8/30(日)16:30~ 梅田芸術劇場メインホール
脚本 柴田侑宏
演出 中村暁
キャスト
アルベルト・カザルス 彩風 咲奈
カテリーナ・ドロレス 潤 花
ジェラール・クレマン 朝美 絢
モニカ 彩 みちる
ブラッスール公爵 久城 あす
ドロレス伯爵 奏乃 はると
オノリーヌ伯爵夫人 千風 カレン
タイロン 真那 春人
ローラン 叶 ゆうり
ここで書きましたように、この作品の「ジェラール・クレマン大尉」はわたしが最もステキだと思っている宝塚男役です。
しかし残念ながらわたしはこの作品の生観劇に間に合っていません。
初演は1988年星組、日向薫さんのトップお披露目公演でした。
翌年にファンになったわたしは、当時近所に住んでおられた宝塚ファンの方に「花の指定席」の録画ビデオをお借りし、この作品を見たのでした。
そしてジェラール・クレマン大佐とモニカのカップルに心からときめき、その思いをくつがえされることなく、今に至ります。
そんな作品の再演が決まったとき、どうにかして見てみたい!とチケットを取ったものの、この感染症の影響で公演中止に。
本来全国ツアー公演だったものが梅田芸術劇場だけの上演だけれども、再開が決まったときには本当に心から嬉しかったものです。
しかしこの感染症はそうは簡単にこの作品を見せてはくれませんでした。
なんと一般チケット発売日に出演者に感染者が出たということで、再び中止。ほぼ諦めかけていたころに、日程を約1週間ずらして再開が決まりました。
もうこの一連の流れだけでも、渦中におられた製作、出演者、スタッフの方々の思いを考えると胸がつまります。
本当に公演再開に尽力してくださった方々に心からのお礼を伝えたいです。
この作品が再演されるということで、専門チャンネル・スカイステージで初演の放映や初日を見た方の感想をSNSで読んだりしたのですが、その中に「ストーリーが薄い」というものがありました。
わたしが見たのは中学生の頃。そんなわけで「今再び見たらどう思うのだろう」という心配がありました。
そんなストーリーはこんな感じです。
①舞台は1780年代、フランス占領下のメキシコ。
②主人公アルベルトは大農園主で貴族の次男坊だったが、フランスが占領する際に、ブラッスール侯爵により領地は没収、家族は虐殺され、命を守るために逃亡していた。
そしてブラッスール侯爵への復讐のために、祭りの日の混乱に乗じて祖国へ戻ってきていた。
③帰国早々、フランス宮廷と親しくしているドロレス伯爵の娘カテリーナと出会い、惹かれあう。
④フランス軍人、ジェラール・クレマン大尉はブラッスール侯爵の命令でアルベルトの行方を追っている。彼女はメキシコ人の踊り子モニカ。
⑤メキシコの独立を目指す反政府軍に迎えられるアルベルト。
そんなアルベルトとカテリーナの恋、ジェラール・クレマンとの対立なんかを描きます。
とここに書き出すだけでも、まあ「よくある設定」です。
わたしは
ボーイがガールにミーツして、サムシングハプンするけどハッピーエンド、というシンプルなストーリーを、ソング&ダンスでどれだけ魅力的にするかが、ミュージカルというエンターテインメントの見せどころ
と常々思っていて、今までも何度も書いてきました。
そして今回この作品を見ながら思ったことは、
男役が娘役に出会って運命の恋に落ち、なんやかんやあるけど愛しあう、という単純な物語を歌と踊りでどれだけ魅力的にするかが、宝塚歌劇という娯楽の見せどころ
でもあるのではないのか、と思いました。
本当に初演ほぼそのまま再演しているので、古いブロードウェイミュージカルを見たときのような、スピード感の遅さや時代の違いによる退屈な部分というのはありました。
長々続くオープニングダンスはそれはそれとして見どころではあるのですが、「そうか、昔の宝塚って必ずこういう長いオープニングがあったよな・・・いつ物語、はじまるのかな」と思ったことは事実です。
先に「太陽と月のお祭りがはじまるよー♪」とかいう町の人々のセリフとか浮かれた雰囲気の演技を入れるだけでも、同じオープニングでも「これは祭りなのか」として納得して楽しめたと思うので、ところどころもうちょっと手を入れて、今の観客に見やすくしたらどうだろうとは思いました。
あと暗転の多用もそうですね。
昔の芝居だから仕方ないけど、暗転して場面が変わる、が繰り返されるのは今となっては退屈でしかないのです。その辺は演出の工夫のしようがあったように思います。
でも、ストーリーはこのままでいい!
