こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

越路吹雪物語

5/10(土)12:00~ 日生劇場
越路 吹雪:池畑 慎之介
岩谷 時子の母:長谷川 稀世
岩谷 時子:高畑 淳子
真木 小太郎:草刈 正雄

高年齢層をメインにした、ザ・商業演劇、という作りで、芝居中は殆どリサイタル場面も有名な持ち歌を歌う場面も見られず、最後20分間を丸々リサイタルにしている。演劇的な流れや演出を考えると、時間軸どおりにリサイタルや歌のシーンを入れて、メリハリを付けたほうが良いし、面白い作品になっていただろうと思う。
けれども、この作品は、私たちのような越路吹雪を知らない世代のためではなく、本物の越路吹雪を感じていた世代のための回顧の物語であることを思うと、これはこれで正解なのだと思う。
だから、越路吹雪を古い映像でしか見たことがなく、他の女優によって演じられた越路吹雪のドラマしか知らない私にとっては、池畑慎之介越路吹雪がどのくらい本人に似ているか、ということは分からない。全く男性を感じさせない演技力と、歌手としての歌唱力はさすがだと思うけれども、それだけだ。彼の演技から、何かを思いおこすということはない。越路吹雪とはこういう魅力的な女性だったのだなということは充分に伝わったが、演劇としての厚みを持たせたのは、やはり高畑淳子の作り上げた岩谷時子の方だった。
彼女がどれだけ越路吹雪という女に魅せられ、その人に掛ける人生を愛していたか。淡々とした口調から伝わる愛情。だからこその、彼女が亡くなったときの哀しみは本当に心打った。

この作品が、現在の観客の過去への回帰、という役目を終えたとき、もう一度、今度は一級の演劇作品として甦らせて欲しいと思う。与えられることに慣れてしまった私たちの世代が、見返りは一切求めず、与えることを幸せとした岩谷時子の人生から、感じるものがあると思うから。