こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

グレート・ギャツビー

9月14日(日)15:30~ 日生劇場

ジェイ・ギャツビー 瀬奈 じゅん
デイジー・ブキャナン 城咲 あい
ヘンリー・C・ギャッツ 汝鳥 伶
ジョージ・ウィルソン 磯野 千尋
マイヤー・ウルフシャイム 越乃 リュウ
ニック・キャラウェイ 遼河 はるひ
ジョーダン・ベイカー 涼城 まりな
トム・ブキャナン 青樹 泉
マートル・ウィルソン 憧花 ゆりの

17年前の「華麗なるギャツビー」は私を演劇という世界にはまらせた、忘れがたい、特別な思入れのある作品で、だから、正直に今回の「グレート・ギャツビー」単体の感想は非常に難しいなというのが本音である。

17年前の「華麗なるギャツビー」はショーとのセットの公演だったため、上演時間が1時間半強という短さで、それを2幕ものの作品に改定するにあたって、いくつかの曲やシーンが追加され、ミュージカルらしい華やぎはパワーアップされつつも、初演の素晴らしかったニックの引越しの場面から、ギャツビー邸でのパーティーを兼ねたオープニング、主題歌、デイジーの邸宅へ、そして、マートルのショーに、ニックとジョーダンの電話での会話から、ギャツビーとデイジーの過去へ、更に現在のもぐり酒場への、スピーディーな転換は変わりなく、やはり、オリジナルの宝塚作品としては、高い品質のものではないかと思う。

追加されたシーンは、初演では役者の中での心理描写で終わったものを言葉で説明するところが多く、ここは好き嫌いの分かれるところだと思う。個人的には、デイジーの「だったらなってやる!ただのバカな女の子にね!」という決めセリフは、全部歌でその意味を事細かに説明するよりも、初演のように泣き崩れてシーンが終わる方が切れがあって良かったと思った。
しかしながら、ジョージ・ウィルソンの暗い情念を表現した「神は見ている」という新しいナンバーは、ギャツビーの死に深く関わるこの人物をより明確に描き出したという点では、追加されてもそれはそれとして良かったかなと感じたし、主要登場人物6名での合唱になっていく様は、ミュージカルとしてのカタルシスも感じた。

役者陣はよく検討していたと思う。
ギャツビーという役は抑制の中に激情を秘めているので、宝塚のトップ男役としては非常に見せ方が難しい。そして、また、17年前の「華麗なるギャツビー」の時に杜けあきがこの役を実に素晴らしく演じたために、観客の何割が17年前を見ているかは分からないけれども、繰り返し再演されている作品の主役や、自分のためにアテガキされた新しい役を演じるのとは違うプレッシャーがあっただろう。その点、瀬名じゅんは、彼女らしい、現代のスマートなギャツビー像をちゃんと作り上げていたと思う。大健闘だ。一つだけ、どうしても「彼女のギャツビー」として許せなかったのは、「アウトロー・ブルース」でショーの中の宝塚の二枚目的な格好つけるキザな仕草を繰り返したところだった。でも、17年前は大層大人の男性に見えていたギャツビーも今はほぼ同年代の男性だと考えると、仲間たちの中でいきってしまうのが自然なのかもしれないし、これが今のギャツビーなのかもしれない。

専科からのギャツビーの父親、ジョージ・ウィルソンについては、17年前と全く劣るところなく、この2人が安定し、魅せてくれたからこその、今回の好演に繋がったと思う。また、ジョーダン・ベイカーが、小悪魔的魅力で演じていて、また違うジョーダン像を見せてくれたのも良かった。更に17年前より良かったのは、マイヤー・ウルフシェイム。17年前はフェアリータイプの若手スターが演じていて、実に良く頑張っていたのだけれど、元々のこの役柄のイメージには、今回の越乃 リュウさんの方が近く、歌の最後の「ギャツビー」という呼びかけも、色気があって堪能させてもらった。

ただ、痛感したのは、このデイジーという役が、純宝塚の娘役タイプにはなかなか難しいということだった。城咲あいさんは、客観的に見て、とても宝塚の娘役らしい娘役だと思う。小さくて上品で可愛らしい。さらに歌も上手だ。いわゆる「カスミソウ」タイプの娘役。そういう人が大輪のバラのようなデイジーを演じるのは、演技力だけでは到底追いつけるものではなく、いかに17年前のデイジーが、鮎ゆうきのために描かれた役だったかを痛感した。元男役だったため、背も高く、昔のハリウッド女優のような品と華やぎのある娘役さんだった。だからこそ、そういう美女だけが持つことが許されるデイジーのワガママさやしたたかさや繊細さを表現できた。歌えないことに対するバッシングもトップ娘役時代には多々聞かれたけれども、今更ながら、歌よりも、彼女のデイジーそのものの美貌が、この作品にとってどれだけ大事だったかを思い知らされた。

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