ジェラール・クレマンの魅力については後で暑苦しく述べます。
そのくらいジェラール・クレマンとモニカの記憶しかなかったのに、再演を見てみたら、アルベルトとカテリーナにもときめくんですよ。
特に2人の二度目の偶然の出会いからのダンスに、わたしの中の全少女が顔を出し、頬を染めました。
お互いにステキな人だったな、と思っていた相手と再会して、偶然とはいえ一緒に踊ることになって、恥ずかし気に嬉し気に踊りはじめ、ときどき目を合わせながら、だんだんと高揚していくさまにキュン!そこからのラブデュエットにときめき最高潮!
ああ、これが宝塚歌劇だ!と思いましたよ。
踊りと歌で最大限に「恋」を表現する。これこそが宝塚歌劇という娯楽の醍醐味じゃないですか。
もちろんメインストーリーの彩りとして、反政府軍の若者たちもさりげなく描いてくる柴田先生の生徒を育てようという配慮にも、改めて感嘆。
ところでアルベルトはフランス宮廷側からは「炎のような男だとか」というウワサが流れているんです。
さらに反政府軍と結託してメキシコの独立を勝ち取ろうともしますから、なんとなくアルベルトは「炎のように情熱的な男」じゃないのだろうか、と思わされてしまうんですよね。
しかしながら初演のアルベルト役・日向薫さんは「どうしても影ができない」ことが悩みだったという過去の記述を見た記憶があるくらい、暗い影を背負った役は得意分野ではなくて、逆に太陽の光のように華やかでまばゆく、何より気品ただよう方でした。
(初演タイロン役の夏美ようさんが同期生でいらっしゃるのですが、
合格発表のときに日向さんから「あなたもお受かりになったの?」ときかれた、
というエピソードを「そのくらい日向さんは生粋の超お嬢さまだった」ネタとしておっしゃっていたのを当時の歌劇で読んだ記憶があります。)
そんな日向さんのトップお披露目公演なのに、どうしてこの役だったのだろうと思うくらい、初演映像を見ても、日向さんの持ち味とこの役は乖離しているように思えたのです。
だから咲ちゃん(彩風咲奈さん)が日向さんが出せなかった「炎のような情熱」を見せてくれるといいなと思っていたのですが、咲ちゃんのアルベルトはいい意味で日向さんのそれとイメージがほぼ同じでした。
その咲ちゃんの演技を生で見てみて思ったのが、よくよく見ているとアルベルトはフランス宮廷側から「炎のように情熱的な男」という情報を流されているだけで、本人がそうだ、ということは全く言われていないわけです。
物語の登場シーンから持ち金を通りがかりの人を救うためにあげてしまったり、全面に素直な人のよさが描かれているのです。
本来であれば貴族で大農園主の次男坊。自由でおおらかに育てられ、そしてアメリカ留学とか良質の教育を受けた一流の特権階級の人間ならではの、優しさや明るさ、賢さ、素直さなんかが表現されていて、それはそのまま日向薫さんの魅力だったのです。
だから本当にアルベルトは日向薫さんのトップお披露目のために描かれた役で、また当時群を抜いたそのスタイルの良さを強調する衣装をとっかえひっかえし、日向薫というスターの格好良さを追求した役でした。
だから、その魅力を余すところなく再現した彩風咲奈は本当にすごい。
そのうえで、得意のダンスが光りました。
アルベルトとエカテリーナがお互いを思い、一時の別れを決意するシーンを全てダンスで表現するんですけれど、ここのダンスが本当に2人の恋の揺らぎや、それでも燃え上がる気持ちや切なさが伝わってくるのです。
あ、「炎のボレロ」ってタイトルは、このダンスのことではないだろうか。
と思ったら、きっちりプログラムにそう書かれていました・・・。
アルベルト役が「炎」の象徴だと思っていたのは長い間の誤解だったわけです。
それがわかっただけでも本当に再演を見に行った価値がありました。
「炎」は恋の例えであったならば、もう一つ描かれた「恋」がジェラール・クレマンとモニカです。
こちらはもう登場したときから愛し合っている設定です。
ただジェラール・クレマンはフランス宮廷に属する軍人で、当時のメキシコでは支配者側の白人男性です。
