こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

特技美貌の強さと弱さ@宝塚宙組「美しき生涯」「ルナロッサ」

今回の「ひかるふる路」のロベスピエールを見ながら思い出している人がいました。
そうです、石田三成です。
ひかりふる路」のロベスピエールは、どことなく石田三成を思い出させるのです。

清廉潔白。
生真面目。
馬鹿騒ぎ的なものが苦手。
(今で言う飲みニケーションみたいなものですかね)

と言っても、私は日本史にとんと弱く、石田三成のことをこんなに知るようになったのはここ一年くらいのことです。

きっかけは仕事で、石田三成のことを調べているときに、このコラムに出会ったのです。

秒速で1億円稼ぐ武将 石田三成
~すぐわかる石田三成の生涯~


そして、大河ドラマ真田丸

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堺雅人大泉洋長澤まさみ内野聖陽草刈正雄 ほか
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石田三成を見て、先ほどのコラムを書かれた田中泰延さんが違うコラムでおすすめされていたこの本を読むと、さらに確信に変わりました。

ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789-1815 (講談社学術文庫)
鹿島茂
講談社



この中で
「私」がまずあり、その延長線上に「公」があるのであって、「公」の看板の裏に「私」があるのではない。-中略-これからは、どこをどう叩いてもあの滅私奉公のファシズムやスターリニリズムの悪夢はあらわれてこない。
という一節があるのですが、だからロベスピエール石田三成もダメだったんだよ、と思ってしまったんですね
2人とも「公」の看板の裏に「私」があって、理想はあっても自身の人間らしい単純な欲があまりない。だから滅私奉公を無意識に求めてしまう。そうして人望を失ってしまったように思うんです。

とは言え「美しき生涯」を見た時点では石田三成について全くの無知でした。七本槍とかも知らない始末
なので、今見たらもう少し面白く見れるんじゃないかな、と思うのですが、とりあえず、当時の感想をアップします。
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『美しき生涯』『ルナロッサ』 [DVD]
宝塚歌劇団
宝塚クリエイティブアーツ


宙組初日に赴きました。
公演が始まる前に本屋で宝塚の関連本を読んでいたとき、大空祐飛は今唯一、大人の男が演じられるスターだと書かれていました。
大人の男は外の世界にもいくらでもいるけれど、大人の分別を持ちながら、恋に情熱を掲げられるというのは、宝塚だけでの夢でそれを体現できるのは、大空祐飛だけだというのです。
そして、「美しき生涯」の石田三成はまさしくそういう役だったと思います。
だから、好きだと言う意見が多いのは納得しますし、私も見た目が好みの男役さんがされたら、それなりに美味しく見そうだとも思いました。

しかし残念ながら、私はゆうひさんが苦手でした。すみません
歌もダンスもいまいちで、滑舌とセリフまわしが、あの、その、あれで
特技は美貌で、その美貌が私にはピンとこない。
でも、それでも、その美貌は飛び抜けて素晴らしい、ということは体感しました!
下手袖からゆうひさんがピンスポットの中に現れた瞬間、アニメキャラが3Dで現れたかと思ったのです。何か別の世界のものがホログラムで現れたかのような二次元感。あんなの初めて見ました。「立っているだけで存在感を示す」というのはトップスターにとって必須のスキルで、さらにゆうひさんは「輝かしくいられる」スキルをもっていたのです。なるほど、納得。

ところで前回、月組の「バラの国の王子」を見たとき、たまたま隣と前の方が宝塚に馴染みのない観客(男性)で、今回も隣の人(男性)が観光の一つとして宝塚観劇をされていたようでした。
でも月組の時は、作品があんまり良くないのに、霧矢くんの演技と歌が素晴らしく、その人たちがだんだんと前のめりに舞台に集中していってて、さらにこちらも宝塚ってなかなか出演者はいいでしょ?とちょっと得意げにその様子を見ていたのですが、今回は大石先生も脚本もそれほど振るわず、ゆうひさんはじめ、野々すみ花ちゃん、凰稀かなめくんもとにかく歌がいまいちで、さらに滑舌も悪いので、隣の男性はものの見事に居眠り、退屈の嵐で、ゆうひさんの類まれな美貌と輝けるトップスター技術は、効くスポットをかなり選ぶな、ということをしみじみ感じました。

ということで、大石先生の脚本なのだけど、びっくりするほど、ザ・タカラヅカでした。
お友達と話したのは、よく、私に書かせろ、とか言ってしまうけれど、実際われわれが宝塚の脚本を書いたとしたら、同じような過ちを犯すんじゃないだろうか、ということでした。
宝塚、というものを意識しすぎて、知りすぎていて、結局新しいものを生み出せなかった印象でした。

