにかく若くて可愛くてミミのイメージには本役よりも近かったのではないかと思うから、返ってラッキーだった。ロジャーは繊細だけど男っぽく、実に個人的にイメージに合っていた(TABOOの頃に比べると歌唱力も伸びていた!)し、コリンズとベニーは今まで私が見た中で一番格好良かった。
エンジェルもまた、全くの別のキャラクターで、モーリーン程の衝撃はないにしろ、このエンジェルはエンジェルで一つの形だと思う。キャストの中で一番小柄で顔も可愛らしいのにダンサーなので、めちゃめちゃマッチョでアンバランスに男らしい。ドラァグクイーンではなくて、おネエ系のゲイ。だからエンジェルを語るときに「he」が使われているのも印象的だった。