一方のモニカは現地のメキシコ人で、酒場の踊り子。
人種の差に加えて、身分差も明らかなわけです。
でもジェラール・クレマンはそんなことは全く気にしていない。
ここがわたしが子どもながらにすごいな、魅力的だなと思ったところでした。
もちろん初演の紫苑ゆうさんのクールで品ある立ち姿と美しさともに。
(モニカにキスで口止めとか、そういう行動にときめいたわけではないですよ笑。でも2人がすでに恋人同士だからこういうパフォーマンスも胸キュンポイントではありますね)
そして自分の職場や職務が欺瞞に満ちていることをよく理解しながらも、職責を果たそうとする軍人なわけです。
自分の命があと数年だと知っていても、それを一人で受け止め、投げやりになることもなく仕事に邁進している。
それでも全ての不正が表面化したとき、自分を欺けなくなり、そして最後には仕事を捨て、母国を捨てても愛する女性モニカとの日々を望む姿に、少女のころのわたしは全力で恋をしました。
そんなジェラールを一途に愛するモニカのひたむきさや強さにも惹かれました。
カテリーナは貴族の娘で、さらに愛情深い父親に守られ、家族に愛され、最後はアルベルトに守られながら生きていく。
けれどモニカは酒場で踊り子としてきちんと働き、上手に客をあしらい、さらにジェラールの最期を見届けようとする。
それって今大人になってからの方が、よりすごいことだなと感じました。
だからこそ、モニカのこの歌詞が響く。
何も望まない 冷たくてもいい
せめてつかのま
あなたの心に寄り添い合いたい
そんなジェラール・クレマンとモニカを朝美絢さんと彩みちるちゃんが好演。
初演のわたしが恋した紫苑ゆうさんのような品ある冷たい美貌の中に細やかな心が見える感じではなかったですが、美貌のツンデレ、ジェラール・クレマンもあり!
カテリーナ役・潤花ちゃんも華やかでかわいくてよかったですね。
まあ歌は初演の南風まいさんがうますぎたのであれですが、逆にうまくないところが「気の病」を演じている感が出て面白かったです。
ただ初演で重鎮的な上級生が固めていたブラッスール侯爵、ドロレス伯爵あたりはやはりその重みを演じるには若いかな感は否めませんでした。
その中でタイロンを演じた真那春人さんがセリフまわしといい、立ち位置といい、うまい!あとはオノリーヌ伯爵夫人黒幕説とか作った方が面白かったかも、と思わせた千風カレンさんの落ち着きがステキ。そしてちゃんと役としての上品さと優しさを表現していたところもさすがでした。
ところでショーなんですが、わたしこれ「壬生義士伝」のときにも見ているのですよね。そのはずなんですよね。そして、めちゃくちゃ楽しんだ記憶はあるのに、全くシーンを覚えていない自分が怖い・・・。
その割に「炎のボレロ」は全部歌えちゃうし、見ながらだんだんいろいろ思い出してくるのが、また怖い・・・。
でもショー、楽しかったです!
人数が本公演より少ないので若い生徒さんを覚えやすいし、ライトファンにもおススメですね。
何より踊って、踊って、踊りまくる彩風咲奈に感嘆。
お芝居もあれだけ踊ってたのにショーでもこれだけ踊るかっていうほど。
そしてだんだんと彩風咲奈本来の大らかで柔らかく明るい個性が放たれていって、フィナーレ前のローズピンクの変わりフロックコートで真ん中に立つ姿が本当にまぶしかったです。
まだまだ舞台活動には厳しい日々が続きます。
順当に彼女がトップスターになる頃には、もっと厳しい状況かもしれない。
それでも輝いていってほしいと心から思いました。
ところでどうでもいい追記なのですが、「炎のボレロ」にフランス側が立てたメキシコ皇帝としてマクシミリアンという人物が名前だけ登場します。
調べてみたら「エリザベート」のフランツ・ヨーゼフ1世の弟でした。
この当時の星組のハプスブルグ家関係作品率の高さに驚くとともに、この頃の歴史にも再び興味がわいてきたので、やはり一つの作品からもいろいろ勉強になるし、世界は広がるなと思いました。
それが一つの舞台を見る意味かもしれません。