どこまでが大石先生の脚本でどのあたりが石田先生の演出なのか判断つきかねたけれど(唯一、七本槍と妻たちのロックンロール&ミラーボールシーンは石田先生の演出と確信したけれどw)その両方がかみ合っているとは思えなかったのも残念な部分の一つ。
個人的に石田先生は脚本やキャラクター設定はともかくとして、演出力はあると思っています。
「愛と青春の旅立ち」だって、ミュージカルらしい見せ場がガッと作って、それなりなものにしていました。
だから、弱点の脚本を大石先生が担ってくれれば、きっとおもしろいものになるんでは、と期待が高すぎたのが問題でもあったと思います。

大石先生の脚本は悪くはなかったけれど、キャラクターの書き込みが甘く、そして初日だから、役者たちもそれを補うほどには演じられない。だからまあ、東京の頃にはいろんなものが補完されて、面白くなっているかもしれません。

それにしても、初日ってひどいですね
役者もそうだけど、スタッフ側のミスもひどく目立ちました。
特に当日B席でみていたので、ライトのミスがとても目についてしまって
何も情報のない状態で新しい作品を見る、という楽しさはあるけれど、舞台作品としてはやはりもう少し熟したときに見るのがいいのかもしれないです。まあそれもプロの舞台としてどうかとも思うんですが

ところで唯一、かなめくんの役・疾風が良かったです。これ、本人がもっと深く演じられるようになればますます良くなると思いました。全体に美味しくて、さらに幕切れが最高に美味しい。そして、この役をどちらかというとゆうひさんで見たかったと思ったのです。
今回の三成は、絵に描いたような清廉潔白な人柄。それゆえの嫉妬を被り、またそう生きたいと願うのに茶々との恋の葛藤、煩悶を見せるにはゆうひさんでは、影が強すぎる。絵に描いたような真っ白のキャラクター、これが今回の三成なのです。
一方の疾風は、感情を持たない殺人マシーン(忍び)で、知らず知らず三成に影響されて人間らしくなってしまうという役。もちろん、かなめくんにもよく似合っていました。そのくらい、ゆうひさんとかなめくんのカラーは近い。だから、セリフで光と影、という部分があるのですが、その対比はちっとも見えないのも残念な部分でした。

そして野々すみ花ちゃん、なのですが、確かに巧い。なんだけど、大江山花伝のときも思ったのですが、セリフ回しが大劇場でやるには少し聞きづらく、そして歌になると苦手意識が働くのか、歌うことに精一杯になってしまうのです。
なので、見ながら思ったのは、このコはさっさと宝塚を出たほうがいいかも、ということでした。
このコが小さな劇場でストレートプレイを演じているのが見たい、と思いました。
こういう大芝居ではなくて、人間の緻密な精神と感情を見せるような芝居。そういうものでこそ、このコの演技力は100%いかせるはずです。
何より、野々すみ花ちゃんはダンスも巧い。
なので、身体的な動きも使うような芝居をさせたら、どんなに輝くことでしょう。

ということで、ショーの野々すみ花ちゃんが可愛いっ!
一場面一場面ごとに、がらっと変わる表情がなんとも魅力的。
「ルナロッサ」は稲葉先生の相変わらずの耽美ショーだったのだけど、特技美貌のゆうひさんとかなめくんを配して、この野々すみ花ちゃんがいることで、とても魅力的なショーになっていました。
構成は「カルナヴァーレ」とほぼ一緒。
でも中近東の旅がテーマなので、西洋と東洋を混じらせることが出来て、衣装も音楽もバリエーションに富んで面白いのと、中盤がんばって盛りあげたダンスシーンがあり、とりあえず自分の弱点を理解して克服しようという姿勢が見えて、カルナヴァーレよりずっとショーとして楽しかったです。
何より、ゆうひさんもかなめくんも、何着ても似合う!
演出家が作り上げようとしたヴィジュアルを最大限に再現しているのです!
耽美ショーに美貌というのは最も力を発揮する能力で、必要とされている能力なんだと実感。
現実味がなく、とにかく美しい、正しい耽美ショーを思う存分堪能させていただきました
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これ読み直して、今回の「ひかるふる路」を見て思うのは、清廉潔白な歴史上の人物は主役に向かない、てことでした

となると逆に、映画の「関ヶ原」が今さらがぜん気になってしまって、見に行かなかったことを後悔しております。